15 / 15
15
冬が再び訪れた。エリーゼがレオナルドと初めて会ってから、一年半が経とうとしていた。
あれから、二人は以前と変わらず協議を続けていた。だが、お互いの気持ちを知った今、空気は微妙に変わっていた。
ある雪の降る日、エリーゼは王宮を訪れた。
「エリーゼ、よく来てくれました」
レオナルドが笑顔で迎える。
「今日は、教育制度改革の進捗について報告があります」
二人は協議を始めた。教育制度改革は順調に進んでおり、王都の学校では貧しい子供たちも学べるようになっていた。
「素晴らしい成果です」
エリーゼは報告書を読みながら言った。
「これで、将来的には識字率も上がるでしょう」
「全て、あなたの提言のおかげです」
レオナルドが言う。
「いいえ、陛下が実行してくださったからです」
二人は微笑み合った。
協議が終わり、レオナルドが言った。
「エリーゼ、少し散歩しませんか」
「雪の中をですか?」
「ええ。王宮の庭園は、雪景色が美しいんです」
二人は防寒着を羽織り、庭園に出た。
雪が静かに降り積もる庭園は、幻想的な美しさだった。
「綺麗ですね」
エリーゼが息を呑む。
「ええ。でも、あなたほどではない」
レオナルドの言葉に、エリーゼは頬を染めた。
「陛下」
「エリーゼ、あの日から、あなたの答えを待っています」
レオナルドは立ち止まった。
「私の気持ちは変わりません。いや、日に日に強くなっています」
エリーゼは雪を見つめた。
「陛下、私は」
彼女は深く息を吸った。
「怖いんです。また、捨てられるのが」
「私は、あなたを捨てません」
レオナルドは断言した。
「エリーゼ、あなたは私にとって、かけがえのない存在です。あなたがいなければ、私は王として、そして一人の人間として、不完全なんです」
エリーゼの目に涙が浮かんだ。
「でも、私には何もありません。美貌も、地位も」
「あなたには、何よりも貴重なものがあります」
レオナルドは彼女の手を取った。
「知性、優しさ、そして王国を想う心。それが、私が求めていたものです」
エリーゼは彼を見上げた。
「陛下、私は」
彼女は微笑んだ。
「私も、陛下を愛しています」
レオナルドの顔が輝いた。
「本当ですか?」
「はい」
エリーゼは頷いた。
「最初は気づきませんでした。でも、陛下と過ごす時間が増えるにつれて、気持ちが育っていった」
レオナルドは彼女を抱きしめた。
「ありがとう、エリーゼ」
雪が二人を優しく包んでいた。
しばらくして、二人は離れた。
「でも、陛下」
エリーゼが言った。
「正式な婚約は、まだ早いと思います」
「なぜ?」
「私は、まだ陛下の相談役として働きたい」
エリーゼは真剣な目で言った。
「もし婚約が公表されれば、私の提言は『王の婚約者の意見』として見られる。それでは、純粋な政策議論ができなくなる」
レオナルドは考え込んだ。
「確かに、その通りだ」
「ですから、今のままでいさせてください」
エリーゼは彼の手を握った。
「陰から陛下を支える。それが、私の望みです」
レオナルドは微笑んだ。
「分かりました。あなたの望む通りにしましょう」
彼は彼女の額に優しくキスをした。
「でも、いつか。王国が十分に安定したら、正式に婚約しましょう」
「はい、その時を楽しみにしています」
二人は手を繋いで、庭園を歩いた。
数日後、思いがけない知らせが届いた。
「アレクシス様が、辺境の開拓事業で成果を上げられたそうです」
父が報告してくれた。
「そうですか」
エリーゼは微笑んだ。
「良かった。彼も、ようやく本当の自分を見つけたのね」
「お前は、本当に優しいな」
侯爵が娘を見る。
「恨んでいてもおかしくないのに」
「恨む理由はありません」
エリーゼは窓の外を見た。
「むしろ、感謝しています。あの婚約破棄がなければ、今の私はいなかった」
彼女は振り返った。
「お父様、私は幸せです」
侯爵は娘を抱きしめた。
「お前が幸せなら、それが一番だ」
その夜、社交界では相変わらず噂が飛び交っていた。
「国王陛下、最近特にお元気そうね」
「何か良いことがあったのかしら」
「そういえば、ハルトマン侯爵令嬢も、最近輝いているわ」
「まさか、二人は」
だが、真相を知る者は誰もいなかった。
王宮では、レオナルドが執務室で書類を読んでいた。
「陛下、エリーゼ様からの新しい提言書です」
側近が封筒を差し出す。
「ありがとう」
レオナルドは封を切った。今度は、インフラ整備についての提案だ。
「相変わらず、素晴らしい内容だ」
彼は微笑んだ。
「彼女は、本当に王国のことを考えている」
そして、自分のことも。その想いが、レオナルドを幸せにしていた。
一方、ハルトマン侯爵家の図書室では、エリーゼが新しいノートを開いていた。
「次は、医療制度の拡充について」
ペンが走る。王国のために。民のために。そして、愛する人のために。
窓の外では、雪が降り続けていた。
社交界の笑い者だった侯爵令嬢は、今や国王の最愛の人であり、最高の助言者だった。
だが、その事実を知る者は、ごく僅かだった。
「それでいい」
エリーゼは微笑んだ。
「影から支える。それが、私の道」
そして、いつか。王国が本当に良くなった時。
その時は、正体を明かしてもいい。レオナルドの隣に、堂々と立ってもいい。
「それまでは、この道を歩き続ける」
エリーゼの目は、希望に満ちていた。
数ヶ月後、王国では春の訪れと共に、また新しい改革が発表された。
「陛下の改革は、止まらないな」
貴族たちが感嘆する。
「一体、どこからあんなアイデアが湧いてくるんだ」
「陛下には、優秀な助言者がいるに違いない」
だが、誰も知らない。その助言者が、かつて「教養がない」と婚約破棄された侯爵令嬢であることを。
エリーゼは、レオナルドと共に、王国の未来を創り続けていた。
影の中から。だが、確実に。
そして、二人の愛は、誰にも邪魔されることなく、静かに育っていった。
春の日差しの中、エリーゼは王宮への馬車に乗り込んだ。
今日も、レオナルドが待っている。
協議のため。そして、愛する人として。
「行ってきます、お父様」
「ああ、気をつけて」
侯爵は娘を見送った。
「お前は、本当に幸せそうだ」
馬車が動き出す。エリーゼは窓から、青い空を見上げた。
「私の人生は、これから」
彼女は微笑んだ。
婚約破棄から始まった物語は、新しい章を迎えていた。
そして、その物語は、まだ終わらない。
王国と共に。レオナルドと共に。
エリーゼの道は、これからも続いていく。
――完――
あれから、二人は以前と変わらず協議を続けていた。だが、お互いの気持ちを知った今、空気は微妙に変わっていた。
ある雪の降る日、エリーゼは王宮を訪れた。
「エリーゼ、よく来てくれました」
レオナルドが笑顔で迎える。
「今日は、教育制度改革の進捗について報告があります」
二人は協議を始めた。教育制度改革は順調に進んでおり、王都の学校では貧しい子供たちも学べるようになっていた。
「素晴らしい成果です」
エリーゼは報告書を読みながら言った。
「これで、将来的には識字率も上がるでしょう」
「全て、あなたの提言のおかげです」
レオナルドが言う。
「いいえ、陛下が実行してくださったからです」
二人は微笑み合った。
協議が終わり、レオナルドが言った。
「エリーゼ、少し散歩しませんか」
「雪の中をですか?」
「ええ。王宮の庭園は、雪景色が美しいんです」
二人は防寒着を羽織り、庭園に出た。
雪が静かに降り積もる庭園は、幻想的な美しさだった。
「綺麗ですね」
エリーゼが息を呑む。
「ええ。でも、あなたほどではない」
レオナルドの言葉に、エリーゼは頬を染めた。
「陛下」
「エリーゼ、あの日から、あなたの答えを待っています」
レオナルドは立ち止まった。
「私の気持ちは変わりません。いや、日に日に強くなっています」
エリーゼは雪を見つめた。
「陛下、私は」
彼女は深く息を吸った。
「怖いんです。また、捨てられるのが」
「私は、あなたを捨てません」
レオナルドは断言した。
「エリーゼ、あなたは私にとって、かけがえのない存在です。あなたがいなければ、私は王として、そして一人の人間として、不完全なんです」
エリーゼの目に涙が浮かんだ。
「でも、私には何もありません。美貌も、地位も」
「あなたには、何よりも貴重なものがあります」
レオナルドは彼女の手を取った。
「知性、優しさ、そして王国を想う心。それが、私が求めていたものです」
エリーゼは彼を見上げた。
「陛下、私は」
彼女は微笑んだ。
「私も、陛下を愛しています」
レオナルドの顔が輝いた。
「本当ですか?」
「はい」
エリーゼは頷いた。
「最初は気づきませんでした。でも、陛下と過ごす時間が増えるにつれて、気持ちが育っていった」
レオナルドは彼女を抱きしめた。
「ありがとう、エリーゼ」
雪が二人を優しく包んでいた。
しばらくして、二人は離れた。
「でも、陛下」
エリーゼが言った。
「正式な婚約は、まだ早いと思います」
「なぜ?」
「私は、まだ陛下の相談役として働きたい」
エリーゼは真剣な目で言った。
「もし婚約が公表されれば、私の提言は『王の婚約者の意見』として見られる。それでは、純粋な政策議論ができなくなる」
レオナルドは考え込んだ。
「確かに、その通りだ」
「ですから、今のままでいさせてください」
エリーゼは彼の手を握った。
「陰から陛下を支える。それが、私の望みです」
レオナルドは微笑んだ。
「分かりました。あなたの望む通りにしましょう」
彼は彼女の額に優しくキスをした。
「でも、いつか。王国が十分に安定したら、正式に婚約しましょう」
「はい、その時を楽しみにしています」
二人は手を繋いで、庭園を歩いた。
数日後、思いがけない知らせが届いた。
「アレクシス様が、辺境の開拓事業で成果を上げられたそうです」
父が報告してくれた。
「そうですか」
エリーゼは微笑んだ。
「良かった。彼も、ようやく本当の自分を見つけたのね」
「お前は、本当に優しいな」
侯爵が娘を見る。
「恨んでいてもおかしくないのに」
「恨む理由はありません」
エリーゼは窓の外を見た。
「むしろ、感謝しています。あの婚約破棄がなければ、今の私はいなかった」
彼女は振り返った。
「お父様、私は幸せです」
侯爵は娘を抱きしめた。
「お前が幸せなら、それが一番だ」
その夜、社交界では相変わらず噂が飛び交っていた。
「国王陛下、最近特にお元気そうね」
「何か良いことがあったのかしら」
「そういえば、ハルトマン侯爵令嬢も、最近輝いているわ」
「まさか、二人は」
だが、真相を知る者は誰もいなかった。
王宮では、レオナルドが執務室で書類を読んでいた。
「陛下、エリーゼ様からの新しい提言書です」
側近が封筒を差し出す。
「ありがとう」
レオナルドは封を切った。今度は、インフラ整備についての提案だ。
「相変わらず、素晴らしい内容だ」
彼は微笑んだ。
「彼女は、本当に王国のことを考えている」
そして、自分のことも。その想いが、レオナルドを幸せにしていた。
一方、ハルトマン侯爵家の図書室では、エリーゼが新しいノートを開いていた。
「次は、医療制度の拡充について」
ペンが走る。王国のために。民のために。そして、愛する人のために。
窓の外では、雪が降り続けていた。
社交界の笑い者だった侯爵令嬢は、今や国王の最愛の人であり、最高の助言者だった。
だが、その事実を知る者は、ごく僅かだった。
「それでいい」
エリーゼは微笑んだ。
「影から支える。それが、私の道」
そして、いつか。王国が本当に良くなった時。
その時は、正体を明かしてもいい。レオナルドの隣に、堂々と立ってもいい。
「それまでは、この道を歩き続ける」
エリーゼの目は、希望に満ちていた。
数ヶ月後、王国では春の訪れと共に、また新しい改革が発表された。
「陛下の改革は、止まらないな」
貴族たちが感嘆する。
「一体、どこからあんなアイデアが湧いてくるんだ」
「陛下には、優秀な助言者がいるに違いない」
だが、誰も知らない。その助言者が、かつて「教養がない」と婚約破棄された侯爵令嬢であることを。
エリーゼは、レオナルドと共に、王国の未来を創り続けていた。
影の中から。だが、確実に。
そして、二人の愛は、誰にも邪魔されることなく、静かに育っていった。
春の日差しの中、エリーゼは王宮への馬車に乗り込んだ。
今日も、レオナルドが待っている。
協議のため。そして、愛する人として。
「行ってきます、お父様」
「ああ、気をつけて」
侯爵は娘を見送った。
「お前は、本当に幸せそうだ」
馬車が動き出す。エリーゼは窓から、青い空を見上げた。
「私の人生は、これから」
彼女は微笑んだ。
婚約破棄から始まった物語は、新しい章を迎えていた。
そして、その物語は、まだ終わらない。
王国と共に。レオナルドと共に。
エリーゼの道は、これからも続いていく。
――完――
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
<完結>金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
王太子の賭けに負けた氷の貴公子。くじで選ばれた私への態度は、義務ですか?それとも本気ですか?
恋せよ恋
恋愛
王太子の賭けの景品は、私でした。
「氷の貴公子」と称される侯爵嫡男ウィリアムとの婚約。
それは運命ではなく、ただの罰ゲーム。
「義務を果たすだけだ」と冷たく言い放つ彼なのに、
なぜか至近距離で甘く囁き、私を離してくれなくて……?
不器用な執着攻め×勘違い令嬢の、すれ違い溺愛の物語
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。