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23 ど近眼魔女は動き出す
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「さよなら、ハンナ……。どうか幸せにーーーー」
ハンナに別れを告げたその日、夜空に流れたひとつの流れ星に私は願った。そして、これまでのハンナとの思い出を思い出していた。
ハンナは私にとって“母親”代わりだった。もちろん今世の母親は健在だし、前世の記憶の中にも母親はいる。だが、アリアーティアの母親はあんなだったし、前世の記憶だって徐々に薄れていっていく中で幼いアリアーティアが“母親”のように甘えられる存在はハンナしかいなかった。
「ハンナ……ずっと大好き。今までありがとう」
私の全てを受け入れてくれて、全て信じてくれた希少な人。ハンナがいてくれたからこそ頑張れたのだ。たまに厳しかったけれど、いつも無表情なのに僅かな違いがわかるようになった時は本当に嬉しかったのを覚えている。そんなハンナが結婚して生まれた子供を私が奪ってしまった。
だから、私は必ずコハクを救ってみせる。
ハンナが大切なように、コハクも大好きでとても大切な存在だ。もはやコハクは私の一部だと言っても過言ではないのだから。
もしも、ハンナが本当にあの薬を飲まずに覚えていてくれるのなる……いつかコハクと一緒に会いに行こう。
だから待っていて、ハンナ。きっと、コハクを助けて会いに行くからーーーー。
***
「さて、と」
私はまとめた荷物をリュックに押込めて背中に背負った。行く先は決まっている。もちろん隣国だ。
あれから隣国について調べに調べたが、わかったのは密やかに伝わる伝承くらいだった。だが、私の足を動かすには充分な理由となった。
〈昔々はるか昔、その国にはとある獣が存在していました。
その獣はそこいらの獣とは違う醜い姿をしていて、力も強かった為に人々に恐れられていたのです。
目にした者を心底怯えさせるその醜い異形はまるで色々な動物をツギハギしたような姿だったそうです。
鋭い爪は岩をも軽く砕く脅威の力を持っています。
人間の言葉を理解しているであろう知能はただ不気味でしかありませんでした。
その全てが恐怖の対象だったのです。
まず、その国はこの異形の獣の存在を隠しました。そんな獣が存在する事を恥じたのでしょう。
見た目が醜く恐ろしい人語を理解する獣など、存在すら認めてはいけないと思ったのでしょう。
そう信じていたからこそ、その国はひたすらに醜い異形の獣の存在を隠し続けました。時には討伐しようともしましたが異形の怪物に人間が勝てるはずもなく国が滅ぼされるのを覚悟した時……。
一人の“不思議な力を持つ人間”がその国にやってきたのです。
そしてその“不思議な力を持つ人間”は、なんと異形の獣の姿を岩へと変え、封印したのです。
「この岩を神獣として崇めると誓え。そうすればこの封印が解けることはないだろう」そう言葉を残したそうです。
それから王家は秘密りにその岩を“神獣の岩”として祀りました。ですが心から崇めていたわけではなく、ただ封印が解けて異形の獣が再び目覚めるのを恐れていたからです。
その時から王家の人間には重大な使命が与えられました。この異形の獣の封印が決して解けないように「崇める」使命です。ですが決して大々的には発表などしません。それを“恥”だと感じる者が多かったのもあるでしょう。そんな屈辱的な信仰でしたが、王家の人間は盲目的に“不思議な力を持つ人間”にした誓いを守り続けました。
もちろんそれは全て、国の平和を守るためなのですーーーー〉
私は古文で記されていたその伝承を解読して確信したのだ。
きっと隣国の聖獣こそが、私の求める聖霊なのだとーーーー。
だが、この伝承以上の情報は得られなかった。それならば足を踏み入れて実際に目にするしかないだろう。
「さぁ、隣国に乗り込むわよ!シロ!」
「ピィ!」
『じぶん、だいこんあしなんで!!』
私の足元で興奮気味に葉っぱをわさわさと動かす大根の姿。
えーと、やる気なところ申し訳ないけど……さすがに隣国に歩く大根なんか連れて行ったら大騒ぎになる気がするわ。
ハンナに別れを告げたその日、夜空に流れたひとつの流れ星に私は願った。そして、これまでのハンナとの思い出を思い出していた。
ハンナは私にとって“母親”代わりだった。もちろん今世の母親は健在だし、前世の記憶の中にも母親はいる。だが、アリアーティアの母親はあんなだったし、前世の記憶だって徐々に薄れていっていく中で幼いアリアーティアが“母親”のように甘えられる存在はハンナしかいなかった。
「ハンナ……ずっと大好き。今までありがとう」
私の全てを受け入れてくれて、全て信じてくれた希少な人。ハンナがいてくれたからこそ頑張れたのだ。たまに厳しかったけれど、いつも無表情なのに僅かな違いがわかるようになった時は本当に嬉しかったのを覚えている。そんなハンナが結婚して生まれた子供を私が奪ってしまった。
だから、私は必ずコハクを救ってみせる。
ハンナが大切なように、コハクも大好きでとても大切な存在だ。もはやコハクは私の一部だと言っても過言ではないのだから。
もしも、ハンナが本当にあの薬を飲まずに覚えていてくれるのなる……いつかコハクと一緒に会いに行こう。
だから待っていて、ハンナ。きっと、コハクを助けて会いに行くからーーーー。
***
「さて、と」
私はまとめた荷物をリュックに押込めて背中に背負った。行く先は決まっている。もちろん隣国だ。
あれから隣国について調べに調べたが、わかったのは密やかに伝わる伝承くらいだった。だが、私の足を動かすには充分な理由となった。
〈昔々はるか昔、その国にはとある獣が存在していました。
その獣はそこいらの獣とは違う醜い姿をしていて、力も強かった為に人々に恐れられていたのです。
目にした者を心底怯えさせるその醜い異形はまるで色々な動物をツギハギしたような姿だったそうです。
鋭い爪は岩をも軽く砕く脅威の力を持っています。
人間の言葉を理解しているであろう知能はただ不気味でしかありませんでした。
その全てが恐怖の対象だったのです。
まず、その国はこの異形の獣の存在を隠しました。そんな獣が存在する事を恥じたのでしょう。
見た目が醜く恐ろしい人語を理解する獣など、存在すら認めてはいけないと思ったのでしょう。
そう信じていたからこそ、その国はひたすらに醜い異形の獣の存在を隠し続けました。時には討伐しようともしましたが異形の怪物に人間が勝てるはずもなく国が滅ぼされるのを覚悟した時……。
一人の“不思議な力を持つ人間”がその国にやってきたのです。
そしてその“不思議な力を持つ人間”は、なんと異形の獣の姿を岩へと変え、封印したのです。
「この岩を神獣として崇めると誓え。そうすればこの封印が解けることはないだろう」そう言葉を残したそうです。
それから王家は秘密りにその岩を“神獣の岩”として祀りました。ですが心から崇めていたわけではなく、ただ封印が解けて異形の獣が再び目覚めるのを恐れていたからです。
その時から王家の人間には重大な使命が与えられました。この異形の獣の封印が決して解けないように「崇める」使命です。ですが決して大々的には発表などしません。それを“恥”だと感じる者が多かったのもあるでしょう。そんな屈辱的な信仰でしたが、王家の人間は盲目的に“不思議な力を持つ人間”にした誓いを守り続けました。
もちろんそれは全て、国の平和を守るためなのですーーーー〉
私は古文で記されていたその伝承を解読して確信したのだ。
きっと隣国の聖獣こそが、私の求める聖霊なのだとーーーー。
だが、この伝承以上の情報は得られなかった。それならば足を踏み入れて実際に目にするしかないだろう。
「さぁ、隣国に乗り込むわよ!シロ!」
「ピィ!」
『じぶん、だいこんあしなんで!!』
私の足元で興奮気味に葉っぱをわさわさと動かす大根の姿。
えーと、やる気なところ申し訳ないけど……さすがに隣国に歩く大根なんか連れて行ったら大騒ぎになる気がするわ。
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