博多はつ恋おわらせ屋〜シロヘビさんの幸運結び〜

葉方萌生

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第二章 長すぎた初恋

2-6

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「どこ~どこにおると~」

 きょろきょろと首を左右に振りながら、周りを見回している。背が低く、髪の毛は白髪で綺麗なグレーに染まっている。ゆるく一つに結った髪の毛のお団子が、何度も凪の視界にちらついた。手には博多の伝統工芸品らしき、博多織のショルダーバッグをしっかりと握りしめている。

「どこ~あんた~どこ~」

 しきりに「どこ?」と声を上げ、誰かを探している様子だった。なんだか足取りはふらふらとして頼りない。ちょっとした段差に躓いてしまわないだろうか、と凪が心配になった時だ。

「大丈夫ですか?」

 那珂流の集会所からいつの間にか姿を現していた一人の男性が、老女の腕を掴んだ。
 老女の動きがぴたりと止まる。からくり人形のように、首をカカカ、と男性のほうへ動かして、じっと訝しげに彼の目を見つめる。
 
「あんたは違うばい」

 低く猛獣が唸るような声だった。目はキリリと細くなっていて、男性を睨みつけている。突然、天敵を見るようなまなざしを向けられた男性は「えっと」と戸惑いを隠せない様子だ。
 老女はそのまま、自分の腕を掴む男性の手を振り払う。
 思ったよりも力が強かったのか、男性が驚いた様子で瞠目した。
 老女は固まったままの男性を無視して、また「どこ~?」と辺りを彷徨い始めた。つま先は川のほうへと向いている。

「いやいや、ちょっと待って」

 我に返った男性が、再び老女の腕を掴む。確かにあのまま老女を放っておいたらふらふらと川に落ちてしまいそうな勢いだった。

「おばあさん、危ないやろ。ちょっとこっち来て」

 男性が老女を引きずるようにして集会所のほうへと連れていくところを見て、ずっと黙って見ていた姫華が、「あれどうしたっちゃろうね。親子かな」とあまり二人の会話を聞いていない様子でつぶやいた。

「親子じゃないと思うけど」

 姫華の言葉をやんわり否定しつつ、凪は男性と老女のもとへ歩いて行った。

「あのー、どげんしたと?」

 初対面でも構わずに砕けた口調で話しかけにいく凪を、姫華は「おお」とひやひやしながら見つめる。
 凪に話しかけられたことに気づいた男性が、ぴくりと肩を揺らして振り返る。そして、凪の顔を一瞥するとはっとしたように固まった。

「も、もしかしてあなたは……『はつ恋おわらせ屋』の店主の白石凪さんですか!?」

 男性の口から『はつ恋おわらせ屋』と「白石凪」の名前が出てきたことに、凪も姫華もぎょっとした。

「な、なんでうちのことを?」

 さすがの凪も見知らぬ男性から突然名前を呼ばれて面食らいつつ、質問する。

「それは……俺が『はつ恋おわらせ屋』のことを調べまくっていたからです」

「調べまくる? もしかしてうちに依頼したいん?」

「そ、そうです! ちょうど行きたいと思ってたところなんです!」

 勢いよく答える男性は、もはや老女のことなど忘れているように、凪のほうにずいっと身を乗り出してきた。
 老女が「離してえ~」と声を上げるのを聞いて、ようやく男性は老女から手を離す。

「そうか。じゃあまた今度来ればいい。場所は分かっとる?」

 明らかに目上の男性にも臆することなく営業をかける凪に、姫華はもう感心するほかはない。

「分かってます! ちゃんと調べましたから。今度じゃなくて、今日この準備が終わってから行ってもいいですか!?」
 
 男性が、「この」というところで集会所のほうを指差す。彼は那珂流のメンバーの一人なのだろうと想像がついた凪は「よかよ」と快く返事をした。

「ちょっと凪さん。今日は私とデートの日でしょ? 依頼は明日でも……」

 商売に戻るという凪に、黙っていられない姫華はすかさずつっこむ。

「困っとる人がおるっちゃけん、仕事に戻るのは当たり前やろ」

「そ、そうやけど……まあ、そうやね」

 凪は決して姫華との時間を後回しにしたわけではない。それ以上に、目の前で儀式を依頼したいという人間の熱意を無視できないのだ。
 と、頭では理解しているつもりの姫華だったが、少しだけ残念に思う。
 
「あ、ごめん姫華。また二人の時間つくるけん、ね?」

 きちんと姫華の気持ちを汲んで謝ってくれた凪を見て、姫華の気持ちもすんと和らいだ。

「ううん! いいよ~こっちこそ、なんかごめんね。依頼、今度こそちゃんと受けられるといいね」

 姫華たちのやりとりを、男性はあまり理解できない様子で眺めていた。

「あの~結局依頼しても大丈夫です……?」

 男性からそっと尋ねられて、凪と姫華は同時に「はあい」と頷いた。
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