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1話 救いの手 その1
しおりを挟む「本日を持って、お前は貴族でも私の娘でもない……我が敷地から出て行くがいい」
「お父様……」
「こんな娘を生んでしまったことは、我が一族最大の恥だな」
デジオ・フリーク伯爵はそれだけ言うと屋敷の中へと消えて行った。大雨が降る中、正門はゆっくりと閉ざされて行く。自らが生まれ育った屋敷は今や、まったくの他人の領地と同等になってしまったのだ。
伯爵令嬢であるアンネが追放された原因は単純明快であった。婚約者でもあった王位継承権5位に属するハルベルト王子の浮気を問い詰めたことにある。
ハルベルト王子は逆切れし、アンネを不敬罪の罪にかけたのだ。通常であれば、この程度で不敬罪は成立しないはずだが、そこがドルトムント王家が支配するアルトレイ王国の怖いところであった。
こうしてアンネ・フリークは将来の夫になるはずのハルベルト・ドルトムントに婚約破棄を言い渡され、同時に貴族の称号も剥奪、フリーク家からの追放となってしまった。
追放の実行犯が実父であるデジオ・フリークだったというわけだ。彼は伯爵の地位を守る為に、簡単に娘を追放してみせたのだ。
「……私はこれからどうすればいいの……?」
アルトレイ王国は独裁政治で有名であり、国民の貴族感情は決してよいものではない。青い髪を有し、美しい顔と均整のとれた体を持つアンネが街に繰り出した場合、どのようなことが起こるだろうか?
貴族の称号の剥奪を聞きつけた不貞な輩の餌食にならないとも限らない。また、そんな彼女を助ける者は存在しないだろう。家事についてはある程度の自信があった彼女ではあるが、働く場所の確保は絶望的に見えた。
このまま国外へ行く方が安全だろう……アンネはそのように考えていたが、大雨に打たれ続けた身体は途中で悲鳴を上げることになった。
「う……! ゴホッ、ゴホッ!」
屋敷から追放され、国外に行く為に進んでいた彼女は風邪をひいてしまったようだ。激しく咳き込んでしまうアンネ。それと同時にほとばしる程の涙が目から溢れ出して来た。
……なぜ、自分がこのような目に遭ったのだろうか、と。婚約者の浮気の現場を押さえ、叱責しただけでここまでの仕打ちを受けるなんて……アルトレイ王国はおかしい……。
このまま死んでしまうのではないか……アンネがそんな覚悟もしていた頃、一台の馬車が彼女の前で停車した。そこから出て来るのは傘を差した男性だ。もう一つ傘を持参している。
「平気ですか? ……これをどうぞ」
「……あなたは……」
全身がずぶ濡れになっているアンネに傘を差し出した人物。若き公爵アレクとの邂逅であった……。
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