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第二章 長すぎた初恋
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「まぶしい……」
瞳との過去を振り返り終えた光一はすぐに目を開けようとしたのだが、まぶしいほどの光に包まれて、逆にぎゅっとまぶたに力を入れた。
「ああ、ごめん、もう大丈夫やけん。目を開けて。これにて儀式は終了~!」
凪は思い出したかのように、光一に語りかける。光一が目を開けると、そこにはシロヘビではなく人間の姿に戻った凪がいた。
さらに、光一が握っていた『白蛇の鱗』から虹色の糸がふわりと舞い落ちているのを見て、驚いてじっと見つめてしまう。
「これは……?」
光一がそう凪に尋ねた時、凪はどうしてかすぐに返事をしてくれず、どこかぼうっとした面持ちで虹色の糸を眺めていた。そんな凪を見かねたのか、代わりに姫華が答えてくれる。
「“新しい縁”が形になって現れたものだって、教えてもらいました。『白蛇の鱗』が未練を吸収して、浄化してくれたんです。この糸が、光一さんの新しい縁を結んでくれるものですよ」
「へえ、そういうわけか。この『白蛇の鱗』ってすごいな」
「ですよね! 私も最初は儀式っぽくするための見せかけのアイテムかと思ってましたー。光一さん、初恋の人は忘れられましたか?」
姫華に聞かれて光一はふと初恋の人のことを思い浮かべようとする。
顔も、匂いも、仕草も。
ついこの間まで近くにあったはずなのに、不思議と何も思い出せない。
その事実は確かに悲しくもあるが、新たな自分へと生まれ変われたような気がして、清々しい気分だった。
「忘れたよ。綺麗さっぱり。なんかあっけないな」
「ですよね。私も初恋の人のことは何も思い出せないんです。でも、その人と過ごした温かい日々のことだけはなんとなく胸に残っていて。ひだまりみたいに、時々私を照らしてくれます」
「ひだまりみたいに……」
姫華の言葉を反芻して、光一は「なんかいいな」と素直に思う。
自分の中の初恋も、姫華のようにいつかお守りみたいな存在になるのだろうか。
そう、なるといい。
今はやさしい気持ちで願うことができた。
「凪さん、大丈夫とお?」
先ほどから黙って二人の会話を聞いていた橙子が、やんわりと声を上げる。橙子が心配するように、凪は光一のすぐそばに突っ立ったまま、どこか深刻そうな顔をしていた。
「凪さーん、大丈夫?」
姫華も凪の顔色を窺う。気分でも悪いのだろうか、と思ったが、凪はすぐに「ああ、ごめん」と謝った。
「どうしたと? なにかあった?」
「いや……ちょっと、昔のことを思い出してね。思い出したというか、思い出せそうになった、というか」
「え、昔のこと? 凪さんって確か、過去の記憶がないんよね?」
「うん。やけど光一の記憶を見ていると、なんか胸が騒ぎ出すような感覚がして……」
凪は前世の記憶について、「明治時代の博多で二十五歳まで暮らしていた」ということしか覚えていない。だが、光一の記憶を見ている最中、自分の中に眠っている記憶が少しずつ呼び覚まされるような感覚がしていた。
「凪さんは儀式の最中、その相手の記憶を見られるんですっけ」
光一が横から口を挟む。凪が「そう」と頷いた。
「儀式の最中、依頼者の記憶が『白蛇の鱗』を通して私に流れ込んでくる。姫華の初恋の記憶も光一の初恋の記憶も、私には筒抜けってこと」
「そうなんですね。それで、俺の記憶を見て何か思うところが?」
「うーん、思うところが、というよりなんか胸がざわざわして……」
凪が自分の胸の前に右手を当てて、眉を顰める。
凪は儀式の間、光一の初恋の記憶を追体験していた。姫華の時もそうだ。でも、姫華の時には“他人の人生の一部を垣間見ている”という感覚だったのが、光一の時には“自分と関わりのある人生の記憶を呼び起こしている”という奇妙な感覚に陥っていた。なぜだか分からない。光一も、彼の初恋の相手だった瞳も、もちろん凪は会ったことがない。前世の記憶はないが、凪が生きていた時代に二人が存在していたはずがない。それなのに、こんなにも胸がざわめくのはなぜだろう、と疑問だった。
「はあ、なんでしょうね。もしかしたら凪さんも昔、俺と同じような初恋を経験したのかもしれないですよ」
「そうなんかなあ……」
実のところ凪は、光一が言うように光一の初恋の記憶と自分の過去に似ている部分があるのではないかと思っていた。でも、初恋の記憶どころか、前世の記憶がごっそりと抜け落ちている凪には到底分からない。
ただ、胸に何か引っ掛かりを覚えたのは事実であり、それがちょっぴり重しになっているのも間違いなかった。
「誰にでも初恋の経験はあるやろ。だから凪さんも、ちょっと苦い初恋をしとったっちゃない?」
姫華がもっともらしい意見を披露する。
そうだな。自分が誰かに恋をするなんてあまり考えられないが、姫華の言う通り、光一と似たような恋をしていたのかも。
なんとか自分を納得させると、一度自分のこの複雑な感情については胸にしまい込んだ。
「まぶしい……」
瞳との過去を振り返り終えた光一はすぐに目を開けようとしたのだが、まぶしいほどの光に包まれて、逆にぎゅっとまぶたに力を入れた。
「ああ、ごめん、もう大丈夫やけん。目を開けて。これにて儀式は終了~!」
凪は思い出したかのように、光一に語りかける。光一が目を開けると、そこにはシロヘビではなく人間の姿に戻った凪がいた。
さらに、光一が握っていた『白蛇の鱗』から虹色の糸がふわりと舞い落ちているのを見て、驚いてじっと見つめてしまう。
「これは……?」
光一がそう凪に尋ねた時、凪はどうしてかすぐに返事をしてくれず、どこかぼうっとした面持ちで虹色の糸を眺めていた。そんな凪を見かねたのか、代わりに姫華が答えてくれる。
「“新しい縁”が形になって現れたものだって、教えてもらいました。『白蛇の鱗』が未練を吸収して、浄化してくれたんです。この糸が、光一さんの新しい縁を結んでくれるものですよ」
「へえ、そういうわけか。この『白蛇の鱗』ってすごいな」
「ですよね! 私も最初は儀式っぽくするための見せかけのアイテムかと思ってましたー。光一さん、初恋の人は忘れられましたか?」
姫華に聞かれて光一はふと初恋の人のことを思い浮かべようとする。
顔も、匂いも、仕草も。
ついこの間まで近くにあったはずなのに、不思議と何も思い出せない。
その事実は確かに悲しくもあるが、新たな自分へと生まれ変われたような気がして、清々しい気分だった。
「忘れたよ。綺麗さっぱり。なんかあっけないな」
「ですよね。私も初恋の人のことは何も思い出せないんです。でも、その人と過ごした温かい日々のことだけはなんとなく胸に残っていて。ひだまりみたいに、時々私を照らしてくれます」
「ひだまりみたいに……」
姫華の言葉を反芻して、光一は「なんかいいな」と素直に思う。
自分の中の初恋も、姫華のようにいつかお守りみたいな存在になるのだろうか。
そう、なるといい。
今はやさしい気持ちで願うことができた。
「凪さん、大丈夫とお?」
先ほどから黙って二人の会話を聞いていた橙子が、やんわりと声を上げる。橙子が心配するように、凪は光一のすぐそばに突っ立ったまま、どこか深刻そうな顔をしていた。
「凪さーん、大丈夫?」
姫華も凪の顔色を窺う。気分でも悪いのだろうか、と思ったが、凪はすぐに「ああ、ごめん」と謝った。
「どうしたと? なにかあった?」
「いや……ちょっと、昔のことを思い出してね。思い出したというか、思い出せそうになった、というか」
「え、昔のこと? 凪さんって確か、過去の記憶がないんよね?」
「うん。やけど光一の記憶を見ていると、なんか胸が騒ぎ出すような感覚がして……」
凪は前世の記憶について、「明治時代の博多で二十五歳まで暮らしていた」ということしか覚えていない。だが、光一の記憶を見ている最中、自分の中に眠っている記憶が少しずつ呼び覚まされるような感覚がしていた。
「凪さんは儀式の最中、その相手の記憶を見られるんですっけ」
光一が横から口を挟む。凪が「そう」と頷いた。
「儀式の最中、依頼者の記憶が『白蛇の鱗』を通して私に流れ込んでくる。姫華の初恋の記憶も光一の初恋の記憶も、私には筒抜けってこと」
「そうなんですね。それで、俺の記憶を見て何か思うところが?」
「うーん、思うところが、というよりなんか胸がざわざわして……」
凪が自分の胸の前に右手を当てて、眉を顰める。
凪は儀式の間、光一の初恋の記憶を追体験していた。姫華の時もそうだ。でも、姫華の時には“他人の人生の一部を垣間見ている”という感覚だったのが、光一の時には“自分と関わりのある人生の記憶を呼び起こしている”という奇妙な感覚に陥っていた。なぜだか分からない。光一も、彼の初恋の相手だった瞳も、もちろん凪は会ったことがない。前世の記憶はないが、凪が生きていた時代に二人が存在していたはずがない。それなのに、こんなにも胸がざわめくのはなぜだろう、と疑問だった。
「はあ、なんでしょうね。もしかしたら凪さんも昔、俺と同じような初恋を経験したのかもしれないですよ」
「そうなんかなあ……」
実のところ凪は、光一が言うように光一の初恋の記憶と自分の過去に似ている部分があるのではないかと思っていた。でも、初恋の記憶どころか、前世の記憶がごっそりと抜け落ちている凪には到底分からない。
ただ、胸に何か引っ掛かりを覚えたのは事実であり、それがちょっぴり重しになっているのも間違いなかった。
「誰にでも初恋の経験はあるやろ。だから凪さんも、ちょっと苦い初恋をしとったっちゃない?」
姫華がもっともらしい意見を披露する。
そうだな。自分が誰かに恋をするなんてあまり考えられないが、姫華の言う通り、光一と似たような恋をしていたのかも。
なんとか自分を納得させると、一度自分のこの複雑な感情については胸にしまい込んだ。
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