教養が足りない、ですって

たくわん

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冬が再び訪れた。エリーゼがレオナルドと初めて会ってから、一年半が経とうとしていた。

あれから、二人は以前と変わらず協議を続けていた。だが、お互いの気持ちを知った今、空気は微妙に変わっていた。

ある雪の降る日、エリーゼは王宮を訪れた。

「エリーゼ、よく来てくれました」

レオナルドが笑顔で迎える。

「今日は、教育制度改革の進捗について報告があります」

二人は協議を始めた。教育制度改革は順調に進んでおり、王都の学校では貧しい子供たちも学べるようになっていた。

「素晴らしい成果です」

エリーゼは報告書を読みながら言った。

「これで、将来的には識字率も上がるでしょう」
「全て、あなたの提言のおかげです」

レオナルドが言う。

「いいえ、陛下が実行してくださったからです」

二人は微笑み合った。

協議が終わり、レオナルドが言った。

「エリーゼ、少し散歩しませんか」
「雪の中をですか?」
「ええ。王宮の庭園は、雪景色が美しいんです」

二人は防寒着を羽織り、庭園に出た。

雪が静かに降り積もる庭園は、幻想的な美しさだった。

「綺麗ですね」

エリーゼが息を呑む。

「ええ。でも、あなたほどではない」

レオナルドの言葉に、エリーゼは頬を染めた。

「陛下」
「エリーゼ、あの日から、あなたの答えを待っています」

レオナルドは立ち止まった。

「私の気持ちは変わりません。いや、日に日に強くなっています」

エリーゼは雪を見つめた。

「陛下、私は」

彼女は深く息を吸った。

「怖いんです。また、捨てられるのが」
「私は、あなたを捨てません」

レオナルドは断言した。

「エリーゼ、あなたは私にとって、かけがえのない存在です。あなたがいなければ、私は王として、そして一人の人間として、不完全なんです」

エリーゼの目に涙が浮かんだ。

「でも、私には何もありません。美貌も、地位も」
「あなたには、何よりも貴重なものがあります」

レオナルドは彼女の手を取った。

「知性、優しさ、そして王国を想う心。それが、私が求めていたものです」

エリーゼは彼を見上げた。

「陛下、私は」

彼女は微笑んだ。

「私も、陛下を愛しています」

レオナルドの顔が輝いた。

「本当ですか?」
「はい」

エリーゼは頷いた。

「最初は気づきませんでした。でも、陛下と過ごす時間が増えるにつれて、気持ちが育っていった」

レオナルドは彼女を抱きしめた。

「ありがとう、エリーゼ」

雪が二人を優しく包んでいた。

しばらくして、二人は離れた。

「でも、陛下」

エリーゼが言った。

「正式な婚約は、まだ早いと思います」
「なぜ?」
「私は、まだ陛下の相談役として働きたい」

エリーゼは真剣な目で言った。

「もし婚約が公表されれば、私の提言は『王の婚約者の意見』として見られる。それでは、純粋な政策議論ができなくなる」

レオナルドは考え込んだ。

「確かに、その通りだ」
「ですから、今のままでいさせてください」

エリーゼは彼の手を握った。

「陰から陛下を支える。それが、私の望みです」

レオナルドは微笑んだ。

「分かりました。あなたの望む通りにしましょう」

彼は彼女の額に優しくキスをした。

「でも、いつか。王国が十分に安定したら、正式に婚約しましょう」
「はい、その時を楽しみにしています」

二人は手を繋いで、庭園を歩いた。

数日後、思いがけない知らせが届いた。

「アレクシス様が、辺境の開拓事業で成果を上げられたそうです」

父が報告してくれた。

「そうですか」

エリーゼは微笑んだ。

「良かった。彼も、ようやく本当の自分を見つけたのね」
「お前は、本当に優しいな」

侯爵が娘を見る。

「恨んでいてもおかしくないのに」
「恨む理由はありません」

エリーゼは窓の外を見た。

「むしろ、感謝しています。あの婚約破棄がなければ、今の私はいなかった」

彼女は振り返った。

「お父様、私は幸せです」

侯爵は娘を抱きしめた。

「お前が幸せなら、それが一番だ」

その夜、社交界では相変わらず噂が飛び交っていた。

「国王陛下、最近特にお元気そうね」
「何か良いことがあったのかしら」
「そういえば、ハルトマン侯爵令嬢も、最近輝いているわ」
「まさか、二人は」

だが、真相を知る者は誰もいなかった。

王宮では、レオナルドが執務室で書類を読んでいた。

「陛下、エリーゼ様からの新しい提言書です」

側近が封筒を差し出す。

「ありがとう」

レオナルドは封を切った。今度は、インフラ整備についての提案だ。

「相変わらず、素晴らしい内容だ」

彼は微笑んだ。

「彼女は、本当に王国のことを考えている」

そして、自分のことも。その想いが、レオナルドを幸せにしていた。

一方、ハルトマン侯爵家の図書室では、エリーゼが新しいノートを開いていた。

「次は、医療制度の拡充について」

ペンが走る。王国のために。民のために。そして、愛する人のために。

窓の外では、雪が降り続けていた。

社交界の笑い者だった侯爵令嬢は、今や国王の最愛の人であり、最高の助言者だった。

だが、その事実を知る者は、ごく僅かだった。

「それでいい」

エリーゼは微笑んだ。

「影から支える。それが、私の道」

そして、いつか。王国が本当に良くなった時。

その時は、正体を明かしてもいい。レオナルドの隣に、堂々と立ってもいい。

「それまでは、この道を歩き続ける」

エリーゼの目は、希望に満ちていた。

数ヶ月後、王国では春の訪れと共に、また新しい改革が発表された。

「陛下の改革は、止まらないな」

貴族たちが感嘆する。

「一体、どこからあんなアイデアが湧いてくるんだ」
「陛下には、優秀な助言者がいるに違いない」

だが、誰も知らない。その助言者が、かつて「教養がない」と婚約破棄された侯爵令嬢であることを。

エリーゼは、レオナルドと共に、王国の未来を創り続けていた。

影の中から。だが、確実に。

そして、二人の愛は、誰にも邪魔されることなく、静かに育っていった。

春の日差しの中、エリーゼは王宮への馬車に乗り込んだ。

今日も、レオナルドが待っている。

協議のため。そして、愛する人として。

「行ってきます、お父様」
「ああ、気をつけて」

侯爵は娘を見送った。

「お前は、本当に幸せそうだ」

馬車が動き出す。エリーゼは窓から、青い空を見上げた。

「私の人生は、これから」

彼女は微笑んだ。

婚約破棄から始まった物語は、新しい章を迎えていた。

そして、その物語は、まだ終わらない。

王国と共に。レオナルドと共に。

エリーゼの道は、これからも続いていく。

――完――

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