今さら復縁なんて都合が良すぎです

たくわん

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カミラ・エーデルシュタインは、鏡の前で三度ドレスを着替えた。どれも高価な品だったが、どれを纏っても満足できなかった。

舞踏会の夜以来、社交界の話題はメゾン・フローラ一色だった。茶会に出れば誰かがあの刺繍の話をしている。晩餐会に行けば、新しいドレスを自慢する婦人が必ずいる。すべてが、あの女の手から生まれたもの。

婚約破棄された、あの地味な女の。

カミラは鏡に映る自分の美しい顔を見つめた。この顔があるから、ルートヴィヒは自分を選んだ。この顔さえあれば十分なはずだ。なのに最近、ルートヴィヒの目がどこか遠い。

「ねえ、ルートヴィヒ様」

夜会の帰り道、馬車の中でカミラは甘えた声を出した。

「あの工房、どうにかなりませんの。婚約破棄された女がしゃしゃり出てくるなんて、みっともないわ」

ルートヴィヒは窓の外を見たまま答えた。

「俺に何をしろと言うんだ」

「お知り合いの商家に圧力をかけるとか。仕入れを止めさせるとか」

「……考えておく」

その声に力がないことに、カミラは気づかなかった。


最初の異変は、生地の仕入れだった。

いつも取引している織物商から、突然連絡が途絶えた。フィーネが問い合わせると、歯切れの悪い返事が返ってきた。

「申し訳ございません。当面、他のお客様を優先することになりまして」

別の仕入れ先にも当たったが、同じような対応だった。三軒続けて断られた時点で、偶然ではないと確信した。

「誰かが圧力をかけている」

エルマが険しい顔で言った。フィーネも同じ結論に達していた。心当たりがないわけではない。

それから数日のうちに、別の嫌がらせも始まった。工房の悪評が社交界に流された。「あそこは納期を守らない」「生地をごまかしている」。どれも根も葉もない噂だった。


フィーネは動揺したが、取り乱しはしなかった。半年前の自分なら泣いていたかもしれない。でも今は工房があり、スタッフがいて、信頼してくれている顧客がいる。守るべきものがある人間は、簡単には崩れない。

ニクラスに相談すると、彼は眉一つ動かさなかった。

「ああ、それですか。もう手は打ってあります」

「え?」

「生地の件は三日前に気づきました。圧力をかけているのは、グランツ侯爵家と取引のある商会です。ルートだけ見ればわかる」

ニクラスはすでに代替の仕入れルートを確保していた。ブルーメンタール家の商業ネットワークは広い。一つや二つの取引先を塞がれたところで、別の道はいくらでもある。

「悪評の方は、放っておきましょう。実際の品物が噂を否定してくれます」

「でも——」

「商売の世界では嫌がらせなんて日常茶飯事です。こういう時こそ冷静に。騒げば相手の思うつぼですよ」

その落ち着きぶりに、フィーネは少し呆れ、少し安心した。この人は本当に、こういう場面に強い。


ルートヴィヒは自室の書斎で、一人考え込んでいた。

カミラに頼まれて、知人の商会に口をきいた。生地の仕入れを止めさせるのは簡単だった。侯爵家の名前を出せば、大抵の商人は従う。

けれど、そうしたことに対する後味の悪さが消えなかった。

フィーネに対して、自分は何をしているのだろう。婚約を破棄したのは自分だ。彼女にはもう関わりのない人間だ。なのに、彼女が成功しつつあると聞いて、こうして足を引っ張ろうとしている。カミラに言われるままに。

カミラと過ごす日々を振り返った。美しい。華がある。隣にいれば羨望の目で見られる。それは確かだった。だが、カミラは自分の利益にしか興味がない。フィーネの悪口を言っている時の彼女の目は、冷たく、醜かった。

ふと、フィーネの穏やかな横顔を思い出した。夜会で隣に立っていた時、彼女はいつも控えめに微笑んでいた。あの笑顔を、「退屈だ」と切り捨てたのは自分だ。

今さら何を考えている。ルートヴィヒは頭を振り、書斎の灯りを消した。


嫌がらせは続いたが、メゾン・フローラは揺るがなかった。

ニクラスの読み通り、品質が噂を打ち消した。新しい顧客がドレスを受け取るたびに、悪評は力を失っていく。むしろ、妨害があったにもかかわらず品質を維持し続けたことが、工房への信頼をかえって強固にした。

「嫌がらせを受けているのに品が落ちないということは、本物だということよ」

ある伯爵夫人がそう言って、追加の注文を入れた。

フィーネは妨害を乗り越えるたびに、自分の中に芯ができていくのを感じた。折れそうになる瞬間はある。でもその度に、工房に戻れば針がある。布がある。そして——。

ある夜、また遅くまで二人で対策を練っていた。新しい仕入れ先との契約書を確認し終えて、ニクラスが伸びをした。

「あなたは強いですね」

不意に言われて、フィーネは首を横に振った。

「強くなんかありません。怖いです。明日また何か起きるんじゃないかと思うと」

「それでも逃げないでしょう」

「……逃げられないだけです。ここには、エルマもヨハナもいるし、待ってくれているお客様もいる」

少し間を置いて、フィーネは続けた。

「それに、一人だったら折れていました」

ニクラスはその言葉の意味をすぐには返さなかった。代わりに、テーブルの上の契約書を丁寧に揃えて鞄にしまった。立ち上がりかけて、振り返る。

「僕はどこにも行きませんよ。投資家ですから、回収が終わるまでは」

軽口のはずなのに、声がわずかに低かった。フィーネはその背中を見送りながら、蓋をしていたはずの感情が、もう隙間どころではなく、じわじわと滲み出していることに気づいていた。
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