虚弱体質？の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

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春の光が窓から差し込む朝、セラフィーナは目覚めと同時に身体の変化を実感していた。

三ヶ月前までは、目を開けることさえ億劫だった。全身を重い鉛が覆っているような倦怠感。起き上がるだけで息が切れ、一日の大半をベッドで過ごしていた。それが今では、朝の光と共に自然に目が覚め、身体を起こすことに何の苦痛も感じない。

「お嬢様、お目覚めですか」

侍女のマリアが朝食の準備を整えながら、セラフィーナの顔を見て微笑んだ。かつての心配そうな表情ではなく、純粋な喜びに満ちた笑顔だった。

「ええ、とても気分がいいわ」

セラフィーナは自らベッドから降り、窓辺へと歩いた。以前なら数歩で息が切れていた距離を、今では何の問題もなく歩ける。庭園に咲く春の花々が、まるで祝福するかのように輝いて見えた。

朝食は前世の栄養学知識を基に、厳選した食材で構成されている。全粒パン、新鮮な野菜のサラダ、鶏卵、季節の果物。貴族の朝食としては質素かもしれないが、身体が求める栄養素はすべて含まれている。

「お嬢様、以前に比べて本当にお元気になられて」

マリアが給仕しながら言った。

「顔色も良くなりましたし、階段も息切れせずに上られるようになって。使用人一同、本当に嬉しく思っております」

「ありがとう、マリア。あなたたちの協力があってこそよ」

最初、セラフィーナが新しい食事療法と運動習慣を提案したとき、使用人たちは戸惑っていた。貴族令嬢が自ら身体を動かすなど、聞いたことがなかったからだ。しかし彼女の真剣な眼差しと、理論的な説明に、次第に協力を惜しまなくなった。

朝食後、セラフィーナは庭園での散歩を日課としていた。最初は十分も歩けなかったが、今では三十分以上、途中で休憩することなく歩き続けられる。

庭園の奥、かつて放置されていた薬草園は、老庭師のトマスの献身的な世話により、見違えるほど整備されていた。春の日差しを浴びて、様々な薬草が新芽を伸ばしている。

「お嬢様、カモミールが良い具合に育っておりますぞ」

トマスが腰を伸ばし、満足そうに薬草園を見渡した。

「ラベンダーも順調です。夏には立派な花を咲かせるでしょう」

「素晴らしいわ、トマス。あなたの技術があってこその成果ね」

「いえいえ、お嬢様の知識がなければ、これほどの薬草園は作れませんでした」

セラフィーナは薬草の間を歩きながら、それぞれの成長具合を確認した。前世で看護師として働いていた時、ハーブティーの効能について学んだことがある。不眠症の患者にカモミールティーを勧め、効果を実感してもらったことを思い出す。

この世界でも、その知識は十分に活かせるはずだ。

午後、セラフィーナは書斎で薬草の記録をつけていた。どの薬草がどのような効能を持ち、どの組み合わせが最も効果的か。前世の記憶と、この世界の文献を照らし合わせながら、詳細なノートを作成していく。

執事のセバスチャンがノックして入ってきた。

「お嬢様、ロデリック侯爵様がお呼びです」

父に呼ばれるのは珍しい。セラフィーナは少し緊張しながら、父の書斎へと向かった。

書斎の扉を開けると、侯爵が窓辺に立ち、庭園を眺めていた。

「父上、お呼びでしょうか」
「ああ、セラフィーナ。入りなさい」

侯爵は振り返り、娘の姿をじっくりと見つめた。その視線には、驚きと、そして安堵の色が混じっていた。

「随分と健康になったな」
「はい、父上。食事と運動の習慣を変えたことで、体調が大きく改善しました」
「そうか」

侯爵は深く頷いた。

「実は、お前の変化について、社交界でも噂になっているのだ。『あの病弱だった侯爵令嬢が、まるで別人のように健康になった』と」
「申し訳ございません、父上。余計な注目を集めてしまって」
「謝ることはない」

侯爵は優しく微笑んだ。

「むしろ誇らしく思っている。お前は自分の力で、自分の運命を変えた。それは誰にでもできることではない」

その言葉に、セラフィーナの胸が温かくなった。

「ところで、薬草園での活動について聞いた。使用人たちにも薬草茶を配っているそうだな」
「はい。不眠や頭痛に悩む者が多かったので、それぞれの症状に合わせた茶を調合しています」
「効果はあるのか?」
「使用人たちからは好評をいただいております」

侯爵は興味深そうに頷いた。

「セバスチャンからも聞いた。彼も長年頭痛に悩まされていたが、お前の茶で随分と楽になったと」
「それは良かったです」
「セラフィーナ、お前のやっていることは、単なる趣味ではなく、真に人々の役に立つことだ」

侯爵は娘の手を取った。

「好きなだけ続けなさい。必要な資金や人員は、私が手配する。ただし、無理だけはしないように」
「ありがとうございます、父上」

セラフィーナは深く頭を下げた。父の理解と支援は、何よりも心強かった。

夕刻、セラフィーナは自室で鏡を見つめた。三ヶ月前の青白く痩せこけた顔ではなく、血色の良い健康的な顔が映っている。目にも生気が宿り、髪も艶を取り戻していた。

「これが本来の私」

彼女は鏡に向かって微笑んだ。

病弱だったのは、生まれつきではなく、環境と習慣のせいだった。それを変えることで、本来の健康を取り戻すことができた。

そしてこれは、まだ始まりに過ぎない。

セラフィーナは窓の外、夕日に染まる薬草園を見つめた。ここから、新しい未来が始まる。かつて自分を捨てた人々に復讐するためではなく、自分自身と、そして多くの人々のために。

春風が窓から吹き込み、カーテンを揺らした。それはまるで、新しい季節の訪れを告げるかのようだった。