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第二章 不穏なカルテ
□とある大学生へのインタビュー(2025/9/15)
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F「えっと……、何から話せばいいか、分からないんですけど。これぐらいの声量で大丈夫ですか? 取材受けるのなんて初めてだから、色々と要領が悪かったらすみません」
——いえいえ、それぐらいで大丈夫です。「清葉病院」へはいつ行かれたんですか?
F「夏休みに入ってすぐなので、八月頭です。同じ大学でゼミも同じ友達グループ四人で行きました。え? はい。経済学部です。理系とは違って研究とかないし、こう言っちゃなんですがかなり楽ですよ。ゼミも楽しいし。同期の男女で集まってカラオケ行ったり旅行行ったりしてます。あ、でも今回は女子四人だけで清葉病院に行きました。男子は廃病院ってとこにびびって来なかったんですよ」
——男性のほうが怖がっていたんですね。逆に女の子たちは怖くなかったんでしょうか?
F「怖いというより、あまり真に受けてませんでしたね。どうせ噂だけでしょって。それに、清葉病院自体、そんなに有名な心霊スポットでもなかったみたいだし。あ、そうです。確か心霊系? のYouTuberのひとが取り上げていたんですよね。でもあれって八月下旬のことでしょ。私たちが行ったのはそれより前です。そのひとの動画が出るより前に、うちのメンバーのひとりが——仮にA子としますね——が、調べてきたんですよ。ここ行ってみない? って。A子は四人の中でいちばん“そういう話”が大好きで、みんなでホラー映画を見に行こうとか肝試しをしようとかよく言い出すやつなんです。はい。それで面白半分、みんなで行ってみようって話になって。バカだと思うでしょ。そうなんです。私たちバカだったんです」
——実際行ってみて、何か心霊現象のようなものに見舞われたんですか?
F「そうなんですよ……。本当、なんであんなことが起こったのか、今でも信じられないです。清葉病院に着いてすぐ、あ、ここやばいところだって感覚がしました。他の三人も、みんな口には出さなかったけど顔をしかめてたから、たぶんみんな私と同じようにやばい気配を感じてたんじゃないかな。だけど岩手まで行っておいて何もせずに引き返すっていう考えはなかったです。誰が先頭で行く? みたいなやりとりをして、結局じゃんけんで負けたB子が一番目に、その後ろにC子、A子、私という順番で入りました。まあ、中に入ってからは順番とか関係なくて、普通にB子とC子が横並びで前に、A子と私が後ろを歩くことになりました。後ろも結構怖いんですよ。背後とか気になりません? あ、そうですか。私は背後が気になる人間なんで。だって前は見ることができるけど、後ろって振り返らないと見えないじゃないですか。気づかないうちにすぐ後ろまで幽霊が迫ってきたらどうしようって思いません?」
F「脱線しましたね、すみません。病院の中は想像通りの“廃墟”って感じでした。椅子とか机とか、古びた感じで倒れているものもあって。二十五年前から使ってないものですからね。古びているのはまあそうかなって思うんですけど、倒れてるのは不気味でしたね。まるで誰かがその場所を踏み荒らしたみたいじゃないですか。廃病院になったあとにわざわざそんなことするかなって考えたら、アレじゃないかなって。ほら、あの物が勝手に動く心霊現象——ああ、そうそう。ポルターガイスト現象。たぶんそうじゃないかって感じたんですけど、わざわざ口に出しては言わなかったですよ。だって怖いじゃないですか。薄暗くて、なんか寒気もするし、先頭のB子はしきりに『頭が痛い』って言うんです。隣のA子は『お腹が痛い』って。確かに言われてみれば、頭痛や腹痛がするんですよね。とりわけ、腹痛はどんどん強くなっていく感じで、みんなでお腹を抑えながら歩きました。この時点でおかしいでしょ。みんなが一斉に腹痛に見舞われるなんて」
F「で、そのまま進みました。一階の突き当たりまで進んだ時、二階へ上がる階段が見えたんですけど、階段の先が暗くて、ちょっと上れませんでした。C子が『引き返そう』って言ったんです。『このまま上るのは怖い。一階だけでもう十分だ』ってね。私たちは概ね彼女の意見に賛成でした。誰も、この先に進む勇気はないって思ったんです。でも」
——どうかされましたか?
F「いえ、すみません。今少し視線が……いや、なんでもないです。話を続けますね。四人全員で引き返そうと思ったんですけど、不意に先頭を歩いていたB子が言いました。『二階も行こうよ』って。強烈な違和感を覚えました。だって四人の中でいちばんこういうのが苦手なのってB子なんですよ。そのB子が、自分から二階へ行こうなんて。この時点でおかしいと感じていたんです。だけど、その言葉には有無を言わさない圧力というか……B子の言葉に従わなければこのまま呪われてしまうんじゃないかって思わされるぐらいの力がありました。他のA子とC子も同じように感じたらしくて、A子が『じゃあ行くけど、違和感あったらすぐ戻ろう』と誰ともなく宣言して、渋々二階まで上ることになったんです」
——B子はなんで二階に行こうなんて言ったんでしょうか。
F「さあ、分かりません。でもたぶん、あの時にはもうすでに、B子には何か取り憑いていたんだと思います。いや分かんないですよ? でも、そうとしか考えられないんです。B子があんな場面でみんなの意見を覆してまでこのまま進もうなんて言うはずがないですから。ああ、そういえば伝えてなかったんですけど、B子ってもともとすごくおとなしい性格してるんですよ。常に他人の顔色を窺ってる子っているじゃないですか。B子はそういう子だったんです。四人でいても、いつも聞き役に徹して自分の意見はあまり口にしません。だからこそ、この時のB子はもう違和感だらけでした」
F「話を戻しますね。二階に上ると一階以上に強烈な寒気と悪い気を感じました。みんな同じだったと思います。『怖いね』『ねえもう帰ろうよ』って、私とA子とC子が会話してるんですけど、ただ一人B子だけは何も言わずに前へと進んで行きました。B子だけ置いて帰るわけにもいかないから、仕方なく、私たち三人もついていきます。二階は入院部屋とナースステーション、新生児室が手前にあったんですけど、新生児室に差し掛かったときに、B子がぴたりと足を止めました」
——何かあったんですか?
F「あった……というか、“見た”んです。新生児室に赤ちゃんが寝るベッドがあるじゃないですか。あ、そうです。“コット”って言うんですね、あれ。その“コット”の上で、白い影みたいな、赤ん坊ぐらいの大きさの“ソレ”が、こちらを見つめているんです。目と鼻と口はぽっかり穴が空いたみたいに黒くて、じっと見つめられていると今すぐ呪われちゃいそうな気分でした。私とA子、C子は当然震えが止まりません。でもB子は……前で立ち止まったまま微動だにしないんです。『B子、ねえ、あれやばいって』『逃げよう! B子、ほら!』『もう行くよ!』A子が後ろから、B子の腕を掴んだ時でした。
ミツケタ。
B子の口から、あり得ないほど低い声が飛び出してきました。その不気味なワードを聞いて、A子がはっと身を固くするのを見ました。
チガウ
オマエジャナイ
ハヤクミツケテ
ワタシヲミツケテ
シンデホシイ
もう、耐えられませんでした。
私たちはその場で『ぎゃー!!』っと悲鳴をあげると、一目散に元来た道を戻って、一階まで降りました。そして出口まで逃げて、振り返ると……B子が、いませんでした」
——病院の中にまだいたんじゃないですか?
F「そうですね……そうなんです。たぶん、病院の中にいたんだと思います。でも私たち三人はまたあの病院の中に戻る勇気が出なかったんです。A子が、『B子が自分で戻ってくるのを待とう』と言ったんです。私も、B子はすぐに戻ってくると思ったので賛成しました。私たちがいなくなったのに、B子がそのまま探索を続けるなんて思いませんでしたから。だけど……B子は帰ってこなかった。三十分……一時間、二時間待っても帰ってこない。そのうち日が暮れてきて、あたりが薄暗くなってきました。さすがに夜になるのはまずいって思って、三人で『どうする?』って話し合って、B子を連れ戻すために、もう一度病院の中に入ることにしました。怖くて仕方がありませんでした。みんなで手を繋いで頑張って進んで二階の新生児室前までたどり着いたんですけど……。B子はどこにもいませんでした。もっと奥にいるのかもと思って、陣痛室や分娩室までくまなく覗いたんですけどね。B子の姿は見当たらない。仕方なく、病院から出るしかありませんでした。その間ずっと怖かったですよ。なんか、お腹の辺りがずっしり重たい感じがして。他の二人も一緒だったみたいです。病院から出て、『警察に通報しよう』って話になりました。最初は警察もあんまり取り合ってくれなかったんですけどね。成人がいなくなったところで、事件性があると認められるのってよっぽどのことがないと……ですよね。だけど、一日、二日、と経ってもB子は帰ってこない。B子の家族も『あの子は突然いなくなるような子じゃない』って騒いで、ようやく警察も捜索を開始してくれました。それでもまだ……ですよね」
——SNSでも「情報をください」ってポストが拡散されていましたよね。
F「ええ、そうです。私がポストしました。いなくなった日の夜です。頭が混乱して疲れていたんですけど、このままB子が帰ってこないのはさすがに嫌だったので……」
——なにか情報は来ましたか?
F「いえ、何も……。それらしいひとを発見したというDMが何件か来ましたが、大抵は見間違いか、いたずらで。B子につながる手がかりは一つもありませんでした。しかもその後……」
——他の二人も、いなくなってしまわれたんですよね。
F「はい……。A子とC子の行方が分からなくなったのはそれから一週間後のことでした。二人とも、清葉病院から帰ってきてからずっと怯えているのは知っていました。三人でもう一度カフェで集まってB子のことを考えていたんですけど、A子は不自然なタイミングで何度も後ろを振り返ったり、周りをキョロキョロ見たり。C子も、しきりに『ごめんなさい』って呟いてるんです。二人に『大丈夫?』って聞いても、口を閉ざしてしまうばかり。帰り道でも二人はずっと俯いたり怯えたりで、これは只事ではないと思いました。その日は何を聞いても答えてくれそうになかったので、翌日、LINEを送ってみたんですよ。『もう一度話がしたい』って。でも一向に返事も既読もつかなくて。三日経っても未読状態だったから、二人の家に順番に訪ねたんです。二人とも一人暮らしで、何度も遊びに行ったことがありました。だけど、インターホンを鳴らしても二人とも出てこなかったんです。それからいろいろと知り合いに聞いたりして、二人がこの三日間誰とも連絡を取っていないこと、バイトを休んでいることを知りました。私以外にも二人に連絡をしたいけど、連絡がつかないって嘆いているひとがちらほらいたんです。そこでようやく私は、二人がB子みたいにいなくなってしまったんだと悟りました」
——警察には?
F「もちろん、もちろん行きましたよ。その場で。B子がいなくなったことも警察は知ってて、『またですか』って顔されましたけどね。それでも、ひとが三人もいなくなっているので、今度はすぐに行方不明者として登録してくれました。それから『きみも気をつけるんだよ』って忠告されて。その言葉を聞いて、そうかと恐ろしくなりました。あの日病院を四人で訪れて、私だけが残っている。きっと私も……って気づいて、悲鳴をあげそうになりました。その時まで気づかなかったのは、なんかもう、いろんなことが起こりすぎて頭が混乱していたからです」
——リアルな感覚ですよね。
F「はい。そうですね……。実は今も、感じているんですよ」
——感じている、というと?
F「この部屋に、私とあなた以外の誰かがいるって。勘違いだと思うでしょ? だぶんこの感覚は、清葉病院に実際に訪れたひとしか分からないんです。私は……ワタシハドコ」
——ん? どうされました、××さん。
F「視線を感じるんです。A子とC子がいなくなったって気づいた日から、次の犠牲はお前だと言わんばかりに追いかけてくる視線を……。廃病院で見たあの白い人間だと思います。ぽっかりと黒い穴が空いていて、早く死んでほしいって、私に囁きかけるんです。ハヤクシンデホシイ。ね、変でしょ。私、おかしいですよね? ワタシハドコ。どう思います? やっぱり私も、三人のように消されちゃうのかな……。オマエジャナイ。消された後、どこにいくんだろう。やっぱり天国ですかね? それとも地獄かな。こんなことなら軽い気持ちで行かなきゃ良かった。ハヤクミツケテ。ねえ、聞いてますか? ワタシヲミツケテ。この取材っていつ世間に公表されるんですか? シンデ。その時まで私は生きていますかね?」
——いえいえ、それぐらいで大丈夫です。「清葉病院」へはいつ行かれたんですか?
F「夏休みに入ってすぐなので、八月頭です。同じ大学でゼミも同じ友達グループ四人で行きました。え? はい。経済学部です。理系とは違って研究とかないし、こう言っちゃなんですがかなり楽ですよ。ゼミも楽しいし。同期の男女で集まってカラオケ行ったり旅行行ったりしてます。あ、でも今回は女子四人だけで清葉病院に行きました。男子は廃病院ってとこにびびって来なかったんですよ」
——男性のほうが怖がっていたんですね。逆に女の子たちは怖くなかったんでしょうか?
F「怖いというより、あまり真に受けてませんでしたね。どうせ噂だけでしょって。それに、清葉病院自体、そんなに有名な心霊スポットでもなかったみたいだし。あ、そうです。確か心霊系? のYouTuberのひとが取り上げていたんですよね。でもあれって八月下旬のことでしょ。私たちが行ったのはそれより前です。そのひとの動画が出るより前に、うちのメンバーのひとりが——仮にA子としますね——が、調べてきたんですよ。ここ行ってみない? って。A子は四人の中でいちばん“そういう話”が大好きで、みんなでホラー映画を見に行こうとか肝試しをしようとかよく言い出すやつなんです。はい。それで面白半分、みんなで行ってみようって話になって。バカだと思うでしょ。そうなんです。私たちバカだったんです」
——実際行ってみて、何か心霊現象のようなものに見舞われたんですか?
F「そうなんですよ……。本当、なんであんなことが起こったのか、今でも信じられないです。清葉病院に着いてすぐ、あ、ここやばいところだって感覚がしました。他の三人も、みんな口には出さなかったけど顔をしかめてたから、たぶんみんな私と同じようにやばい気配を感じてたんじゃないかな。だけど岩手まで行っておいて何もせずに引き返すっていう考えはなかったです。誰が先頭で行く? みたいなやりとりをして、結局じゃんけんで負けたB子が一番目に、その後ろにC子、A子、私という順番で入りました。まあ、中に入ってからは順番とか関係なくて、普通にB子とC子が横並びで前に、A子と私が後ろを歩くことになりました。後ろも結構怖いんですよ。背後とか気になりません? あ、そうですか。私は背後が気になる人間なんで。だって前は見ることができるけど、後ろって振り返らないと見えないじゃないですか。気づかないうちにすぐ後ろまで幽霊が迫ってきたらどうしようって思いません?」
F「脱線しましたね、すみません。病院の中は想像通りの“廃墟”って感じでした。椅子とか机とか、古びた感じで倒れているものもあって。二十五年前から使ってないものですからね。古びているのはまあそうかなって思うんですけど、倒れてるのは不気味でしたね。まるで誰かがその場所を踏み荒らしたみたいじゃないですか。廃病院になったあとにわざわざそんなことするかなって考えたら、アレじゃないかなって。ほら、あの物が勝手に動く心霊現象——ああ、そうそう。ポルターガイスト現象。たぶんそうじゃないかって感じたんですけど、わざわざ口に出しては言わなかったですよ。だって怖いじゃないですか。薄暗くて、なんか寒気もするし、先頭のB子はしきりに『頭が痛い』って言うんです。隣のA子は『お腹が痛い』って。確かに言われてみれば、頭痛や腹痛がするんですよね。とりわけ、腹痛はどんどん強くなっていく感じで、みんなでお腹を抑えながら歩きました。この時点でおかしいでしょ。みんなが一斉に腹痛に見舞われるなんて」
F「で、そのまま進みました。一階の突き当たりまで進んだ時、二階へ上がる階段が見えたんですけど、階段の先が暗くて、ちょっと上れませんでした。C子が『引き返そう』って言ったんです。『このまま上るのは怖い。一階だけでもう十分だ』ってね。私たちは概ね彼女の意見に賛成でした。誰も、この先に進む勇気はないって思ったんです。でも」
——どうかされましたか?
F「いえ、すみません。今少し視線が……いや、なんでもないです。話を続けますね。四人全員で引き返そうと思ったんですけど、不意に先頭を歩いていたB子が言いました。『二階も行こうよ』って。強烈な違和感を覚えました。だって四人の中でいちばんこういうのが苦手なのってB子なんですよ。そのB子が、自分から二階へ行こうなんて。この時点でおかしいと感じていたんです。だけど、その言葉には有無を言わさない圧力というか……B子の言葉に従わなければこのまま呪われてしまうんじゃないかって思わされるぐらいの力がありました。他のA子とC子も同じように感じたらしくて、A子が『じゃあ行くけど、違和感あったらすぐ戻ろう』と誰ともなく宣言して、渋々二階まで上ることになったんです」
——B子はなんで二階に行こうなんて言ったんでしょうか。
F「さあ、分かりません。でもたぶん、あの時にはもうすでに、B子には何か取り憑いていたんだと思います。いや分かんないですよ? でも、そうとしか考えられないんです。B子があんな場面でみんなの意見を覆してまでこのまま進もうなんて言うはずがないですから。ああ、そういえば伝えてなかったんですけど、B子ってもともとすごくおとなしい性格してるんですよ。常に他人の顔色を窺ってる子っているじゃないですか。B子はそういう子だったんです。四人でいても、いつも聞き役に徹して自分の意見はあまり口にしません。だからこそ、この時のB子はもう違和感だらけでした」
F「話を戻しますね。二階に上ると一階以上に強烈な寒気と悪い気を感じました。みんな同じだったと思います。『怖いね』『ねえもう帰ろうよ』って、私とA子とC子が会話してるんですけど、ただ一人B子だけは何も言わずに前へと進んで行きました。B子だけ置いて帰るわけにもいかないから、仕方なく、私たち三人もついていきます。二階は入院部屋とナースステーション、新生児室が手前にあったんですけど、新生児室に差し掛かったときに、B子がぴたりと足を止めました」
——何かあったんですか?
F「あった……というか、“見た”んです。新生児室に赤ちゃんが寝るベッドがあるじゃないですか。あ、そうです。“コット”って言うんですね、あれ。その“コット”の上で、白い影みたいな、赤ん坊ぐらいの大きさの“ソレ”が、こちらを見つめているんです。目と鼻と口はぽっかり穴が空いたみたいに黒くて、じっと見つめられていると今すぐ呪われちゃいそうな気分でした。私とA子、C子は当然震えが止まりません。でもB子は……前で立ち止まったまま微動だにしないんです。『B子、ねえ、あれやばいって』『逃げよう! B子、ほら!』『もう行くよ!』A子が後ろから、B子の腕を掴んだ時でした。
ミツケタ。
B子の口から、あり得ないほど低い声が飛び出してきました。その不気味なワードを聞いて、A子がはっと身を固くするのを見ました。
チガウ
オマエジャナイ
ハヤクミツケテ
ワタシヲミツケテ
シンデホシイ
もう、耐えられませんでした。
私たちはその場で『ぎゃー!!』っと悲鳴をあげると、一目散に元来た道を戻って、一階まで降りました。そして出口まで逃げて、振り返ると……B子が、いませんでした」
——病院の中にまだいたんじゃないですか?
F「そうですね……そうなんです。たぶん、病院の中にいたんだと思います。でも私たち三人はまたあの病院の中に戻る勇気が出なかったんです。A子が、『B子が自分で戻ってくるのを待とう』と言ったんです。私も、B子はすぐに戻ってくると思ったので賛成しました。私たちがいなくなったのに、B子がそのまま探索を続けるなんて思いませんでしたから。だけど……B子は帰ってこなかった。三十分……一時間、二時間待っても帰ってこない。そのうち日が暮れてきて、あたりが薄暗くなってきました。さすがに夜になるのはまずいって思って、三人で『どうする?』って話し合って、B子を連れ戻すために、もう一度病院の中に入ることにしました。怖くて仕方がありませんでした。みんなで手を繋いで頑張って進んで二階の新生児室前までたどり着いたんですけど……。B子はどこにもいませんでした。もっと奥にいるのかもと思って、陣痛室や分娩室までくまなく覗いたんですけどね。B子の姿は見当たらない。仕方なく、病院から出るしかありませんでした。その間ずっと怖かったですよ。なんか、お腹の辺りがずっしり重たい感じがして。他の二人も一緒だったみたいです。病院から出て、『警察に通報しよう』って話になりました。最初は警察もあんまり取り合ってくれなかったんですけどね。成人がいなくなったところで、事件性があると認められるのってよっぽどのことがないと……ですよね。だけど、一日、二日、と経ってもB子は帰ってこない。B子の家族も『あの子は突然いなくなるような子じゃない』って騒いで、ようやく警察も捜索を開始してくれました。それでもまだ……ですよね」
——SNSでも「情報をください」ってポストが拡散されていましたよね。
F「ええ、そうです。私がポストしました。いなくなった日の夜です。頭が混乱して疲れていたんですけど、このままB子が帰ってこないのはさすがに嫌だったので……」
——なにか情報は来ましたか?
F「いえ、何も……。それらしいひとを発見したというDMが何件か来ましたが、大抵は見間違いか、いたずらで。B子につながる手がかりは一つもありませんでした。しかもその後……」
——他の二人も、いなくなってしまわれたんですよね。
F「はい……。A子とC子の行方が分からなくなったのはそれから一週間後のことでした。二人とも、清葉病院から帰ってきてからずっと怯えているのは知っていました。三人でもう一度カフェで集まってB子のことを考えていたんですけど、A子は不自然なタイミングで何度も後ろを振り返ったり、周りをキョロキョロ見たり。C子も、しきりに『ごめんなさい』って呟いてるんです。二人に『大丈夫?』って聞いても、口を閉ざしてしまうばかり。帰り道でも二人はずっと俯いたり怯えたりで、これは只事ではないと思いました。その日は何を聞いても答えてくれそうになかったので、翌日、LINEを送ってみたんですよ。『もう一度話がしたい』って。でも一向に返事も既読もつかなくて。三日経っても未読状態だったから、二人の家に順番に訪ねたんです。二人とも一人暮らしで、何度も遊びに行ったことがありました。だけど、インターホンを鳴らしても二人とも出てこなかったんです。それからいろいろと知り合いに聞いたりして、二人がこの三日間誰とも連絡を取っていないこと、バイトを休んでいることを知りました。私以外にも二人に連絡をしたいけど、連絡がつかないって嘆いているひとがちらほらいたんです。そこでようやく私は、二人がB子みたいにいなくなってしまったんだと悟りました」
——警察には?
F「もちろん、もちろん行きましたよ。その場で。B子がいなくなったことも警察は知ってて、『またですか』って顔されましたけどね。それでも、ひとが三人もいなくなっているので、今度はすぐに行方不明者として登録してくれました。それから『きみも気をつけるんだよ』って忠告されて。その言葉を聞いて、そうかと恐ろしくなりました。あの日病院を四人で訪れて、私だけが残っている。きっと私も……って気づいて、悲鳴をあげそうになりました。その時まで気づかなかったのは、なんかもう、いろんなことが起こりすぎて頭が混乱していたからです」
——リアルな感覚ですよね。
F「はい。そうですね……。実は今も、感じているんですよ」
——感じている、というと?
F「この部屋に、私とあなた以外の誰かがいるって。勘違いだと思うでしょ? だぶんこの感覚は、清葉病院に実際に訪れたひとしか分からないんです。私は……ワタシハドコ」
——ん? どうされました、××さん。
F「視線を感じるんです。A子とC子がいなくなったって気づいた日から、次の犠牲はお前だと言わんばかりに追いかけてくる視線を……。廃病院で見たあの白い人間だと思います。ぽっかりと黒い穴が空いていて、早く死んでほしいって、私に囁きかけるんです。ハヤクシンデホシイ。ね、変でしょ。私、おかしいですよね? ワタシハドコ。どう思います? やっぱり私も、三人のように消されちゃうのかな……。オマエジャナイ。消された後、どこにいくんだろう。やっぱり天国ですかね? それとも地獄かな。こんなことなら軽い気持ちで行かなきゃ良かった。ハヤクミツケテ。ねえ、聞いてますか? ワタシヲミツケテ。この取材っていつ世間に公表されるんですか? シンデ。その時まで私は生きていますかね?」
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