厄介払いされてしまいました

たくわん

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薬草園の芽が順調に育ち始めた頃、エリアーナは城に閉じこもっているだけでは不十分だと感じ始めた。

領民のことを本当に理解するには、彼らの中に入らなければならない。

ある朝、エリアーナはルーカスに提案した。

「村を訪ねたいのですが」

「村を?」

「ええ。領民の方々と、直接お話ししたいんです」

ルーカスは少し心配そうな顔をした。

「村は貧しく、道も悪い。君には大変だろう」

「大丈夫です。私は、見て見ぬふりをする貴族にはなりたくありません」

その真剣な眼差しに、ルーカスは頷いた。

「わかった。一緒に行こう」

二人は馬車で、最も近い村へと向かった。

村に着くと、農民たちは驚いた顔で彼らを見た。伯爵夫妻が、こんな小さな村を訪れるなど、前例がなかったからだ。

村長のハンスが、慌てて出迎えた。

「伯爵様、奥方様。ようこそおいでくださいました」

「お邪魔します、ハンス」

エリアーナは馬車を降りると、村を見渡した。

家は古く、修理が必要な箇所も多い。道は泥だらけで、子供たちは痩せていた。

心が痛んだ。

「ハンス、村の様子を見せていただけますか」

「はい、どうぞこちらへ」

ハンスに案内され、エリアーナは村の中を歩いた。ルーカスも隣を歩く。

畑を見ると、作物は貧弱だった。土は痩せ、雑草も多い。

「収穫は、どのくらいですか」

「年によりますが、家族が食べるのでやっとです。税を払うと、ほとんど残りません」

農民の一人が、疲れた声で答えた。

エリアーナは畑に近づき、土を手に取った。

「肥料が足りていませんね」

「ええ。買う余裕がなくて」

「堆肥を作れば、お金をかけずに土を豊かにできます」

エリアーナは説明を始めた。

「家畜の糞や、枯れ草、野菜くずを積み重ねて発酵させるんです。それを畑に混ぜれば、土が良くなります」

農民たちは興味深そうに聞いていた。

「本当ですか、奥方様」

「ええ。私も、庭師から教わりました」

ルーカスが付け加えた。

「城でも、堆肥作りを始めよう。そうすれば、村の皆さんに方法を教えられる」

「ありがとうございます、伯爵様」

次に、エリアーナは村の女性たちに会った。

井戸端で洗濯をしている彼女たちは、最初は警戒していた。王都から来た高慢な貴族令嬢だと思っていたのだ。

「こんにちは。お手伝いさせていただけますか」

エリアーナが微笑むと、女性たちは驚いた。

「奥方様が、洗濯を?」

「ええ。私も侯爵家で、よく洗濯をしていましたから」

エリアーナは袖をまくり、洗濯板の前にしゃがんだ。慣れた手つきで服を洗い始める。

女性たちは目を丸くした。

「本当に、お上手ですね」

「ありがとう。これくらいしかできませんが」

一緒に洗濯をしながら、女性たちは次第に心を開き始めた。

「奥方様、本当に優しい方なんですね」

年配の女性が言った。

「先代の伯爵様は、村になど一度もいらっしゃいませんでした」

「そうなんですか」

「ええ。税を取り立てるだけで、私たちのことなど気にもかけてくださらなかった」

女性たちの声には、長年の悲しみが滲んでいた。

エリアーナは胸が痛んだ。

「これからは違います。ルーカス様も私も、皆さんの暮らしを良くしたいと思っています」

「本当ですか」

「ええ。だから、皆さんの声を聞かせてください。困っていること、必要なこと、何でも」

女性たちは顔を見合わせた。

そして、一人が勇気を出して言った。

「病気の子供が多いんです。でも、薬を買うお金がなくて」

「薬草なら、私が育てています」

エリアーナは優しく言った。

「もう少ししたら収穫できます。必要な方には、無償でお分けします」

女性たちの目に、涙が光った。

「ありがとうございます、奥方様」

昼食の時間になると、村長の妻が簡素な食事を用意してくれた。

黒パンと野菜のスープ。それだけだったが、エリアーナは感謝して食べた。

「美味しいです」

「そんな、粗末なものですのに」

「いいえ、心がこもっています。それが一番大切です」

食事の後、エリアーナは村の子供たちと会った。

子供たちは最初、恥ずかしそうに隠れていたが、エリアーナが優しく話しかけると、次第に近づいてきた。

「お名前は?」

「マリア...」

小さな女の子が答えた。

「可愛い名前ね。マリア、字は読めるかしら」

女の子は首を横に振った。

「村には学校がないんです」

ハンスが説明した。

「皆、畑仕事を手伝うので、勉強する時間もありません」

エリアーナは考え込んだ。

「字が読めないと、騙されることもあります。計算ができないと、商売もできません」

エリアーナは子供たちに優しく言った。

「私が、教えてあげましょうか」

「本当ですか、奥方様!」

マリアの目が輝いた。

「ええ。次に来た時、簡単な字から始めましょう」

母親たちが、涙を流した。

「ありがとうございます。うちの子にも、字を読ませてやりたかった」

こうして、エリアーナは定期的に村を訪れ、子供たちに読み書きを教えることを約束した。

帰りの馬車の中で、ルーカスが言った。

「君は本当に、素晴らしい人だ」

「いいえ、当然のことをしているだけです」

「多くの貴族は、領民のことなど気にかけない。でも君は違う」

エリアーナは窓の外を見た。

「私は、冷遇される辛さを知っています。だから、苦しんでいる人を放っておけないんです」

ルーカスは、彼女の横顔を優しく見つめた。

その日から、エリアーナは定期的に村を訪れるようになった。

畑仕事を手伝い、洗濯を一緒にし、子供たちに読み書きを教えた。

最初は警戒していた村人たちも、次第にエリアーナを受け入れ始めた。

彼女が泥だらけになりながら働く姿、子供たちと笑う姿、病人を心配する姿。

それらを見て、村人たちは理解した。

この人は、本物だ。心から自分たちのことを考えてくれている。

村長の娘、マリアは特にエリアーナを慕うようになった。

「奥方様、私も字を覚えたいです」

「じゃあ、次に来た時、一緒に勉強しましょう」

「本当ですか!」

マリアは嬉しそうに抱きついた。

エリアーナは、その小さな体を優しく抱きしめた。

その様子を、ルーカスは遠くから見守っていた。

夜、城に戻ると、ルーカスがエリアーナに言った。

「無理をしていないか?毎回、村から帰ると疲れているようだが」

「大丈夫です。むしろ、初めて必要とされていると感じます。嬉しいんです」

エリアーナの瞳は輝いていた。

「侯爵家では、誰も私を必要としませんでした。でもここでは、村の人たちが私を待っていてくれる」

ルーカスは、そっと彼女の手を取った。

「君を必要としているのは、村人たちだけじゃない」

「え?」

「僕もだ。君がいてくれて、僕はどれだけ救われているか」

エリアーナの胸が、温かくなった。

二人の手が、優しく握り合わされた。

村での活動を通じて、エリアーナは領民たちと深い絆を築き始めていた。

そして、ルーカスとの関係も、日に日に深まっていった。

グレンフォード領に、希望の光が少しずつ差し始めていた。
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