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落ちこぼれ魔女ともうひとりの攻略対象者①
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絶対に魔女の才能を開花させてやる!と意気込んだまではいいものの、どうすればその才能が開花するかはわからないままだ。そもそもそんな簡単に才能が開花するなら魔女の村にいた間にとっくに開花している。
「どうしようかな……」
オフィーリアとして学園で過ごすのにもだいぶ慣れた私はひとり中庭で空をあおいだ。
……うん、ぼっち。オフィーリアには友達がいないみたいで、取り巻き的な人は多少いたが最近はあまり近寄ってこなくなった。どうやら男爵令嬢がまたやらかしてそれを私のせいにしてみんながそれを信じて私から離れていったらしい。まぁいいけど。
王妃様に才能の開花についてなにか裏技みたいのがないか聞いたけど「ある日突然これだ!って感覚でわかるのよ。今まで何も感じなかったのなら、村にはなかったことを探してみたらいいわ」とウインクされた。
村になかったことねぇ……。
確かに村にいた頃は他の魔女の手伝いでとにかくなんでもやっていたがその中にピンとくるものはなかったなぁ、と思い返す。
料理の手伝い、掃除の手伝い、畑仕事の手伝い、薬の調合……エトセトラ。うーん。
しかし考えていてもなにか思い付くこともなく、中庭を抜けフラフラとなんとなく古びた建物内に足を運んだ。
「……あれ?ここどこかしら」
なんとなく歩いていたらいつの間にかよくわからないところへ来てしまった。
「ここは……地下道?学園の敷地内にこんな建物があるなんて……」
そこは少しカビ臭い石壁に囲まれた地下通路のようだった。
どうやらたまたま入った建物の地下へまよいこんでしまったようだ。というか、どうして私はこんな建物に入ってしまったのか?
なんとなく、引き寄せられた気がしてそのまま……
ドゴォ――――ン!!
「ば、ばくはつぅ?!」
ビリビリと建物が振動し、細く狭い石壁の隙間から砂がこぼれる。通路の先をよく見れば白い煙が上がっていた。
爆発音にモヤモヤしてた思考も吹っ飛び、脱出しようと身を翻した時「……げほ!げほげほ……!」と激しく咳き込む声が聞こえた。
「誰かいるの?!」
さすがに見てみぬふりはできなくて煙のあがる先に行くとそこには半開きになった扉があり、その中から煙がでてきていた。
勢いよくその扉を開けると中には山積みの大量の本に埋もれた人間が倒れている。
「だ、大丈夫ですか?!」
かけより本の山をかけわけその人を救出するが、焦げ茶色の長い髪の毛が顔にかかり表情は見えなかった。しかしその人は私に向かってヨロヨロと手を伸ばすと「た、食べ物……」と呟いて気を失ってしまったのだ。
「え?食べ物?」
ぐ~きゅるるるるるるるる!ぐきゅるるるるるるららららら!
返事のかわりになんとも変わった空腹感溢れる音が聞こえた。
「きゃ~?!しっかりしてーっ!」
***
「……なんで、もぐもぐ。お前が、ごくん。ここにいるんだ、ずずーっ。オフィーリア・カサンドラ。そのパンもくれ」
「それはこっちのセリフです。ドゥードリシュ先生こそこんなところでなにを?はい、どうぞ」
空腹で倒れていた人間はなんと以前私に絡んできた教師……ユーリの言うところの攻略対象者(ライバル)である男性、ニクス・ドゥードリシュだったのだ。
確か学園の歴史の教師で、クール過ぎて冷たい人間だと誰も近寄らなかったのを男爵令嬢だけが声をかけてくれたことに感激して恋に発展するとかだったかな?(ユーリ情報)
しかし今は以前あの男子生徒と一緒に絡んできた時とは全然雰囲気が違うので最初はわからなかった。
もっとこうシュッとした感じの誰も近寄るなオーラで私を威嚇してきてたのに、今は文句を言いつつも目の前の食べ物に夢中である。
「ふん、お前みたいな、もぐもぐ。甘ったれた意地悪女に、もぐもぐ。なぞ、ごっくん。俺様の素晴らしい、ぱくっ。研究がぐほっ!げほ!」
「ほらほら、食べながらしゃべるから喉につっかえてるじゃないですか!はい、お茶!」
「げほげほ……ずずーっ。はぁ、死ぬかと思った。はっ!もしや俺様を殺してロゼットをさらにいじめるつもりじゃ……?!」
「そんなこと言うなら、デザートのアップルパイはあげません」
「そんな殺生な?!」
年上の美形教師が必死にアップルパイに食いつく様子にちょっと笑いそうになったが我慢して私もお茶をひとくちすする。
あのあと、さすがに放っておくわけにもいかず食堂にいって食べ物をもらってきたのだ。誰かを呼んできてもよかったのだがなんとなく他の人には見せない方が良い気がしたし。
それにしても、もう授業が始まってるみたいで食堂には生徒はいなかったが「なんでもいいから食べ物を詰めて!」とかっさらってきてしまったのできっとまた変な噂でも広まっているだろう。
「……はぁ、うまかった。3日くらい飲まず食わずでいて限界だったようだ。ところでオフィーリア・カサンドラ、ここは生徒は立ち入り禁止区域だ。これは校則いは「口に食べかすついてますよ」と、とにかくここに無断で立ち入るのは禁止されてるんだ!」
アップルパイを丸々平らげやっとお腹が落ち着いたのかドゥードリシュ先生はギリッと私を睨んでくるが、口のまわりにアップルパイの食べかすついたまま睨まれても効果はまるでない。
「ハンカチをどうぞ。紳士が袖で口を拭わないで下さい」
「う……しょうがない、借りてやる」
ハンカチを受け取り口を拭くと気まずそうに再び私を睨んできた。
「ちっ……、今回のところは見逃してやる。いいか、だから俺様がここで研究をしていることは誰にも言うなよ」
「それはいいですけど……なんの研究をしているんですか?」
「なんだ、俺様の弱味を握るつもりか」ギロッ
「あら、人にはいえないようないかがわしい研究でしたか。破廉恥ですのね」にこにこにこ
「だ、誰が破廉恥だ!?お前のような人をおとしいれることしかできない小娘など俺様の弱味を握って好き勝手するつもりの腹黒のくせに!」
「そうですね、たくさん珍しい本があったので興味があったんですが……ドゥードリシュ先生本人には興味がないので失礼させていただきますわ。あ、そのハンカチもさしあげますわね。お好きに処分なさってくださいな」
「……え」
カップなどを中身が空っぽになったバスケットの中に片付け立ち上がると、ドゥードリシュ先生は不思議そうな顔を向けてくる。
「なにか?」
「本に興味があるって……ここの本が読めるのか?」
「さっき本のタイトルをいくつか見ただけですけど、面白そうなのばかりでしたね」
そう、食べ物を持って再びここへやって来たとき、先生はまだ気を失っていたので口にパンを突っ込んで起きるのを待ってる間、散らばってる本を眺めていたのだ。
「ど、どの本に興味を?」
「え?そりゃもちろん“魔女の伝記”と“魔女の歴史”、“魔女の魔力の秘密”に――――「ここの本は全て魔女にしか読めない古代文字で書かれている」え?」
うっかり素で答えてしまった。だって、ここの本は私が調べたいことがどっさり載ってそうだったからあとで読みにこようかと企んでいたのだが、魔女にしか読めない?古代文字?あぁ、そういえば魔女は小さい頃からなんか暗号ぽい文字を習って普段から魔女同士で使っていたから違和感なく読めたんだけど ――――ってあれが古代文字だったの?!
「なぜ、公爵令嬢が魔女の古代文字を?」
ピリッと空気が張り詰める。
これはやばい。私が魔女だってばれる?いや、それ以前にオフィーリアの正体が魔女だと誤解されてしまう可能性もある。こんなに魔女に関する本があるのも魔女に興味があるからだろうし、なんとか誤魔化さないと……。
「――――あら、古代文字がなんだと言いますの?」
「え?」
「私は公爵令嬢……たかが古代文字の読み方くらいとっくに習得しておりますわ。それに魔女にしか読めないのではなく、魔女が古代文字を好んで使っていただけであって古代文字を解読できれば誰にでも読めます」
「たかがだと?俺様がこの古代文字を解読するのにどれだけ苦労をしたと……!」
「あら、魔女にしか読めないとおっしゃりながら、先生も読めるんじゃないですか。ではそろそろ失礼しますわね、ごきげんよう~」
「え、あ、待て……!」
混乱する先生に早口でまくし立て私は素早くその場を立ち去った。
はい、逃げました。あの本は気になるけど、しばらく先生には近寄らない方がよさそうね。こうなったら、先生がいないときに忍び込もうっと。
***
翌日。避けていたはずのドゥードリシュ先生に呼び出された。
そうよね、相手は教師だものね。生徒を呼び出すくらい朝飯前よね。いま忙しいから先生にかまってる暇ないんだけど。
「ロゼットが、オフィーリア・カサンドラに男爵令嬢など残飯でも食ってろと罵られて大量の食べ物を投げつけられた。とうったえてきた」
ちなみに職員室に呼び出されたのにそのあと人気の無い用具室まで連れてこられた。生徒がほとんど近寄らないし、もしここで殴られたりしても助けを呼ぶ声も誰にも届かない難儀な場所だとユーリが言っていたのを思い出す。
そういえば呼び出された時なぜか近くにいた男爵令嬢がこっちを見てにやついていたわね。私が教師から怒られるのを期待してたのだろう。
「はぁ、そうですか。そんな話しなら職員室でおっしゃってくださいな」
もしかしたら男爵令嬢をいじめた罰だとかいってここで断罪されるのかしら?確かユーリが攻略対象者は悪役令嬢を断罪するために色々仕掛けてくるかもとかなんとか……あれ?タイミングとかっていつがどうだったっけ?
「本当にお前がやったのか?」
なにかを探るようにギロッと鋭い視線が向けられる。昨日あんなにアップルパイにがっついてる姿を見たせいかまったく怖くないけど。
「男爵令嬢……ロゼットさんがそう訴えたから、ドゥードリシュ先生はそれを信じて私を呼び出したのでしょう?それで、どんな罰を与えるおつもりですか?」
しかしあの男爵令嬢も相変わらずセルフでやらかしてくれるものである。私の行動をどこで調べているのだか。頑張ってくれてるところ申し訳ないが今は男爵令嬢にもかまってる暇はないのだ。
しかし、どうせなら自宅謹慎とかにしてくれないかな。そうすればルルーシェラの姿で学園に忍び込んでドゥードリシュ先生のいない隙に本を読めるのに。
「お前が食堂からありったけの残り物を持ち去ったという証言がある。ロゼットが投げつけられたという食べ物と内容も一致している。時間帯もたまたまロゼットが気分が悪くなって授業中に保健室に行こうとしてた時で他に目撃者がおらず、お前の姿も教室にいなかったとたくさんの生徒が証言している。
……だがひとつ気になることがあってな」
「なんです?」
「……まったく同じ内容の食べ物を、俺様も昨日食べた」
まぁ、あの時の食べ物は全部ドゥードリシュ先生のお腹の中におさまったのだから当然だ。
「それは、すごい偶然ですわね」
私がにっこりと笑顔を向けると、ドゥードリシュ先生が顔をしかめた。
「その大量の食べ物とはあのときのものではないのか?」
ええ、そうですよ。とは言わない。今ここで冤罪を晴らしたって特に意味はないし、ユーリと男爵令嬢をくっつけるためにもオフィーリアは悪者でなくてはいけないのだ。
「私にはなんのことだかわかりません」
「ロゼットは今頃ユリウス殿下にお前のことを訴えているはずだぞ。それどころか学園中にだ。オフィーリア・カサンドラはユリウス殿下の婚約者にふさわしくないとみんなが言っていると」
あら、ユーリったらちゃんと男爵令嬢にうまく攻略されてるのね。あとはふたりがくっついてくれてオフィーリアが婚約破棄されればすべて解決だ。
そしてそのためにも私は早く才能を開花させねばならない。あぁ、時間が足りないわ。
「お前は、ユリウス殿下の婚約者は自分なのにユリウス殿下がお前よりもロゼットを構うのが気にくわないからロゼットをいじめてる。俺様はそう聞いたんだが……」
「概ねその通りでいいと思いますよ?」
「しかし最近のいじめの報告はなにかおかしい。毎回ロゼットが偶然ひとりきりの時にお前に遭遇していじめられ、その現場の目撃者が誰もいない。
みんな、ロゼットがそう言っているからと言うばかりで……」
それは男爵令嬢がセルフでいじめられてるからだけど、今それが発覚しても私にメリットがない。
それならばここは悪役らしく丸め込もうじゃないの。
「――――ドゥードリシュ先生、私と取引しませんか?」
ユーリにいっぱい練習させられた悪役令嬢らしい微笑みを浮かべ、私は先生に悪魔の取引を持ちかけるのだった。
「どうしようかな……」
オフィーリアとして学園で過ごすのにもだいぶ慣れた私はひとり中庭で空をあおいだ。
……うん、ぼっち。オフィーリアには友達がいないみたいで、取り巻き的な人は多少いたが最近はあまり近寄ってこなくなった。どうやら男爵令嬢がまたやらかしてそれを私のせいにしてみんながそれを信じて私から離れていったらしい。まぁいいけど。
王妃様に才能の開花についてなにか裏技みたいのがないか聞いたけど「ある日突然これだ!って感覚でわかるのよ。今まで何も感じなかったのなら、村にはなかったことを探してみたらいいわ」とウインクされた。
村になかったことねぇ……。
確かに村にいた頃は他の魔女の手伝いでとにかくなんでもやっていたがその中にピンとくるものはなかったなぁ、と思い返す。
料理の手伝い、掃除の手伝い、畑仕事の手伝い、薬の調合……エトセトラ。うーん。
しかし考えていてもなにか思い付くこともなく、中庭を抜けフラフラとなんとなく古びた建物内に足を運んだ。
「……あれ?ここどこかしら」
なんとなく歩いていたらいつの間にかよくわからないところへ来てしまった。
「ここは……地下道?学園の敷地内にこんな建物があるなんて……」
そこは少しカビ臭い石壁に囲まれた地下通路のようだった。
どうやらたまたま入った建物の地下へまよいこんでしまったようだ。というか、どうして私はこんな建物に入ってしまったのか?
なんとなく、引き寄せられた気がしてそのまま……
ドゴォ――――ン!!
「ば、ばくはつぅ?!」
ビリビリと建物が振動し、細く狭い石壁の隙間から砂がこぼれる。通路の先をよく見れば白い煙が上がっていた。
爆発音にモヤモヤしてた思考も吹っ飛び、脱出しようと身を翻した時「……げほ!げほげほ……!」と激しく咳き込む声が聞こえた。
「誰かいるの?!」
さすがに見てみぬふりはできなくて煙のあがる先に行くとそこには半開きになった扉があり、その中から煙がでてきていた。
勢いよくその扉を開けると中には山積みの大量の本に埋もれた人間が倒れている。
「だ、大丈夫ですか?!」
かけより本の山をかけわけその人を救出するが、焦げ茶色の長い髪の毛が顔にかかり表情は見えなかった。しかしその人は私に向かってヨロヨロと手を伸ばすと「た、食べ物……」と呟いて気を失ってしまったのだ。
「え?食べ物?」
ぐ~きゅるるるるるるるる!ぐきゅるるるるるるららららら!
返事のかわりになんとも変わった空腹感溢れる音が聞こえた。
「きゃ~?!しっかりしてーっ!」
***
「……なんで、もぐもぐ。お前が、ごくん。ここにいるんだ、ずずーっ。オフィーリア・カサンドラ。そのパンもくれ」
「それはこっちのセリフです。ドゥードリシュ先生こそこんなところでなにを?はい、どうぞ」
空腹で倒れていた人間はなんと以前私に絡んできた教師……ユーリの言うところの攻略対象者(ライバル)である男性、ニクス・ドゥードリシュだったのだ。
確か学園の歴史の教師で、クール過ぎて冷たい人間だと誰も近寄らなかったのを男爵令嬢だけが声をかけてくれたことに感激して恋に発展するとかだったかな?(ユーリ情報)
しかし今は以前あの男子生徒と一緒に絡んできた時とは全然雰囲気が違うので最初はわからなかった。
もっとこうシュッとした感じの誰も近寄るなオーラで私を威嚇してきてたのに、今は文句を言いつつも目の前の食べ物に夢中である。
「ふん、お前みたいな、もぐもぐ。甘ったれた意地悪女に、もぐもぐ。なぞ、ごっくん。俺様の素晴らしい、ぱくっ。研究がぐほっ!げほ!」
「ほらほら、食べながらしゃべるから喉につっかえてるじゃないですか!はい、お茶!」
「げほげほ……ずずーっ。はぁ、死ぬかと思った。はっ!もしや俺様を殺してロゼットをさらにいじめるつもりじゃ……?!」
「そんなこと言うなら、デザートのアップルパイはあげません」
「そんな殺生な?!」
年上の美形教師が必死にアップルパイに食いつく様子にちょっと笑いそうになったが我慢して私もお茶をひとくちすする。
あのあと、さすがに放っておくわけにもいかず食堂にいって食べ物をもらってきたのだ。誰かを呼んできてもよかったのだがなんとなく他の人には見せない方が良い気がしたし。
それにしても、もう授業が始まってるみたいで食堂には生徒はいなかったが「なんでもいいから食べ物を詰めて!」とかっさらってきてしまったのできっとまた変な噂でも広まっているだろう。
「……はぁ、うまかった。3日くらい飲まず食わずでいて限界だったようだ。ところでオフィーリア・カサンドラ、ここは生徒は立ち入り禁止区域だ。これは校則いは「口に食べかすついてますよ」と、とにかくここに無断で立ち入るのは禁止されてるんだ!」
アップルパイを丸々平らげやっとお腹が落ち着いたのかドゥードリシュ先生はギリッと私を睨んでくるが、口のまわりにアップルパイの食べかすついたまま睨まれても効果はまるでない。
「ハンカチをどうぞ。紳士が袖で口を拭わないで下さい」
「う……しょうがない、借りてやる」
ハンカチを受け取り口を拭くと気まずそうに再び私を睨んできた。
「ちっ……、今回のところは見逃してやる。いいか、だから俺様がここで研究をしていることは誰にも言うなよ」
「それはいいですけど……なんの研究をしているんですか?」
「なんだ、俺様の弱味を握るつもりか」ギロッ
「あら、人にはいえないようないかがわしい研究でしたか。破廉恥ですのね」にこにこにこ
「だ、誰が破廉恥だ!?お前のような人をおとしいれることしかできない小娘など俺様の弱味を握って好き勝手するつもりの腹黒のくせに!」
「そうですね、たくさん珍しい本があったので興味があったんですが……ドゥードリシュ先生本人には興味がないので失礼させていただきますわ。あ、そのハンカチもさしあげますわね。お好きに処分なさってくださいな」
「……え」
カップなどを中身が空っぽになったバスケットの中に片付け立ち上がると、ドゥードリシュ先生は不思議そうな顔を向けてくる。
「なにか?」
「本に興味があるって……ここの本が読めるのか?」
「さっき本のタイトルをいくつか見ただけですけど、面白そうなのばかりでしたね」
そう、食べ物を持って再びここへやって来たとき、先生はまだ気を失っていたので口にパンを突っ込んで起きるのを待ってる間、散らばってる本を眺めていたのだ。
「ど、どの本に興味を?」
「え?そりゃもちろん“魔女の伝記”と“魔女の歴史”、“魔女の魔力の秘密”に――――「ここの本は全て魔女にしか読めない古代文字で書かれている」え?」
うっかり素で答えてしまった。だって、ここの本は私が調べたいことがどっさり載ってそうだったからあとで読みにこようかと企んでいたのだが、魔女にしか読めない?古代文字?あぁ、そういえば魔女は小さい頃からなんか暗号ぽい文字を習って普段から魔女同士で使っていたから違和感なく読めたんだけど ――――ってあれが古代文字だったの?!
「なぜ、公爵令嬢が魔女の古代文字を?」
ピリッと空気が張り詰める。
これはやばい。私が魔女だってばれる?いや、それ以前にオフィーリアの正体が魔女だと誤解されてしまう可能性もある。こんなに魔女に関する本があるのも魔女に興味があるからだろうし、なんとか誤魔化さないと……。
「――――あら、古代文字がなんだと言いますの?」
「え?」
「私は公爵令嬢……たかが古代文字の読み方くらいとっくに習得しておりますわ。それに魔女にしか読めないのではなく、魔女が古代文字を好んで使っていただけであって古代文字を解読できれば誰にでも読めます」
「たかがだと?俺様がこの古代文字を解読するのにどれだけ苦労をしたと……!」
「あら、魔女にしか読めないとおっしゃりながら、先生も読めるんじゃないですか。ではそろそろ失礼しますわね、ごきげんよう~」
「え、あ、待て……!」
混乱する先生に早口でまくし立て私は素早くその場を立ち去った。
はい、逃げました。あの本は気になるけど、しばらく先生には近寄らない方がよさそうね。こうなったら、先生がいないときに忍び込もうっと。
***
翌日。避けていたはずのドゥードリシュ先生に呼び出された。
そうよね、相手は教師だものね。生徒を呼び出すくらい朝飯前よね。いま忙しいから先生にかまってる暇ないんだけど。
「ロゼットが、オフィーリア・カサンドラに男爵令嬢など残飯でも食ってろと罵られて大量の食べ物を投げつけられた。とうったえてきた」
ちなみに職員室に呼び出されたのにそのあと人気の無い用具室まで連れてこられた。生徒がほとんど近寄らないし、もしここで殴られたりしても助けを呼ぶ声も誰にも届かない難儀な場所だとユーリが言っていたのを思い出す。
そういえば呼び出された時なぜか近くにいた男爵令嬢がこっちを見てにやついていたわね。私が教師から怒られるのを期待してたのだろう。
「はぁ、そうですか。そんな話しなら職員室でおっしゃってくださいな」
もしかしたら男爵令嬢をいじめた罰だとかいってここで断罪されるのかしら?確かユーリが攻略対象者は悪役令嬢を断罪するために色々仕掛けてくるかもとかなんとか……あれ?タイミングとかっていつがどうだったっけ?
「本当にお前がやったのか?」
なにかを探るようにギロッと鋭い視線が向けられる。昨日あんなにアップルパイにがっついてる姿を見たせいかまったく怖くないけど。
「男爵令嬢……ロゼットさんがそう訴えたから、ドゥードリシュ先生はそれを信じて私を呼び出したのでしょう?それで、どんな罰を与えるおつもりですか?」
しかしあの男爵令嬢も相変わらずセルフでやらかしてくれるものである。私の行動をどこで調べているのだか。頑張ってくれてるところ申し訳ないが今は男爵令嬢にもかまってる暇はないのだ。
しかし、どうせなら自宅謹慎とかにしてくれないかな。そうすればルルーシェラの姿で学園に忍び込んでドゥードリシュ先生のいない隙に本を読めるのに。
「お前が食堂からありったけの残り物を持ち去ったという証言がある。ロゼットが投げつけられたという食べ物と内容も一致している。時間帯もたまたまロゼットが気分が悪くなって授業中に保健室に行こうとしてた時で他に目撃者がおらず、お前の姿も教室にいなかったとたくさんの生徒が証言している。
……だがひとつ気になることがあってな」
「なんです?」
「……まったく同じ内容の食べ物を、俺様も昨日食べた」
まぁ、あの時の食べ物は全部ドゥードリシュ先生のお腹の中におさまったのだから当然だ。
「それは、すごい偶然ですわね」
私がにっこりと笑顔を向けると、ドゥードリシュ先生が顔をしかめた。
「その大量の食べ物とはあのときのものではないのか?」
ええ、そうですよ。とは言わない。今ここで冤罪を晴らしたって特に意味はないし、ユーリと男爵令嬢をくっつけるためにもオフィーリアは悪者でなくてはいけないのだ。
「私にはなんのことだかわかりません」
「ロゼットは今頃ユリウス殿下にお前のことを訴えているはずだぞ。それどころか学園中にだ。オフィーリア・カサンドラはユリウス殿下の婚約者にふさわしくないとみんなが言っていると」
あら、ユーリったらちゃんと男爵令嬢にうまく攻略されてるのね。あとはふたりがくっついてくれてオフィーリアが婚約破棄されればすべて解決だ。
そしてそのためにも私は早く才能を開花させねばならない。あぁ、時間が足りないわ。
「お前は、ユリウス殿下の婚約者は自分なのにユリウス殿下がお前よりもロゼットを構うのが気にくわないからロゼットをいじめてる。俺様はそう聞いたんだが……」
「概ねその通りでいいと思いますよ?」
「しかし最近のいじめの報告はなにかおかしい。毎回ロゼットが偶然ひとりきりの時にお前に遭遇していじめられ、その現場の目撃者が誰もいない。
みんな、ロゼットがそう言っているからと言うばかりで……」
それは男爵令嬢がセルフでいじめられてるからだけど、今それが発覚しても私にメリットがない。
それならばここは悪役らしく丸め込もうじゃないの。
「――――ドゥードリシュ先生、私と取引しませんか?」
ユーリにいっぱい練習させられた悪役令嬢らしい微笑みを浮かべ、私は先生に悪魔の取引を持ちかけるのだった。
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