博多はつ恋おわらせ屋〜シロヘビさんの幸運結び〜

葉方萌生

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第二章 長すぎた初恋

2-14

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「私のことは置いといて、光一、どうやった? 儀式をして、変わった?」

 せっかくおわらせ屋の儀式をしたのだし、凪は光一の今の心の内を聞いておきたかった。
 凪に問われて、光一ははっとした様子で凪をまっすぐに見つめる。

「まだ信じられない気分ですし、ちょっとした寂しさみたいなものはありますけど……。でも、確実に初恋の人のことが胸から消え去って、前を向ける気がします」

「そおか。それならよかった」

 光一が前向きな気持ちになってくれてよかった。この『はつ恋おわらせ屋』の仕事の醍醐味は、依頼者の気持ちを明るいものに変えることなのだから、と凪は安心した。

「凪さんの儀式って不思議だよね。初恋の人のことを忘れたら確かに寂しい気持ちになるっちゃけど、清々しい気分にもなれる。“忘れる”って、後ろ向きな言葉のように聞こえるけど、それだけじゃないんだって分かったよ」

 姫華がぴょん、と椅子から降りて凪に向き直る。儀式を経験した姫華から素直な言葉を聞けて、凪の胸はほっと温かくなった。

「そうやろ。記憶を忘れるって、辛いこともあるかもしれんけど、でも忘れるからこそ前に進めることもある。嫌な記憶を全部覚えておかなくちゃいけなかったら、いつか心が死んでしまうかもしれん。やけど、こうして綺麗さっぱり過去の記憶を断ち切ることで、新しい縁も舞い込んでくるとよ」

「そうやね! 私たちがこうして出会ったのも、“新しい縁”かもしれんし?」

 姫華が凪、光一、橙子を順番に見つめてふっと微笑む。この中で一番未来ある若者である姫華にそう言われると、三人は「そうやね」と頷くしかなかった。
 凪は、姫華がどんどん自分らしく振る舞うようになってくれて、素直に嬉しいと思う。もっとも、姫華は自分では根暗な人間なんて言っていたけれど、決してそんなことはないと凪は感じていた。
 姫華には華がある。
 その名の通り、あなたは自分の気持ちを素直に表現していけば、たくさんの人の中心で咲く花になれるよ。
 恥ずかしくて今ここで伝えることはできなかったけれど、凪はこっそりと、そんなふうに姫華の未来を想像した。

「光一くん、何しとーと~?」

 いつのまにか光一のことを「光一くん」と呼び始めた橙子さんの声で、凪は光一のほうに視線を移す。
 その手にはスマホが握られていた。誰かと連絡でもとっているのかと思ったが、凪が覗いてみると、SNSの画面が開かれていた。

「……っと。投稿完了!」

 独り言をつぶやいた光一は、三人から見つめられていることに気づいて少しだけ頬を染める。

「Xで口コミを投稿したんです~。『“博多はつ恋おわらせ屋”に行ってきました。店主の凪さんの儀式によって、たった今初恋の人の記憶が消え去りました。あのままずっと初恋の記憶を抱えていたら、なかなか前向きな気持ちにはなれなかったと思います。親切にしてくださった凪さんに感謝!』って」

 光一が実際にXで投稿をした画面を三人に見せる。
 いつのまに撮影したのか分からないお店の外観とともに、店の評価が綴られていた。さらにその下に、店の住所などの基本情報が記載してある徹底ぶりだ。

「私はこういうのをやったことがないっちゃけど、何か意味があるん?」

 凪は素直に思ったことを口にする。SNSに疎すぎる凪は、光一の口コミをありがたいと思いつつも、なぜSNSに投稿をするのか理解が追いつかなかった。

「意味ありまくりやろ! てか凪さん、SNSやったことないと!?」

「え? うん。姫華、言わんかったっけ?」

「聞いてない! でもそっか。あやかしがSNSをやるなんて聞いたことないし……。というかあやかしがいること自体も普通は考えられんっちゃけど」

 姫華は勝手に納得して「うんうん」と頷きつつ、「でもすごいわー」と驚きを隠せない様子だ。凪はSNSをやったことがないということが、そんなに驚くことなのかと、それこそびっくりした。

「こうしてSNSでお店の口コミを書く人は多いよー。私も実際SNSを見てこの店を知ったし。店名で検索できるから、実際にお店に行った人の生の声とか、お店の情報とか出てきて便利。めっちゃ大事な宣伝商材やけんね?」

「へえ、そうなんだ~。そこまで重要とは考えてなかったわ」

「もう、凪さんってば、デジタルに疎すぎっ! だからこの前、お店がSNSで貶されてるって言った時も、そんな気にしとらんかったったいね?」

 姫華が呆れた様子で納得する。まあ、確かに姫華の言う通り、凪はSNSをしないからこそ、そこで店のことを悪く言われても気にしないのだが、それ以前にやはり、自分の店を悪く言う人のことなど、眼中にないのだった。
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