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夜明け前、リディアはガレスと共に密かにローゼンタールを出発した。マルタは村に残り、分校と診療所の運営を任された。
「お嬢様、必ず無事にお戻りください」
「約束するわ。そして、レオンと一緒に戻ってくる」
二人は国境に向かう裏道を進んだ。普通の街道を避け、森の中の獣道を通る。ガレスは元軍人で、こうした秘密のルートに詳しかった。
「領主様、ヴェルディア王国は今、内戦状態です。第一王子派と第二王子派が争っています」
「レオンは第二王子よね。なぜ拘束されたの?」
「第一王子が王位継承を独占しようとしているようです。レオンハルト殿下は民衆の支持が厚く、脅威だったのでしょう」
リディアは拳を握った。レオンは優しく、誠実な人だ。政治の道具にされることを望んでいなかったはずだ。
二日間の困難な旅の後、ようやく国境に到着した。しかし、予想通り、国境は厳重に警備されていた。
「どうやって越えるの?」
「この先に、古い地下通路があります。密輸業者が使っていたものですが、今は放棄されています」
地下通路は暗く、狭かった。松明を持って進むが、時々コウモリが飛んできて驚かされる。
数時間後、ようやくヴェルディア王国側に出た。だが、そこは荒れた森の中だった。
「王都まではまだ遠いわね」
「ええ。徒歩で三日はかかります」
旅は過酷だった。食料は乾パンと干し肉だけ。水は川から汲む。夜は野宿し、火も最小限にして目立たないようにした。
三日目の夕方、ようやく王都の郊外に到着した。しかし、街の様子はおかしかった。
通りには兵士が巡回し、人々は怯えた表情をしている。店は早々に閉まり、夜間外出禁止令が出ているようだった。
「これは...予想以上に深刻ね」
リディアはフードを深く被り、目立たないように街を歩いた。王宮に近づくと、警備はさらに厳重になっていた。
「正面からは入れないわね」
「裏口を使いましょう。私には、宮廷に知り合いがいます」
ガレスは以前、ヴェルディア王国の騎士団と合同訓練をしたことがあり、何人かの騎士と親交があった。
宮廷の裏門で、ガレスは見張りの騎士に声をかけた。
「ダリウス、私だ。覚えているか」
騎士は驚いた表情を見せた。
「ガレス...なぜここに。今は危険だぞ」
「分かっている。だが、レオンハルト殿下にどうしても会わなければならない人がいる」
ガレスはリディアを示した。リディアがフードを外すと、ダリウスは目を見開いた。
「リディア・フォルテ様...噂の薬師か」
「レオンハルト殿下は無事ですか」
「拘束されています。北塔に幽閉され、誰も会えません」
「私を連れて行ってください。お願いします」
ダリウスは悩んだ。
「...分かった。私も、殿下のやり方に疑問を持っている。第一王子は暴君だ。民衆のことなど考えていない」
ダリウスは二人を宮廷に案内した。夜の闇に紛れ、北塔に向かう。
途中、何度か巡回の兵士と遭遇しそうになったが、ダリウスの機転で回避できた。
北塔の前には、二人の衛兵が立っていた。
「交代の時間だ」
ダリウスが言うと、衛兵たちは疑わずに去っていった。
「急いでください。次の巡回が来る前に」
塔の中は暗く、階段は狭かった。最上階の部屋の前に到着すると、重い鉄の扉があった。
ダリウスが鍵を開けると、中には簡素な部屋があった。窓には鉄格子がはめられ、家具もほとんどない。
そして、窓際に一人の男性が座っていた。
レオンだった。
「レオン」
リディアの声に、レオンは振り返った。彼の顔には驚きが浮かんだ。
「リディア...どうしてここに」
「あなたを助けに来たの」
リディアは彼に駆け寄った。レオンは疲れた様子だったが、怪我はないようだった。
「危険すぎる。国境が封鎖されているのに、どうやって」
「裏道を使った。そんなこと、どうでもいいの。あなたが無事で本当に良かった」
レオンはリディアの手を取った。
「リディア、君は本当に...ありがとう。でも、すぐに逃げなければ」
「あなたも一緒に逃げるのよ」
「いや、それはできない」
レオンは首を横に振った。
「僕が逃げれば、僕を支持する人々が危険に晒される。それに、兄との争いはいずれ決着をつけなければならない」
「でも...」
「リディア、聞いてほしい」
レオンは真剣な目で彼女を見た。
「兄は王になろうとしている。しかし、兄には国を治める器がない。暴力と恐怖で支配しようとしている。このままでは、国が滅びる」
「だから、あなたが戦うの?」
「そうだ。僕には支持者がいる。多くの貴族、騎士、そして民衆が、僕を王にしたいと言ってくれている」
リディアは理解した。これは単なる権力争いではない。国の未来をかけた戦いだ。
「では、私も戦うわ」
「リディア...」
「私はあなたを愛している。だから、あなたの戦いは私の戦いでもある」
レオンは彼女を抱きしめた。
「ありがとう。でも、危険すぎる」
「私には医療の知識がある。負傷者の治療ができる。きっと役に立てるわ」
その時、下から足音が聞こえてきた。
「まずい、巡回が来た」
ダリウスが焦った。
「リディア様、ガレス、隠れてください」
二人は部屋の隅に隠れた。衛兵が入ってきて、レオンを確認して去っていった。
危機が去った後、ダリウスが言った。
「殿下、実は秘密の支持者たちが、明後日の夜に脱出計画を実行する予定です」
「脱出...?」
「はい。城外の拠点に殿下を移し、そこから反撃の準備をします」
「分かった。その計画に乗る」
リディアとガレスは、その日は宮廷の隠れ家に潜伏した。狭く暗い部屋だったが、レオンのためなら耐えられた。
翌日、リディアは変装して城下町を歩いた。民衆の様子を探るためだ。
人々は小声で話していた。
「第一王子は暴君だ」
「税を三倍に上げるらしい」
「レオンハルト様が王になってくれたら...」
民衆の多くが、レオンを支持していることが分かった。
リディアは宿屋で、ある老人と話した。
「レオンハルト様は、学問を愛し、民を思う方です。何度も貧しい村を訪れ、人々の声を聞いていました」
「素晴らしい方なのですね」
「ええ。あの方が王になれば、この国は良くなる。みんなそう信じています」
リディアは確信した。レオンを助けることは、この国全体を救うことだ。
脱出の夜が来た。リディアとガレス、そしてダリウスと数名の騎士たちが北塔に向かった。
レオンを連れ出し、宮廷の秘密の通路を使って城外に出た。外では、馬車が待っていた。
「急げ、すぐに追手が来る」
全員が馬車に乗り込み、城下町を抜けた。案の定、後ろから追手の騎士たちが追ってきた。
「もっと速く」
御者が馬に鞭を入れる。馬車は猛スピードで森の中の道を駆け抜けた。
追手との距離が縮まる。矢が飛んできて、馬車の側面に刺さった。
「危ない」
ガレスが剣を抜き、馬車の後ろから迎撃する。追手の一人を馬から落とした。
森の奥深くに入ると、追手の声が遠ざかった。
「何とか撒けたようだ」
一同は安堵のため息をついた。
数時間後、隠れ家に到着した。森の中の古い砦だった。
「ここが拠点です」
ダリウスが説明した。
「既に百名ほどの支持者が集まっています」
砦の中には、確かに多くの騎士や貴族がいた。彼らはレオンを見ると、跪いた。
「殿下、お待ちしておりました」
「みんな、ありがとう」
レオンは一人一人に声をかけた。
その夜、作戦会議が開かれた。レオンを王位に就けるための計画が練られた。
リディアも参加し、負傷者の治療体制について提案した。
「戦いになれば、必ず負傷者が出ます。私は野戦病院を作ります」
「リディア様が手伝ってくださるなら、心強い」
一人の騎士が言った。
こうして、リディアは反乱軍の一員となった。愛する人のため、そして正義のために戦う決意を固めた。
その夜、レオンとリディアは二人きりで星空を見上げた。
「リディア、危険に巻き込んでしまってすまない」
「謝らないで。私が選んだことよ」
「君は本当に強い。そして優しい」
レオンは彼女の手を握った。
「この戦いが終わったら...君と結婚したい」
リディアは涙を浮かべながら微笑んだ。
「私もよ、レオン。必ず一緒に未来を迎えましょう」
二人は抱き合った。明日からは厳しい戦いが始まる。しかし、互いがいれば乗り越えられる。
そう信じて、二人は新しい朝を待った。
「お嬢様、必ず無事にお戻りください」
「約束するわ。そして、レオンと一緒に戻ってくる」
二人は国境に向かう裏道を進んだ。普通の街道を避け、森の中の獣道を通る。ガレスは元軍人で、こうした秘密のルートに詳しかった。
「領主様、ヴェルディア王国は今、内戦状態です。第一王子派と第二王子派が争っています」
「レオンは第二王子よね。なぜ拘束されたの?」
「第一王子が王位継承を独占しようとしているようです。レオンハルト殿下は民衆の支持が厚く、脅威だったのでしょう」
リディアは拳を握った。レオンは優しく、誠実な人だ。政治の道具にされることを望んでいなかったはずだ。
二日間の困難な旅の後、ようやく国境に到着した。しかし、予想通り、国境は厳重に警備されていた。
「どうやって越えるの?」
「この先に、古い地下通路があります。密輸業者が使っていたものですが、今は放棄されています」
地下通路は暗く、狭かった。松明を持って進むが、時々コウモリが飛んできて驚かされる。
数時間後、ようやくヴェルディア王国側に出た。だが、そこは荒れた森の中だった。
「王都まではまだ遠いわね」
「ええ。徒歩で三日はかかります」
旅は過酷だった。食料は乾パンと干し肉だけ。水は川から汲む。夜は野宿し、火も最小限にして目立たないようにした。
三日目の夕方、ようやく王都の郊外に到着した。しかし、街の様子はおかしかった。
通りには兵士が巡回し、人々は怯えた表情をしている。店は早々に閉まり、夜間外出禁止令が出ているようだった。
「これは...予想以上に深刻ね」
リディアはフードを深く被り、目立たないように街を歩いた。王宮に近づくと、警備はさらに厳重になっていた。
「正面からは入れないわね」
「裏口を使いましょう。私には、宮廷に知り合いがいます」
ガレスは以前、ヴェルディア王国の騎士団と合同訓練をしたことがあり、何人かの騎士と親交があった。
宮廷の裏門で、ガレスは見張りの騎士に声をかけた。
「ダリウス、私だ。覚えているか」
騎士は驚いた表情を見せた。
「ガレス...なぜここに。今は危険だぞ」
「分かっている。だが、レオンハルト殿下にどうしても会わなければならない人がいる」
ガレスはリディアを示した。リディアがフードを外すと、ダリウスは目を見開いた。
「リディア・フォルテ様...噂の薬師か」
「レオンハルト殿下は無事ですか」
「拘束されています。北塔に幽閉され、誰も会えません」
「私を連れて行ってください。お願いします」
ダリウスは悩んだ。
「...分かった。私も、殿下のやり方に疑問を持っている。第一王子は暴君だ。民衆のことなど考えていない」
ダリウスは二人を宮廷に案内した。夜の闇に紛れ、北塔に向かう。
途中、何度か巡回の兵士と遭遇しそうになったが、ダリウスの機転で回避できた。
北塔の前には、二人の衛兵が立っていた。
「交代の時間だ」
ダリウスが言うと、衛兵たちは疑わずに去っていった。
「急いでください。次の巡回が来る前に」
塔の中は暗く、階段は狭かった。最上階の部屋の前に到着すると、重い鉄の扉があった。
ダリウスが鍵を開けると、中には簡素な部屋があった。窓には鉄格子がはめられ、家具もほとんどない。
そして、窓際に一人の男性が座っていた。
レオンだった。
「レオン」
リディアの声に、レオンは振り返った。彼の顔には驚きが浮かんだ。
「リディア...どうしてここに」
「あなたを助けに来たの」
リディアは彼に駆け寄った。レオンは疲れた様子だったが、怪我はないようだった。
「危険すぎる。国境が封鎖されているのに、どうやって」
「裏道を使った。そんなこと、どうでもいいの。あなたが無事で本当に良かった」
レオンはリディアの手を取った。
「リディア、君は本当に...ありがとう。でも、すぐに逃げなければ」
「あなたも一緒に逃げるのよ」
「いや、それはできない」
レオンは首を横に振った。
「僕が逃げれば、僕を支持する人々が危険に晒される。それに、兄との争いはいずれ決着をつけなければならない」
「でも...」
「リディア、聞いてほしい」
レオンは真剣な目で彼女を見た。
「兄は王になろうとしている。しかし、兄には国を治める器がない。暴力と恐怖で支配しようとしている。このままでは、国が滅びる」
「だから、あなたが戦うの?」
「そうだ。僕には支持者がいる。多くの貴族、騎士、そして民衆が、僕を王にしたいと言ってくれている」
リディアは理解した。これは単なる権力争いではない。国の未来をかけた戦いだ。
「では、私も戦うわ」
「リディア...」
「私はあなたを愛している。だから、あなたの戦いは私の戦いでもある」
レオンは彼女を抱きしめた。
「ありがとう。でも、危険すぎる」
「私には医療の知識がある。負傷者の治療ができる。きっと役に立てるわ」
その時、下から足音が聞こえてきた。
「まずい、巡回が来た」
ダリウスが焦った。
「リディア様、ガレス、隠れてください」
二人は部屋の隅に隠れた。衛兵が入ってきて、レオンを確認して去っていった。
危機が去った後、ダリウスが言った。
「殿下、実は秘密の支持者たちが、明後日の夜に脱出計画を実行する予定です」
「脱出...?」
「はい。城外の拠点に殿下を移し、そこから反撃の準備をします」
「分かった。その計画に乗る」
リディアとガレスは、その日は宮廷の隠れ家に潜伏した。狭く暗い部屋だったが、レオンのためなら耐えられた。
翌日、リディアは変装して城下町を歩いた。民衆の様子を探るためだ。
人々は小声で話していた。
「第一王子は暴君だ」
「税を三倍に上げるらしい」
「レオンハルト様が王になってくれたら...」
民衆の多くが、レオンを支持していることが分かった。
リディアは宿屋で、ある老人と話した。
「レオンハルト様は、学問を愛し、民を思う方です。何度も貧しい村を訪れ、人々の声を聞いていました」
「素晴らしい方なのですね」
「ええ。あの方が王になれば、この国は良くなる。みんなそう信じています」
リディアは確信した。レオンを助けることは、この国全体を救うことだ。
脱出の夜が来た。リディアとガレス、そしてダリウスと数名の騎士たちが北塔に向かった。
レオンを連れ出し、宮廷の秘密の通路を使って城外に出た。外では、馬車が待っていた。
「急げ、すぐに追手が来る」
全員が馬車に乗り込み、城下町を抜けた。案の定、後ろから追手の騎士たちが追ってきた。
「もっと速く」
御者が馬に鞭を入れる。馬車は猛スピードで森の中の道を駆け抜けた。
追手との距離が縮まる。矢が飛んできて、馬車の側面に刺さった。
「危ない」
ガレスが剣を抜き、馬車の後ろから迎撃する。追手の一人を馬から落とした。
森の奥深くに入ると、追手の声が遠ざかった。
「何とか撒けたようだ」
一同は安堵のため息をついた。
数時間後、隠れ家に到着した。森の中の古い砦だった。
「ここが拠点です」
ダリウスが説明した。
「既に百名ほどの支持者が集まっています」
砦の中には、確かに多くの騎士や貴族がいた。彼らはレオンを見ると、跪いた。
「殿下、お待ちしておりました」
「みんな、ありがとう」
レオンは一人一人に声をかけた。
その夜、作戦会議が開かれた。レオンを王位に就けるための計画が練られた。
リディアも参加し、負傷者の治療体制について提案した。
「戦いになれば、必ず負傷者が出ます。私は野戦病院を作ります」
「リディア様が手伝ってくださるなら、心強い」
一人の騎士が言った。
こうして、リディアは反乱軍の一員となった。愛する人のため、そして正義のために戦う決意を固めた。
その夜、レオンとリディアは二人きりで星空を見上げた。
「リディア、危険に巻き込んでしまってすまない」
「謝らないで。私が選んだことよ」
「君は本当に強い。そして優しい」
レオンは彼女の手を握った。
「この戦いが終わったら...君と結婚したい」
リディアは涙を浮かべながら微笑んだ。
「私もよ、レオン。必ず一緒に未来を迎えましょう」
二人は抱き合った。明日からは厳しい戦いが始まる。しかし、互いがいれば乗り越えられる。
そう信じて、二人は新しい朝を待った。
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