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侯爵夫妻がグレンフォード領に来てから二ヶ月が経った頃、ロザリンドが訪れた。
馬車が城門に到着すると、エリアーナとルーカスが出迎えた。
馬車から降りてきたロザリンドは、以前とは違っていた。
華やかな装いはなく、シンプルな旅装姿。でもその顔には、穏やかな表情があった。
「エリアーナ、来たわ」
「お姉様、ようこそ」
二人は抱き合った。
「お父様とお母様も、ここにいると聞いたわ」
「ええ。二人とも、働いています」
「働いている?」
ロザリンドは驚いた。
「ええ。お父様は薬草園で、お母様は工房で」
エリアーナは、両親の様子を説明した。
「まあ...あの二人が」
「人は変われるものです」
城に入ると、セバスチャンが部屋に案内した。
「こちらが、お姉様のお部屋です」
「ありがとう」
部屋は明るく、清潔だった。窓からは、美しい薬草園が見えた。
「素敵な部屋ね」
「気に入っていただけて嬉しいです」
その夜、家族全員で夕食を取った。
エリアーナ、ルーカス、アレクシス、そしてロザリンド、両親。
質素な食卓だったが、温かい雰囲気があった。
「お姉様、公爵との離婚は大変でしたか」
「ええ。でも、やっと自由になれた」
ロザリンドは微笑んだ。
「地位も財産も失ったけれど、心は軽いわ」
父が、申し訳なさそうに言った。
「ロザリンド、すまなかった。お前を、見た目だけで公爵に嫁がせてしまった」
「いいの、お父様。それも私の選択だったわ」
ロザリンドは、両親を見た。
「でも、これからは違う。自分の足で立って生きていくわ」
「その決意、素晴らしいわ」
母が涙ぐんだ。
「私たちは、二人の娘に恵まれていたのに、それに気づかなかった」
エリアーナは、母の手を取った。
「でも、今気づいたなら、それで良いんです」
翌日、ロザリンドはエリアーナと共に領地を見て回った。
薬草園、化粧品工房、学校、市場。
全てを見て、ロザリンドは感嘆した。
「エリアーナ、あなたは本当にすごいわ」
「いいえ、皆さんの力です」
「謙遜しないで。あなたの知恵と努力が、これを作ったのよ」
工房では、女性たちが丁寧に化粧品を作っていた。
「あら、お姉様」
母マリアンヌが、帳簿を持って現れた。
「お母様、お仕事中だったのね」
「ええ。忙しいけれど、やりがいがあるわ」
母は、少し誇らしげに言った。
薬草園では、父が汗を流して働いていた。
「お父様」
「ロザリンド。来たのか」
父は、土で汚れた手を拭いた。
「体はどうですか、お父様」
「元気だ。働くことが、こんなに充実感を与えてくれるとは知らなかった」
父は、笑顔を見せた。
ロザリンドは、両親の変化に驚いた。
かつての傲慢さは消え、穏やかで謙虚になっていた。
その夜、姉妹だけで話す時間を持った。
「エリアーナ、私も働きたいの」
ロザリンドが切り出した。
「ここで、新しい人生を始めたい」
「お姉様...」
「でも、私には何の技能もない。美貌だけで生きてきたから」
ロザリンドは、自嘲的に笑った。
「いいえ、そんなことありません」
エリアーナは首を横に振った。
「お姉様は、社交が得意でしょう?人と話すのが上手だわ」
「それが、何の役に立つの?」
「グレンフォード商会の、販売責任者になっていただけませんか」
「販売責任者?」
「ええ。王都の店舗や、取引先との交渉。お姉様の社交術が、きっと役に立ちます」
ロザリンドの目が、輝いた。
「本当に、私にできるかしら」
「できます。お姉様を信じています」
翌日から、ロザリンドは商会の仕事を学び始めた。
最初は戸惑うこともあったが、持ち前の社交術で顧客を魅了した。
王都の店舗を訪れると、以前の知り合いの貴族夫人たちが驚いた。
「ロザリンド様?」
「お久しぶりです。今は、グレンフォード商会で働いています」
「まあ!」
でも、ロザリンドは堂々としていた。
「こちらの化粧品、本当に素晴らしいんです。ぜひお試しください」
彼女の熱心な説明に、夫人たちは引き込まれた。
「本当に良い香りね」
「肌に優しいし」
「買うわ」
ロザリンドの営業は大成功だった。
売上は、彼女が来てから倍増した。
数ヶ月後、ロザリンドはすっかりグレンフォード領に馴染んでいた。
真面目に働き、領民たちとも仲良くなった。
ある日、ロザリンドがエリアーナに言った。
「ありがとう、エリアーナ」
「何に対して?」
「私を、受け入れてくれて。新しいチャンスをくれて」
ロザリンドの目には、涙が光っていた。
「私は、ずっとあなたを傷つけてきた。でも、あなたは許してくれた」
「お姉様」
「今が、人生で一番幸せかもしれない」
ロザリンドは微笑んだ。
「地位も財産もないけれど、働く喜びがある。家族がいる。それで十分よ」
エリアーナは、姉を抱きしめた。
「お姉様、これからもずっと一緒です」
「ええ」
二人は、窓から領地を見渡した。
薬草園が広がり、人々が働いている。
父も母も、そしてロザリンドも、新しい人生を歩み始めていた。
家族が、本当の意味で一つになった。
過去の確執は消え、新しい絆が生まれていた。
グレンフォード領は、ただ領民だけでなく、エリアーナの家族をも救っていた。
そして、その中心にいるエリアーナは、心から幸せだった。
馬車が城門に到着すると、エリアーナとルーカスが出迎えた。
馬車から降りてきたロザリンドは、以前とは違っていた。
華やかな装いはなく、シンプルな旅装姿。でもその顔には、穏やかな表情があった。
「エリアーナ、来たわ」
「お姉様、ようこそ」
二人は抱き合った。
「お父様とお母様も、ここにいると聞いたわ」
「ええ。二人とも、働いています」
「働いている?」
ロザリンドは驚いた。
「ええ。お父様は薬草園で、お母様は工房で」
エリアーナは、両親の様子を説明した。
「まあ...あの二人が」
「人は変われるものです」
城に入ると、セバスチャンが部屋に案内した。
「こちらが、お姉様のお部屋です」
「ありがとう」
部屋は明るく、清潔だった。窓からは、美しい薬草園が見えた。
「素敵な部屋ね」
「気に入っていただけて嬉しいです」
その夜、家族全員で夕食を取った。
エリアーナ、ルーカス、アレクシス、そしてロザリンド、両親。
質素な食卓だったが、温かい雰囲気があった。
「お姉様、公爵との離婚は大変でしたか」
「ええ。でも、やっと自由になれた」
ロザリンドは微笑んだ。
「地位も財産も失ったけれど、心は軽いわ」
父が、申し訳なさそうに言った。
「ロザリンド、すまなかった。お前を、見た目だけで公爵に嫁がせてしまった」
「いいの、お父様。それも私の選択だったわ」
ロザリンドは、両親を見た。
「でも、これからは違う。自分の足で立って生きていくわ」
「その決意、素晴らしいわ」
母が涙ぐんだ。
「私たちは、二人の娘に恵まれていたのに、それに気づかなかった」
エリアーナは、母の手を取った。
「でも、今気づいたなら、それで良いんです」
翌日、ロザリンドはエリアーナと共に領地を見て回った。
薬草園、化粧品工房、学校、市場。
全てを見て、ロザリンドは感嘆した。
「エリアーナ、あなたは本当にすごいわ」
「いいえ、皆さんの力です」
「謙遜しないで。あなたの知恵と努力が、これを作ったのよ」
工房では、女性たちが丁寧に化粧品を作っていた。
「あら、お姉様」
母マリアンヌが、帳簿を持って現れた。
「お母様、お仕事中だったのね」
「ええ。忙しいけれど、やりがいがあるわ」
母は、少し誇らしげに言った。
薬草園では、父が汗を流して働いていた。
「お父様」
「ロザリンド。来たのか」
父は、土で汚れた手を拭いた。
「体はどうですか、お父様」
「元気だ。働くことが、こんなに充実感を与えてくれるとは知らなかった」
父は、笑顔を見せた。
ロザリンドは、両親の変化に驚いた。
かつての傲慢さは消え、穏やかで謙虚になっていた。
その夜、姉妹だけで話す時間を持った。
「エリアーナ、私も働きたいの」
ロザリンドが切り出した。
「ここで、新しい人生を始めたい」
「お姉様...」
「でも、私には何の技能もない。美貌だけで生きてきたから」
ロザリンドは、自嘲的に笑った。
「いいえ、そんなことありません」
エリアーナは首を横に振った。
「お姉様は、社交が得意でしょう?人と話すのが上手だわ」
「それが、何の役に立つの?」
「グレンフォード商会の、販売責任者になっていただけませんか」
「販売責任者?」
「ええ。王都の店舗や、取引先との交渉。お姉様の社交術が、きっと役に立ちます」
ロザリンドの目が、輝いた。
「本当に、私にできるかしら」
「できます。お姉様を信じています」
翌日から、ロザリンドは商会の仕事を学び始めた。
最初は戸惑うこともあったが、持ち前の社交術で顧客を魅了した。
王都の店舗を訪れると、以前の知り合いの貴族夫人たちが驚いた。
「ロザリンド様?」
「お久しぶりです。今は、グレンフォード商会で働いています」
「まあ!」
でも、ロザリンドは堂々としていた。
「こちらの化粧品、本当に素晴らしいんです。ぜひお試しください」
彼女の熱心な説明に、夫人たちは引き込まれた。
「本当に良い香りね」
「肌に優しいし」
「買うわ」
ロザリンドの営業は大成功だった。
売上は、彼女が来てから倍増した。
数ヶ月後、ロザリンドはすっかりグレンフォード領に馴染んでいた。
真面目に働き、領民たちとも仲良くなった。
ある日、ロザリンドがエリアーナに言った。
「ありがとう、エリアーナ」
「何に対して?」
「私を、受け入れてくれて。新しいチャンスをくれて」
ロザリンドの目には、涙が光っていた。
「私は、ずっとあなたを傷つけてきた。でも、あなたは許してくれた」
「お姉様」
「今が、人生で一番幸せかもしれない」
ロザリンドは微笑んだ。
「地位も財産もないけれど、働く喜びがある。家族がいる。それで十分よ」
エリアーナは、姉を抱きしめた。
「お姉様、これからもずっと一緒です」
「ええ」
二人は、窓から領地を見渡した。
薬草園が広がり、人々が働いている。
父も母も、そしてロザリンドも、新しい人生を歩み始めていた。
家族が、本当の意味で一つになった。
過去の確執は消え、新しい絆が生まれていた。
グレンフォード領は、ただ領民だけでなく、エリアーナの家族をも救っていた。
そして、その中心にいるエリアーナは、心から幸せだった。
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