わたしが死神になった日

葉方萌生

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第六章 最期の願いを聞いた日

6-2

「私、楓に話さなくちゃいけないことがあるの」

 時間がないことはとうに察していた。
 私と楓が再会したのが十二月十五日。そして今日は、一月十四日。あと一日で、楓と出会ってから一ヶ月が経つことになる。もう、時間がなかった。だからその前に、どうしても成し遂げなければいけないことがある。
 私の切羽詰まったような深刻な声色を聞いて思うところがあったのか、楓はゆっくりと身体をベッドの上で起こしてみせた。

「急に改まって、どうした?」

 何かを察知した楓が、泣きそうな顔で聞いた。

「私、本当は死神だったの」

 決定的な言葉を放つ。死神。禍々しい響きを持ったその言葉に、楓がごくりと息をのむのが分かった。

「死神……それ、どういう意味だ? 朝葉は“神様”じゃなかったのか?」

 楓の疑問は当然だ。私が“神様”になったということを打ち明けたこと自体、つい最近のことだ。今度は“神様”じゃなくて死神なのだと言われても、理解が追いつかないのは仕方がない。
 でも、今言わなくちゃ。
 私たちに残された時間は刻一刻と削られているのだから。

「“神様”だと思ってた。でも、本当は死神だって、八十神さんから聞いた。私もずっと違和感はあった。私と出会った人たちが、青ざめたり冷たくなったり、体調が悪くなったりしたから。私のせいなんじゃないかって、思ってたんだ」

「そんな……。“神様”と死神はどう違うんだ? 結局、朝葉が雪の降る日に現世に干渉できるってのは変わらないん
だろ?」

「うん。それは変わらない。でも決定的に違うことがある。最初、八十神さんは“神様”として、現世で会えるのは“一ヶ月以内に命を落とす人”だって言ってた。でも本当は違っていて、“私と出会った人が、一ヶ月以内に命を落とす”のだって教えてくれたの」

 楓の顔に困惑の色が浮かぶ。それもそうだろう。似ているようでまったく違う意味を持つ言葉を、必死に咀嚼しようとしている顔だった。

「八十神さんは言った。一度死んだ人間が、簡単に現世に干渉できるはずがないって。私は、私が見える人の生命力を代償にして、この世界に降りてきていたの。特に、楓——いつも私は楓のそばにいた。楓から、気力を奪っていたのは、私なの」

 苦しい。胸がぜえぜえと不自然な呼吸を強いる。こんな事実、認めたくない。私が今まで出会った人たちが、私のせいで命を落としてしまったなんて。山川尊くんも、絃葉さんも、フランクフルトの店員さんも、ひょっとしたら紡さんや、野々花まで——。

 これまで私が犯してきた罪はどうしようもなく重く、深い。
 その罪悪感はもう、どうやっても拭いきれない。
 だからせめて、目の前にいるあなただけは、守りたいんだ。

「えっと、つまり、朝葉は」

 楓の言葉が途切れる。信じられないことを聞かされて、きっと彼も頭が理解することを拒否しているのだ。
 口を閉じたり開いたりを繰り返す。やがてようやく気持ちが固まったのか、「朝葉は」と言葉を続けた。

「俺をそっち・・・に連れて行こうとしてるってこと……?」

「っ……!!」

 ずきん、ずきん、とこめかみが鋭い痛みに悲鳴を上げる。
 楓から向けられた疑いの目が、鋭利な刃のように、私の胸を深く突き刺す。
 沈黙が病室に横たわる。時計の針が時を刻む音が、いやに大きく聞こえた。
 楓の中に広がっていく困惑と絶望がありありと伝わってくる。思わず目を逸らしてくなる衝動に駆られたけれど、なんとか自分を奮い立たせる。

 目を背けてはだめだ。
 私は、“神様”になったと言われて現世に降り立った時から、誓ったじゃないか。
 絶対に、楓を救ってみせると。楓を死なせない。それが、自分の役割だと信じて彼と関わってきたのだ。ここで、台無しにしてしまうわけにはいかない。

 静寂をぶち壊すように、大きく深く息を吸った。今この瞬間、まだ私は“生きて”いる。八十神さんがせっかく私にくれたラストチャンスを、無駄にしたらだめだ。

 戸惑う楓の顔をしっかりと見据えて、胸にしまい込んでいた大切な言葉を解き放つ。
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