殿下!死にたくないので婚約破棄してください!

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なんでぇ?(ヒロイン視点)

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「殿下、私と婚約破棄してください」


 あの日、確かにルージュココさんはそう言った。

 あたしはその言葉を聞いてすごく嬉しかった。だって、これで王子様はいぢわるな悪役令嬢から解放されるし、今まで虐げられていた周りの人たちも幸せになれるからだ。

 みーんな、ハッピーになれたんだもん!きっとこれからたくさんの人に感謝されるよね!あたしってば正義の味方みたいじゃない?わーい☆

 まずは、ルージュココさんに無理に従わされていたクラスメイトたちに「もう大丈夫だよ」って教えてあげなくちゃ。王子様の婚約者でなくなれば権力だって振りかざせなくなるもの、これでみんな自由に学園生活を楽しめるはずだ。

 それに、これで障害のなくなった王子様はあたしに結婚を申し込んでくれる。だって、あたしと王子様は運命の赤いパスタで結ばれてるから!(キャッ♡)

「みんな!あたし、やりました!悪は滅びたんです!これでみんなは権力なんかに怯えなくていいんですよ!」

 あたしは今ここで起きた騒動を遠巻きに見ていた生徒たちに向かって叫んだ。あんなに悪い人だもの、王子様の婚約者でさえなくなれば学園から追放だって出来るはずである。なによりも王子様が率先して手伝ってくれるだろうから時間の問題だと思う。生徒会長だってそう言ってたし!
 あたしは学園の平和を守ったんだ。家に帰ったらお義父様にも教えてあげよう。絶対に喜んでくるよね!こんなあたしを引き取って育ててくれている義父にこんなに早く恩返し出来るなんて嬉しいなぁ。あ、まだお嫁いかないでくれって泣かれちゃうかな☆

 そういえば、ルージュココさんは王子様に水をぶっかけた後そのまま帰ってしまった。いくら王子様があたしを庇ったのがショックだったからって学園をサボるなんて不良だわ。やっぱりあの人は悪役令嬢なんだ!と確信したわ。あたしのことを虐めていいとは言ったけど、まさかあたしを庇ってくれた王子様に水をかけるなんて不敬で訴えられないといいけど。と心配したものの、さらに不敬だと思う婚約破棄を突きつけて逃げ去ったんだから水をぶっかけた罪なんかでは訴えられないだろう。そうだ!せっかく王子様が私を庇ってくれたんだからお礼を言わなくちゃね!

「王子様!……あれ?王子様がいなくなっちゃった」

 あたしはキョロキョロと辺りを見回したが王子様の姿はない。床に空のコップと水溜りがあるだけだった。

「王子なら、帰ったよ」

「会長!」

 床に座り込んだままのあたしに手が差し伸べられる。それは最近とても親切にしてくれる生徒会長ことフレデリック・カッセラードであった。

「王子様ったら、そんなに慌てて婚約破棄の手続きをしたかったのかしら……せっかちさんなんだから☆」

 でも、しょうがないか。とあたしはひとりで納得する。だって、王子様もルージュココさんには困っていたみたいだし嬉しかったのだろう。

 よし、あたしは副会長として会長に協力してもらってあの悪役令嬢の退学手続きを進めようかな。王子様とあたし、ふたりで協力すればどんな問題も早く解決するのだと周りに認めてほしかったのだ。そうすれば、全て丸く治まると思ったから。

 だが、その日は生徒会の仕事が忙しくてほとんど教室にいられなかった。副会長になったばかりだからか、やたらと書類仕事が多い気がする。ん?この役員交代とかってなんだろう?とりあえずサインしとけばいいか。あーあぁ、せっかくだからルージュココさんの取り巻きをやらされていた人たちとお話したかったのになぁ。しょうがない、明日のお楽しみね。























 その日の夜、お義父様や屋敷の使用人たちはあたしの話を聞いて顔色を悪くしていた。どうしたのか聞いてもみんな「どうしたら……」と狼狽えるばかりだった。不思議に思いながらも、きっといきなり男爵令嬢あたしが王子様の婚約者になる、なんて言ったから戸惑っているのね。ある意味サプライズみたいな?

 翌朝はやたらとカレーが食べたくなって料理長に無理を言ってメニューを変更してもらった。どうやらお米がなかったらしくて、だったらパンでいいよって言ったら「これはナンと言う、カレーに合うパンのようなものらしいです」と平べったいパンを渡された。美味しいからいっか!そうこうしてたらまたもや学園に遅刻しそうになってしまい、そのナンを口に咥えてカレーの入った器を抱えながら走ったらなんと学園の先生に遭遇したのだ。

 やだ、びっくり!そういえば以前もカレーライスを食べながら走っていたらこの先生に出会ったけど……もしかして運命?!あたしったら、王子様以外にも運命の人がいたの?!って思いながら走っていたらその先生はいつの間にかいなくなってしまった。確か担任の先生だったはずだけど……名前なんていったっけ?うーん……まぁ、いっか!

 そんなこんなでカレーまみれになってしまったけど、なんとか遅刻せずに学園についた。すると、あたしの周りには人がどっと押し寄せてくる。全然顔も知らない人ばかりだったけど、昨日の出来事を称賛してくれているみたいだ。
 やっぱり、あたしのしたことは正しかったんだわ!

 みんなが詳しく教えてくれと聞いてくる。どうやらルージュココさんと王子様は学園をお休みしているらしく、余計に真相を知りたい人たちがあたしにあつまっているようだった。

 だから、真実を教えてあげた。


 “ヴォルティス公爵令嬢が無礼にも殿下に水をぶっかけて婚約破棄を突きつけた。怒った殿下はヴォルティス公爵令嬢を断罪して修道院送りにし、男爵令嬢あたしを新たな婚約者にするつもり”と。

 え?修道院なんてどこから出てきたのかって?そんなの、婚約破棄された悪役令嬢は修道院に送られるって相場が決まってるんだって!生徒会長が教えてくれたのよ☆生徒会長はとっても親切で優しいからなんでも教えてくれるんだぁ!

 それから約3日。王子様もルージュココさんもやっぱり学園には来ていない。だからか、あたしが話した内容はより真実なのではと噂が広まっていった。

 みんながあたしをチヤホヤしてくれるし、生徒会長もすごく優しい。もうすぐ王子様の婚約者になれるんだと思ったら嬉しくてしょうがなかった。


 ただ、クラスメイトたちだけがなぜか冷たい態度をとってくる。いまだ悪役令嬢に洗脳されてるのかと思うと悲しいが、いつかきっとわかってくれるだろう。権力になど屈せずに、自由に生きる楽しさを!


 あたしは間違ってない。

 だから、まさか……悪役令嬢がいなくなってから陰湿なイジメの標的になるなんて思いもしなかった。

 な、なんでなのぉ?!正気に戻ってよ、みんなぁ!




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