3 / 32
第一章 噂の『はつ恋おわらせ屋』
1-2
しおりを挟む
「新しい恋なんてできる気がせん。仁くんのこと諦めれんもん……」
胸の奥底から湧き上がってくる弱音を吐くと、智咲は目を丸くしたあと、「そっか、ごめん」と小さくつぶやいた。
「姫華がそこまで真島くんのこと想っとるなんて知らんかった」
「え? いつも話しとったやん」
「そおやけど。でも二回振られても諦められんぐらい好きやったなんて。無神経なこと言ってほんとごめん」
「いや、智咲が謝ることじゃ」
そうだ。これは、振られても仁のことを忘れられない姫華の心の問題だ。智咲が今日、仁くんと木畑さんのことを教えてくれたおかげで、自分がどれだけ未練たらたら女なのかということが分かってむしろ感謝しなくちゃいけない。
「そうだ、それならさ」
突然智咲が何か妙案を思いついたかのように、姫華に耳打ちをする仕草をした。周りをきょろきょろと見回して、近くで自分たちの話を聞いている人がいないかを確認する。そんなに誰かに聞かれるとまずい話なんだろうか。智咲のほうに耳を貸すと、彼女はそっとこう囁いた。
「中洲のほうに、初恋を終わらせてくれるお店があるって噂、知っとー?」
「へ?」
予想の斜め上から飛んできたような話に、姫華は戸惑いを隠せない。
初恋を終わらせてくれるお店?
なんだその胡散臭い店は。
「い、いや、知らんよ。ていうか何それ、占い? あやしい店ってこと?」
「占いではないと思うよ。どっちかっていうと魔術? いや、詳しいことは私も知らんけん、なんとも言えんけど。とにかくそこの店主が、“忘れられない恋を終わらせてくれる”っていう噂がSNSで流れてた」
「まじで。なんかほんと胡散臭いんですけど……」
正直、姫華は智咲の話をどう受け止めればいいか分からず困惑していると、智咲が自身のスマホを取り出して、「ほら!」と、とあるXの投稿を見せてきた。
【噂の中洲の『はつ恋おわらせ屋』、本当に実在しました! 外観はこんな感じ】
京都の町家のような木造の建物の写真とともに添えられたキャプションにはそう書かれていて、姫華はじっとその投稿を見つめる。
お店の上の木彫りの看板には堂々と『博多はつ恋おわらせ屋』と彫られていて、いかにも本物ぽい演出がされている。木製の扉の横には観葉植物と立て看板が置かれていた。格子戸の扉の隙間から暖かそうな橙色の光が漏れている。一見すると和食のお店に見えるその店は、けれど確かに看板は『はつ恋おわらせ屋』なのだ。
『はつ恋おわらせ屋』に関するXの投稿は他にも散見されていたけれど、【ここで忘れられない初恋を忘れさせてくれるらしい】とか、【最近できたお店だって。行ってみようかな】とか、あくまで“噂”程度の内容ばかりだった。実際に利用したという人の声は見受けられない。
「ここ、本当に初恋を終わらせてくれるお店? 利用したって書いてる人おらんけど」
「新しいお店やからやない? それとも、利用したことを誰にも言っちゃいかんとか、そういうルールでもあるのかも」
「いやあ、信じれん。だいたい人の記憶を忘れさせるとか、そんなこと科学的にできるわけないやん」
「そう思うならまあ、行かなきゃいいだけやん。私は、姫華が真島くんのことで困っとるんやないかって思って教えただけやけんね」
智咲は「やれやれ」と呆れた様子でスマホを制服のポケットにしまい込んだ。
「行くも行かんも、姫華次第やけん。あ、でももし行ったら本当に真島くんのこと忘れられたか教えてねー。もし真島くんのこと忘れたらさ、姫華、恋愛のこと見ず知らずの人にSNSで相談せんでもよくなるっちゃない?」
「うげ」
智咲に言われた言葉がダイレクトに胸に響く。仁との恋愛の悩みを、SNS——それこそXであれこれと見知らぬフォロワーたちに吐き出しては励ましてもらっていることを、智咲は知っているのだ。裏垢だし仁の名前は出していないからばれていないと思っていた。だが、女子高生のリサーチ力を侮るべからず。誰にもばれたくない自分の秘密が親友に知られていると知って、恥ずかしいことこの上ない。
「そういうわけで、一応教えたけんね!」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる智咲は、最初から『はつ恋おわらせ屋』の話をしたくて仕方がなかったのだと見た。
確かに不思議な店だと思うし、SNSで噂になるぐらいには認知度の高い店なんだろう。
いや、でもねえ……さすがに、初恋の人を忘れられるなんてそんな話、信じられるわけがない。姫華は、仁のことを想いながらこれからも高校三年生の一年を過ごして、大学生になったら新しい恋に励むんだ。
そうだ、環境さえ変わればきっと大丈夫!
と根拠のない自信を胸に、智咲から聞いた話はいったん胸の奥にしまうことにした。
胸の奥底から湧き上がってくる弱音を吐くと、智咲は目を丸くしたあと、「そっか、ごめん」と小さくつぶやいた。
「姫華がそこまで真島くんのこと想っとるなんて知らんかった」
「え? いつも話しとったやん」
「そおやけど。でも二回振られても諦められんぐらい好きやったなんて。無神経なこと言ってほんとごめん」
「いや、智咲が謝ることじゃ」
そうだ。これは、振られても仁のことを忘れられない姫華の心の問題だ。智咲が今日、仁くんと木畑さんのことを教えてくれたおかげで、自分がどれだけ未練たらたら女なのかということが分かってむしろ感謝しなくちゃいけない。
「そうだ、それならさ」
突然智咲が何か妙案を思いついたかのように、姫華に耳打ちをする仕草をした。周りをきょろきょろと見回して、近くで自分たちの話を聞いている人がいないかを確認する。そんなに誰かに聞かれるとまずい話なんだろうか。智咲のほうに耳を貸すと、彼女はそっとこう囁いた。
「中洲のほうに、初恋を終わらせてくれるお店があるって噂、知っとー?」
「へ?」
予想の斜め上から飛んできたような話に、姫華は戸惑いを隠せない。
初恋を終わらせてくれるお店?
なんだその胡散臭い店は。
「い、いや、知らんよ。ていうか何それ、占い? あやしい店ってこと?」
「占いではないと思うよ。どっちかっていうと魔術? いや、詳しいことは私も知らんけん、なんとも言えんけど。とにかくそこの店主が、“忘れられない恋を終わらせてくれる”っていう噂がSNSで流れてた」
「まじで。なんかほんと胡散臭いんですけど……」
正直、姫華は智咲の話をどう受け止めればいいか分からず困惑していると、智咲が自身のスマホを取り出して、「ほら!」と、とあるXの投稿を見せてきた。
【噂の中洲の『はつ恋おわらせ屋』、本当に実在しました! 外観はこんな感じ】
京都の町家のような木造の建物の写真とともに添えられたキャプションにはそう書かれていて、姫華はじっとその投稿を見つめる。
お店の上の木彫りの看板には堂々と『博多はつ恋おわらせ屋』と彫られていて、いかにも本物ぽい演出がされている。木製の扉の横には観葉植物と立て看板が置かれていた。格子戸の扉の隙間から暖かそうな橙色の光が漏れている。一見すると和食のお店に見えるその店は、けれど確かに看板は『はつ恋おわらせ屋』なのだ。
『はつ恋おわらせ屋』に関するXの投稿は他にも散見されていたけれど、【ここで忘れられない初恋を忘れさせてくれるらしい】とか、【最近できたお店だって。行ってみようかな】とか、あくまで“噂”程度の内容ばかりだった。実際に利用したという人の声は見受けられない。
「ここ、本当に初恋を終わらせてくれるお店? 利用したって書いてる人おらんけど」
「新しいお店やからやない? それとも、利用したことを誰にも言っちゃいかんとか、そういうルールでもあるのかも」
「いやあ、信じれん。だいたい人の記憶を忘れさせるとか、そんなこと科学的にできるわけないやん」
「そう思うならまあ、行かなきゃいいだけやん。私は、姫華が真島くんのことで困っとるんやないかって思って教えただけやけんね」
智咲は「やれやれ」と呆れた様子でスマホを制服のポケットにしまい込んだ。
「行くも行かんも、姫華次第やけん。あ、でももし行ったら本当に真島くんのこと忘れられたか教えてねー。もし真島くんのこと忘れたらさ、姫華、恋愛のこと見ず知らずの人にSNSで相談せんでもよくなるっちゃない?」
「うげ」
智咲に言われた言葉がダイレクトに胸に響く。仁との恋愛の悩みを、SNS——それこそXであれこれと見知らぬフォロワーたちに吐き出しては励ましてもらっていることを、智咲は知っているのだ。裏垢だし仁の名前は出していないからばれていないと思っていた。だが、女子高生のリサーチ力を侮るべからず。誰にもばれたくない自分の秘密が親友に知られていると知って、恥ずかしいことこの上ない。
「そういうわけで、一応教えたけんね!」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる智咲は、最初から『はつ恋おわらせ屋』の話をしたくて仕方がなかったのだと見た。
確かに不思議な店だと思うし、SNSで噂になるぐらいには認知度の高い店なんだろう。
いや、でもねえ……さすがに、初恋の人を忘れられるなんてそんな話、信じられるわけがない。姫華は、仁のことを想いながらこれからも高校三年生の一年を過ごして、大学生になったら新しい恋に励むんだ。
そうだ、環境さえ変わればきっと大丈夫!
と根拠のない自信を胸に、智咲から聞いた話はいったん胸の奥にしまうことにした。
12
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる