妹なんだから助けて? お断りします

たくわん

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三年の月日が流れた。

エリックは三歳になり、活発な少年に成長していた。金色の髪と青い瞳、そして母親譲りの優しい心を持っている。

「お母様、見て! 蝶々!」

エリックは庭園を走り回っていた。

「危ないわ、ゆっくり走りなさい」

エリーゼは優しく注意した。

彼女の腕には、もう一人の命が抱かれていた。生後六ヶ月の娘、アリエルだ。

「お姉ちゃん、可愛いでしょう」

エリックが覗き込んだ。

「優しくしてね」

「うん!」

エリーゼは幸せを感じていた。愛する夫、可愛い二人の子供、温かい家族。これ以上、何を望むことがあるだろう。

「エリーゼ」

アレクシスが庭園に出てきた。

「少し、話がある」

「何かしら」

「父上が、引退を考えているそうだ」

「国王陛下が?」

「ああ。そして、僕に王位を譲りたいと」

エリーゼは驚いた。

「それは……いつ?」

「来年の春」

アレクシスは真剣な顔で言った。

「君は、王妃から女王になる」

「女王……」

エリーゼは少し不安を感じた。

「私に、務まるでしょうか」

「もちろんだ」

アレクシスはエリーゼの手を取った。

「君ほど、この国を愛し、民を愛する人はいない」

「でも……」

「大丈夫。僕が側にいる」

その言葉に、エリーゼは微笑んだ。

「そうね。あなたがいれば、何でもできるわ」

数ヶ月後、エリーゼは孤児院を訪れた。

「王妃様!」

子供たちが駆け寄ってきた。

「こんにちは、皆」

エリーゼは一人一人に声をかけた。

「勉強は頑張っている?」

「はい!」

「それは偉いわ」

クラリッサが近づいてきた。

「エリーゼ」

「クラリッサ。元気そうね」

「ええ。子供たちのおかげよ」

クラリッサは穏やかな表情をしていた。

「あなたが、この場所を作ってくれたおかげで、私は生きる意味を見つけられた」

「いいえ、あなた自身の力よ」

二人は微笑み合った。

「ねえ、エリーゼ」

「何?」

「ありがとう」

クラリッサは真摯に言った。

「私に、やり直す機会をくれて」

「どういたしまして」

エリーゼはクラリッサの手を握った。

「これからも、一緒に子供たちを守りましょう」

「ええ」

その日の夜、エリーゼは一通の手紙を受け取った。

差出人は、父だった。

『エリーゼへ

突然の手紙を許してほしい。
私は、間もなくこの世を去るだろう。
医師からも、そう告げられている。

最期に、どうしても伝えたいことがあった。

お前に、酷いことをした。
継母に騙され、お前の苦しみを見ようともしなかった。
父親として、最低だった。

許してくれとは言わない。
ただ、知ってほしい。

お前が王妃となり、立派に生きている姿を見て、
私は救われた。

お前は、私が誇りに思う娘だ。

最期に、それだけを伝えたかった。

父より』

エリーゼの目に涙が浮かんだ。

「お父様……」

複雑な感情が渦巻いた。怒り、悲しみ、そして……哀れみ。

「アレクシス」

「どうした?」

エリーゼは手紙を見せた。

「父が……」

アレクシスは手紙を読み、エリーゼを抱きしめた。

「会いに行くか?」

「……はい」

翌日、エリーゼは父の元を訪れた。

父は小さな家で、一人で暮らしていた。病床に横たわり、痩せ細っていた。

「エリーゼ……来てくれたのか」

「はい、父上」

エリーゼは父の側に座った。

「手紙、読みました」

「そうか……」

父は涙を流した。

「お前に、会えて嬉しい」

「父上」

「エリック王子と、アリエル王女の写真を見た」

父は枕元の写真を見つめた。

「可愛い子供たちだ。お前は、立派な母親になったな」

「ありがとうございます」

「私のようには、ならなかったな」

父は自嘲的に笑った。

「お前は、子供を大切にしている」

「はい」

「それでいい……それでいいんだ」

父は目を閉じた。

「エリーゼ、許してくれとは言わない」

「父上……」

「ただ、知ってほしい。お前を愛していた」

父の声が震えた。

「不器用で、表現できなかったが……愛していた」

エリーゼは父の手を取った。

「父上。私は、もう恨んでいません」

「エリーゼ……」

「あなたも、継母の犠牲者だったのだと、今は理解できます」

「ありがとう……」

父は安堵の表情を浮かべた。

「お前は、優しい子だ。本当に……」

「安らかに眠ってください」

エリーゼは優しく言った。

「そして、天国で母に会ったら、伝えてください」

「何を……」

「娘は、幸せに生きていると」

父は涙を流しながら、頷いた。

「ああ……必ず伝える」

数日後、父は息を引き取った。

エリーゼは涙を流したが、それは悲しみだけの涙ではなかった。

解放の涙でもあった。

過去との、本当の決別。

葬儀を終え、エリーゼは王宮に戻った。

「お帰りなさい」

アレクシスが出迎えた。

「ただいま」

「大丈夫か」

「ええ」

エリーゼは微笑んだ。

「もう、大丈夫よ」

その夜、家族四人で夕食を取った。

エリックは元気に食事をし、アリエルは母の腕で眠っている。

「幸せね」

エリーゼは小さく呟いた。

「ん?」

「こんなに幸せでいいのかしら、と思って」

「当然だ」

アレクシスは笑った。

「君は、この幸せを掴む権利がある」

「そうね」

エリーゼは家族を見渡した。

「あの苦しみがあったから、今の幸せがあるのね」

「その通りだ」

食事の後、エリーゼはバルコニーに出た。

眼下には、王都の街が広がっている。民衆の家々から、温かい光が漏れている。

「みんな、幸せに暮らしているかしら」

「ああ」

アレクシスが隣に立った。

「君のおかげで、この国は豊かになった」

「私だけの力ではありません」

「いや、君の力だ」

アレクシスはエリーゼを抱きしめた。

「君の優しさが、民を救った」

「ありがとう」

二人は、静かに星空を見上げた。

「お母様」

エリーゼは小さく呟いた。

「見ていてくださいね」

「私、幸せです」

「あなたが教えてくれたこと、全て無駄ではありませんでした」

風が優しく吹いた。

まるで、母が答えてくれているかのように。

「これからも、この幸せを守っていきます」

「子供たちを、愛情いっぱいに育てます」

「そして、民のために尽くします」

エリーゼは母のペンダントを握りしめた。

「約束します」

アレクシスが後ろから抱きしめた。

「愛しているよ、エリーゼ」

「私も愛しています」

二人は口づけを交わした。

遠くで、エリックの笑い声が聞こえた。

「お父様、お母様、見て!」

振り向くと、エリックが部屋から手を振っていた。

「もう寝る時間よ」

「はーい」

幸せな家族の姿。

これが、エリーゼが掴んだ未来だった。

虐げられた日々を乗り越え、愛する人と出会い、家族を作り、国を支える。

全ては、諦めなかったから。

希望を捨てなかったから。

「ねえ、アレクシス」

「ん?」

「私、本当に幸せよ」

「僕もだ」

「これからも、ずっと一緒にいてね」

「もちろんだ」

アレクシスは優しく微笑んだ。

「永遠に」

夜空の星が、祝福するように瞬いていた。

エリーゼの物語は、ここに完結する。

だが、彼女の人生は、まだ続いていく。

愛する家族と共に。

幸せな未来へと。

そして、彼女の優しさは、次の世代へと受け継がれていくのだった。

エリックとアリエルが、いつか立派な王と王女になる日まで。

エリーゼは、その日を楽しみに、今日も生きていく。

幸せに満ちた、毎日を。

(完)
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