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第十話 最後の一年
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校舎の前の桜がいっぺんに咲き乱れて、海風に吹かれてはらはらと花びらを落としていた。この景色を見るのも今年で三度目だ。三度目の春。三度目の竜太刀岬高校での一年が、始まろうしている。
「桜の季節はすぐ終わるけん、今すぐ撮影や。早よ来て!」
相変わらず撮影オタクな蓮に急かされて、始業式の日に校舎前の桜の下にやって来た。薄桃色の桜の花びらが蓮の頭に落ちる。たぶん私の頭にものっかっている。でも蓮は構わずに、今しか撮れない画を一心不乱に撮っていた。私も、蓮に指示される通りにポーズをとったり歩いたり空を見上げたり、とモデルを精一杯務めていた。夏のコンクールの提出まで残り四ヶ月。一秒も無駄にはできない。
「そうそう、いい感じ。風間さん、本当に上手くなったなあ」
「そりゃもう三年目だもん。撮影オタクとずっと一緒にいたらこうなります」
「オタクはひどいやんか。風間さんだって、モデルの仕事好きなくせに」
「うん。そうだね。好きなのかも」
蓮の言う通り、私は撮影される心地よさを感じていた。
蓮が一番綺麗な私を映して、この世に残してくれる。
照れ臭さもあるけれど、やっぱり嬉しい。
私は蓮に撮られるのが、ずっと楽しかったのだ。
最近は同級生たちももう、「またあの二人撮影してるよ」と私たちのことを日常風景として見ている。入学した頃、蓮に憧れを抱いていたはずの女子たちも、蓮があまりにもカメラと私しか見ていないからか、すっかり熱を冷ましていた。蓮はそんなことにすら気がつかず、今日もレンズを覗いている。
「入学前にさ、ここで蓮に出会ったんだよね」
「そうやな。あの日の風間さんは、なんか壊れそうやった」
入試以来、初めて竜太刀の町にやってきた日に、荒れる竜太刀岬の景色を見て、不安の塊が胸に重くのしかかっていた。
「壊れそう?」
「ああ。だってすっごい思い詰めた顔しとったけん。でもだからこそ、気になったんかも。俺が撮りたいのはこれだ! ってビビっときたんや。高校から引っ越してきた風間さんに興味が湧いたのもある。でもそれ以上に、俺が作りたい人間ドラマに、風間さんがぴったりなんやないかって。前も言ったけど、むきだしの感じをカメラに残しておきたいって思って。大人になったらたぶん俺ら、いろんなものを隠して生きていくやん。むきだしが撮れるのは、今しかないんよ」
カシャ、というシャッター音が私の耳に優しく響く。もう飽きるほど聞いた音だから、耳に馴染んでいる。体調が悪い日なんかは耳を塞いで、蓮に撮られている瞬間のことを想像すると落ち着くのだ。カシャ、カシャ、と何度も耳に届くその音に、私はずっと救われていた。
「だからさ、風間さんが俊のことでずっと悩んでるのも、なんか複雑なんよ。俺は俊に嫉妬してるって言ったやん。でも俊がおらんかったら、風間さんのむきだしの姿も、撮れんかったけん。会ったこともないのに、こんな感情変やろ」
カメラのレンズの向こうでははっと笑いながら話す蓮に、私は俊の姿を重ねる。
俊も蓮も、私にとって大きな存在だ。付き合いの長さは違うけれど、違った尺度で私を守ってくれている。だからこそ、答えを出すのは怖かった。怖くて今でも引きずっている。
「風間さんはそのままでいいよ。風間さんはきっと、悩みごとを人に話して解決するタイプやないやろ。自分の中で内省して、じっくり考えるタイプやろ。時期がくれば必ず答えは出るって」
いつもそうだ。いつも、蓮の言葉は私の心を軽くしてくれる。ここ三年間、私を一番じっくり見ていてくれたからだろうか。蓮の言葉には不思議な力があって、私はまだこのままでいいのだと思うことができた。
校舎の前の桜がいっぺんに咲き乱れて、海風に吹かれてはらはらと花びらを落としていた。この景色を見るのも今年で三度目だ。三度目の春。三度目の竜太刀岬高校での一年が、始まろうしている。
「桜の季節はすぐ終わるけん、今すぐ撮影や。早よ来て!」
相変わらず撮影オタクな蓮に急かされて、始業式の日に校舎前の桜の下にやって来た。薄桃色の桜の花びらが蓮の頭に落ちる。たぶん私の頭にものっかっている。でも蓮は構わずに、今しか撮れない画を一心不乱に撮っていた。私も、蓮に指示される通りにポーズをとったり歩いたり空を見上げたり、とモデルを精一杯務めていた。夏のコンクールの提出まで残り四ヶ月。一秒も無駄にはできない。
「そうそう、いい感じ。風間さん、本当に上手くなったなあ」
「そりゃもう三年目だもん。撮影オタクとずっと一緒にいたらこうなります」
「オタクはひどいやんか。風間さんだって、モデルの仕事好きなくせに」
「うん。そうだね。好きなのかも」
蓮の言う通り、私は撮影される心地よさを感じていた。
蓮が一番綺麗な私を映して、この世に残してくれる。
照れ臭さもあるけれど、やっぱり嬉しい。
私は蓮に撮られるのが、ずっと楽しかったのだ。
最近は同級生たちももう、「またあの二人撮影してるよ」と私たちのことを日常風景として見ている。入学した頃、蓮に憧れを抱いていたはずの女子たちも、蓮があまりにもカメラと私しか見ていないからか、すっかり熱を冷ましていた。蓮はそんなことにすら気がつかず、今日もレンズを覗いている。
「入学前にさ、ここで蓮に出会ったんだよね」
「そうやな。あの日の風間さんは、なんか壊れそうやった」
入試以来、初めて竜太刀の町にやってきた日に、荒れる竜太刀岬の景色を見て、不安の塊が胸に重くのしかかっていた。
「壊れそう?」
「ああ。だってすっごい思い詰めた顔しとったけん。でもだからこそ、気になったんかも。俺が撮りたいのはこれだ! ってビビっときたんや。高校から引っ越してきた風間さんに興味が湧いたのもある。でもそれ以上に、俺が作りたい人間ドラマに、風間さんがぴったりなんやないかって。前も言ったけど、むきだしの感じをカメラに残しておきたいって思って。大人になったらたぶん俺ら、いろんなものを隠して生きていくやん。むきだしが撮れるのは、今しかないんよ」
カシャ、というシャッター音が私の耳に優しく響く。もう飽きるほど聞いた音だから、耳に馴染んでいる。体調が悪い日なんかは耳を塞いで、蓮に撮られている瞬間のことを想像すると落ち着くのだ。カシャ、カシャ、と何度も耳に届くその音に、私はずっと救われていた。
「だからさ、風間さんが俊のことでずっと悩んでるのも、なんか複雑なんよ。俺は俊に嫉妬してるって言ったやん。でも俊がおらんかったら、風間さんのむきだしの姿も、撮れんかったけん。会ったこともないのに、こんな感情変やろ」
カメラのレンズの向こうでははっと笑いながら話す蓮に、私は俊の姿を重ねる。
俊も蓮も、私にとって大きな存在だ。付き合いの長さは違うけれど、違った尺度で私を守ってくれている。だからこそ、答えを出すのは怖かった。怖くて今でも引きずっている。
「風間さんはそのままでいいよ。風間さんはきっと、悩みごとを人に話して解決するタイプやないやろ。自分の中で内省して、じっくり考えるタイプやろ。時期がくれば必ず答えは出るって」
いつもそうだ。いつも、蓮の言葉は私の心を軽くしてくれる。ここ三年間、私を一番じっくり見ていてくれたからだろうか。蓮の言葉には不思議な力があって、私はまだこのままでいいのだと思うことができた。
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