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第二話 三つ葉書店の大躍進
不意打ち
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***
「……とういうことなので、レイさん、お願いできないでしょうか?」
その日の夕方、私は知り合いのデザイナー、レイさんに電話で連絡をとっていた。
レイさんは『やよい庵』の販促物のデザインをお願いしているデザイナーだ。三十代半ばの女性で、フリーのデザイナーをしている。元々は親の知り合いでもっと年配の方にお願いをしていたのだけれど、その方ももうそろそろ引退されるということで、二年前に私がレイさんを探し出してコンタクトをとった。最近ではフリーで色んな活動をしている方に仕事を依頼できるアプリなんかが充実しているので、デザイナーを探すのは簡単だった。かくいうレイさんも、お仕事依頼アプリで出会った方だ。
「分かりました、了解です! チラシと店舗カードと、他に欲しいものはある?」
「うーん、そうですね。店内にも貼り紙なんかが欲しいかも。商品が並んでるだけでなんか無機質なんですよねえ……」
「それならPOPの台紙なんかどう? 白紙の厚紙に書くだけでもいいけど、『三つ葉書店』のロゴとちょっとしたデザインを入れたものがあれば、より美しく見えると思うんだ」
「あ、それいいですね。詩文さんに聞いてないけど、きっと欲しいと思います」
「承知仕りましたー。じゃあ、納期は一週間程度で見てもらえたらいいから。店主にも伝えといて」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
快く仕事を引き受けてくれたレイさんに、電話越しに頭を下げる私。
レイさんは気さくな人で、私より十歳ほど年上なのだがとても話しやすい。そのフランクな感じが好きで、今のところレイさん以外の人に仕事を頼もうとは思わなかった。それに、レイさんのデザインはシンプルかつ綺麗で気に入っている。余白と自然な色を活かしたデザインは私の好みぴったりだから。
詩文さんのお店のことなのに、勝手に進めてしまっていいんだろうかと迷いもした。が、きっと詩文さんはデザインのこともあんまりよく知らなそうだし、やってあげた方が感謝してもらえるだろう——なんて、おためごかしなことを考えている自分がいた。
レイさんとの電話を切ったあと、再び『三つ葉書店』に戻った。モナはまだ詩文さんの近くに鎮座している。看板猫気取りなのか、澄ました顔で私を出迎えてくれた。
詩文さんは店じまいを始めているところだった。今日の売り上げを聞くと、結局あれから一人しかお客さんが来なくて、全部で8,560円。うん、まあまあ悲しい数字である。この数字があと何日続くかが問題なのだけれど。
「デザイン、頼んでおきましたよー。納期は一週間だそうです。支払いは振り込みでお願いしますって言ってました」
「うわあ、ありがとうございます。助かります。……月見さんには色々と助けていただいてばかりで……」
「もう、本当に、情けなくてすみません……」と、小さくなる詩文さんを見ているとなんだか切なくなる。
「いや、大丈夫ですよこれぐらい! 今度うちのそばでも食べにきてくれたら!」
「はい、ぜひ伺います。毎日食べに行きます!」
「毎日……それは、どうも」
詩文さんが私に何度も頭を下げる。まあ、こんなふうに感謝してもらえるならお手伝いも悪くないな、となんとなくすっきりした心地がした。
「じゃあ私はこれで。また来ますね」
「ほ、本当にありがとうございますっ、彩葉さん!」
ドクン。
突然名前で呼ばれた私の心臓が、大きく跳ねる。
不意打ちで呼んでくるなんて、ずるいなぁ。
暴れる心臓の音は絶対に他人に聞こえるはずなんてないのだけれど、照れ臭くて足早にお店を後にする。後ろから何かの気配がして振り返る。モナが私についてきていた。
「……とういうことなので、レイさん、お願いできないでしょうか?」
その日の夕方、私は知り合いのデザイナー、レイさんに電話で連絡をとっていた。
レイさんは『やよい庵』の販促物のデザインをお願いしているデザイナーだ。三十代半ばの女性で、フリーのデザイナーをしている。元々は親の知り合いでもっと年配の方にお願いをしていたのだけれど、その方ももうそろそろ引退されるということで、二年前に私がレイさんを探し出してコンタクトをとった。最近ではフリーで色んな活動をしている方に仕事を依頼できるアプリなんかが充実しているので、デザイナーを探すのは簡単だった。かくいうレイさんも、お仕事依頼アプリで出会った方だ。
「分かりました、了解です! チラシと店舗カードと、他に欲しいものはある?」
「うーん、そうですね。店内にも貼り紙なんかが欲しいかも。商品が並んでるだけでなんか無機質なんですよねえ……」
「それならPOPの台紙なんかどう? 白紙の厚紙に書くだけでもいいけど、『三つ葉書店』のロゴとちょっとしたデザインを入れたものがあれば、より美しく見えると思うんだ」
「あ、それいいですね。詩文さんに聞いてないけど、きっと欲しいと思います」
「承知仕りましたー。じゃあ、納期は一週間程度で見てもらえたらいいから。店主にも伝えといて」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
快く仕事を引き受けてくれたレイさんに、電話越しに頭を下げる私。
レイさんは気さくな人で、私より十歳ほど年上なのだがとても話しやすい。そのフランクな感じが好きで、今のところレイさん以外の人に仕事を頼もうとは思わなかった。それに、レイさんのデザインはシンプルかつ綺麗で気に入っている。余白と自然な色を活かしたデザインは私の好みぴったりだから。
詩文さんのお店のことなのに、勝手に進めてしまっていいんだろうかと迷いもした。が、きっと詩文さんはデザインのこともあんまりよく知らなそうだし、やってあげた方が感謝してもらえるだろう——なんて、おためごかしなことを考えている自分がいた。
レイさんとの電話を切ったあと、再び『三つ葉書店』に戻った。モナはまだ詩文さんの近くに鎮座している。看板猫気取りなのか、澄ました顔で私を出迎えてくれた。
詩文さんは店じまいを始めているところだった。今日の売り上げを聞くと、結局あれから一人しかお客さんが来なくて、全部で8,560円。うん、まあまあ悲しい数字である。この数字があと何日続くかが問題なのだけれど。
「デザイン、頼んでおきましたよー。納期は一週間だそうです。支払いは振り込みでお願いしますって言ってました」
「うわあ、ありがとうございます。助かります。……月見さんには色々と助けていただいてばかりで……」
「もう、本当に、情けなくてすみません……」と、小さくなる詩文さんを見ているとなんだか切なくなる。
「いや、大丈夫ですよこれぐらい! 今度うちのそばでも食べにきてくれたら!」
「はい、ぜひ伺います。毎日食べに行きます!」
「毎日……それは、どうも」
詩文さんが私に何度も頭を下げる。まあ、こんなふうに感謝してもらえるならお手伝いも悪くないな、となんとなくすっきりした心地がした。
「じゃあ私はこれで。また来ますね」
「ほ、本当にありがとうございますっ、彩葉さん!」
ドクン。
突然名前で呼ばれた私の心臓が、大きく跳ねる。
不意打ちで呼んでくるなんて、ずるいなぁ。
暴れる心臓の音は絶対に他人に聞こえるはずなんてないのだけれど、照れ臭くて足早にお店を後にする。後ろから何かの気配がして振り返る。モナが私についてきていた。
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