婚約破棄された私が辺境で薬師になったら、元婚約者が後悔し始めました

たくわん

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国際医学会議が開催される王都に到着した時、街は各国からの参加者で賑わっていた。様々な言語が飛び交い、異国の服装をした学者たちが行き交っている。

「すごい人ね」

 リディアは驚いた。

「世界中から、医学に携わる人々が集まっているんだ」

 レオンが説明した。

「この会議は十年に一度。医学の最新成果を共有し、国際協力を促進する重要な場だ」

 会議場は壮麗な建物だった。大理石の柱、高い天井、広大なホール。既に数百人の参加者が集まっている。

 リディアとレオンが入場すると、ざわめきが起こった。

「あれがリディア・フォルテか」

「ヴェルディア王国の新王と結婚したという」

「若いのに、あれほどの実績とは」

 マリアンヌ公爵夫人が出迎えてくれた。

「リディア様、お待ちしておりました。それに、陛下もようこそ」

「準備は整っていますか?」

「完璧です。明日の午後、あなた様の基調講演です」

 その夜、リディアは講演の最終確認をした。資料を見直し、話す内容を整理する。

「緊張する?」

 レオンが尋ねた。

「少しだけ。でも、ワクワクもしている」

「君なら大丈夫だ。世界中の学者を魅了するだろう」

 翌日、基調講演の時間が来た。大ホールは満席で、立ち見の参加者もいる。

 リディアが演壇に立つと、会場が静まり返った。

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。私はリディア・フォルテと申します」

 リディアは深呼吸をして、講演を始めた。

「本日のテーマは『伝統と革新の融合—実践的医療の未来』です」

 リディアは自分の経験を語り始めた。辺境での診療、薬草の研究、魔法薬学との融合。具体的な症例を示しながら、理論を説明した。

「医学は、患者を救うためにあります。どんなに高度な理論も、実際に人を治せなければ意味がありません」

 聴衆は真剣に聞き入っていた。リディアの話は理論的でありながら、実践的で、何より情熱が伝わってきた。

「私は辺境の小さな村で、限られた資源の中で医療を行ってきました。そこで学んだことは、創意工夫の大切さです」

 リディアは具体的な技術を紹介した。薬草の効率的な抽出法、低コストでの薬の製造、魔法と薬学の組み合わせ。

「これらの技術は、富める者だけでなく、貧しい人々も恩恵を受けられるものです。医療は特権ではなく、全ての人の権利です」

 会場から拍手が起こった。

 講演は二時間続いた。最後に、リディアは力強く締めくくった。

「私たちは国や身分を超えて、協力しなければなりません。知識を独占するのではなく、共有する。そうすることで、世界中の人々を救えるのです」

 講演が終わると、会場全体が立ち上がり、盛大な拍手を送った。

 質疑応答の時間になると、次々と手が上がった。

「あなたの魔法薬学について、もっと詳しく教えてください」

「薬草の栽培技術を学びたいのですが、どこで学べますか」

「あなたの分校で学ぶことは可能ですか」

 リディアは一つ一つの質問に丁寧に答えた。

 講演後、多くの学者がリディアに話しかけてきた。名刺を交換し、共同研究の申し出もあった。

「リディア様、素晴らしい講演でした」

 ある老学者が言った。

「私は五十年医学に携わっていますが、あなたほど実践と理論を両立させている人を見たことがありません」

「ありがとうございます」

「どうか、この知識を書物にしてください。後世に残すべきです」

 その夜、祝賀晩餐会が開かれた。各国の王族や貴族、著名な学者たちが集まった。

 リディアとレオンは主賓席に案内された。

「リディア王妃」

 隣国の王子が話しかけてきた。

「あなたの講演に感銘を受けました。我が国にも是非来ていただきたい」

「光栄です」

 次々と招待や協力の申し出があった。リディアの名声は、一夜にして世界規模になった。

 晩餐会の途中、意外な人物が現れた。

 リディアの兄、フォルテ侯爵家の現当主だった。

「リディア、久しぶりだな」

「兄上...」

 幼い頃から、兄はリディアに冷たかった。病弱な妹を、家の恥だと思っていた。

「世界的に有名になったそうだな」

「はい」

「父から聞いた。お前が王妃になったと」

 兄は複雑な表情を浮かべた。

「正直に言う。お前のことを見下していた。病弱で、何もできないと思っていた」

「...」

「だが、間違っていた。お前は誰よりも優秀だった。家を継ぐべきだったのは、お前だったのかもしれない」

 リディアは首を横に振った。

「いいえ、兄上。私は今の人生に満足しています。家を継ぐより、医学の道を選んで良かった」

「そうか...」

 兄は寂しそうに微笑んだ。

「お前は強いな。家族に認められなくても、自分の道を進んできた」

「兄上も、自分の道を歩んでください」

 二人は握手を交わした。長年のわだかまりが、ついに解けた瞬間だった。

 晩餐会が終わり、リディアとレオンは宿に戻った。

「疲れた?」

「ええ、でも充実感でいっぱい」

 リディアは窓から夜空を見上げた。

「今日、世界中の人々に自分の研究を伝えられた。そして、多くの協力者を得た」

「君は本当にすごい」

 レオンは彼女を後ろから抱きしめた。

「たった一年前、君は追放された令嬢だった。それが今や、世界的な薬学者で、王妃だ」

「信じられないわね」

「でも、これは君が努力して掴んだものだ。誰かから与えられたわけじゃない」

「あなたがいたから、ここまで来られた」

 リディアは振り返り、レオンに口づけした。

「これからも、一緒に歩みましょう」

「もちろんだ」

 翌日、会議の最終日、サプライズがあった。

 国際医学協会が、リディアに特別賞を授与すると発表したのだ。

「リディア・フォルテ王妃。その卓越した研究と、医療への貢献を讃え、国際医学功労賞を授与します」

 会場全体が拍手に包まれた。リディアは壇上に上がり、賞を受け取った。

「ありがとうございます。この栄誉は、私一人のものではありません。私を支えてくれた全ての人々、そして共に研究してくれた仲間たちのものです」

 リディアは会場を見渡した。

「私は証明したかった。出自や身分ではなく、努力と情熱で人は成功できると。病弱だった私が、ここに立っている。これが何よりの証明です」

 聴衆は再び立ち上がり、拍手を送った。

 会議が終わり、リディアとレオンはローゼンタールに戻る準備をしていた。

「次は何をする?」

 レオンが尋ねた。

「分校を拡大したい。世界中から学生を受け入れて、国際的な医学教育の場にしたいの」

「素晴らしい案だ。僕も全力で支援する」

「それから」

 リディアは微笑んだ。

「子供が欲しいわ。あなたとの」

 レオンは驚いた表情を見せた後、嬉しそうに彼女を抱きしめた。

「それは...最高の知らせだ」

「まだ確定じゃないけど、そろそろ考える時期かなって」

「リディア、君は完璧だ。医学者としても、妻としても」

「あなたもよ。王としても、夫としても」

 二人は笑い合った。

 帰路の馬車の中で、リディアは日記に書いた。

「今日、私は世界的な賞を受けた。かつて病弱で役立たずと言われた私が。これ以上の栄誉はないだろう。でも、もう復讐は必要ない。私は幸せだ。愛する人と一緒にいて、やりたいことをやっている。これが本当の勝利だ」

 リディアは日記を閉じ、レオンの肩に頭を預けた。

「ねえ、レオン」

「何?」

「幸せって、こういうことなのね」

「ああ、そうだ」

 馬車は故郷へと向かって進んでいく。リディアの心は、平穏と希望で満たされていた。

 長い旅が終わり、新しい人生が始まる。

 それは、愛と成功と、そして満たされた日々の物語。
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