殿下!死にたくないので婚約破棄してください!

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毒吐き執事がトドメを刺してくる(ハインリヒト視点)

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    あれから3日。あの日、僕はいつの間にか自分の部屋にいた。どうやって帰ってきたのか記憶がない。いまだにココにはっきりと「婚約破棄してください」と言われたショックから立ち直れずに部屋に引きこもっている。



    思えばココはいつも「婚約破棄」と言う言葉を口にしていた。それでも決定的な言葉ではなくあくまでも「私は殿下に相応しくないですから、今のうちに婚約破棄しましょ?」とか「きっと殿下には運命の相手が現れますから、その時に私との婚約が邪魔になるかもしれませんわ。後になって悔やんだり煩わしくならないようにとにかく婚約破棄しましょうよーっ」みたいな、僕の為に身を引きたい的な発言と共にだったのだ。少し焦ったような悩んでるような、そんな雰囲気を纏っての発言は照れてつい言ってるのだろうと思うと、可愛らしいくて愛しさが溢れた。

    でも、今回はいつもと全然違った。

    色々な事を諦め、疲れ果てたような表情。まるで今までの努力が全て無駄だったと言わんばかりの声。

    ……僕に対して絶望を感じた。と。そう言われたような気がしたんだ。


「……ココ」


    ゲームでの悪役令嬢は、盲目的に王子を愛していた。それなのに王子は婚約者である悪役令嬢を裏切り婚約破棄して断罪したとんでもない奴だ。だから僕は絶対に婚約破棄なんかしないと誓ったのに……。

「君を幸せにしたかっただけなのにーーーー」

「こんなところで何をしているんですか、殿下。まさかハインリヒト殿下ともあろう方が部屋の真ん中で潰れたカエルのように寝そべって絨毯に頬擦りする趣味があったなんて驚き過ぎて恥さらしもいいところですね。死んで腐った提灯アンコウのような目をしている殿下なんてめんどく……ゲフンゲフン。陛下も(たぶん)心配なさってますよ」

    今、絶対「めんどくさい」って言おうとしたよな?!しかも主君であるはずの僕の事を「潰れたカエル」とか「死んで腐った提灯アンコウみたい」って、それ執事の発言としてどうなの?!

「……お前はそのうち不敬罪で投獄されるぞ?ウィン」

「殿下はそんなことなさらないから大丈夫です。ほら早く立って下さい、殿下にお客様がいらしていますよ」

    僕をいつもよりさらに冷たいブリザードな目で見下ろしていた執事のウィンのその言葉に「まさかココ……?!」と一瞬だけ死んで腐った提灯アンコウのような目に光がさした。

が。

「そんなわけないでしょう。見捨てられたくせに」

    逆にトドメを刺された。ぐっはぁ!!

「まぁ、公爵令嬢はこの婚約にあまり乗り気ではなかったようですし、若干……かなり、うざ……いえ、キモ……ゲフンゲフン。気持ち悪いストーカーみたいな事もしてましたしね。嫌われて当然では?」

グサグサッ!(心にダメージの剣が刺さった音)

「しかも、婚約者である公爵令嬢の目の前で他の令嬢を庇ったように見える行動をしたと?殿下が公爵令嬢を気持ち悪いくらい懸想されているのは知っていますからもちろん誤解でしょうが、それでもそう見える行為をしたのでしょう?さらに言い訳しようとして口ごもったなんて最低です。どうせまた公爵令嬢に対してストーカー的思考でなにかしようとして失敗したのでしょうが……やっぱり気持ち悪いです」

グサグサグサッ!(致命的ダメージ)

「殿下って……第二王子っていう肩書きがなければ本当に変態ですね」

「もうやめてくれーっ!僕のライフポイントはゼロだぁぁぁぁぁ!!」

    なんでこの執事はにっこり微笑みながらこんなに毒を吐くんだよ?!

「ウィンは僕に忠誠を誓ったんじゃなかったのか?!」

    思わず起き上がって文句を言えば(半泣き)、ウィンは「はっ」と僕を鼻で笑った。

「地べたに這いつくばってる失恋した変態に誓う忠誠などありませんね。あぁ、やっと起き上がりましたね。ではお客様をお通しします」

    む、謀反だぁ……!

    なんて的確に急所をついてくる奴なんだ!とかなりむかつく。だが、こんなめちゃくちゃな毒吐き執事でも僕はなぜなウィンを嫌いになれないんだよなぁ。

「……ウィンに慰めてもらえるわけがないか。それで、お客ってーーーー」

    誰か来客の予定なんてあったっけ?と、ため息混じりで立ち上がりゆっくりと開いた扉に視線を送る。しかしそこにいた人物の姿に一瞬言葉を失ってしまった。

    まばたきすらせずに僕がその人物を食い入るように見ていると、ウィンが口を開いた。

「本当なら第二王子に突然会いたいと言われてもお通しなどしないのですが……ヴォルティス公爵令嬢に関しての大切なお話とのことでしたので、私の独断でお通し致しました。後でどのようにも罰をお受けしますので……どうか、このヘタレ王子をお願い致します」

「……ありがとうございます、ウィンさん。

    ハインリヒト殿下、ヴォルティス公爵令嬢について大切な話があるんです。これは、彼女の命に関わる事なんです。どうか俺の話を聞いてくださいーーーー」

    そう言って紺色の髪が頭を下げた。


    アルフレッド・エンデアイ。

    僕と同じく攻略対象者で、以前ココに絡んでいたこの教師が一体何をしに来たというのかーーーー?

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