妹なんだから助けて? お断りします

たくわん

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妊娠九ヶ月目、エリーゼのお腹は驚くほど大きくなっていた。

「もう、歩くのも大変ですね」

ソフィアが心配そうに言った。

「ええ、でも赤ちゃんが元気な証拠よ」

エリーゼは微笑んだ。

医師から、いつ産まれてもおかしくないと告げられていた。

「できるだけ安静にしてください」

「分かりました」

だが、エリーゼは完全に休むことができなかった。王妃としての責任があったからだ。

「せめて、重要な公務だけにしてください」

アレクシスが心配そうに言った。

「分かっているわ。でも、孤児院の件だけは……」

「分かった。それだけは認めよう」

その日の夜、エリーゼは突然お腹の痛みを感じた。

「あっ……」

「どうした?」

アレクシスが駆け寄った。

「お腹が……少し痛い」

「すぐに医師を!」

医師が駆けつけ、エリーゼを診察した。

「まだ、陣痛ではないようです」

「そうですか」

「ですが、いつ始まってもおかしくありません。準備をしておいてください」

その夜から、エリーゼは完全に安静にすることにした。

部屋で横になり、本を読んだり、刺繍をしたり。静かな時間を過ごした。

アレクシスは、できる限り側にいてくれた。

「大丈夫か」

「ええ。でも、早く会いたいわ」

エリーゼはお腹を撫でた。

「もうすぐ会えるよ、君」

アレクシスもお腹に手を当てた。

「お父さんは、楽しみで仕方ないんだ」

赤ちゃんが動いた。

「聞こえているのかしら」

「きっと、聞こえているさ」

二人は微笑み合った。

数日後の深夜、それは突然やってきた。

「あっ……」

エリーゼは激しい痛みで目を覚ました。

「アレクシス……」

「どうした?」

「陣痛……始まったわ」

アレクシスの顔が蒼白になった。

「すぐに医師を! 助産婦も!」

屋敷中が騒然となった。

医師と助産婦が駆けつけ、エリーゼを診察した。

「本格的な陣痛です。いよいよですね」

「どのくらいかかりますか」

「初産ですから、数時間はかかるでしょう」

エリーゼは陣痛の波に耐えた。痛みが来ては去り、また来る。

「大丈夫、あなたならできる」

アレクシスが手を握ってくれた。

「痛い……」

「分かっている。でも、もうすぐ会えるんだ」

時間が経つにつれ、痛みは激しくなった。

「うっ……」

エリーゼは叫びを堪えた。

「叫んでもいいんですよ、王妃様」

助産婦が優しく言った。

「我慢する必要はありません」

だが、エリーゼは歯を食いしばった。母も、こうして自分を産んでくれたのだ。

「お母様……」

小さく呟いた。

「力を貸してください」

夜明け前、ついにその時が来た。

「もうすぐです! 力を入れて!」

医師が叫んだ。

「いきんでください!」

エリーゼは全身の力を振り絞った。

「うっ……ああっ!」

「もう少し! もう少しです!」

最後の力を振り絞って、いきんだ。

その瞬間、赤ちゃんの泣き声が響いた。

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「生まれました! 元気な男の子です!」

助産婦が高らかに宣言した。

「男の子……」

エリーゼは涙を流した。

赤ちゃんは丁寧に洗われ、布に包まれてエリーゼに渡された。

「あなたの息子ですよ」

小さな、小さな命。だが、力強く泣いている。

「ようこそ、この世界へ」

エリーゼは赤ちゃんを胸に抱いた。

アレクシスも涙を流していた。

「エリーゼ……ありがとう」

「アレクシス様、私たちの子供よ」

「ああ……我が息子だ」

アレクシスは優しく赤ちゃんに触れた。

「エリック。名前はエリックだ」

「素敵な名前ね」

赤ちゃんは泣き止み、小さな手でエリーゼの指を握った。

「強い子ね」

「君に似て、強い子だ」

夜が明けると、王宮中に喜びが広がった。

「王子様がお生まれになった!」

「母子共に健康!」

「万歳! 万歳!」

国王と王妃も駆けつけた。

「エリーゼ、よく頑張りましたね」

王妃が涙を流しながら言った。

「孫の顔を見せてください」

エリーゼはエリックを王妃に渡した。

「まあ、なんて可愛い」

「アレクシスにそっくりだ」

国王も嬉しそうに言った。

「立派な王子だ」

ソフィアも大喜びだった。

「可愛い! なんて可愛いの!」

「抱いてもいい?」

「もちろん」

ソフィアは慎重にエリックを抱き上げた。

「エリック王子、叔母さんよ。よろしくね」

街にも知らせが届くと、民衆は歓喜した。

「王子様がお生まれになった!」

「優しい王妃様の子供だ!」

「きっと素晴らしい王になる!」

祝砲が鳴り響き、街中が祝賀ムードに包まれた。

夜、エリーゼは部屋で静かにエリックに授乳していた。

小さな口が、必死におっぱいを吸っている。

「痛いけど、幸せよ」

小さく微笑んだ。

アレクシスが入ってきた。

「授乳中か」

「ええ」

「美しい光景だ」

アレクシスは二人を見つめた。

「こんなに幸せなことがあるだろうか」

「私も同じことを思っていたわ」

授乳が終わると、エリーゼはエリックを優しく揺らした。

「お母様、見ていてくださいね」

母のペンダントを取り出し、エリックに見せた。

「これは、あなたの曾お祖母様の形見よ」

エリックは小さな手を伸ばし、ペンダントに触れた。

「あなたを、愛情いっぱいに育てます」

エリーゼは誓った。

「決して、寂しい思いはさせない」

「虐げることも、悲しませることもしない」

「あなたには、幸せな人生を歩んでほしい」

涙が溢れた。

「そして、いつか立派な王になってほしい」

アレクシスがエリーゼを抱きしめた。

「君は、素晴らしい母親だ」

「まだ、始まったばかりよ」

「いや、もう分かる」

アレクシスは微笑んだ。

「君の愛情が、エリックを立派に育てる」

「一緒に育てましょう」

「もちろんだ」

三人は抱き合った。

窓の外では、星が祝福するように瞬いていた。

新しい命が、この世界に誕生した。

愛に満ちた家族の元に。

エリーゼの苦難の日々は、この幸せのためにあったのだと思えた。

全ての痛みも、全ての涙も、この瞬間のために。

「ありがとう、エリック」

小さく囁いた。

「あなたが、私を本当の母親にしてくれた」

赤ちゃんは穏やかな顔で眠っていた。

小さな胸が、規則正しく上下している。

この命を守ること。

それが、エリーゼの新しい使命だった。

そして、その使命を果たすために、エリーゼはこれからも強く生きていく。

王妃として。

母として。

そして、愛する人の妻として。

幸せな日々は、まだ始まったばかりだった。
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