選ばれなくてよかったと、今は思います

たくわん

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エドワードが気づいたのは、月曜日の朝だった。

週に一度、渉外部との定例確認がある。
セシルがいつもと同じように書類を持って長官室に来て、いつもと同じように報告をした。

内容は正確だった。
言葉も、態度も、変わっていなかった。

でも、何かが違った。

どこが違うのかを、エドワードはしばらく考えた。
視線が、少しだけ遠かった。
話しながら、別のことを考えている時の顔をしていた。

「以上です」

「……ああ」

セシルが立ち上がった。

「待て」

「はい」

「何かあったか」

セシルが一瞬、止まった。
止まったこと自体が、答えに近かった。

「個人的なことです」

「そうか」

エドワードはそれ以上聞かなかった。
聞く権利があるかどうかを考えて、ないと判断した。

セシルは頭を下げて、扉を閉めた。


執務室に一人になって、エドワードはペンを手に取ったまま、書類を見なかった。

個人的なこと。

その言葉が、妙に引っかかった。

以前はそういう壁がなかった。
正確には、彼女はいつも業務上の話しかしなかったから、壁があるかどうかわからなかった。

雪の夜に、はじめて業務以外の話をした。
婚約の話を聞いた。
自分も話した。

あの夜を境に、何かが変わったと思っていた。

しかし今日のセシルには、あの夜の続きの空気がなかった。
近づいたと思っていた距離が、少し戻ったような感覚だった。

エドワードはペンを置いた。

自分が今、何を感じているのかを確認した。
不安、ではなかった。
もっと静かで、もっとじわじわとした何かだった。

気にしている。
それは確かだった。

部下のことを上司が気にかけるのは当然だと、最初は思った。
でも、それだけではないということも、少しずつわかってきていた。

窓の外に、冬の空が広がっていた。
灰色で、雲が低かった。

エドワードは書類に向き直った。
今は仕事をする時間だと、自分に言い聞かせた。


その夜、廊下でセシルとすれ違った。

帰り支度をしているところだった。
上着を手にして、書類を抱えている。

「お疲れ様です」

「ああ」

それだけのやりとりだった。
以前と変わらないはずだった。

でも、エドワードは廊下を数歩歩いてから、足が止まった。

振り返ると、セシルはすでに玄関の方へ歩いていた。
栗色の髪が、廊下の灯りに照らされていた。

何かを言えばよかったと思った。
何を言えばよかったのかは、わからなかった。

ただ、わからないまま黙って見送ったことが、今夜はいつもより少しだけ、惜しかった。
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