婚約破棄された私が辺境で薬師になったら、元婚約者が後悔し始めました

たくわん

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レオンが去って一ヶ月。リディアは研究と診療に没頭していたが、ふとした瞬間に彼のことを思い出した。彼の笑顔、真剣な眼差し、そして研究について熱く語る姿。

「お嬢様、また考え事ですか」

 エマが心配そうに声をかけた。

「ごめんなさい。集中していなかったわ」

「レオン様のことですか」

 エマの問いに、リディアは答えられなかった。図星だったからだ。

「お嬢様、お気持ちを素直に認めた方が楽になりますよ」

「でも...私には恋愛をしている暇なんて」

「お嬢様は十分頑張っておられます。幸せになる権利もあるんです」

 その時、村の見張り番が駆け込んできた。

「領主様、大変です。隣国から緊急の使者が来ています」

 リディアが外に出ると、ヴェルディア王国の紋章をつけた使者が待っていた。

「リディア・フォルテ様ですね。至急、ヴェルディア王国へお越しいただきたいのです」

「何があったのですか」

「詳しくは申し上げられませんが、王国で原因不明の病が流行しております。レオンハルト様があなた様の助けを求めておられます」

 リディアは即座に決断した。

「分かりました。すぐに参ります」

 準備を整え、リディアはガレスとマルタを伴ってヴェルディア王国へ向かった。国境を越え、三日間の旅の後、王都に到着した。

 レオンが宮殿の入り口で待っていた。彼の顔には疲労の色が濃かった。

「リディア、来てくれてありがとう」

「レオン、何があったの」

「眠り病だ。患者は徐々に眠る時間が増え、最終的に目覚めなくなる。既に五十人以上が発症し、そのうち十人が昏睡状態に陥っている」

 リディアは真剣な表情になった。

「すぐに患者を診せて」

 レオンは彼女を王立病院に案内した。病室には、様々な年齢の患者が横たわっていた。みな深い眠りについており、声をかけても反応しない。

 リディアは一人一人を診察した。脈拍、呼吸、瞳孔の反応。そして、共通点を探った。

「レオン、患者たちの共通点は何かある?」

「年齢も職業もバラバラだ。ただ、全員が王都の住人だということだけ」

「王都の...では、環境要因の可能性が高いわね」

 リディアは精密な検査を始めた。血液、唾液、髪の毛。あらゆるサンプルを採取し、分析した。

 三日間、不眠不休で研究を続けた。レオンも付き添い、魔法を使った検査を行った。

 四日目の朝、リディアは重大な発見をした。

「レオン、これを見て」

 顕微鏡を覗くと、患者の血液の中に微小な寄生虫がいた。

「これが原因だわ。この寄生虫が脳に侵入し、睡眠中枢を攻撃している」

「寄生虫...しかし、どうやって感染したんだ」

「それを調べる必要があるわ」

 二人は患者たちの行動を詳しく調査した。すると、全員が王都の特定の地区を訪れていたことが分かった。

「この地区に共通の感染源があるはずだ」

 現地調査に向かうと、その地区には新しく開店した珍しい食材店があった。

「ここで何か買った?」

 店主に尋ねると、多くの患者が特定の輸入果物を購入していたことが判明した。

「この果物に寄生虫が付着していたのね」

 リディアは果物のサンプルを持ち帰り、分析した。予想通り、寄生虫の卵が見つかった。

「感染源は特定できた。でも、治療法は...」

 通常の駆虫薬では、脳に侵入した寄生虫には効かない。何か別の方法が必要だった。

「リディア、魔法と薬を組み合わせたらどうだろう」

 レオンが提案した。

「魔法で脳への血流を一時的に増やし、そこに駆虫薬を集中させる」

「危険な方法だけど...他に選択肢はないわね」

 二人は新しい治療法の開発に取り組んだ。リディアが特殊な駆虫薬を調合し、レオンがそれを最大限に活用する魔法を開発する。

 一週間後、試作が完成した。

「最初の実験は、僕が被験者になる」

 レオンが言った。

「だめよ、危険すぎる」

「いや、僕は魔法使いだ。何かあっても自分で対処できる。それに」

 レオンは真剣な目でリディアを見た。

「君を危険に晒すわけにはいかない」

 リディアは反論できなかった。レオンの決意は固かった。

 レオンは少量の寄生虫を自分に投与し、意図的に感染した。そして、新しい治療法を試した。

 緊張の数時間。リディアはレオンの容態を見守り続けた。

 夕方、レオンが目を覚ました。

「成功だ...寄生虫は完全に駆除された」

 リディアは安堵のあまり、涙が溢れた。

「馬鹿、本当に馬鹿よ、あなたは」

「ごめん、心配させて」

 レオンは弱々しく微笑んだ。

 翌日から、患者たちへの治療が始まった。一人また一人と、患者が目を覚ました。昏睡状態だった者も、三日後には意識を取り戻した。

 眠り病は完全に克服された。

 ヴェルディア王国は、二人を国の英雄として称えた。王宮で盛大な祝賀会が開かれ、王自らが感謝の言葉を述べた。

「リディア・フォルテ様、レオンハルト。お二人の功績は、永遠に我が国の歴史に刻まれるでしょう」

 祝賀会の後、レオンはリディアを王宮の庭園に誘った。月明かりの下、二人きりだった。

「リディア、君と出会えて本当に良かった」

「私もよ、レオン」

「君と一緒に研究していると、時間を忘れる。君の知性、情熱、そして優しさ。全てが素晴らしい」

 レオンは一歩近づいた。

「リディア、僕は君が好きだ。研究者としてだけでなく、一人の女性として」

 リディアの心臓が激しく鳴った。

「レオン...」

「答えは急がない。でも、僕の気持ちを知っていてほしかった」

 リディアは自分の心に正直になることを決めた。

「私も...あなたが好きよ、レオン」

 二人は見つめ合った。そして、ゆっくりと互いに近づいた。

 その時、庭園の入り口から声がした。

「レオンハルト王子、お呼びです」

 王子?

 リディアは驚いて振り返った。

「王子...?」

 レオンは困ったような表情を浮かべた。

「ごめん、リディア。実は、僕はヴェルディア王国の第二王子なんだ」

「なぜ、それを隠していたの」

「研究者として対等に接してほしかったから。王子だと知られると、みんな態度が変わってしまう。でも、君は最初から僕を一人の研究者として扱ってくれた」

 リディアは複雑な気持ちになった。レオンが王子だと知って、何かが変わるわけではない。でも、彼との関係が、これまで以上に難しくなることは確かだった。

「レオン、私たちは...」

「僕の気持ちは変わらない」

 レオンは彼女の手を取った。

「君が僕を愛してくれるなら、他のことは何とかする」

「でも、王子と辺境の追放令嬢では...」

「君は追放令嬢なんかじゃない。王国一の薬学者で、多くの人の命を救った英雄だ。それに」

 レオンは微笑んだ。

「僕が愛するのは、肩書きじゃない。リディア、君という人間だ」

 リディアの目に涙が浮かんだ。初めて、本当に自分を愛してくれる人に出会えた。

「でも、私にはまだやるべきことがある」

「分かっている。だから、今すぐ答えを出さなくていい。僕は待つ」

「レオン...」

「ただ、覚えていてほしい。僕は君を愛している。そして、いつまでも待つ」

 レオンは彼女の額に優しくキスをして、王宮に戻っていった。

 リディアは一人、月明かりの下に残された。心は混乱していたが、同時に温かかった。

 初めての恋。そして、初めて本当に自分を愛してくれる人。

 でも、まだ決断はできない。ローゼンタールには、自分を待っている人々がいる。研究も道半ばだ。

 そして何より、かつて自分を見捨てた者たちに、完全に勝利するまでは。

「もう少し待って、レオン」

 リディアは夜空に向かって呟いた。

「私が本当に自分の価値を証明してから、あなたの元に行く」

 星が静かに瞬いていた。まるで、彼女の決意を祝福するかのように。
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