演じるのはもうやめます

たくわん

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ルミエール王国に到着したアリシアを、盛大な歓迎式典が待っていた。

王宮の広場には、数千人の民衆が集まっていた。アレクシス王子の婚約者であり、伝説の女性実業家として、彼女の名は既に知れ渡っていた。

「アレクシス王子万歳!」
「アリシア様、ようこそ!」

歓声が響き渡る中、アリシアは馬車から降りた。

国王と王妃が、自ら出迎えた。

「アリシア様、ようこそルミエールへ。我が国の新しい家族として、心から歓迎します」

国王の言葉に、アリシアは深々と一礼した。

「陛下、お招きいただき光栄です。微力ながら、この国のために尽力いたします」

歓迎の晩餐会では、ルミエールの貴族たちがアリシアに注目した。彼女の評判は聞いていたが、実際に会うのは初めてだった。

「アリシア様、あなたの商才については、我が国でも有名です」

ある公爵が話しかけてきた。

「光栄です。ルミエールには、素晴らしい商業文化があると伺っています。学ばせていただきたいと思っています」

アリシアの謙虚な態度に、貴族たちは好感を持った。

しかし、全員が歓迎しているわけではなかった。保守派の貴族たちは、外国の女性が王子妃になることに反対していた。

「女性が商売をするなど、王家の品位を落とす」
「外国人が、我が国の伝統を理解できるはずがない」

そんな声が、密かに囁かれていた。

晩餐会の後、アレクシスがアリシアを王宮の図書室に案内した。

「ここが、僕の一番好きな場所なんだ」

広大な図書室には、何万冊もの本が並んでいた。

「素晴らしい…」

アリシアは感嘆の声を上げた。

「ここで、君と一緒に過ごせることを、ずっと夢見ていた」

アレクシスは彼女の手を取った。

「アリシア、ここには反対する声もある。君が辛い思いをするかもしれない」
「大丈夫」

アリシアは微笑んだ。

「私、そういうことには慣れているから。大切なのは、自分を信じて、誠実に行動すること」

その強さに、アレクシスは改めて彼女を愛おしく思った。

翌日から、アリシアは精力的に活動を始めた。まず、ルミエールの市場を視察した。

商人たちは、最初は警戒していた。しかし、アリシアが専門的な質問をし、真剣に学ぼうとする姿勢を見せると、徐々に心を開いていった。

「お嬢様は、本当に商売を理解していらっしゃる」

ある商人が感心した。

「これまで、多くの貴族が市場に来ましたが、見物だけでした。あなたのように、真剣に話を聞いてくれる方は初めてです」

アリシアは市場で得た情報をもとに、ルミエールでの事業計画を練った。『ローズ・アンド・ソーン』のルミエール本店の開店準備も、順調に進んだ。

しかし、ある日、問題が発生した。

店の建設予定地に、何者かが嫌がらせの落書きをしたのだ。

「外国人は帰れ」
「女に商売は無理」

そんな言葉が、壁一面に書かれていた。

アリシアは現場に駆けつけた。怒りよりも、悲しみを感じた。

「お嬢様、これは…」

スタッフたちが心配そうに見守る中、アリシアは決断した。

「落書きは消さないで。その上から、私たちのメッセージを書きましょう」

スタッフたちは驚いた。

「メッセージ、ですか?」
「ええ。『すべての人に、夢を叶える権利がある』って」

アリシアは自ら筆を取り、大きく書いた。その姿を見て、通りがかりの人々が足を止めた。

「あれは、王子の婚約者では?」
「自分で落書きを消しているのか?」

人々は驚き、そして感動した。地位の高い令嬢が、自ら行動する姿に。

その夜、アリシアの行動は町中の話題となった。

「王子の婚約者は、本物だ」
「嫌がらせにも屈しない、強い女性だ」

民衆の支持は、急速に高まった。

一方、嫌がらせの首謀者である保守派の貴族たちは、焦りを感じていた。

「民衆が、あの女を支持し始めている」
「何か手を打たねば」

彼らは、アリシアの過去を調べ始めた。婚約破棄の経歴を利用して、彼女の評判を落とそうとしたのだ。

しかし、アリシアは先手を打った。

民衆を集めた集会で、自ら過去を語ったのだ。

「皆さん、私には隠していることがあります。それを、今日お話しします」

広場に集まった数百人が、息を呑んだ。

「私は、かつて婚約を破棄されました。理由は、『完璧すぎてつまらない』からです」

ざわめきが起こった。

「その時、私は傷つきました。でも、それが私の人生を変えたのです」

アリシアは続けた。

「私は、自分を偽って生きていました。誰かに好かれるために、本当の自分を隠していた。でも、婚約破棄をきっかけに、本当の自分を取り戻しました」

人々は、真剣に彼女の話を聞いていた。

「そして、商売を始めました。多くの困難がありました。でも、諦めなかった。なぜなら、それが本当の私だったから」

アリシアの目には、強い光が宿っていた。

「皆さん、私は完璧な人間ではありません。失敗もするし、傷つくこともある。でも、諦めない。そして、自分らしく生きることを、誓っています」

広場は静まり返っていた。そして、一人の女性が拍手を始めた。次々と拍手が広がり、やがて大きな歓声となった。

「アリシア様、素晴らしい!」
「私たちも、あなたのように生きたい!」

その日、アリシアはルミエールの民衆の心を掴んだ。

保守派の貴族たちの策略は、完全に裏目に出た。アリシアの誠実さと勇気が、人々の心を動かしたのだ。

数日後、『ローズ・アンド・ソーン』ルミエール本店の開店日を迎えた。

開店前から、長蛇の列ができていた。アリシアの話に感動した人々が、彼女を応援したくて集まったのだ。

開店式には、国王と王妃も出席した。

「アリシア様、あなたは短期間で、この国の心を掴みました」

国王が言った。

「それは、あなたの誠実さの証です」

王妃も微笑んだ。

「私も、若い頃は周囲の期待に応えようと必死でした。でも、あなたを見て、自分らしくあることの大切さを思い出しました」

店は大成功だった。そして、アリシアはその利益の一部を使って、ルミエールでも女性支援のプログラムを始めることを発表した。

「教育と機会を、すべての女性に」

それが、アリシアの新しいミッションだった。

その夜、アレクシスとアリシアは王宮のバルコニーに立った。

「君は、本当に素晴らしい」

アレクシスが言った。

「困難を、チャンスに変える。それができる人は、そう多くない」
「私一人の力じゃないわ。みんなが支えてくれたから」

アリシアは街の灯を見つめた。

「この国で、多くの女性が夢を追える社会を作りたい」
「一緒に作ろう」

アレクシスが彼女を抱き寄せた。

「僕は、君のそばで、君を支える。それが、僕の役目だから」

二人は、星空の下で誓った。共に歩み、共に夢を叶えることを。

アリシアの新しい人生は、確実に動き出していた。そして、それは多くの人々に希望をもたらす、輝かしいものになろうとしていた。
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