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エリックが生まれて半年が過ぎた。
小さな王子は、すくすくと育っていた。青い目はアレクシスに似て、顔立ちはエリーゼに似ていた。
「お父様、遊んで」
まだ言葉は話せないが、エリックは手を伸ばしてアレクシスを呼んだ。
「よしよし、お父さんはここにいるぞ」
アレクシスは息子を抱き上げた。
「もう、甘やかしすぎですよ」
エリーゼが笑いながら言った。
「いいじゃないか。息子は可愛いんだ」
幸せな日々だった。
だが、ある日、その平和が破られた。
「王妃様、マルグリット・フォン・アルトハイムが面会を求めております」
侍女が告げた。
エリーゼは驚いた。継母が来るとは。
「会わないという選択もあります」
アレクシスが言った。
「いえ、会いましょう」
エリーゼは答えた。
「何の用か、聞いてみたいわ」
応接室に通されると、そこには別人のようになった継母がいた。
やつれ果て、髪は白髪混じり、服は汚れている。かつての美貌は完全に失われていた。
「エリーゼ様……いえ、王妃陛下」
継母は震える声で言った。
「お久しぶりです」
エリーゼは冷静に答えた。
「何のご用でしょうか」
「お願いがあって参りました」
継母は床に膝をついた。
「どうか、助けてください」
「助ける……ですか」
「はい。家は完全に破産しました。夫……あなたのお父様も、先月亡くなりました」
「父上が……」
エリーゼは少し驚いた。
「葬儀にもお呼びせず、申し訳ございません。でも、立派な葬儀を出す余裕もなく……」
継母は涙を流した。
「今、私は何も持っていません。住む場所も、食べるものもありません」
「それで、私に助けを求めに来たのですか」
「はい」
継母は頭を下げた。
「どうか、慈悲を。血縁なのですから」
「血縁……」
エリーゼは冷たく笑った。
「あなたは、私と血が繋がっていません」
「でも、家族として……」
「家族?」
エリーゼの声が厳しくなった。
「あなたが私を家族として扱ったことが、一度でもありますか」
継母は言葉を失った。
「使用人のように働かせ、母の遺産を奪い、虐げた」
「それは……」
「舞踏会にも出させず、粗末な部屋に押し込めた」
エリーゼは一つ一つ数え上げた。
「そして、今になって助けてくれと?」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
継母は床に額をこすりつけた。
「私が悪かった! 全て私が悪かった!」
「ようやく認めるのですね」
「はい! 認めます!」
継母は必死に叫んだ。
「私は、愚かでした。あなたの優しさに気づかず、あなたを虐げた」
「そして、今その報いを受けている」
「はい……はい……」
継母は泣き崩れた。
「でも、お願いです。このままでは、私は死んでしまいます」
エリーゼは長い沈黙の後、口を開いた。
「マルグリット様」
「はい」
「あなたが私にしたことを、神は見ていました」
「分かっています……」
「私は恨んではいません」
エリーゼは静かに言った。
「ただ、関わりたくないだけです」
「そんな……」
「あなたには、最低限の援助をします」
継母の顔が明るくなった。
「本当ですか!」
「ただし」
エリーゼは冷たく続けた。
「修道院に入ってください。そこで、残りの人生を神に仕えて過ごすのです」
「修道院……」
「そこでなら、住む場所も食事も保証されます」
「でも……」
「これが、私の最後の慈悲です」
エリーゼは立ち上がった。
「受け入れるか、拒否するか。それはあなた次第です」
継母は震えながら答えた。
「受け入れます……」
「では、手配をします」
エリーゼは侍女に指示を出した。
「マルグリット様を、北部の修道院に送ってください」
「かしこまりました」
継母が連れて行かれる前、最後に言った。
「エリーゼ様……本当に、ごめんなさい」
「もう、いいのです」
エリーゼは振り向かなかった。
「二度と、お会いすることはないでしょう」
継母は泣きながら、連れて行かれた。
一人になると、エリーゼは深いため息をついた。
「これで、本当に終わったのね」
アレクシスが部屋に入ってきた。
「辛かったか」
「いいえ」
エリーゼは首を横に振った。
「もう、何も感じません」
「それでいい」
アレクシスはエリーゼを抱きしめた。
「過去に囚われる必要はない」
数週間後、修道院から手紙が届いた。
『王妃陛下
マルグリット・フォン・アルトハイムが、昨夜息を引き取りました。
病が原因です。
最期に、あなた様への感謝の言葉を残して逝きました。
修道院長より』
エリーゼは手紙を読み、複雑な表情をした。
「継母が……」
「そうか」
アレクシスも手紙を読んだ。
「どう思う?」
「何も……」
エリーゼは窓の外を見つめた。
「憎しみも、悲しみも、もうありません」
「そうか」
「ただ、一つだけ思うことがあります」
「何だ?」
「因果応報、ということ」
エリーゼは静かに言った。
「人は、自分がしたことの報いを受ける」
「その通りだ」
「継母は、最期に私への感謝の言葉を残したと」
エリーゼは小さく笑った。
「皮肉なものね。散々虐げた相手に、最後は助けられて、感謝して死ぬなんて」
「それが、君の優しさだ」
「優しさ……かしら」
エリーゼは首を横に振った。
「ただ、見殺しにはできなかっただけ」
その夜、エリーゼはエリックを抱きながら、継母のことを考えた。
「あなたは、こんな大人にならないでね」
小さく囁いた。
「他人を傷つけて生きるのではなく、他人を助けて生きる人になってほしい」
エリックは無邪気に笑った。
「そして、因果応報を忘れないで」
「良いことをすれば、良いことが返ってくる」
「悪いことをすれば、悪いことが返ってくる」
エリーゼは息子を抱きしめた。
「お母さんは、あなたにそれを教えるわ」
アレクシスが部屋に入ってきた。
「エリックを寝かせよう」
「ええ」
二人で息子をベッドに寝かせた。
「継母のことは、もう忘れよう」
アレクシスが言った。
「過去は過去だ」
「そうね」
エリーゼは頷いた。
「これから、未来だけを見ましょう」
「ああ」
二人は手を繋いだ。
窓の外では、星が静かに瞬いていた。
継母の死は、エリーゼの過去との最後の繋がりを断ち切った。
もう、振り返ることはない。
前を向いて、愛する家族と共に生きていく。
それが、エリーゼの選んだ道だった。
そして、それは正しい道だった。
幸せな未来へと続く道。
エリーゼは、そう信じていた。
小さな王子は、すくすくと育っていた。青い目はアレクシスに似て、顔立ちはエリーゼに似ていた。
「お父様、遊んで」
まだ言葉は話せないが、エリックは手を伸ばしてアレクシスを呼んだ。
「よしよし、お父さんはここにいるぞ」
アレクシスは息子を抱き上げた。
「もう、甘やかしすぎですよ」
エリーゼが笑いながら言った。
「いいじゃないか。息子は可愛いんだ」
幸せな日々だった。
だが、ある日、その平和が破られた。
「王妃様、マルグリット・フォン・アルトハイムが面会を求めております」
侍女が告げた。
エリーゼは驚いた。継母が来るとは。
「会わないという選択もあります」
アレクシスが言った。
「いえ、会いましょう」
エリーゼは答えた。
「何の用か、聞いてみたいわ」
応接室に通されると、そこには別人のようになった継母がいた。
やつれ果て、髪は白髪混じり、服は汚れている。かつての美貌は完全に失われていた。
「エリーゼ様……いえ、王妃陛下」
継母は震える声で言った。
「お久しぶりです」
エリーゼは冷静に答えた。
「何のご用でしょうか」
「お願いがあって参りました」
継母は床に膝をついた。
「どうか、助けてください」
「助ける……ですか」
「はい。家は完全に破産しました。夫……あなたのお父様も、先月亡くなりました」
「父上が……」
エリーゼは少し驚いた。
「葬儀にもお呼びせず、申し訳ございません。でも、立派な葬儀を出す余裕もなく……」
継母は涙を流した。
「今、私は何も持っていません。住む場所も、食べるものもありません」
「それで、私に助けを求めに来たのですか」
「はい」
継母は頭を下げた。
「どうか、慈悲を。血縁なのですから」
「血縁……」
エリーゼは冷たく笑った。
「あなたは、私と血が繋がっていません」
「でも、家族として……」
「家族?」
エリーゼの声が厳しくなった。
「あなたが私を家族として扱ったことが、一度でもありますか」
継母は言葉を失った。
「使用人のように働かせ、母の遺産を奪い、虐げた」
「それは……」
「舞踏会にも出させず、粗末な部屋に押し込めた」
エリーゼは一つ一つ数え上げた。
「そして、今になって助けてくれと?」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
継母は床に額をこすりつけた。
「私が悪かった! 全て私が悪かった!」
「ようやく認めるのですね」
「はい! 認めます!」
継母は必死に叫んだ。
「私は、愚かでした。あなたの優しさに気づかず、あなたを虐げた」
「そして、今その報いを受けている」
「はい……はい……」
継母は泣き崩れた。
「でも、お願いです。このままでは、私は死んでしまいます」
エリーゼは長い沈黙の後、口を開いた。
「マルグリット様」
「はい」
「あなたが私にしたことを、神は見ていました」
「分かっています……」
「私は恨んではいません」
エリーゼは静かに言った。
「ただ、関わりたくないだけです」
「そんな……」
「あなたには、最低限の援助をします」
継母の顔が明るくなった。
「本当ですか!」
「ただし」
エリーゼは冷たく続けた。
「修道院に入ってください。そこで、残りの人生を神に仕えて過ごすのです」
「修道院……」
「そこでなら、住む場所も食事も保証されます」
「でも……」
「これが、私の最後の慈悲です」
エリーゼは立ち上がった。
「受け入れるか、拒否するか。それはあなた次第です」
継母は震えながら答えた。
「受け入れます……」
「では、手配をします」
エリーゼは侍女に指示を出した。
「マルグリット様を、北部の修道院に送ってください」
「かしこまりました」
継母が連れて行かれる前、最後に言った。
「エリーゼ様……本当に、ごめんなさい」
「もう、いいのです」
エリーゼは振り向かなかった。
「二度と、お会いすることはないでしょう」
継母は泣きながら、連れて行かれた。
一人になると、エリーゼは深いため息をついた。
「これで、本当に終わったのね」
アレクシスが部屋に入ってきた。
「辛かったか」
「いいえ」
エリーゼは首を横に振った。
「もう、何も感じません」
「それでいい」
アレクシスはエリーゼを抱きしめた。
「過去に囚われる必要はない」
数週間後、修道院から手紙が届いた。
『王妃陛下
マルグリット・フォン・アルトハイムが、昨夜息を引き取りました。
病が原因です。
最期に、あなた様への感謝の言葉を残して逝きました。
修道院長より』
エリーゼは手紙を読み、複雑な表情をした。
「継母が……」
「そうか」
アレクシスも手紙を読んだ。
「どう思う?」
「何も……」
エリーゼは窓の外を見つめた。
「憎しみも、悲しみも、もうありません」
「そうか」
「ただ、一つだけ思うことがあります」
「何だ?」
「因果応報、ということ」
エリーゼは静かに言った。
「人は、自分がしたことの報いを受ける」
「その通りだ」
「継母は、最期に私への感謝の言葉を残したと」
エリーゼは小さく笑った。
「皮肉なものね。散々虐げた相手に、最後は助けられて、感謝して死ぬなんて」
「それが、君の優しさだ」
「優しさ……かしら」
エリーゼは首を横に振った。
「ただ、見殺しにはできなかっただけ」
その夜、エリーゼはエリックを抱きながら、継母のことを考えた。
「あなたは、こんな大人にならないでね」
小さく囁いた。
「他人を傷つけて生きるのではなく、他人を助けて生きる人になってほしい」
エリックは無邪気に笑った。
「そして、因果応報を忘れないで」
「良いことをすれば、良いことが返ってくる」
「悪いことをすれば、悪いことが返ってくる」
エリーゼは息子を抱きしめた。
「お母さんは、あなたにそれを教えるわ」
アレクシスが部屋に入ってきた。
「エリックを寝かせよう」
「ええ」
二人で息子をベッドに寝かせた。
「継母のことは、もう忘れよう」
アレクシスが言った。
「過去は過去だ」
「そうね」
エリーゼは頷いた。
「これから、未来だけを見ましょう」
「ああ」
二人は手を繋いだ。
窓の外では、星が静かに瞬いていた。
継母の死は、エリーゼの過去との最後の繋がりを断ち切った。
もう、振り返ることはない。
前を向いて、愛する家族と共に生きていく。
それが、エリーゼの選んだ道だった。
そして、それは正しい道だった。
幸せな未来へと続く道。
エリーゼは、そう信じていた。
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