婚約破棄された私が辺境で薬師になったら、元婚約者が後悔し始めました

たくわん

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反乱軍の拠点での生活が始まった。リディアは砦の一角に野戦病院を設置し、治療の準備を整えた。

 持参した薬草と医療器具を並べ、簡易的な手術台も作った。レオンの支持者の中には、医師や薬師もいたが、リディアの知識と技術は群を抜いていた。

「リディア様、この薬草の使い方を教えていただけますか」

 若い軍医が尋ねてきた。

「これは止血効果がある薬草よ。粉末にして傷口に直接かけると、出血が止まる」

「なるほど。戦場では貴重ですね」

 リディアは軍医たちに、戦場医療の基礎を教えた。素早い処置、優先順位の付け方、限られた資源での対応。

 一週間後、最初の小競り合いがあった。レオン派の騎士たちが、第一王子派の補給隊を襲撃したのだ。

 戦闘は短時間で終わったが、味方にも負傷者が出た。五名の騎士が剣傷や矢傷を負って戻ってきた。

「すぐに手当てを」

 リディアは冷静に指示を出した。最も重傷の騎士から処置を始める。

 深い剣傷から血が流れていた。リディアは傷口を洗浄し、止血薬を塗り、丁寧に縫合した。

「大丈夫、すぐに治るわ」

 騎士は苦しそうだったが、リディアの落ち着いた態度に安心したようだった。

 他の負傷者も次々と処置した。夜遅くまで作業が続いたが、全員を無事に治療できた。

「リディア様、ありがとうございました」

 騎士たちは深く感謝した。

「当然のことをしただけよ。これからも気をつけてね」

 この日を境に、リディアは兵士たちから深く信頼されるようになった。「天使の薬師」と呼ばれ、彼女がいるだけで士気が上がった。

 ある夜、レオンがリディアを呼び出した。

「リディア、相談がある」

「何?」

「明日、大きな作戦を実行する。王都の南門を制圧し、民衆に蜂起を呼びかけるんだ」

「危険な作戦ね」

「ああ。だから、君にはここに残っていてほしい」

 リディアは首を横に振った。

「いいえ、私も行くわ。戦場で負傷者が出たら、すぐに治療が必要よ」

「しかし...」

「レオン、私はあなたの足手まといにはならない。医療者として、できることをする」

 レオンは彼女の決意を見て、頷いた。

「分かった。でも、絶対に無理はしないでくれ」

 翌日、作戦が開始された。レオン派の騎士百名が南門に向かった。リディアも医療班を率いて同行した。

 南門の戦闘は激しかった。第一王子派の兵士たちが必死に抵抗する。剣と剣がぶつかり合う音、悲鳴、怒号。

 リディアは後方で待機し、負傷者が運ばれてくるのを待った。

 最初の負傷者が来た。矢が肩に刺さっている。

「すぐに抜くわ。我慢して」

 矢を素早く抜き、止血し、薬を塗る。包帯を巻いて、次の負傷者へ。

 次々と負傷者が運ばれてきた。リディアは休む暇もなく治療を続けた。

 三時間後、ようやく戦闘が終わった。南門は制圧された。

 レオンが無事に戻ってきた時、リディアは安堵のあまり涙が出た。

「無事で良かった」

「君のおかげで、負傷者の死者はゼロだ。みんな助かった」

 南門を制圧したことで、民衆が動き始めた。レオンを支持する市民たちが立ち上がり、第一王子派の兵士を追い出し始めた。

「レオンハルト様万歳」

「暴君を倒せ」

 民衆の蜂起は瞬く間に広がった。王都の半分が、レオン派の支配下に入った。

 しかし、第一王子も反撃してきた。精鋭部隊を投入し、激しい市街戦が始まった。

 戦いは一週間続いた。リディアは毎日、数十人の負傷者を治療した。疲労は限界に達していたが、諦めなかった。

 ある日、重症の少年兵が運ばれてきた。腹部に深い傷を負っており、内臓が損傷している可能性があった。

「これは...厳しいわ」

 リディアは必死で治療した。傷口を開き、内臓を確認する。幸い、致命的な損傷はなかった。

 丁寧に縫合し、感染を防ぐ薬を投与する。一晩中、少年のそばで看病した。

 翌朝、少年が目を覚ました。

「僕...助かったんですか」

「ええ。もう大丈夫よ」

 少年は涙を流した。

「ありがとうございます。母に会えます」

「ゆっくり休んでね」

 この少年の母親が後日、リディアを訪ねてきた。

「息子を助けてくださり、ありがとうございます」

 母親は泣きながら何度も頭を下げた。

「これが全財産ですが、お礼に」

 差し出されたのは、わずかな銅貨だった。

「いりません」

 リディアは優しく言った。

「息子さんが元気になったこと、それが最高の報酬です」

 母親は声を上げて泣いた。

 こうした出来事が、リディアの心を強くした。自分は正しいことをしている。人々を救うために戦っている。

 戦局は徐々にレオン派に有利になっていった。民衆の支持を得たことが大きかった。

 そして、決戦の日が来た。

 第一王子が、王宮に立てこもった。レオン派はついに王宮を包囲した。

「兄上、無駄な抵抗はやめてください」

 レオンが呼びかけた。

「民の血をこれ以上流すべきではない」

「黙れ、レオンハルト」

 第一王子が城壁から叫んだ。

「私は王になる。お前など認めない」

「兄上は王になる資格がない。暴力で民を支配することしか考えていない」

「なら、力で示すしかないな」

 王宮の門が開き、第一王子派の最後の精鋭が出てきた。

 激しい戦闘が始まった。レオン自身も剣を取り、前線に立った。

 リディアは後方で祈るような気持ちで見守った。

 戦いは一時間続いた。そして、ついに第一王子派が降伏した。

 第一王子は捕らえられ、レオンの前に連れてこられた。

「兄上、降伏してください」

「...負けたか」

 第一王子は悔しそうに唇を噛んだ。

「好きにしろ。殺すなり、追放するなり」

「兄上を殺しはしません」

 レオンは静かに言った。

「ただし、王位継承権は放棄していただきます。そして、修道院で余生を過ごしてください」

「...分かった」

 こうして、内戦は終結した。

 王都中が歓喜に包まれた。民衆は通りに出て、レオンの名を叫んだ。

「レオンハルト様万歳」

「新しい王万歳」

 数日後、レオンの戴冠式が行われた。彼は正式にヴェルディア王国の王となった。

 戴冠式の後、レオンはリディアを呼んだ。

「リディア、君のおかげで勝てた。君がいなければ、多くの兵士が死んでいた」

「私は医療者として、当然のことをしただけよ」

「いや、君は命の恩人だ。兵士たちみんなの」

 レオンは跪いた。

「リディア・フォルテ。僕と結婚してほしい。王妃として、僕の隣にいてほしい」

 リディアは涙を流しながら頷いた。

「はい。喜んで」

 二人は抱き合った。長い戦いが終わり、ようやく平和が訪れた。

 そして、新しい人生が始まろうとしていた。

 しかし、リディアの心には一つの不安があった。

 ローゼンタールはどうなっているだろう。村の人々、分校の学生たち、そして待っている患者たち。

「レオン、私...」

「分かっている」

 レオンは微笑んだ。

「君には故郷がある。帰りたいんだろう?」

「ごめんなさい。でも...」

「謝らなくていい。僕も一緒に行こう。君の村を見てみたい」

 リディアは驚いた。

「でも、あなたは王に...」

「王だからこそ、国を知らなければならない。辺境の村も、王国の一部だ」

 リディアは感謝の気持ちでいっぱいになった。

「ありがとう、レオン」

「これから、僕たちは一緒だ。どこへ行くのも、一緒」

 二人は手を取り合った。新しい未来に向かって、共に歩み始める準備ができた。
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