落ちこぼれ魔女ですが、悪役令嬢の替え玉やってます

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落ちこぼれ魔女と攻略対象者①

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「もぉさぁ、ロゼットがかぁわいぃぃぃんだよぉ~!」

「それはそれは、よかったですね」

 私がオフィーリアとして学園に行ってから1週間。束の間の休息を楽しんでいる私の前でユーリはデレデレの顔で男爵令嬢がどれだけ可愛いかを語っていた。うん、ウザイ。

 貴族の子供が通うとはいえ学園なのでもちろん寮もあったのだが私は公爵家から通っている。わざわざ自家用馬車で学園に通うのもわがまま令嬢の印象を残すためなのだが、ほんとは息抜きのためだ。公爵家の中なら素に戻れるしユーリと作戦会議しても誰に聞かれる心配もないからね。

「んふふふ。 君、いい仕事してるよ~」

「そうですか?」

 ユーリが言うにはこの1週間の間、男爵令嬢がそれはそれは甘えてくるようになったらしい。

 へー、オフィーリアが廊下で男爵令嬢に肩をぶつけてきた?それで「あら、庶民に毛の生えた男爵令嬢なんて視界に入らなかったわ」なんて言われたって泣きついてた、と。ふーん。
 ほぅほぅ、わざわざ男爵令嬢がひとりきりの時を狙って?陰険だねー。それで、傷付いた男爵令嬢がユーリにチク……誰にも言えないからってそのオフィーリアの婚約者に相談しに来たと?その他にも教科書を破いたとかわざとドレスを汚したとか。でるわでるわ。あらー、そんなに?私って働き者だったのねー……って。

 私はまだ何もしてませんけど?

「涙を浮かべて僕を見つめるロゼットの可愛いことったらないよねぇ」

「……それはそれは、よかったですね」

 ユーリは約束通り私が男爵令嬢をいじめるフリをしてるから男爵令嬢が自分のところへ来てくれていると信じているようだが、本当にまだ何もしていない。せいぜいすれ違った時に挨拶したくらいだ。……無視されたけど。
 しばらくは男爵令嬢の様子を見ようと色々と探っていたのだけど、どうやらセルフでいじめられてくれているようである。

「それでさ、僕がロゼットを守るからねって言ったら抱き付いてきて……ロゼットって意外と胸があるんだよねぇ。 これって絶対ラブイベントだよ! ぼくの知らない隠しイベントがあったなんて感激だなぁ」

 ユーリ曰くラブイベントと言うのはユーリと男爵令嬢が恋人になるために必要なことらしく、ユーリはそのイベントがどこでどのように起こるか知っているそうなのだが、たまに知らないイベントとやらが起こるらしい。相変わらず予言者だがその予言が外れて喜んでいる。

「それはそれは、よか「さっきからそればっかり! ちゃんと聞いてる?!」聞いてますよ」

 私は紅茶を啜りながらそっけない返事をした。ユーリは不満そうに口を尖らせるが、たまの休息時にそんな訳のわからない惚気話を延々と聞かされる身にもなって欲しいものだ。
 私だってこの1週間大変だったんだと訴えたい。オフィーリアの取り巻きだったのだろう令嬢たちにやたら囲まれるし、よく知らない男子生徒や若い教師には絡まれるし、男爵令嬢の気持ちを探るために近づけば睨まれて嫌味を言われるし……こっちは散々な1週間だったんだよ!

「そういえば、ユーリ殿下に聞きたい事があるんですけど」

「ふたりのときは敬称はいらないって、僕たち仲間なんだしさ。 で、聞きたいことってなに?」

 また男爵令嬢のことでも思い出したのか再びデレデレ顔で紅茶を飲むユーリ。イケメンが台無しだ。

「それが……短髪で紺色の髪の目付きの悪い男子生徒と、長髪で焦げ茶色の髪の口の悪い男性教師に絡まれたんですけど」

 知ってます?と聞く前にガタン!と音を立ててユーリが椅子を倒して立ち上がった。

「それって僕以外の攻略対象者だ!」

「……攻略対象者?」

 とどのつまり、ユーリの恋敵だそうである。

「そう! ロゼットが僕以外で攻略……好きになる可能性がある男たちだよ! そいつらはヒロインと関わって好感度が上がるとヒロインをいじめる悪役令嬢を攻撃し始めるんだ!」

「それってつまり……」

 ヒロインである男爵令嬢が、ユーリ以外の男にアプローチしてるってことでは?

「……」

 私が言いたいことを察したのか黙るユーリ。だって、ユーリの言う通りならば男爵令嬢は現在ユーリを攻略するためにユーリひとすじであるはずなのだ。まぁ、オフィーリアの幼なじみのことをあれだけ狙ってると公言していたところを見ると、ユーリを好きだとは言い切れないのだが……。

「そ、そいつらは、なんて言ってきたの……?」

「そうですねぇ……ロゼットをいじめるな、とか。 王子にロゼットを翻弄するなと言っておけとか……。 自分はすでにロゼットと○○○ピーしたとか?」

「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 知らんがな。暴れるんじゃないよ。

「だってロゼットが攻略してるのは僕のはず! 僕のハートをゲットするために悪役令嬢のいじめに耐えているはず!
 それなのに他の攻略対象者も攻略してるなんて、そんなのまるで逆ハーレムルー……」

 自分でいいかけてユーリは顔色を悪くした。

「ついでに聞きますけど、オフィーリア様の幼なじみの見習い騎士様ってその攻略なんとかに入ってます?」

「え、騎士? オフィーリアととんずらした? いや、知らないけど……」

 きょとんとしたユーリの顔で嘘はついてないとわかる。一国の王子なのにこんなにわかりやすくていいのだろうか?と少々不安になったが今の問題はそこではない。

「……とにかく、男爵令嬢が本当は誰が好きなのか調べないといけませんね」

「ロゼットが好きなのは僕だよ! 僕はヒロインと……ロゼットと真実の愛で結ばれる運命なんだからぁぁぁぁぁ!!」

「あ、ユーリどこへ……行っちゃった」

 脱兎のごとく現実から逃げ出したユーリはあっという間に見えなくなるほどどこかへ走り去っていってしまった。

「あら、ユリウス殿下はどちらに?」

 お茶のおかわりを持ってきてくれた公爵夫人が首をかしげたが真実を言うわけにはいかないので「あー、なんか用事を思い出したみたいです」と誤魔化すしかなかった。








***







 翌朝、いつも朝は迎えに来るユーリが姿を現さなかった。さすがにショックだったようだ。仕方なくひとりで馬車に乗り学園へ向かう。


 学園前で馬車から降りようとすると目の前に手が差し出された。

「……オフィーリア嬢、話がある」

「あなたは……」

 それは先日私に絡んできた目付きの悪い男子生徒だ。
 ユーリの言う攻略なんとかの人はみんな男爵令嬢の味方であって、つまり私を敵視しているということ。そんな人に話があると言われても黙ってついていくはず無いじゃない?

「私にはお話なんてありません」

 公爵夫人直伝の〈私に近づくんじゃないわよスマイル〉を顔に浮かべて、差し出された手を扇子でピシャリと叩いた。公爵夫人には婚約者以外の男性にあまり素手で触れるのはよろしくないと教えられ、公爵家の紋章の入った扇子をもらったのだ。相手に衝撃は伝わるが痛くならないように加工してあるらしく男子生徒の手も腫れたりしてはなかったので内心ホッとする。
 やっぱりケガとかはさせたくないしね。

 しかしそのまま前を通りすぎようとすると、男子生徒は顔を険しくさせ私の腕をつかんできた。

「あんたになくても、俺にはあるんだよ!」

「なっ!?」

「待ってぇぇぇぇ!!」

 周りの生徒達がざわざわしながらも遠巻きで私たちを見てる中、ピンクの塊……じゃなくて男爵令嬢が人をかき分け飛び出してくる。
 そしてうるうると大きな瞳で上目遣いをし、男子生徒に近づいた。

「ダメよ! こんなところでオフィーリア様に楯突いたら、あなたが後から何をされるか……」

「しかしロゼット! あんな卑怯なことをされて黙ってられるか?! いくら公爵令嬢で王子の婚約者だろうと許されるはずないだろう!」

 私の腕を掴みながらなにやら言い合いをしているが、どうやらまた男爵令嬢が勝手にいじめを捏造してそれをこの男子生徒が怒ってるようだ。今度はなにをしたことになっているんだろう?

「あたしはいいの! あたしが我慢さえすれば誰も傷付かなくて済むから!」

「お前が良くても俺は許せない! この女に思い知らせてやるんだ!」

「そんなことしたらあなたが酷い目にあわされるわ! お願いです、オフィーリア様! 彼には手を出さないで!」

「えーと、……どうでもいいから手を離してくれる?」

「へっ?」

 目の前で繰り広げられるお粗末な芝居に思わず本音が出てしまった。おっと、言葉遣いを気を付けないと。

「……手を、離して下さる? 申し訳ないのですけれど、私はそちらのあなた――――お名前は何だったかしら?」

 ため息混じりに視線を向けると男子生徒がビクッと肩を揺らした。

「あ、え、お、俺はエリック。 ……アルター伯爵家のエリックだ!」

「そう。 それで、大変申し訳ないのですが私はあなたにこんなことをされる覚えはありませんので手を離して下さるかしら」

 鋭く睨みながら手を振り払うと今度は簡単に男子生徒……エリックの手が離れる。

「先程も申しました通り、私にはお話することなどありませんので失礼いたしますわ」

 軽く会釈しその場を去ると、背後からは男爵令嬢の声が聞こえた。

「オフィーリア様ったら横暴だわ!」

 何が横暴なのかはわからないが、とにかく私が権力を振りかざしてエリックが伯爵家だからと馬鹿にしたとかなんとか叫んでいるようだ。
 それにしても人の知らないところで色々とやってくれてるみたいである。私としてはユーリとくっついてくれるならいじめの犯人にされてもそれはそれでよかったのだけど、どうやらはあのエリックって男子生徒を攻略?しようとしてるみたいだし……ちょっと真面目に調べないといけないかしら。

「……ユーリには言わない方がいいかな」

 今朝はユーリがいなくてよかった。あんな場面見たらショックで失神するかもしれない。



 そんなことを色々と考えていたせいだろうか。まさかあんなことになるなんて……。




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