婚約破棄された私が辺境で薬師になったら、元婚約者が後悔し始めました

たくわん

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レオンの戴冠から一週間後、リディアとレオンはローゼンタールに向かった。ガレスと数名の護衛騎士が同行したが、大げさな行列ではなく、質素な旅だった。

「レオン、王がこんな簡素な旅をしていいの?」

「構わない。僕は民衆と共にある王でありたい。豪華な行列で威圧するより、直接話したい」

 道中、レオンは各地の村々を訪れた。民衆と話し、彼らの生活を知ろうとした。リディアはその姿を見て、改めて彼を愛していると実感した。

「あなたは本当に良い王になるわ」

「君がいるから、良い王になれる」

 五日後、ローゼンタールに到着した。村人たちはリディアの帰還に歓喜した。

「領主様、お帰りなさい」

「無事で良かった」

 子供たちが花束を持って駆け寄ってくる。リディアは一人一人を抱きしめた。

「ただいま。みんなに会いたかった」

 マルタとエマが涙を流しながら出迎えた。

「お嬢様、本当に心配しました」

「ごめんね。でも、全て無事に終わったわ」

 リディアはレオンを紹介した。

「みんな、彼がレオンハルト。ヴェルディア王国の王で、そして...私の婚約者よ」

 村人たちは驚きの声を上げた。そして、盛大な拍手が起こった。

「おめでとうございます、領主様」

 村長のハンスが前に出た。

「王様、わしらの領主様をよろしくお願いします」

「こちらこそ。リディアからいつも村のことを聞いています。素晴らしい人々だと」

 レオンは村を見て回った。薬草園、工房、診療所、そして分校。リディアが築き上げたものを見て、感動した。

「リディア、君は本当にすごい。こんなに素晴らしいコミュニティを作ったんだ」

「みんなの協力があったから」

 その夜、村では祝宴が開かれた。質素だが心のこもった料理が並び、音楽が流れた。

 レオンは村人たちと気さくに話した。彼の謙虚な態度に、村人たちはすぐに心を開いた。

「王様は想像と違いますな」

 ハンスが言った。

「もっと威厳があって、近寄りがたい方かと思っていました」

「僕は普通の人間です。ただ、王という役割を担っているだけ」

「領主様は良い方を選ばれました」

 祝宴の後、リディアはレオンと二人で丘に登った。星空の下、二人は並んで座った。

「この景色、好きなの」

 リディアが言った。

「辺境に来て最初の夜、ここで誓ったのよ。必ず成功して、自分の価値を証明するって」

「そして、君は成功した」

「ええ。でも、成功の定義が変わった」

 リディアはレオンを見た。

「最初は、かつて自分を見捨てた人たちに見返すことが目標だった。でも、今は違う。大切な人たちと一緒にいること、人を救うこと、それが本当の成功だと分かった」

「僕も同じだ」

 レオンは彼女の手を取った。

「王になることが目標だったわけじゃない。人々を幸せにすること、そして君と一緒にいること。それが僕の望みだ」

 二人は口づけを交わした。星が静かに輝いている。

 翌日、意外な訪問者があった。

 リディアの父、エドワード・フォルテ侯爵と、なんとアーサー・ランベール侯爵だった。

「父上...それに、アーサー様」

「リディア、話を聞いた」

 父が言った。

「お前がヴェルディア王国の内戦に参加し、新王の婚約者になったと」

「はい」

「それを確かめに来た。そして、正式に謝罪したくて」

 父は深々と頭を下げた。

「お前を追放したこと、二度も間違っていた。お前は私が思っていた以上に、立派な人間だった」

「父上...」

「もう、お前に何も言う資格はない。ただ、幸せになってくれ。それだけが願いだ」

 リディアは父を抱きしめた。

「ありがとう、父上。私は幸せです」

 次に、アーサーが前に出た。彼は以前より憔悴して見えた。

「リディア、僕も謝りに来た」

「アーサー様...」

「君を見捨てたことは、人生最大の過ちだった。でも、もう取り返しはつかない。ただ、君の幸せを心から願っている」

「ありがとうございます。でも、もう過去のことです」

 リディアは微笑んだ。

「私は前を向いています。アーサー様も、シャーロット様と幸せになってください」

「ああ...そうする」

 アーサーは悲しそうに微笑んだ。

「さようなら、リディア。君は本当に素晴らしい人だ」

 二人が去った後、レオンが言った。

「大丈夫?」

「ええ、完璧に」

 リディアは晴れやかな表情だった。

「これで全てに決着がついた。過去は完全に終わり。これからは、あなたとの未来だけを見る」

 数日後、リディアは王都から緊急の手紙を受け取った。国際医学会議の主催者からだった。

「リディア様、会議は延期されましたが、来月再開されます。是非とも基調講演をお願いします」

 リディアは悩んだ。会議に出れば、また村を離れなければならない。

「行くべきだ」

 レオンが言った。

「君の知識を世界と共有することは、多くの人を救うことになる」

「でも...」

「僕も一緒に行く。そして、世界に宣言する。リディア・フォルテは僕の婚約者であり、未来の王妃だと」

 リディアは決心した。

「分かった。行きましょう。でも、その前に」

「何?」

「結婚式を先にしたいの。正式にあなたの妻になってから、世界に出たい」

 レオンは嬉しそうに微笑んだ。

「それは素晴らしい案だ。いつにする?」

「来週。ここで、シンプルな式を」

「完璧だ」

 一週間後、ローゼンタールで結婚式が行われた。豪華ではなく、質素だが心のこもった式だった。

 村人全員が参列し、分校の学生たちが音楽を演奏した。セリーナとフェリックスも駆けつけてくれた。

 リディアはシンプルな白いドレスを着た。マルタが涙を流しながら髪を整えてくれた。

「お嬢様、本当にお美しい」

「ありがとう、マルタ。あなたがいなければ、ここまで来られなかった」

 式が始まった。村の広場に、簡素な祭壇が設けられた。

 レオンは礼服を着て、リディアを待っていた。彼女が現れると、彼の目に涙が浮かんだ。

「美しい」

 二人は祭壇の前に立った。村長のハンスが司式を務めた。

「リディア・フォルテ。あなたはレオンハルトを夫とし、生涯愛し続けることを誓いますか」

「誓います」

「レオンハルト。あなたはリディア・フォルテを妻とし、生涯愛し続けることを誓いますか」

「誓います」

「では、お二人の結婚を宣言します。口づけを」

 レオンとリディアは口づけを交わした。村人たちから歓声と拍手が起こった。

 祝宴は夜遅くまで続いた。リディアは幸せで満たされていた。

「ついにここまで来たのね」

 丘の上で、リディアは一人呟いた。レオンは隣で彼女を抱きしめている。

「婚約破棄されて追放された時、こんな日が来るとは思わなかった」

「でも、来た。君が諦めなかったから」

「そうね。諦めなかったから」

 リディアは星空を見上げた。

「かつて病弱で役立たずと言われた私が、今は王妃。そして、世界的な薬学者」

「君は素晴らしい」

「ありがとう、レオン」

 リディアは微笑んだ。

「大切なのは、今の幸せ。あなたと一緒にいること」

「僕もだ」

 二人は再び口づけを交わした。

 翌朝、リディアとレオンは国際医学会議に向けて出発した。村人たちが見送ってくれた。

「領主様、頑張ってください」

「世界中の人を驚かせてきてください」

「必ず戻ってくるわ。ここが私の故郷だから」

 馬車が動き出す。ローゼンタールが遠ざかっていく。

 リディアは窓から手を振り続けた。この村が、全ての始まりだった。そして、これからも自分の心の故郷であり続ける。

「レオン、準備はいい?」

「もちろん」

「では、世界に見せましょう。私たちの愛と、医学の力を」

 馬車は王都へ、そして世界へと向かっていった。

 新しい冒険が、今始まろうとしていた。
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