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追放された私は、氷の王に溺愛されています
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結婚式の一週間前、フロスティア王国に使節団が到着した。エリアーナの故郷からだった。エルザが慌てて部屋に飛び込んできた時、エリアーナは窓辺で刺繍をしていた。
「姫様! 大変です。お客様が...」
エリアーナが謁見の間に向かうと、そこには見覚えのある顔があった。アレクシス王子と、そして姉のイザベラだった。
「エリアーナ!」
イザベラは華やかなドレスに身を包み、相変わらずの美貌を誇っていた。しかし、その目には焦りのようなものが見えた。
「姉上...どうしてここに?」
「結婚式に参列するために来たのよ。妹の晴れ舞台ですもの」
イザベラの声は明るかったが、どこか不自然だった。アレクシス王子は、エリアーナを一瞥すると、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。
カイルが謁見の間に入ってきた。その瞬間、部屋の空気が変わった。彼の冷たい視線が、アレクシスとイザベラを捉える。
「ようこそ、フロスティアへ。歓迎する」
カイルの言葉には、全く歓迎の意思が感じられなかった。むしろ、明確な敵意すら漂っていた。
その夜、歓迎の晩餐会が開かれた。エリアーナはカイルの隣に座り、向かいにはイザベラとアレクシスが座っていた。
「それにしても、こんな寒い国だとは思いませんでしたわ」
イザベラが言った。その言葉には、明らかな侮蔑が込められていた。
「フロスティアは確かに寒いが、それがこの国の強さだ。厳しい環境が、強い人間を育てる」
カイルの冷たい声が響いた。イザベラは気まずそうに黙り込んだ。
「エリアーナは、ここでうまくやっているのかね?」
アレクシス王子が、まるで他人事のように尋ねた。
「ええ、とても」
エリアーナが答えると、アレクシスは意外そうな顔をした。
「本当に? 君のような...地味な娘が、こんな厳しい環境に適応できるとは思えないが」
その瞬間、カイルのナイフが皿を叩く音が響いた。彼の目は氷よりも冷たく、アレクシスを睨みつけていた。
「エリアーナは、お前が思っているよりも遥かに優れた女性だ。彼女の価値を見抜けなかったお前の目は、節穴だったということだ」
謁見の間が静まり返った。カイルの声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。アレクシスは青ざめ、何も言い返せなかった。
エリアーナは驚いて、カイルを見た。彼が、自分のためにここまで怒ってくれるなんて。胸が温かくなった。
晩餐会の後、エリアーナはバルコニーに出て夜風に当たっていた。すると、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、イザベラが立っていた。
「話がしたいの」
イザベラの声は、いつもの高慢さを失っていた。むしろ、どこか切迫していた。
「何の話ですか?」
「エリアーナ...お願い、この結婚をやめて」
エリアーナは目を見開いた。
「どういう意味ですか?」
「カイル様は...あなたには勿体ないわ。あんな立派な方、あなたには相応しくない」
イザベラの目には、嫉妬の炎が燃えていた。
「姉上は、アレクシス様と婚約されたのでは?」
「あの人は...」
イザベラの声が震えた。
「あの人は、私を愛してくれない。毎日、私の容姿を褒めるけれど、それだけ。私の話を聞いてくれない。私の心を見てくれない。ただの人形として扱うの」
初めて見る、イザベラの弱い姿だった。しかし、エリアーナの心に同情は湧かなかった。
「それは、姉上が望んだことではないですか。姉上は私の婚約者を奪い、私を追放した。その結果が、今の状況です」
「でも...」
「カイル様は、私を一人の人間として見てくれます。私の考えを尊重してくれます。姉上がそれを理解できないのは、姉上が相手の心を見てこなかったからです」
エリアーナの言葉に、イザベラは言葉を失った。そして、涙を浮かべて走り去っていった。
翌日、驚くべき知らせが届いた。エリアーナの故郷の王国で、大きな問題が起きているという。魔物の大群が国境を脅かし、アレクシス王子が指揮する軍が大敗したのだ。しかも、その原因は王子の稚拙な戦術にあったという。
「これは...」
エリアーナは報告書を読んで、状況の深刻さを理解した。このままでは、故郷が滅びるかもしれない。
「カイル様」
エリアーナは執務室のカイルを訪ねた。
「何だ?」
「お願いがあります。私の故郷を...助けてください」
カイルは報告書を見て、しばらく黙っていた。
「なぜ、お前を追放した国を救わねばならない?」
「そこには、罪のない人々が暮らしています。彼らは、私を追放したわけではありません」
エリアーナの目は、真剣だった。カイルはその目を見つめ、そして小さく息を吐いた。
「分かった。だが、条件がある」
「何でも従います」
「お前も来い。お前の国の地理を知る者が必要だ」
エリアーナは頷いた。
三日後、フロスティアの精鋭騎士団が出発した。カイルは自ら軍を率い、エリアーナも戦略顧問として同行した。イザベラとアレクシスも、渋々ながら同行することになった。
戦場に到着すると、状況は予想以上に悪かった。魔物の群れは巨大で、しかも統率が取れていた。これは単なる魔物の暴走ではなく、何者かが操っているのだ。
「エリアーナ、お前の意見を聞かせろ」
カイルが尋ねた。エリアーナは地図を広げ、地形を分析した。
「魔物は北の森から来ています。おそらく、そこに拠点があるはずです。正面から戦うのではなく、小隊で拠点を急襲すべきです」
「リスクが高い」
「でも、それが最も早く確実な方法です」
カイルはエリアーナの目を見つめた。そこには、迷いがなかった。
「分かった。お前の策を採用する」
作戦は見事に成功した。カイル率いる小隊が魔物の拠点を急襲し、そこで操っていた邪悪な魔導師を倒した。指揮を失った魔物たちは混乱し、フロスティアと王国の連合軍が一掃した。
戦いが終わった後、エリアーナの故郷の王はカイルとエリアーナを謁見の間に招いた。そこには、イザベラとアレクシスもいた。
「カイル王、そしてエリアーナ。我が国を救ってくれて感謝する」
王の声には、初めて温かみがあった。しかし、それは遅すぎた。
「父上、私は今、フロスティアの民です。もはや、この国の姫ではありません」
エリアーナの言葉に、王は言葉を失った。
「エリアーナ...すまなかった」
王の目には、後悔が浮かんでいた。しかし、エリアーナは冷静だった。
「過去は変えられません。私は、これからの未来を大切にします」
カイルはエリアーナの手を取った。その手は、温かかった。
「行くぞ、エリアーナ。我々の国が待っている」
二人が謁見の間を出ようとした時、イザベラが叫んだ。
「待って! エリアーナ、私...私が間違っていたわ」
イザベラの目には、涙が溢れていた。
「あなたは、本当の愛を見つけたのね。私は...私はただの人形。美しいだけの、中身のない人形」
「姉上」
エリアーナは振り返った。
「姉上も、本当の自分を見つけてください。外見ではなく、心の美しさを」
それだけ言って、エリアーナはカイルと共に去った。
フロスティアへの帰路、馬車の中でカイルが言った。
「エリアーナ」
「はい」
「お前は、本当にこの結婚を望んでいるのか? 俺は、最初から強制してきた」
エリアーナはカイルの青い瞳を見つめた。その瞳は、もう冷たくなかった。
「最初は、望んでいませんでした。でも、今は...」
エリアーナは微笑んだ。
「今は、あなたの隣にいたいと思っています。カイル様、いえ、カイル」
カイルの目が見開かれた。そして、初めて、彼が笑った。氷のような冷たさを纏っていた男が、太陽のように温かく笑った。
「俺も、お前といたい。お前だけが、俺の心を溶かしてくれた」
カイルはエリアーナを抱きしめた。彼女もまた、彼の胸に顔を埋めた。
「ありがとう、エリアーナ。お前がいなければ、俺は永遠に氷の王のままだった」
「私こそ、感謝しています。あなたが、私の本当の価値を見出してくれた」
二人の周りで、雪が舞っていた。しかし、それはもう冷たくなかった。二人の心を温める、優しい雪だった。
結婚式は、予定通り行われた。フロスティア王城の大広間には、多くの人々が集まった。エリアーナは純白のドレスに身を包み、カイルの隣に立っていた。
誓いの言葉が交わされ、二人は口づけを交わした。その瞬間、会場は大きな歓声に包まれた。かつて冷酷と恐れられた氷の王が、愛する女性と結ばれたことを、皆が祝福していた。
式の後、二人はバルコニーに立って、雪景色を見下ろしていた。
「エリアーナ」
「何ですか?」
「お前を妃に選んで、本当に良かった」
カイルは彼女の手を握った。
「俺は、最初からお前を選んでいた。お前の国王が提案してきた時、俺は調査させた。イザベラとお前、どちらが相応しいか」
「それで...」
「イザベラは美しいが、人の心を理解しない。お前は地味だが、心が美しい。俺が求めていたのは、外見ではなく心だった」
エリアーナの目に涙が浮かんだ。それは、悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。
「ありがとう、カイル。あなたに出会えて、本当に良かった」
二人は抱き合った。かつて追放された地味な姫は、今や氷の王国の王妃として、誰よりも幸せだった。
一方、エリアーナの故郷では、イザベラとアレクシスの関係は破綻していた。アレクシスの無能さが露呈し、イザベラへの愛も薄れていった。イザベラは美しさだけでは幸せになれないことを、ようやく理解した。
しかし、それはもう遅かった。エリアーナは遥か北の国で、本当の愛と幸せを見つけていた。姉と比較され続けた人生は終わり、新しい人生が始まっていた。
氷の王国に、春が訪れた。カイルとエリアーナは城の庭園を散歩していた。雪が溶け、小さな花が芽吹き始めていた。
「見て、カイル。花が咲いているわ」
エリアーナは嬉しそうに小さな花を指差した。
「ああ、春だ。お前が来てから、この国にも春が来た」
カイルは微笑んだ。もう、彼の笑顔は珍しいものではなくなっていた。エリアーナが隣にいるだけで、彼は自然と笑えるようになっていた。
「私たちの物語は、ここから始まるのね」
「ああ、これからずっと、一緒だ」
二人は手を繋ぎ、春の庭園を歩いていった。かつて冷たく閉ざされていた心は、今や愛に満ちていた。追放され、拒絶された過去は、二人を結びつけるための試練だったのかもしれない。
そして、二人は永遠に幸せに暮らした。氷の王と地味な姫の物語は、こうして美しい結末を迎えたのだった。
「姫様! 大変です。お客様が...」
エリアーナが謁見の間に向かうと、そこには見覚えのある顔があった。アレクシス王子と、そして姉のイザベラだった。
「エリアーナ!」
イザベラは華やかなドレスに身を包み、相変わらずの美貌を誇っていた。しかし、その目には焦りのようなものが見えた。
「姉上...どうしてここに?」
「結婚式に参列するために来たのよ。妹の晴れ舞台ですもの」
イザベラの声は明るかったが、どこか不自然だった。アレクシス王子は、エリアーナを一瞥すると、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。
カイルが謁見の間に入ってきた。その瞬間、部屋の空気が変わった。彼の冷たい視線が、アレクシスとイザベラを捉える。
「ようこそ、フロスティアへ。歓迎する」
カイルの言葉には、全く歓迎の意思が感じられなかった。むしろ、明確な敵意すら漂っていた。
その夜、歓迎の晩餐会が開かれた。エリアーナはカイルの隣に座り、向かいにはイザベラとアレクシスが座っていた。
「それにしても、こんな寒い国だとは思いませんでしたわ」
イザベラが言った。その言葉には、明らかな侮蔑が込められていた。
「フロスティアは確かに寒いが、それがこの国の強さだ。厳しい環境が、強い人間を育てる」
カイルの冷たい声が響いた。イザベラは気まずそうに黙り込んだ。
「エリアーナは、ここでうまくやっているのかね?」
アレクシス王子が、まるで他人事のように尋ねた。
「ええ、とても」
エリアーナが答えると、アレクシスは意外そうな顔をした。
「本当に? 君のような...地味な娘が、こんな厳しい環境に適応できるとは思えないが」
その瞬間、カイルのナイフが皿を叩く音が響いた。彼の目は氷よりも冷たく、アレクシスを睨みつけていた。
「エリアーナは、お前が思っているよりも遥かに優れた女性だ。彼女の価値を見抜けなかったお前の目は、節穴だったということだ」
謁見の間が静まり返った。カイルの声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。アレクシスは青ざめ、何も言い返せなかった。
エリアーナは驚いて、カイルを見た。彼が、自分のためにここまで怒ってくれるなんて。胸が温かくなった。
晩餐会の後、エリアーナはバルコニーに出て夜風に当たっていた。すると、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、イザベラが立っていた。
「話がしたいの」
イザベラの声は、いつもの高慢さを失っていた。むしろ、どこか切迫していた。
「何の話ですか?」
「エリアーナ...お願い、この結婚をやめて」
エリアーナは目を見開いた。
「どういう意味ですか?」
「カイル様は...あなたには勿体ないわ。あんな立派な方、あなたには相応しくない」
イザベラの目には、嫉妬の炎が燃えていた。
「姉上は、アレクシス様と婚約されたのでは?」
「あの人は...」
イザベラの声が震えた。
「あの人は、私を愛してくれない。毎日、私の容姿を褒めるけれど、それだけ。私の話を聞いてくれない。私の心を見てくれない。ただの人形として扱うの」
初めて見る、イザベラの弱い姿だった。しかし、エリアーナの心に同情は湧かなかった。
「それは、姉上が望んだことではないですか。姉上は私の婚約者を奪い、私を追放した。その結果が、今の状況です」
「でも...」
「カイル様は、私を一人の人間として見てくれます。私の考えを尊重してくれます。姉上がそれを理解できないのは、姉上が相手の心を見てこなかったからです」
エリアーナの言葉に、イザベラは言葉を失った。そして、涙を浮かべて走り去っていった。
翌日、驚くべき知らせが届いた。エリアーナの故郷の王国で、大きな問題が起きているという。魔物の大群が国境を脅かし、アレクシス王子が指揮する軍が大敗したのだ。しかも、その原因は王子の稚拙な戦術にあったという。
「これは...」
エリアーナは報告書を読んで、状況の深刻さを理解した。このままでは、故郷が滅びるかもしれない。
「カイル様」
エリアーナは執務室のカイルを訪ねた。
「何だ?」
「お願いがあります。私の故郷を...助けてください」
カイルは報告書を見て、しばらく黙っていた。
「なぜ、お前を追放した国を救わねばならない?」
「そこには、罪のない人々が暮らしています。彼らは、私を追放したわけではありません」
エリアーナの目は、真剣だった。カイルはその目を見つめ、そして小さく息を吐いた。
「分かった。だが、条件がある」
「何でも従います」
「お前も来い。お前の国の地理を知る者が必要だ」
エリアーナは頷いた。
三日後、フロスティアの精鋭騎士団が出発した。カイルは自ら軍を率い、エリアーナも戦略顧問として同行した。イザベラとアレクシスも、渋々ながら同行することになった。
戦場に到着すると、状況は予想以上に悪かった。魔物の群れは巨大で、しかも統率が取れていた。これは単なる魔物の暴走ではなく、何者かが操っているのだ。
「エリアーナ、お前の意見を聞かせろ」
カイルが尋ねた。エリアーナは地図を広げ、地形を分析した。
「魔物は北の森から来ています。おそらく、そこに拠点があるはずです。正面から戦うのではなく、小隊で拠点を急襲すべきです」
「リスクが高い」
「でも、それが最も早く確実な方法です」
カイルはエリアーナの目を見つめた。そこには、迷いがなかった。
「分かった。お前の策を採用する」
作戦は見事に成功した。カイル率いる小隊が魔物の拠点を急襲し、そこで操っていた邪悪な魔導師を倒した。指揮を失った魔物たちは混乱し、フロスティアと王国の連合軍が一掃した。
戦いが終わった後、エリアーナの故郷の王はカイルとエリアーナを謁見の間に招いた。そこには、イザベラとアレクシスもいた。
「カイル王、そしてエリアーナ。我が国を救ってくれて感謝する」
王の声には、初めて温かみがあった。しかし、それは遅すぎた。
「父上、私は今、フロスティアの民です。もはや、この国の姫ではありません」
エリアーナの言葉に、王は言葉を失った。
「エリアーナ...すまなかった」
王の目には、後悔が浮かんでいた。しかし、エリアーナは冷静だった。
「過去は変えられません。私は、これからの未来を大切にします」
カイルはエリアーナの手を取った。その手は、温かかった。
「行くぞ、エリアーナ。我々の国が待っている」
二人が謁見の間を出ようとした時、イザベラが叫んだ。
「待って! エリアーナ、私...私が間違っていたわ」
イザベラの目には、涙が溢れていた。
「あなたは、本当の愛を見つけたのね。私は...私はただの人形。美しいだけの、中身のない人形」
「姉上」
エリアーナは振り返った。
「姉上も、本当の自分を見つけてください。外見ではなく、心の美しさを」
それだけ言って、エリアーナはカイルと共に去った。
フロスティアへの帰路、馬車の中でカイルが言った。
「エリアーナ」
「はい」
「お前は、本当にこの結婚を望んでいるのか? 俺は、最初から強制してきた」
エリアーナはカイルの青い瞳を見つめた。その瞳は、もう冷たくなかった。
「最初は、望んでいませんでした。でも、今は...」
エリアーナは微笑んだ。
「今は、あなたの隣にいたいと思っています。カイル様、いえ、カイル」
カイルの目が見開かれた。そして、初めて、彼が笑った。氷のような冷たさを纏っていた男が、太陽のように温かく笑った。
「俺も、お前といたい。お前だけが、俺の心を溶かしてくれた」
カイルはエリアーナを抱きしめた。彼女もまた、彼の胸に顔を埋めた。
「ありがとう、エリアーナ。お前がいなければ、俺は永遠に氷の王のままだった」
「私こそ、感謝しています。あなたが、私の本当の価値を見出してくれた」
二人の周りで、雪が舞っていた。しかし、それはもう冷たくなかった。二人の心を温める、優しい雪だった。
結婚式は、予定通り行われた。フロスティア王城の大広間には、多くの人々が集まった。エリアーナは純白のドレスに身を包み、カイルの隣に立っていた。
誓いの言葉が交わされ、二人は口づけを交わした。その瞬間、会場は大きな歓声に包まれた。かつて冷酷と恐れられた氷の王が、愛する女性と結ばれたことを、皆が祝福していた。
式の後、二人はバルコニーに立って、雪景色を見下ろしていた。
「エリアーナ」
「何ですか?」
「お前を妃に選んで、本当に良かった」
カイルは彼女の手を握った。
「俺は、最初からお前を選んでいた。お前の国王が提案してきた時、俺は調査させた。イザベラとお前、どちらが相応しいか」
「それで...」
「イザベラは美しいが、人の心を理解しない。お前は地味だが、心が美しい。俺が求めていたのは、外見ではなく心だった」
エリアーナの目に涙が浮かんだ。それは、悲しみの涙ではなく、喜びの涙だった。
「ありがとう、カイル。あなたに出会えて、本当に良かった」
二人は抱き合った。かつて追放された地味な姫は、今や氷の王国の王妃として、誰よりも幸せだった。
一方、エリアーナの故郷では、イザベラとアレクシスの関係は破綻していた。アレクシスの無能さが露呈し、イザベラへの愛も薄れていった。イザベラは美しさだけでは幸せになれないことを、ようやく理解した。
しかし、それはもう遅かった。エリアーナは遥か北の国で、本当の愛と幸せを見つけていた。姉と比較され続けた人生は終わり、新しい人生が始まっていた。
氷の王国に、春が訪れた。カイルとエリアーナは城の庭園を散歩していた。雪が溶け、小さな花が芽吹き始めていた。
「見て、カイル。花が咲いているわ」
エリアーナは嬉しそうに小さな花を指差した。
「ああ、春だ。お前が来てから、この国にも春が来た」
カイルは微笑んだ。もう、彼の笑顔は珍しいものではなくなっていた。エリアーナが隣にいるだけで、彼は自然と笑えるようになっていた。
「私たちの物語は、ここから始まるのね」
「ああ、これからずっと、一緒だ」
二人は手を繋ぎ、春の庭園を歩いていった。かつて冷たく閉ざされていた心は、今や愛に満ちていた。追放され、拒絶された過去は、二人を結びつけるための試練だったのかもしれない。
そして、二人は永遠に幸せに暮らした。氷の王と地味な姫の物語は、こうして美しい結末を迎えたのだった。
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