わたしが死神になった日

葉方萌生

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第四章 闘うことを誓い合った日

4-11

「信じてもらえるか分からないし、話を聞いて嫌な気持ちにさせてしまうかもしれない。それでもいい……?」

「ああ、もちろん。お前の胸の痛みが、俺の胸の痛みだ」

「……っ」

 私の頭にぽんと手を乗せて、優しく撫でてくれる。楓がこうして頭を撫でてくれるのが好きで、昔から安心させられていたっけ……。少しだけ緊張がほぐれると、腹の底に沈んでいた澱がどっと溢れ出しそうになるのを感じた。

「じゃあ、話すね。私が現世に戻ってきたのは、死んだ後にとある人物から——と言っても、死後の世界だから人間じゃなくて、魂? とにかく声だけの存在から、“神様に選ばれました”と言われたからなの」

「神様に選ばれた? なんだそれ。というか、死後の世界でそんな感覚があるんだな」

 素直に目を丸くする楓。当然だろう。私だって、死んだ後にまさかあの不思議な声が聞こえるなんて思っていなかったから。

「その声の主は“八十神”って名乗ってた。だから私は“八十神さん”って呼んでる。……で、その八十神さんが、“神様”に選ばれた私に“神様”としてできることを教えてくれたの。それが、雪の降る日に現実世界に降り立つことだった」

 楓はぎゅっと口を閉じたまま、話を聞いてくれている。いろいろと聞きたいことはあるだろうけれど、私が最後まで話し終えるのを待ってくれているようだった。

「八十神さんは、雪の降る日に現実に戻って、現実で私の姿が見える人にはとある条件があるって言ってたの。その条件は——“一ヶ月以内に、命を落とす人”なんだって……」

 綿雪がいつのまにか、細かい細雪ささめゆきに変わっている。私と楓の視界の間に、パラパラと雪が割り込んでくる。楓の鼻と目が真っ赤に染まっていく。
 私と目を合わせたまま、逸らさない。驚愕に満ちたまなざしに、心が挫けそうになった。話すと決めたのは自分なのに、一瞬にして後悔してしまいそうだった。
 楓は、絶対にもっと詳しい話を聞きたいと思っているはずなのに、「どういうこと?」と尋ねてはこなかった。何か思案するような顔つきになり、黙りこくっている。それは、やっぱり私が最後まで話し終えるのを待ってくれてい
るようだった。

「そんなの信じられないって思ったよ、私も。でも……実際、初めて私の姿が見えた男の子がその後すぐに亡くなったのを知って、すごくショックで……。その後も、街中で私のことが見える人と出会って、たまらなくなって、逃げちゃった。クリスマスマーケットで亡くなったのも、私の姿が見えた人たち、だったよね」

 私たちの写真を撮ろうとしてくれた絃葉さん。
 それから、フランクフルトを売ってくれた店員さん。
 きっと、海辺のコーヒー店で再会した絃葉さんの恋人の紡さんも——。
 思い出すだけで涙が溢れそうになる。でも、楓の前で泣くなと必死に自分を奮い立たせた。

「信じられないって気持ちはまだ持ってる。でも実際に八十神さんが言った通りのことが起こって、頭の中、混乱してて……。楓は、私の未練を探して潰そうって意気込んでくれてたけれど、私は違ったんだ。私は……楓のことを、そばで守りたかった。命を落とす原因は何か分からない。でも、そばにいることで、少しでもその原因を排除できるならそれに越したことないって、思った。なんとしても、あなたの命だけは、守りたいの」

 チラチラと降りゆく雪の向こう側で、楓がごくりと唾をのみこんだのが分かった。
 これで……これで、私の気持ちはすべて話した。きっと今、楓は戸惑っている。突きつけられた現実を前に、踏みしめていた地面が突如崩壊してなくなっていくかのような感覚に襲われている。私もそうだったから。楓が、私の姿を認めたその時に感じたこと。こんなことがあっていいはずがないって、何度も思った。雪の中に降り立つ自分自身を顧みては絶望した。

 楓は、ゆっくりと上を向いて、降ってくる雪を無防備に顔面で受け止めるような姿勢をとった。彼が、私の話した言葉をどう噛み砕き、咀嚼しているのか分からない。戸惑いや絶望が彼の胸の中で渦巻いているのを想像すると、全身に重たい痛みがじわりと広がった。
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