妹なんだから助けて? お断りします

たくわん

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ロザリンドが去ってから一週間後、再び訪問者があった。

「王妃様、クラリッサ・フォン・アルトハイム様がお越しです」

侍女が告げた。

エリーゼは少し驚いた。クラリッサまで来るとは思っていなかった。

「通してください」

応接室に入ると、クラリッサが立っていた。

ロザリンドとは違い、クラリッサは清潔で質素な服装をしていた。髪は簡素に結われ、化粧もしていない。だが、その表情には穏やかさがあった。

「エリーゼ、会ってくれてありがとう」

「クラリッサ様。お久しぶりです」

二人は座った。

「まず、謝らせてください」

クラリッサは深々と頭を下げた。

「私が、あなたにしたこと。全て、謝罪します」

「顔を上げてください」

「いえ、聞いてください」

クラリッサは頭を下げたまま続けた。

「私は、あなたを虐めました。母や妹と一緒になって、あなたを傷つけました」

「……」

「言い訳はしません。怖かったから、母の機嫌を損ねたくなかったから、そんな理由は全て言い訳です」

クラリッサの声が震えた。

「本当は、あなたを守るべきだった。姉として、あなたの味方になるべきだった」

「クラリッサ様……」

「でも、私は臆病で、弱かった。そして、あなたを一人にした」

クラリッサは顔を上げた。その目には、涙が浮かんでいた。

「本当に、ごめんなさい」

エリーゼは長い沈黙の後、口を開いた。

「謝罪は、受け取ります」

「ありがとう……」

「でも、許すかどうかは、まだ分かりません」

「それは、当然です」

クラリッサは頷いた。

「私は、許されるとは思っていません。ただ、謝りたかった」

「それだけのために、来られたのですか」

「いえ、もう一つ」

クラリッサは真剣な表情で言った。

「あなたが作った孤児院で、働かせてください」

「え?」

「今、私は修道院で奉仕活動をしています」

クラリッサは説明した。

「母や妹と決別し、修道院に入りました。そこで、貧しい人々や孤児たちの世話をしています」

「そうだったのですか」

「あなたが孤児院を作ったと聞きました。そこで、働かせてほしいのです」

「どうして、そこまで」

「贖罪です」

クラリッサははっきりと言った。

「私は、あなたに酷いことをした。その罪を、一生かけて償いたい」

「クラリッサ様……」

「虐げられた子供たちを助けることで、少しでもあなたへの罪を償えるかもしれない」

クラリッサの目は、本気だった。

エリーゼは考えた。

クラリッサは、ロザリンドや継母とは違う。本当に反省し、変わろうとしている。

「分かりました」

「本当ですか!」

「ただし、試用期間を設けます」

エリーゼは条件を出した。

「三ヶ月間、孤児院で働いてもらいます。その間、私も時々様子を見に行きます」

「はい!」

「もし、子供たちに優しく接し、真摯に働いてくれるなら、正式に雇用します」

「ありがとうございます!」

クラリッサは涙を流した。

「必ず、期待に応えます」

数日後、エリーゼは孤児院を訪れた。

「王妃様!」

子供たちが駆け寄ってきた。

「こんにちは、皆」

エリーゼのお腹は、さらに大きくなっていた。

「赤ちゃん、もうすぐ生まれるの?」

「あと一ヶ月くらいよ」

「楽しみ!」

子供たちは嬉しそうに笑った。

施設の責任者が近づいてきた。

「王妃様、新しく来られたクラリッサ様は、とても熱心に働いてくださっています」

「そうですか」

「はい。子供たちにも優しく、掃除や料理も率先してされています」

エリーゼは施設の中を見て回った。

台所では、クラリッサが子供たちと一緒に料理をしていた。

「じゃあ、次は人参を切りましょうね」

「はい!」

子供たちは楽しそうに手伝っている。

「クラリッサ様」

エリーゼが声をかけると、クラリッサは驚いて振り向いた。

「エリーゼ! いえ、王妃様!」

「様子を見に来ました」

「ありがとうございます」

クラリッサは微笑んだ。その笑顔は、以前とは全く違っていた。穏やかで、幸せそうだった。

「子供たちと過ごすのは、楽しいですか」

「はい、とても」

クラリッサは子供たちを見つめた。

「この子たちは、私に生きる意味を教えてくれました」

「生きる意味、ですか」

「ええ。誰かのために尽くすこと。それが、どれほど尊いことか」

クラリッサは真剣に言った。

「以前の私は、自分のことしか考えていませんでした。贅沢をして、他人を見下して」

「……」

「でも、それは空虚でした。本当の幸せではなかった」

クラリッサはエリーゼを見つめた。

「あなたは、それを知っていたのですね」

「私も、苦しみの中で学びました」

エリーゼは微笑んだ。

「与えられる幸せではなく、与える幸せ」

「はい」

二人は並んで、子供たちを見つめた。

「エリーゼ」

「はい」

「いつか、許してもらえるでしょうか」

クラリッサは小さく尋ねた。

エリーゼは少し考えた後、答えた。

「今、この瞬間に許すことはできません」

「そうですよね……」

「でも、いつか」

エリーゼはクラリッサの手を取った。

「あなたが、本当に変わったと確信できたら、きっと許せると思います」

「ありがとう……」

クラリッサは涙を流した。

「必ず、変わってみせます」

それから、クラリッサは毎日熱心に働いた。

朝早く来て、夜遅くまで子供たちの世話をした。読み聞かせをし、勉強を教え、時には一緒に遊んだ。

子供たちも、クラリッサを慕うようになった。

「クラリッサ先生!」

「遊んで!」

「本、読んで!」

子供たちが群がる姿を見て、エリーゼは微笑んだ。

三ヶ月が過ぎた。

エリーゼは再び孤児院を訪れた。

「クラリッサ様の試用期間が終わりました」

責任者に報告を求めた。

「彼女は、素晴らしい働きをしてくださいました」

「詳しく聞かせてください」

「はい。子供たちへの接し方は完璧です。優しく、時に厳しく、そして愛情を持って接しています」

「そうですか」

「仕事も完璧にこなし、他の職員とも協力的です」

責任者は絶賛した。

「ぜひ、正式に雇用していただきたいです」

エリーゼはクラリッサを呼んだ。

「クラリッサ様」

「はい」

「試用期間、お疲れ様でした」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「責任者からの評価は、非常に高いです」

「ありがとうございます」

「正式に、雇用します」

クラリッサの顔が明るくなった。

「本当ですか!」

「はい。これからも、子供たちのためによろしくお願いします」

「はい! 必ず!」

クラリッサは深々とお辞儀をした。

エリーゼはクラリッサの肩に手を置いた。

「クラリッサ様、あなたは変わりました」

「エリーゼ……」

「以前のあなたとは、全く違います」

エリーゼは微笑んだ。

「だから、許します」

「え……」

「完全に、とは言いません。でも、あなたの努力を認めます。そして、これからは姉妹として、一緒に子供たちを守っていきましょう」

クラリッサは涙を流した。

「ありがとう……ありがとう……」

二人は抱き合った。

過去の傷は、完全には癒えていない。でも、確実に癒えつつある。

そして、二人の新しい関係が、今始まった。

血は繋がらなくても、心で繋がる姉妹として。

窓の外では、春の日差しが優しく照らしていた。

新しい始まりを祝福するように。
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