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第四章 闘うことを誓い合った日
4-6
「柚葉ちゃん、ちょっと待って!」
綿雪が頬に触れて、じゅわりと冷たい感触が広がる。けれど、そんなことに構っている余裕はなかった。中学で陸上部に所属していた柚葉は足が速く、私と楓が全力で走ってもなかなか追いつけない。
「お願いだから、ちょっと待ってくれ」
楓が何度も大声を上げる。すれ違う人たちが、何事かとこちらを振り返る。けれど楓と私は立ち止まらない。柚葉と、今向き合わなければこの先一生後悔するような気がしたから。
「ついてこないでっ」
振り返って叫ぶ彼女は、肩で大きく息をしていた。柚葉だって、苦しいんだ。
だったらもうすぐ立ち止まるはず——そう期待して、彼女の背中を追いかけていた時だ。
ブブーッ!! と、激しいクラクションの音が聞こえた。前を走っていた柚葉が、信号のない道路を渡ろうとしているとこに突っ込んでくる、赤い車が視界に映り込む。スローモーションのように、柚葉が足を止めてはっと固まるのが分かった。そのまま、そこにいれば轢かれてしまう——思わずぎゅっと両目を瞑った途端、少し前を走っていた楓の身体がさっと動いた。
「だ、だめ……!」
咄嗟にそう叫ぶ。この瞬間、頭に思い浮かんだのは、『現世で“神様”の姿が見えるのは、「一ヶ月以内に命を落とす人」だけです』という八十神さんの言葉だ。それから、十一月九日に、自分が命を落とした瞬間の事故の記憶が頭をよぎる。
まさか、まさかまさか。
楓はここで命を落とすの……?
柚葉を救うために、楓が犠牲に——。
絶望的な気分に浸りながら、楓が柚葉の腕を掴み、こちら側に引き摺り込んで転がるのを見た。
「!!」
キキーッという急ブレーキの音がして、車が止まる。すんでのところで歩道の方に避け切ることができた楓と柚葉が、重なり合うようにして倒れていた。
「大丈夫!?」
慌てて楓の元に駆け寄る。楓は息も絶え絶えになりながら「ああ……」と小さく呟いた。柚葉の方は、驚愕に見開かれたまなこもそのままに、すーはーと激しい呼吸を繰り返している。良かった。柚葉も無事みたいだ。途端、胸にどっと安堵が押し寄せて来て、その場でへなへなとへたり込んだ。
「君たち、大丈夫かっ!」
赤い車から降りてきた三十代ぐらいの運転手の男性が、焦りを滲ませながら二人に問う。二人とも、なんとか頷いて無事を知らせていた。
「無事で良かった。でも、気をつけてくれよ。突然飛び出してくるなんて、危ないじゃないか」
「す、すみません……」
掠れた声で呟いたのは柚葉の方だった。運転手にも、楓にも申し訳なさそうにして、顔は真っ青に染まっている。
「怪我とかしてたら病院に連れていくけど、どんな感じ?」
男性が二人に再び尋ねる。
「俺は、かすり傷程度なので大丈夫です」
「私も……」
楓が柚葉の下敷きになって倒れていたので、楓に怪我がなければ柚葉も大丈夫らしかった。
「そうか。それなら良いんだけど……。くれぐれも、気をつけてくれよ」
「はい、本当にすみませんでした」
二人が平謝りする様子を、傍でそっと見つめていた。
本当に良かった……二人が無事で。
もしここで二人のどちらかが命を落としていたら、私は本気で後悔しただろう。私が、自宅に戻りさえしなければ、柚葉が家を飛び出すこともなく、楓と二人で事故に遭うこともなかったのにって。だから、心底安心した。
「柚葉、本当に大丈夫か」
「う、うん。その……ありがとう」
命の危機を救ってもらったことで、意地を張っていた柚葉の気持ちも和らいだのか、先ほどまでの刺々しい態度は収まっていた。代わりに、柚葉の両方の瞳に涙が溜まっているのを見てぎょっとする。
「なあ、あっちで話さないか? 時間、ある?」
そんな柚葉を見かねたのか、楓が「あっちで」と近くの公園を指差した。
柚葉がこっくりと頷く。もう、楓から逃げようなんて思っていない様子だった。
綿雪が頬に触れて、じゅわりと冷たい感触が広がる。けれど、そんなことに構っている余裕はなかった。中学で陸上部に所属していた柚葉は足が速く、私と楓が全力で走ってもなかなか追いつけない。
「お願いだから、ちょっと待ってくれ」
楓が何度も大声を上げる。すれ違う人たちが、何事かとこちらを振り返る。けれど楓と私は立ち止まらない。柚葉と、今向き合わなければこの先一生後悔するような気がしたから。
「ついてこないでっ」
振り返って叫ぶ彼女は、肩で大きく息をしていた。柚葉だって、苦しいんだ。
だったらもうすぐ立ち止まるはず——そう期待して、彼女の背中を追いかけていた時だ。
ブブーッ!! と、激しいクラクションの音が聞こえた。前を走っていた柚葉が、信号のない道路を渡ろうとしているとこに突っ込んでくる、赤い車が視界に映り込む。スローモーションのように、柚葉が足を止めてはっと固まるのが分かった。そのまま、そこにいれば轢かれてしまう——思わずぎゅっと両目を瞑った途端、少し前を走っていた楓の身体がさっと動いた。
「だ、だめ……!」
咄嗟にそう叫ぶ。この瞬間、頭に思い浮かんだのは、『現世で“神様”の姿が見えるのは、「一ヶ月以内に命を落とす人」だけです』という八十神さんの言葉だ。それから、十一月九日に、自分が命を落とした瞬間の事故の記憶が頭をよぎる。
まさか、まさかまさか。
楓はここで命を落とすの……?
柚葉を救うために、楓が犠牲に——。
絶望的な気分に浸りながら、楓が柚葉の腕を掴み、こちら側に引き摺り込んで転がるのを見た。
「!!」
キキーッという急ブレーキの音がして、車が止まる。すんでのところで歩道の方に避け切ることができた楓と柚葉が、重なり合うようにして倒れていた。
「大丈夫!?」
慌てて楓の元に駆け寄る。楓は息も絶え絶えになりながら「ああ……」と小さく呟いた。柚葉の方は、驚愕に見開かれたまなこもそのままに、すーはーと激しい呼吸を繰り返している。良かった。柚葉も無事みたいだ。途端、胸にどっと安堵が押し寄せて来て、その場でへなへなとへたり込んだ。
「君たち、大丈夫かっ!」
赤い車から降りてきた三十代ぐらいの運転手の男性が、焦りを滲ませながら二人に問う。二人とも、なんとか頷いて無事を知らせていた。
「無事で良かった。でも、気をつけてくれよ。突然飛び出してくるなんて、危ないじゃないか」
「す、すみません……」
掠れた声で呟いたのは柚葉の方だった。運転手にも、楓にも申し訳なさそうにして、顔は真っ青に染まっている。
「怪我とかしてたら病院に連れていくけど、どんな感じ?」
男性が二人に再び尋ねる。
「俺は、かすり傷程度なので大丈夫です」
「私も……」
楓が柚葉の下敷きになって倒れていたので、楓に怪我がなければ柚葉も大丈夫らしかった。
「そうか。それなら良いんだけど……。くれぐれも、気をつけてくれよ」
「はい、本当にすみませんでした」
二人が平謝りする様子を、傍でそっと見つめていた。
本当に良かった……二人が無事で。
もしここで二人のどちらかが命を落としていたら、私は本気で後悔しただろう。私が、自宅に戻りさえしなければ、柚葉が家を飛び出すこともなく、楓と二人で事故に遭うこともなかったのにって。だから、心底安心した。
「柚葉、本当に大丈夫か」
「う、うん。その……ありがとう」
命の危機を救ってもらったことで、意地を張っていた柚葉の気持ちも和らいだのか、先ほどまでの刺々しい態度は収まっていた。代わりに、柚葉の両方の瞳に涙が溜まっているのを見てぎょっとする。
「なあ、あっちで話さないか? 時間、ある?」
そんな柚葉を見かねたのか、楓が「あっちで」と近くの公園を指差した。
柚葉がこっくりと頷く。もう、楓から逃げようなんて思っていない様子だった。
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