【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com

文字の大きさ
23 / 36

23 ど近眼魔女は動き出す

しおりを挟む
「さよなら、ハンナ……。どうか幸せにーーーー」

 ハンナに別れを告げたその日、夜空に流れたひとつの流れ星に私は願った。そして、これまでのハンナとの思い出を思い出していた。

 ハンナは私にとって“母親”代わりだった。もちろん今世の母親は健在だし、前世の記憶の中にも母親はいる。だが、アリアーティア・・・・・・・の母親はあんなだったし、前世の記憶だって徐々に薄れていっていく中で幼いアリアーティアが“母親”のように甘えられる存在はハンナしかいなかった。

「ハンナ……ずっと大好き。今までありがとう」

 私の全てを受け入れてくれて、全て信じてくれた希少な人。ハンナがいてくれたからこそ頑張れたのだ。たまに厳しかったけれど、いつも無表情なのに僅かな違いがわかるようになった時は本当に嬉しかったのを覚えている。そんなハンナが結婚して生まれた子供を私が奪ってしまった。

 だから、私は必ずコハクを救ってみせる。

 ハンナが大切なように、コハクも大好きでとても大切な存在だ。もはやコハクは私の一部だと言っても過言ではないのだから。


 もしも、ハンナが本当にあの薬を飲まずに覚えていてくれるのなる……いつかコハクと一緒に会いに行こう。

 だから待っていて、ハンナ。きっと、コハクを助けて会いに行くからーーーー。






 ***








「さて、と」

 私はまとめた荷物をリュックに押込めて背中に背負った。行く先は決まっている。もちろん隣国だ。

 あれから隣国について調べに調べたが、わかったのは密やかに伝わる伝承くらいだった。だが、私の足を動かすには充分な理由となった。


 〈昔々はるか昔、その国にはとある獣が存在していました。

 その獣はそこいらの獣とは違う醜い姿をしていて、力も強かった為に人々に恐れられていたのです。

 目にした者を心底怯えさせるその醜い異形はまるで色々な動物をツギハギしたような姿だったそうです。

 鋭い爪は岩をも軽く砕く脅威の力を持っています。

 人間の言葉を理解しているであろう知能はただ不気味でしかありませんでした。

 その全てが恐怖の対象だったのです。


 まず、その国はこの異形の獣の存在を隠しました。そんな獣が存在する事を恥じたのでしょう。
 見た目が醜く恐ろしい人語を理解する獣など、存在すら認めてはいけないと思ったのでしょう。

 そう信じていたからこそ、その国はひたすらに醜い異形の獣の存在を隠し続けました。時には討伐しようともしましたが異形の怪物に人間が勝てるはずもなく国が滅ぼされるのを覚悟した時……。

 一人の“不思議な力を持つ人間”がその国にやってきたのです。

 そしてその“不思議な力を持つ人間”は、なんと異形の獣の姿を岩へと変え、封印したのです。

「この岩を神獣として崇めると誓え。そうすればこの封印が解けることはないだろう」そう言葉を残したそうです。

 それから王家は秘密りにその岩を“神獣の岩”として祀りました。ですが心から崇めていたわけではなく、ただ封印が解けて異形の獣が再び目覚めるのを恐れていたからです。

 その時から王家の人間には重大な使命が与えられました。この異形の獣の封印が決して解けないように「崇める」使命です。ですが決して大々的には発表などしません。それを“恥”だと感じる者が多かったのもあるでしょう。そんな屈辱的な信仰でしたが、王家の人間は盲目的に“不思議な力を持つ人間”にした誓いを守り続けました。

 もちろんそれは全て、国の平和を守るためなのですーーーー〉


 私は古文で記されていたその伝承を解読して確信したのだ。

 きっと隣国の聖獣こそが、私の求める聖霊なのだとーーーー。

 だが、この伝承以上の情報は得られなかった。それならば足を踏み入れて実際に目にするしかないだろう。

「さぁ、隣国に乗り込むわよ!シロ!」

「ピィ!」

『じぶん、だいこんあしなんで!!』


 私の足元で興奮気味に葉っぱをわさわさと動かす大根の姿。

 えーと、やる気なところ申し訳ないけど……さすがに隣国に歩く大根なんか連れて行ったら大騒ぎになる気がするわ。





しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

たいした苦悩じゃないのよね?

ぽんぽこ狸
恋愛
 シェリルは、朝の日課である魔力の奉納をおこなった。    潤沢に満ちていた魔力はあっという間に吸い出され、すっからかんになって体が酷く重たくなり、足元はふらつき気分も悪い。  それでもこれはとても重要な役目であり、体にどれだけ負担がかかろうとも唯一無二の人々を守ることができる仕事だった。  けれども婚約者であるアルバートは、体が自由に動かない苦痛もシェリルの気持ちも理解せずに、幼いころからやっているという事実を盾にして「たいしたことない癖に、大袈裟だ」と罵る。  彼の友人は、シェリルの仕事に理解を示してアルバートを窘めようとするが怒鳴り散らして聞く耳を持たない。その様子を見てやっとシェリルは彼の真意に気がついたのだった。

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

悪役令嬢ってもっとハイスペックだと思ってた

nionea
恋愛
 ブラック企業勤めの日本人女性ミキ、享年二十五歳は、   死んだ  と、思ったら目が覚めて、  悪役令嬢に転生してざまぁされる方向まっしぐらだった。   ぽっちゃり(控えめな表現です)   うっかり (婉曲的な表現です)   マイペース(モノはいいようです)    略してPUMな侯爵令嬢ファランに転生してしまったミキは、  「デブでバカでワガママって救いようねぇわ」  と、落ち込んでばかりもいられない。  今後の人生がかかっている。  果たして彼女は身に覚えはないが散々やらかしちゃった今までの人生を精算し、生き抜く事はできるのか。  ※恋愛のスタートまでがだいぶ長いです。 ’20.3.17 追記  更新ミスがありました。  3.16公開の77の本文が78の内容になっていました。  本日78を公開するにあたって気付きましたので、77を正規の内容に変え、78を公開しました。  大変失礼いたしました。77から再度お読みいただくと話がちゃんとつながります。  ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...