厄介払いされてしまいました

たくわん

文字の大きさ
6 / 20

6

しおりを挟む
薬草栽培の計画が決まった翌日、エリアーナとルーカスは城の裏庭を見に行った。

広い庭だったが、長年放置されていたため、雑草が生い茂り、荒れ果てていた。かつては美しい庭園だったであろう痕跡が、わずかに残っているだけだった。

「ここを、薬草園にするのですね」

エリアーナは庭を見渡しながら言った。

「ええ。でも、相当な整備が必要だ」

ルーカスが答えた。

「セバスチャンに、庭師を集めるよう頼もう」

その日の午後、セバスチャンが数名の庭師を連れてきた。年配の庭師長が代表として前に出た。

「奥方様、ルーカス様。私は庭師長のギュンターと申します」

「よろしくお願いします、ギュンター」

「奥方様、この庭をどのようにされたいのでしょうか」

エリアーナは、前夜に描いた設計図を広げた。

「ここを薬草園にしたいのです。ラベンダー、カモミール、ペパーミント、セージ。それぞれに適した場所に植えます」

庭師たちは設計図を興味深そうに見た。

「奥方様、薬草の知識がおありなのですね」

「ええ。王都の庭師から教わりました」

トーマスは感心したように頷いた。

「それは素晴らしい。我々も全力でお手伝いいたします」

翌日から、庭の整備が始まった。

庭師たちは雑草を取り除き、古い根を掘り起こし、土を耕した。重労働だったが、皆黙々と働いた。

エリアーナも毎日庭に出た。

「奥方様、こんな作業を」

庭師たちは驚いた。

「構いません。私も手伝います」

エリアーナは袖をまくり、雑草を抜き始めた。

ルーカスも、仕事の合間に庭に出て手伝った。

「伯爵様まで」

「領地のためだ。当然だろう」

伯爵夫妻が自ら土を触り、汗を流す姿に、庭師たちは感動した。

一週間かけて、庭は見違えるほど綺麗になった。雑草は取り除かれ、土は柔らかく耕され、整然とした畝ができあがった。

「さあ、種を蒔きましょう」

エリアーナは、トマスからもらった大切な種を取り出した。

小さな革の袋から、ラベンダーの種を手のひらに出す。小さな、小さな種。でもこれが、いつか領地を救うかもしれない。

「私がやります」

エリアーナは膝をつき、一粒一粒、丁寧に土に埋めていった。

庭師たちが見守る中、エリアーナは祈るように種を蒔いた。

「育ってください。どうか、この地で根を張り、花を咲かせてください」

ルーカスは、その姿を優しく見守っていた。

彼女は本当に、心を込めて作業をしている。植物を愛し、この領地を愛している。

ラベンダー、カモミール、ペパーミント、セージ。全ての種を蒔き終えると、夕方になっていた。

「お疲れ様でした、奥方様」

庭師たちが深く頭を下げた。

「ありがとうございました。これから、毎日水をやりますので、よろしくお願いします」

「かしこまりました」

その日から、エリアーナの日課が増えた。

朝早く起きて、薬草園に水をやる。土の状態を確認し、雑草があれば抜く。

毎日、毎日、欠かさず世話をした。

ルーカスは、いつも遠くから見守っていた。

「本当に、植物が好きなんだね」

ある朝、ルーカスが声をかけた。

「ええ。植物は嘘をつきません。愛情を注げば、ちゃんと応えてくれます」

エリアーナは微笑んだ。

「侯爵家では、庭に出ることさえ許されませんでした。でもここでは、自由に土を触れる。それが、とても嬉しいんです」

ルーカスの胸が、温かくなった。

彼女は、こんなにも幸せそうに笑う。

一週間が過ぎた。

ある朝、エリアーナが薬草園に行くと、小さな変化に気づいた。

土の表面に、小さな緑色のものが見える。

「これは...」

エリアーナは膝をつき、目を凝らした。

小さな、小さな芽だった。

「芽が出た!」

エリアーナは思わず叫んだ。

城の中にいたルーカスが、慌てて駆けつけた。

「どうした、エリアーナ!」

「見てください、ルーカス様!芽が出ました!」

エリアーナは嬉しそうに指差した。

ルーカスも膝をつき、小さな芽を見つめた。

本当に、小さな緑色の芽が、土から顔を出していた。

「本当だ。芽が出たんだね」

「ええ!きっと、他の種も出てきます」

エリアーナの目には、涙が光っていた。

喜びの涙だった。

「これは、希望の芽だ」

ルーカスが優しく言った。

「この小さな芽が、いつか領地を救うかもしれない」

「ええ。そして、領民の皆さんにも幸せをもたらすかもしれません」

二人は顔を見合わせ、微笑んだ。

それから数日で、次々と芽が出始めた。ラベンダー、カモミール、ペパーミント、セージ。全ての種が、元気に芽を出した。

エリアーナは毎日、薬草園で過ごした。芽の成長を見守り、水をやり、雑草を抜く。

庭師のギュンターも、毎日手伝ってくれた。

「奥方様、本当にお上手ですね」

「ありがとう、ギュンター。あなたのおかげです」

数週間後、薬草園は青々とした若葉で覆われた。

まだ小さいが、確実に育っている。

ルーカスが商人ギルドに連絡を取り、薬草の需要を確認した。

「エリアーナ、良い知らせだ」

ルーカスが嬉しそうに報告した。

「王都の商人が、薬草に興味を持っている。特にラベンダーとカモミールは、高値で買い取ってくれるそうだ」

「本当ですか!」

「ああ。収穫できたら、すぐに売れるだろう」

エリアーナは安堵した。

これで、計画は成功する。

「では、村の人たちにも栽培方法を教えましょう」

「うん。でも、まずは収穫を成功させないと」

「ええ。頑張ります」

薬草園は順調に育ち、グレンフォード城に新しい希望をもたらした。

そして、エリアーナとルーカスの心も、日に日に近づいていった。

毎朝、二人は薬草園で会い、植物の成長を喜び合う。

その時間が、二人にとってかけがえのないものになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 双子として生まれたエレナとエレン。 かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。 だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。 エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。 両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。 そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。 療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。 エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。 だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。 自分がニセモノだと知っている。 だから、この1年限りの恋をしよう。 そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。 ※※※※※※※※※※※※※ 異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。 現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦) ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

<完結>金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ
恋愛
「君は優秀だが、王妃としては冷たい。正直に言えば――飾りとしては十分だった」 そう言って婚約者である王太子に公然と切り捨てられた、公爵令嬢アデルフィーナ。 さらに王太子は宣言する。 「王家は外部信用に頼らない」「王家が条文だ」と。 履行履歴も整えず、契約も軽視し、 新たな婚約者と共に“強い王家”を演出する王太子。 ――ですが。 契約は宣言では動きません。 信用は履歴の上にしか立ちません。 王命が止まり、出荷が止まり、資材が止まり、 やがて止まったのは王太子の未来でした。 自ら押した承認印が、 自らの継承権を奪うことになるとも知らずに。 公然侮辱から始まる、徹底的な強ザマァ。 救済なし。 やり直しなし。 契約通りに処理しただけですのに―― なぜか王太子が廃嫡されました。

『皇族を名乗った伯爵家は、帝国に処理されました』 ―天然メイドは、今日も失敗する―

ふわふわ
恋愛
婚約破棄を経て、静かに屋敷を去った令嬢。 その後に残された伯爵家は、焦燥と虚勢を抱えたまま立て直しを図ろうとする。 だが、思惑はことごとく空回りする。 社交界での小さな失態。 資金繰りの綻び。 信用の揺らぎ。 そして、屋敷の中で起こる“ちょっとした”騒動の数々。 決して大事件ではない。 けれど積み重なれば、笑えない。 一方、帝国では新たな時代が静かに始まろうとしている。 血筋とは何か。 名乗るとは何か。 国家が守るものとは何か。 これは、派手な復讐劇ではない。 怒号も陰謀もない。 ただ―― 立場を取り違えた家が、ゆっくりと現実に追いつかれていく物語。 そして今日も、屋敷では誰かが小さな失敗をする。 世界は静かに、しかし確実に動いている。

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

処理中です...