4 / 36
4 ど近眼令嬢は弟子入りする
しおりを挟む
「じゃあ、行ってきます!」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ハンナに見送られ図書庫の窓からそっと抜け出す。図書庫の周りに人影は無くなんなく脱出成功である。
私は長い銀髪を帽子に押し込んで隠し、ハンナに用意してもらった庶民の服を着ている。もちろん眼鏡もしっかりかけて屋敷を抜け出した。ちなみに頭の上にはもちろんシロもいる。どうやら私の頭の上がかなり気に入ったらしく、どんなに動いても微動だにせずちょこんと留まっているのだ。
そんなシロを頭に乗せたまま屋敷の近くにある林に入り込む。私は浮き足立つ気持ちを押さえきれずにいた。
そう、私は将来ひとりで生きていくための活動拠点を探しているのだ。さすがにこの世界には不動産情報誌など無いし、両親にバレたくないので公爵家の名前を使って探すわけにもいかない。ここは地道に探し回るしかないのである。
理想としては人目につかないポツンと一軒家的な物件で、自給自足ができるような畑を作れるスペースがあれば言うことナシだ。あ、ニワトリも飼いたい。食料的な意味で!そのために参考になりそうな本を片っ端から読んだのだ。スローライフ最高!
つまり、今から実践して慣れるためにもまずは物件探しから始めることにしたわけだ。
「ピィ」
すると急にシロが羽を広げ頭の上から飛び立ち、私を先導するように羽ばたいた。
「シロ、どこ行くの?」
「ピィ」
慌ててシロの後を追うように林の奥へと進む。いやもう、すでに森?いつの間にか鬱蒼とした森の奥地?
あれー?どこをどう進んだらこうなるんだ?さすがファンタジーとしか言えない。って言うかこれって迷子になるのかしら?
「ピィ」
しばらく進むとシロが飛ぶのをやめ、再び私の頭の上に留まった。私は足を止め、促されるようにシロが示す先に視線を向ける。
「ここは……」
目の前に広がる光景に、私の頬が興奮して紅潮したのがわかった。そこにはまさに私の理想そのものが存在していたのだから。
小さめの平屋の一軒家。ちょっとくすんだオレンジ色の屋根がレトロでかわいらしい。その横には鶏小屋があって数羽が羽をばたつかせている。
さらにその背後には畑らしきものがあり、赤いトマトが熟れているのが見えた。
「……素敵な家ね、シロ」
「ピィ」
思わずうっとりとした顔でその家を眺めていると、ギィと音を立てて目の前の古びた木製の扉が開いた。
「……おや、珍しいお客さんだこと」
中から出てきたのは白髪の髪をしたふっくら体型のおばあさんだった。黒いゆったりとした服を着て小さな老眼鏡をかけ、おっとりとした微笑みを浮かべている。
なぜだろう、シチューが劇的に上手いおばさんの絵面が脳裏に浮かんだ。きっと親戚あたりにクッキー作りがやたら上手いおばさんやシュークリームの専門家みたいなおじさんがいる気がする。
「あ、あの……」
何て言おうか迷ってソワソワしていると、私と頭上のシロを交互に見てにっこりと笑った。
「そんなところにいないでお茶でもいかが?」
私が「ぜひ!」と慌てて言うと、おばあさんはさらに笑顔になったのだった。
そしてこれは私にとって人生の転機となる出会いになる。
このおばあさんはなんと薬師!魔力も持っていて、魔力を込めて作った薬は効果抜群で有名なのだそうだ。
しかし王家直属の薬師に嫉妬され嫌がらせをされたり貴族から金にものをいわせた無理難題を吹っ掛けられたり、争いの種にされたりの日々に嫌気がさし森に引きこもったそうなのだが……。
……ん?どこかで聞いたことがあるような話だな?……気のせいか。
それはさておき、今はここで自給自足の生活をしながら新しい薬を作ったりしているらしい。たまに噂を聞き付けた人間がやって来るそうだが森が意思を持っていておばあさんに悪意があったり悪いこと頼もうとする人間は迷わせてたどり着けないようになっているそうだ。なんてこった、リアル迷いの森じゃないか。
本当に困っていて、おばあさんに頼むのが最後の砦みたいな人だけがたどり着けるらしいが。
え、ちょっと怖い。森が意思を持っているなんて初めて聞いたんだけど。
「そうだねぇ、この森は不思議な森だからねぇ」
おばあさんはおっとりとした口調で私の疑問に答えてくれたが、そんなファンタジーなひと言で片付けていい問題なのだろうか。
「迷った人間はどうなるんですか?」
「そうだねぇ、森の外のどこかには出されてると思うけどねぇ」
おばあさんは「ふふふ」と微笑みながらお茶を飲む。その微笑みを見て、どこかってどこだろう……。と思ったがなんだか怖かったので聞くのはやめた。
それにしてもこんなおばあさん、小説に出てきてたかな?あの小説はサブキャラみたいな人物だとあまり細かい描写がないから人物像がなかなか思い当たらない。
「それで、お嬢さんの名前は何て言うのかねぇ」
「あ、失礼しました。私はアリアーティアと言います。おばあさんのことはなんとお呼びしたらいいですか?」
おばあさんは私を見てちょっと考えてから口を開いた。
「わたしかい?……そうだねぇ、お嬢さんなら教えても大丈夫かねぇ。わたしはライラ。
ーーーー人からは“森の魔女”と呼ばれているよ」
“森の魔女”。そう聞いて、はっ!と納得する。
いたよ、“森の魔女”!王子が悪役令嬢を毒殺するために誰にもバレないような特殊な毒を作らせようと探してた“森の魔女”!
原作では森の中を迷いに迷ったあげくに結局探しだせなくて諦めてたけど、森に拒否られてたのね。まだ王子を応援していた頃の前世の私でさえ、さすがにこっそり毒殺してヒロインとウハウハしようと企んでた(原作の)王子には「男らしくない」とガッカリしてたもの!
ふふふ、ざまぁみろだわ!
しかしこのおばあさんが“森の魔女”だとすると、原作で登場するのはまだまだ先の話だ。まだ小説の物語が始まってないことを考えると、かなりフライングで出会ってしまったことになる。
でもなんて理想的な生活をしているのだろう。本からの知識だけでは知ることのできない全てがここにある気がした。ここで出会えたのはある意味運命では?!
「あの……ライラさん!お願いがあるんです!」
私は眼鏡がずり落ちるのも気にせず、おばあさんの手を握りしめるのだった。
それから私はライラさんと仲良くなって色々と教えてもらうようになる。料理に裁縫、畑の手入れ。もちろん薬の調合方法まで。
どうやら私は森に気に入られたらしくその後何度も足を踏み入れても、もう道に迷うことはなかった。
「え?シロはただの小鳥じゃなくて森の聖霊?」
「シロちゃんみたいな種類の鳥はいないからねぇ」
それから数日。私はシロと共に毎日この家に通い、いつものように教わりながら鍋をかき回しているとそんな驚き情報を告げられたのだ。
今日は傷口に塗る軟膏の作り方を教わっている。しかし、集中して煮込めって言った矢先になぜ突然そんな情報を教えてくるのか。めっちゃ戸惑うんですけど。
「ほら、焦げたらやり直しだよ」
「は、はい!」
慌てて火加減を調整しながら慎重にかき混ぜる。くっ!もはや世間話も試練のうちか。
聖霊とはこの世界の自然界に存在していて、魔力とも関連があるらしいが詳しいことはまだ解明されていない。なにせ人間の前に現れることがほとんどなく、その姿を見ることができる人間もほとんどいないからだ。
“魔力持ち”には聖霊と交流する能力があるらしい……とは言われているが、その“魔力持ち”すらも希少な存在なので研究が進まないらしいのだ。
「シロが聖霊……」
今も私の頭の上でこっくりこっくりと居眠りをして、かなり食いしん坊なシロが?
なんでも私の魔力が居心地良くて気に入ったからこの森に連れてきたらしい。ライラさんは森の意思を感じられるらしくそう教えてくれた。
よくもまぁ、こんなわずかしかない私の魔力を感知したものだ。
シロって、ヨダレ垂らして居眠りするしおやつのクッキー丸飲みするし変な小鳥だと思ってたのよ。しかしまさかの正体。さらに聖霊に名前をつけると契約したことになるらしく、シロは私の専属聖霊になってしまっていた。なんてこったい。
うーん、魔力持ちで聖霊持ちなんて何百年か前の伝説に出てきそうな人物になってしまったのではないだろうか?
……うん、よし。聖霊としての姿もあるらしいが、シロには是非とも今の小鳥のままでいていただきたい。
「私の魔力で聖霊が反応したなら、ライラさんならもっとすごい聖霊がついてるんじゃないんですか?」
「わたしかい?わたしにはそんな聖霊なんていないねぇ」
ライラさんは「そうだねぇ……」と手を頬に当てながら首を傾げた。
「わたしを守護してくれてるのは聖霊じゃなくて、この森全体かねぇ」
そういえば、この森は意思を持つ不思議な森だった。思わず「規模がでかい……」と呟くと、ライラさんのピシャリとした声が響いた。
「ほら、また焦げそうだよ「はいぃぃぃつ!」ダメだねぇ、やり直し」
ライラさんは普段とても優しいしおっとりしているのだが、薬作りに関してはものすごく厳しいのだ。
そんなわけで私はライラさんにお願いして“森の魔女”に正式に弟子入りした。
私の魔力はライラさんの魔力に似てるらしく魔力を込めた薬作りもすんなり覚えられた。どうやら秘めた才能が開花したみたいだ。それからすぐに「師匠」「アリア」と呼び合う師弟関係になり、私の修行は順調に進んでいったのだった。
「軟膏完成!私ってば天才じゃない?!」
「材料をひとつ入れ忘れてるねぇ。これじゃあ本来の効能は出ないよ。ほら、やり直しだねぇ」
師匠がポケットから薬草を出して見せてくる。
「……最初に教えてくださいよ、師匠」
「ちゃんと自分で調べて確認しないとねぇ」
にっこりと極上の笑顔で師匠で私に鍋を混ぜる用のお玉を手渡してきた。師匠はおっとりした顔でかなりスパルタなのである。
******
「そういえば……師匠は昔、争いの種にされたって言ってましたけど何があったんですか?」
「それはねぇ、髪の毛が生えてくる薬を作ったら、なんだか奪い合いになってしまってねぇ」
なんでもその薬用の薬草や材料がかなり貴重な物が多くて、あまり数が作れないと言ったら大変な事になったんだとか……。
悩んでる人が多かったのかしら?とりあえず、毛生え薬を作るのはやめておこうと思ったのだった。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
ハンナに見送られ図書庫の窓からそっと抜け出す。図書庫の周りに人影は無くなんなく脱出成功である。
私は長い銀髪を帽子に押し込んで隠し、ハンナに用意してもらった庶民の服を着ている。もちろん眼鏡もしっかりかけて屋敷を抜け出した。ちなみに頭の上にはもちろんシロもいる。どうやら私の頭の上がかなり気に入ったらしく、どんなに動いても微動だにせずちょこんと留まっているのだ。
そんなシロを頭に乗せたまま屋敷の近くにある林に入り込む。私は浮き足立つ気持ちを押さえきれずにいた。
そう、私は将来ひとりで生きていくための活動拠点を探しているのだ。さすがにこの世界には不動産情報誌など無いし、両親にバレたくないので公爵家の名前を使って探すわけにもいかない。ここは地道に探し回るしかないのである。
理想としては人目につかないポツンと一軒家的な物件で、自給自足ができるような畑を作れるスペースがあれば言うことナシだ。あ、ニワトリも飼いたい。食料的な意味で!そのために参考になりそうな本を片っ端から読んだのだ。スローライフ最高!
つまり、今から実践して慣れるためにもまずは物件探しから始めることにしたわけだ。
「ピィ」
すると急にシロが羽を広げ頭の上から飛び立ち、私を先導するように羽ばたいた。
「シロ、どこ行くの?」
「ピィ」
慌ててシロの後を追うように林の奥へと進む。いやもう、すでに森?いつの間にか鬱蒼とした森の奥地?
あれー?どこをどう進んだらこうなるんだ?さすがファンタジーとしか言えない。って言うかこれって迷子になるのかしら?
「ピィ」
しばらく進むとシロが飛ぶのをやめ、再び私の頭の上に留まった。私は足を止め、促されるようにシロが示す先に視線を向ける。
「ここは……」
目の前に広がる光景に、私の頬が興奮して紅潮したのがわかった。そこにはまさに私の理想そのものが存在していたのだから。
小さめの平屋の一軒家。ちょっとくすんだオレンジ色の屋根がレトロでかわいらしい。その横には鶏小屋があって数羽が羽をばたつかせている。
さらにその背後には畑らしきものがあり、赤いトマトが熟れているのが見えた。
「……素敵な家ね、シロ」
「ピィ」
思わずうっとりとした顔でその家を眺めていると、ギィと音を立てて目の前の古びた木製の扉が開いた。
「……おや、珍しいお客さんだこと」
中から出てきたのは白髪の髪をしたふっくら体型のおばあさんだった。黒いゆったりとした服を着て小さな老眼鏡をかけ、おっとりとした微笑みを浮かべている。
なぜだろう、シチューが劇的に上手いおばさんの絵面が脳裏に浮かんだ。きっと親戚あたりにクッキー作りがやたら上手いおばさんやシュークリームの専門家みたいなおじさんがいる気がする。
「あ、あの……」
何て言おうか迷ってソワソワしていると、私と頭上のシロを交互に見てにっこりと笑った。
「そんなところにいないでお茶でもいかが?」
私が「ぜひ!」と慌てて言うと、おばあさんはさらに笑顔になったのだった。
そしてこれは私にとって人生の転機となる出会いになる。
このおばあさんはなんと薬師!魔力も持っていて、魔力を込めて作った薬は効果抜群で有名なのだそうだ。
しかし王家直属の薬師に嫉妬され嫌がらせをされたり貴族から金にものをいわせた無理難題を吹っ掛けられたり、争いの種にされたりの日々に嫌気がさし森に引きこもったそうなのだが……。
……ん?どこかで聞いたことがあるような話だな?……気のせいか。
それはさておき、今はここで自給自足の生活をしながら新しい薬を作ったりしているらしい。たまに噂を聞き付けた人間がやって来るそうだが森が意思を持っていておばあさんに悪意があったり悪いこと頼もうとする人間は迷わせてたどり着けないようになっているそうだ。なんてこった、リアル迷いの森じゃないか。
本当に困っていて、おばあさんに頼むのが最後の砦みたいな人だけがたどり着けるらしいが。
え、ちょっと怖い。森が意思を持っているなんて初めて聞いたんだけど。
「そうだねぇ、この森は不思議な森だからねぇ」
おばあさんはおっとりとした口調で私の疑問に答えてくれたが、そんなファンタジーなひと言で片付けていい問題なのだろうか。
「迷った人間はどうなるんですか?」
「そうだねぇ、森の外のどこかには出されてると思うけどねぇ」
おばあさんは「ふふふ」と微笑みながらお茶を飲む。その微笑みを見て、どこかってどこだろう……。と思ったがなんだか怖かったので聞くのはやめた。
それにしてもこんなおばあさん、小説に出てきてたかな?あの小説はサブキャラみたいな人物だとあまり細かい描写がないから人物像がなかなか思い当たらない。
「それで、お嬢さんの名前は何て言うのかねぇ」
「あ、失礼しました。私はアリアーティアと言います。おばあさんのことはなんとお呼びしたらいいですか?」
おばあさんは私を見てちょっと考えてから口を開いた。
「わたしかい?……そうだねぇ、お嬢さんなら教えても大丈夫かねぇ。わたしはライラ。
ーーーー人からは“森の魔女”と呼ばれているよ」
“森の魔女”。そう聞いて、はっ!と納得する。
いたよ、“森の魔女”!王子が悪役令嬢を毒殺するために誰にもバレないような特殊な毒を作らせようと探してた“森の魔女”!
原作では森の中を迷いに迷ったあげくに結局探しだせなくて諦めてたけど、森に拒否られてたのね。まだ王子を応援していた頃の前世の私でさえ、さすがにこっそり毒殺してヒロインとウハウハしようと企んでた(原作の)王子には「男らしくない」とガッカリしてたもの!
ふふふ、ざまぁみろだわ!
しかしこのおばあさんが“森の魔女”だとすると、原作で登場するのはまだまだ先の話だ。まだ小説の物語が始まってないことを考えると、かなりフライングで出会ってしまったことになる。
でもなんて理想的な生活をしているのだろう。本からの知識だけでは知ることのできない全てがここにある気がした。ここで出会えたのはある意味運命では?!
「あの……ライラさん!お願いがあるんです!」
私は眼鏡がずり落ちるのも気にせず、おばあさんの手を握りしめるのだった。
それから私はライラさんと仲良くなって色々と教えてもらうようになる。料理に裁縫、畑の手入れ。もちろん薬の調合方法まで。
どうやら私は森に気に入られたらしくその後何度も足を踏み入れても、もう道に迷うことはなかった。
「え?シロはただの小鳥じゃなくて森の聖霊?」
「シロちゃんみたいな種類の鳥はいないからねぇ」
それから数日。私はシロと共に毎日この家に通い、いつものように教わりながら鍋をかき回しているとそんな驚き情報を告げられたのだ。
今日は傷口に塗る軟膏の作り方を教わっている。しかし、集中して煮込めって言った矢先になぜ突然そんな情報を教えてくるのか。めっちゃ戸惑うんですけど。
「ほら、焦げたらやり直しだよ」
「は、はい!」
慌てて火加減を調整しながら慎重にかき混ぜる。くっ!もはや世間話も試練のうちか。
聖霊とはこの世界の自然界に存在していて、魔力とも関連があるらしいが詳しいことはまだ解明されていない。なにせ人間の前に現れることがほとんどなく、その姿を見ることができる人間もほとんどいないからだ。
“魔力持ち”には聖霊と交流する能力があるらしい……とは言われているが、その“魔力持ち”すらも希少な存在なので研究が進まないらしいのだ。
「シロが聖霊……」
今も私の頭の上でこっくりこっくりと居眠りをして、かなり食いしん坊なシロが?
なんでも私の魔力が居心地良くて気に入ったからこの森に連れてきたらしい。ライラさんは森の意思を感じられるらしくそう教えてくれた。
よくもまぁ、こんなわずかしかない私の魔力を感知したものだ。
シロって、ヨダレ垂らして居眠りするしおやつのクッキー丸飲みするし変な小鳥だと思ってたのよ。しかしまさかの正体。さらに聖霊に名前をつけると契約したことになるらしく、シロは私の専属聖霊になってしまっていた。なんてこったい。
うーん、魔力持ちで聖霊持ちなんて何百年か前の伝説に出てきそうな人物になってしまったのではないだろうか?
……うん、よし。聖霊としての姿もあるらしいが、シロには是非とも今の小鳥のままでいていただきたい。
「私の魔力で聖霊が反応したなら、ライラさんならもっとすごい聖霊がついてるんじゃないんですか?」
「わたしかい?わたしにはそんな聖霊なんていないねぇ」
ライラさんは「そうだねぇ……」と手を頬に当てながら首を傾げた。
「わたしを守護してくれてるのは聖霊じゃなくて、この森全体かねぇ」
そういえば、この森は意思を持つ不思議な森だった。思わず「規模がでかい……」と呟くと、ライラさんのピシャリとした声が響いた。
「ほら、また焦げそうだよ「はいぃぃぃつ!」ダメだねぇ、やり直し」
ライラさんは普段とても優しいしおっとりしているのだが、薬作りに関してはものすごく厳しいのだ。
そんなわけで私はライラさんにお願いして“森の魔女”に正式に弟子入りした。
私の魔力はライラさんの魔力に似てるらしく魔力を込めた薬作りもすんなり覚えられた。どうやら秘めた才能が開花したみたいだ。それからすぐに「師匠」「アリア」と呼び合う師弟関係になり、私の修行は順調に進んでいったのだった。
「軟膏完成!私ってば天才じゃない?!」
「材料をひとつ入れ忘れてるねぇ。これじゃあ本来の効能は出ないよ。ほら、やり直しだねぇ」
師匠がポケットから薬草を出して見せてくる。
「……最初に教えてくださいよ、師匠」
「ちゃんと自分で調べて確認しないとねぇ」
にっこりと極上の笑顔で師匠で私に鍋を混ぜる用のお玉を手渡してきた。師匠はおっとりした顔でかなりスパルタなのである。
******
「そういえば……師匠は昔、争いの種にされたって言ってましたけど何があったんですか?」
「それはねぇ、髪の毛が生えてくる薬を作ったら、なんだか奪い合いになってしまってねぇ」
なんでもその薬用の薬草や材料がかなり貴重な物が多くて、あまり数が作れないと言ったら大変な事になったんだとか……。
悩んでる人が多かったのかしら?とりあえず、毛生え薬を作るのはやめておこうと思ったのだった。
38
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~
糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」
「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」
第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。
皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する!
規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)
たいした苦悩じゃないのよね?
ぽんぽこ狸
恋愛
シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。
潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。
それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。
けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。
彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。
婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。
しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。
「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。
傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。
封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。
さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。
リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。
エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。
フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。
一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。
- 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛)
- 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛)
- 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛)
- もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛)
最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。
経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、
エルカミーノは新女王として即位。
異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、
愛に満ちた子宝にも恵まれる。
婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、
王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる――
爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!
悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた
nionea
恋愛
ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、
死んだ
と、思ったら目が覚めて、
悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。
ぽっちゃり(控えめな表現です)
うっかり (婉曲的な表現です)
マイペース(モノはいいようです)
略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、
「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」
と、落ち込んでばかりもいられない。
今後の人生がかかっている。
果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。
※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。
’20.3.17 追記
更新ミスがありました。
3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。
本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。
大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
悪役令嬢に転生!?わたくし取り急ぎ王太子殿下との婚約を阻止して、婚約者探しを始めますわ
春ことのは
恋愛
深夜、高熱に魘されて目覚めると公爵令嬢エリザベス・グリサリオに転生していた。
エリザベスって…もしかしてあのベストセラー小説「悠久の麗しき薔薇に捧ぐシリーズ」に出てくる悪役令嬢!?
この先、王太子殿下の婚約者に選ばれ、この身を王家に捧げるべく血の滲むような努力をしても、結局は平民出身のヒロインに殿下の心を奪われてしまうなんて…
しかも婚約を破棄されて毒殺?
わたくし、そんな未来はご免ですわ!
取り急ぎ殿下との婚約を阻止して、わが公爵家に縁のある殿方達から婚約者を探さなくては…。
__________
※2023.3.21 HOTランキングで11位に入らせて頂きました。
読んでくださった皆様のお陰です!
本当にありがとうございました。
※お気に入り登録やしおりをありがとうございます。
とても励みになっています!
※この作品は小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる