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第二章 長すぎた初恋
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来る週末、六月七日日曜日。
二日前に梅雨入りをした福岡市内で、凪は雨が降らないか心配していた。が、凪の心を読んだかのように、姫華と約束をしている今日は雲一つない晴天が広がっていた。
「やっほー」
十四時、『はつ恋おわらせ屋』の前で待っていた凪のもとに、私服姿の姫華がやってきた。白いブラウスにネイビーのスキニーパンツといういたってラフな格好をしている。対して凪は、着慣れない若草色のワンピースにカーディガンという女の子らしい装いをした。
「わ、凪さんかわいいっ。いつもの着物姿もいいけど、洋服も超似合っとる!」
「あ、ありがとう」
服装に関して褒められ慣れていない凪は素直に照れくさくて俯いてしまう。
今日、洋服を着たほうが良いとアドバイスしてくれたのは姫華だった。
着物姿だと何かと目立つし、歩きにくいからという理由で。
ただ凪は着物しか持ち合わせていなかったので、昨日の夜、天神まで買いに出かけたのだった。もちろん、着物姿で。
「てか今まで着物だけで過ごしとったのがすごい。ちょっと憧れる」
「そう? 普通やけどな」
「旅館の女将さんじゃあるまいし、普通やないってー」
手をひらひらとさせながら笑う姫華を見て、凪は「そういうもんか」と納得する。
「んじゃ、さっそく行こう~」
姫華について、凪はお店の前から歩き出す。山笠の準備を見学しにいくと言っても、どこに行くのだろうか。
「山笠っていうのはね、七つの流って呼ばれる地域ごとのグループみたいな組織が運営しとるんよ~っていうのは知っとー?」
「うん。昨日調べて“流”ってのを知った」
姫華の話を聞きながら凪は頷いた。
博多祇園山笠は鎌倉時代から始まるお祭りで、国重要無形民俗文化財、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。博多祇園山笠振興会を本部として、七つの「流」と呼ばれる組織が運営する。各流の男たちが、本番当日に高さ約3メートル、重さ約1トンも誇る『御神体』である「舁き山笠」をかついで走るのだ。
「調べたのすごいね。で、この辺は『那珂流』っていう流が組織されてるはずやけん、毎年山笠に参加してる友達のお父さんに聞いてみたの。そしたら、那珂流さんの集会所を教えてくれた」
話しながら、姫華はまさに右手に那珂川が流れる道沿いを歩いて南下していく。
凪は、姫華が思っていた以上に行動派だったことに驚く。
先月、儀式をした時には「キラキラした女子高生じゃなくて、ありのままの自分になる」と言っていたが、目的に向かって突き進む姫華は十分“キラキラ”しているな、と思う。
「凪さんのお店の近くって分かったけん、すぐ着くよ。ほら、あの三階建てのビル見て」
姫華が前方のビルを指差すのと同時に、凪もそちらのほうに視線を這わせた。
確かにそこには小さめのビルが佇んでいた。よく税理士事務所とか、会計事務所とかが入っていそうななんの変哲もない三階建てのビル。
そのビルの前には、車が六台ほど停められそうな庭のようなスペースがあって、その場所と建物の入り口のほうを、三、四十代ぐらいの男性がちらほらと出入りしていた。
「ここが那珂流の集会所らしい」
「えっ、ここ?」
「うん。大体こういう小さなビルとか家とか、集まりやすい場所が流の集会所になっとるらしいよ」
「ほえ~そうなんだ」
事前調べでは分からなかったことも、姫華の説明を聞くとすんなりと理解が進む。
なんだ姫華、全然“根暗なオタク”なんかじゃないやん。
むしろ、興味があることをとことん探求するのはオタクの長所が存分に活きている。
「姫華はそのままでいいっちゃないかな」
つい、心の中で考えていたことが口からこぼれ落ちた。
「へ?」
姫華が凪のほうをくるりと振り返る。「なになに?」とさっきの凪の言葉が聞こえなかったらしく、ずんと凪のほうに身を乗り出してきた。
「姫華、自分のこと根暗なオタクって言ってたことあったけど、そんなことないやんって思ってさ。それに、山笠のこと夢中になって話してくれるの聞いてると、なんか姫華の隣が居心地よかよ」
思ったことを素直に伝えると、どうしてか姫華の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「な、なによ突然……! 恥ずかしいけん、やめて!」
ぷいっと横を向いてしまう姫華だったが、照れくささがそうさせているのだと分かり、凪はくすくす笑っていた。
気を取り直して、二人は集会所のほうを見ながら流メンバーに話しかけるか迷う。
凪は潔く「すみませーん!」と声をかけるものの、忙しそうにしている男性たちは自分たちが話しかけられているとは気づかないのか、凪たちのほうを見向きもしなかった。姫華は凪の隣で声を上げようとするも、もともとの根暗な性格が邪魔をしているのか、なかなか思うように言葉が出てこない。
凪が「う~ん。見学、どうしよっか」と腕組みをして考えていたところで、ふと近くからおばあちゃんの声が聞こえてきた。
二日前に梅雨入りをした福岡市内で、凪は雨が降らないか心配していた。が、凪の心を読んだかのように、姫華と約束をしている今日は雲一つない晴天が広がっていた。
「やっほー」
十四時、『はつ恋おわらせ屋』の前で待っていた凪のもとに、私服姿の姫華がやってきた。白いブラウスにネイビーのスキニーパンツといういたってラフな格好をしている。対して凪は、着慣れない若草色のワンピースにカーディガンという女の子らしい装いをした。
「わ、凪さんかわいいっ。いつもの着物姿もいいけど、洋服も超似合っとる!」
「あ、ありがとう」
服装に関して褒められ慣れていない凪は素直に照れくさくて俯いてしまう。
今日、洋服を着たほうが良いとアドバイスしてくれたのは姫華だった。
着物姿だと何かと目立つし、歩きにくいからという理由で。
ただ凪は着物しか持ち合わせていなかったので、昨日の夜、天神まで買いに出かけたのだった。もちろん、着物姿で。
「てか今まで着物だけで過ごしとったのがすごい。ちょっと憧れる」
「そう? 普通やけどな」
「旅館の女将さんじゃあるまいし、普通やないってー」
手をひらひらとさせながら笑う姫華を見て、凪は「そういうもんか」と納得する。
「んじゃ、さっそく行こう~」
姫華について、凪はお店の前から歩き出す。山笠の準備を見学しにいくと言っても、どこに行くのだろうか。
「山笠っていうのはね、七つの流って呼ばれる地域ごとのグループみたいな組織が運営しとるんよ~っていうのは知っとー?」
「うん。昨日調べて“流”ってのを知った」
姫華の話を聞きながら凪は頷いた。
博多祇園山笠は鎌倉時代から始まるお祭りで、国重要無形民俗文化財、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。博多祇園山笠振興会を本部として、七つの「流」と呼ばれる組織が運営する。各流の男たちが、本番当日に高さ約3メートル、重さ約1トンも誇る『御神体』である「舁き山笠」をかついで走るのだ。
「調べたのすごいね。で、この辺は『那珂流』っていう流が組織されてるはずやけん、毎年山笠に参加してる友達のお父さんに聞いてみたの。そしたら、那珂流さんの集会所を教えてくれた」
話しながら、姫華はまさに右手に那珂川が流れる道沿いを歩いて南下していく。
凪は、姫華が思っていた以上に行動派だったことに驚く。
先月、儀式をした時には「キラキラした女子高生じゃなくて、ありのままの自分になる」と言っていたが、目的に向かって突き進む姫華は十分“キラキラ”しているな、と思う。
「凪さんのお店の近くって分かったけん、すぐ着くよ。ほら、あの三階建てのビル見て」
姫華が前方のビルを指差すのと同時に、凪もそちらのほうに視線を這わせた。
確かにそこには小さめのビルが佇んでいた。よく税理士事務所とか、会計事務所とかが入っていそうななんの変哲もない三階建てのビル。
そのビルの前には、車が六台ほど停められそうな庭のようなスペースがあって、その場所と建物の入り口のほうを、三、四十代ぐらいの男性がちらほらと出入りしていた。
「ここが那珂流の集会所らしい」
「えっ、ここ?」
「うん。大体こういう小さなビルとか家とか、集まりやすい場所が流の集会所になっとるらしいよ」
「ほえ~そうなんだ」
事前調べでは分からなかったことも、姫華の説明を聞くとすんなりと理解が進む。
なんだ姫華、全然“根暗なオタク”なんかじゃないやん。
むしろ、興味があることをとことん探求するのはオタクの長所が存分に活きている。
「姫華はそのままでいいっちゃないかな」
つい、心の中で考えていたことが口からこぼれ落ちた。
「へ?」
姫華が凪のほうをくるりと振り返る。「なになに?」とさっきの凪の言葉が聞こえなかったらしく、ずんと凪のほうに身を乗り出してきた。
「姫華、自分のこと根暗なオタクって言ってたことあったけど、そんなことないやんって思ってさ。それに、山笠のこと夢中になって話してくれるの聞いてると、なんか姫華の隣が居心地よかよ」
思ったことを素直に伝えると、どうしてか姫華の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「な、なによ突然……! 恥ずかしいけん、やめて!」
ぷいっと横を向いてしまう姫華だったが、照れくささがそうさせているのだと分かり、凪はくすくす笑っていた。
気を取り直して、二人は集会所のほうを見ながら流メンバーに話しかけるか迷う。
凪は潔く「すみませーん!」と声をかけるものの、忙しそうにしている男性たちは自分たちが話しかけられているとは気づかないのか、凪たちのほうを見向きもしなかった。姫華は凪の隣で声を上げようとするも、もともとの根暗な性格が邪魔をしているのか、なかなか思うように言葉が出てこない。
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