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第十六話 0キロメートル
しおりを挟む「この町って不思議なんだ。竜太刀岬がそばにあって、岬の岩に波がぶつかっていくのを、私はいつも想像してしまうの。実際に目にしてしまうと自然ってなんて怖いんだろうって思う。でも私も、あんなふうに全力でぶつかってみたい。自分が好きだと思う人に、まっすぐ……」
蓮がくれたのは、本当の心を隠さずに見せる強さ。
俊がくれたのは、たとえ道に迷っても絶対にそばにあると信じられる温もり。
どっちも大切な、宝物だ。
「俊がずっと『がんばれ』って言ってくれたこと、言ってくれない時も『がんばれ』って思ってくれていたこと、私はすごく嬉しかった。心のいちばん奥深くがあったかくなって。遅くなったけど、やっと気づいたの。私は俊のことが好きだって」
私が言葉を発すれば発するほど、俊の瞳に涙が溜まっていくのがわかった。雲がかっていた空から、風に乗って雲が流れ、晴れの空が広がる。日の光は俊の瞳に反射して、宝石みたいだと思った。
「俺、凛のことを、諦められなかった……。何度も、もう連絡をするのはやめようって思ったけど、できなくて。格好悪いよな。男がウジウジ一人の女を思い続けるなんて。でも凛は俺にとってたった一人の大切な人なんだ。だから、だから……今すごく、嬉しい」
俊の瞳から、大粒の宝石がこぼれ落ちるのを見て、私もつられて込み上げてくるものを抑えられなかった。二人して嗚咽を漏らすように泣き続け、そして俊が私の身体に触れた。
二人の距離は、もうゼロキロメートルだ。
「実は俺さっき……蓮に会ったんだ」
「え、蓮に? いつ? どこで?」
ひとしきり涙が出て落ち着いた頃に、俊が信じられないことを言った。
「凛の通っていた高校の前で。なんか必死な形相で校門から飛び出してきた男がいて。なんとなく、凛が話していた蓮ってやつの特徴に似ていて。だから、違うかもって思ったけど声かけたんだ。『もしかして、蓮、ですか』って」
今度は私の目がどんどん見開かれていくのを感じた。
俊と蓮が、言葉を交わしていたなんて。そんなこと、さっき蓮と話した時には何も言っていなかった。蓮は私に、あえて俊の話をしなかったのだ。
「そしたらあいつ、なんて言ったと思う? 『俺、いまから風間さんに告白してきます』ってよ。初対面なのにいきなりそんなこと言われて俺は拍子抜けしちまって。でもその後にちゃんと、『風間さんを支えてくれてありがとう』って頭を下げてきたんだ。だから俺も、『凛のそばにいてくれてありがとう』って言って、それですぐに別れた。颯爽と走っていくあいつを見て、俺は高校生の凛のそばにいたのが蓮でよかったって、思ったんだ」
きらきら光る宝石が、この場所でいくつも手に入った。
蓮との撮影の日々も、俊と想いが結び合ったことも、全部私の宝物だ。
意気地なしだった私を変えてくれたのは、この竜太刀の町と、二人の男の子たちだ。
「ありがとう、俊。私はこの場所でいろんなものから、卒業できた気がする。新しい一歩は、俊と一緒に歩いてく。だからこれからも、よろしくお願いします!」
さぶん。
遠くて聞こえないはずの波の音が、想像だけも耳の奥で鳴り響いている。
もう痛くない。岩に波がぶつかっても、私は自分の足で立っていられる。
蓮と一緒に駆け抜けた青春の思い出を胸に、俊と繋がれた奇跡を、ずっと大事に抱えて。
【終わり】
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