【完結】悪役令嬢と魔法使いの物語

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悪役令嬢と魔法使い

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この世には、人間の常識では収まらないが存在する。

 それは神や天使の悪戯か、悪魔の罠か……。

 不可思議な存在とは目に見えなくても確かにあり、誰かの運命を左右するのだ。

 あなたが気付いていないだけで、すぐ側に――――












 僕はよくこんな場面に遭遇する。

 たくさんの人が集まっている中で、王子らしき男がか弱そうな女を背後に庇い立っているのだ。
 そして鋭い剣先を気の強そうな女に向けていた。

 気の強そうな女は着飾ったドレスを踏みつけられ、数人の男に押さえつけられている。

「ティファナ・ローレンス侯爵令嬢、俺はお前との婚約を破棄する! そして彼女を新しい婚約者として迎えることに決めた!」

 言うなれば修羅場と言うやつなのだろう。毎回人物の顔と名前は違えど内容はほぼ同じだ。

 男は婚約者がいるにも拘わらず他の女と浮気してただならぬ関係になってしまう。そして浮気相手と結ばれるために婚約者にあらぬ罪を着せて断罪するのだ。
 しかもその罪というのが、ほとんど男の浮気相手をいじめた罪。
 そんな罪で死刑にされるなんて(しかもだいたい無実)たまったもんじゃないが、そんなものがまかり通るこの世界もたいがいおかしいと思う。まぁ、男の立場はだいたいその国の王子様や権力者だから、金と権力でどうとでもなるのだろう。

「私はそのようなことはしておりません!」

「ええい、嘘をつくな! この女を塔の上の牢にいれろ! お前が罪を認めなければ親や兄妹も同罪……去年産まれたばかりだという妹も死刑だ!」

 男の言葉に女は愕然とし、引きずられるように連れていかれた。

 そうして男は浮気相手の女と堂々といちゃつきだし、ふたりは幸せになるのだそうだ。




 そう、これが

 あの浮気相手の女はヒロインで、世界に愛される存在。そして連れていかれた女はヒロインのライバルで悪役令嬢。
 断罪されるために存在するのだ。

 誰も悪役令嬢を助けようとはしない。ヒロインは愛されるのに、悪役令嬢は愛されない。

 何度も何度も繰り返される同じような寸劇にも、そろそろ飽きてきたな……。








***







「助けてやろうか?」

 塔のてっぺんにある冷たい石で囲まれた牢獄に私はいた。婚約者だった王子に裏切られ、突然現れたよく知らない男爵令嬢をいじめた罪で明日の夜明けと共にこの首を切り落とされるのだ。
 もちろん私はいじめなんてしていない。幼い頃から侯爵令嬢として、王子の婚約者として間違った行いをしてはいけないと教育されてきたし、王子が他の令嬢と少し仲良くしていたくらいで嫉妬にかられるなんてするはずがない。
 しかし王子も友人だと思っていた人たちも、誰も信じてくれなかった。まるでそれが絶対の真実で世界の理だとでもいうかのように。

「……だ、だれですか?」

 私の背よりも高い位置にある小さな窓から声が聞こえる。その人物は月の光に照らされてとても美しかった。

「僕が誰かなんてどうでもいいだろう? それより、ここから助けてやろうか?」

 漆黒のように黒い髪と、ルビーのような紅い瞳。右目の下にある小さな泣き黒子が印象的な黒衣に身を包んだ少年がそこにいた。

 なんて、きれい。思わずそう呟きそうになり我に返る。今はそんな状況ではないのになんだか恥ずかしかった。

「わ、私を助けて下さるの? でも、私が罪を認めないと親や兄妹が……」

 まだ1歳になったばかりの可愛い妹。いくら私が無実だと訴えてもあの王子の権力があれば本当に妹も殺されてしまうかもしれない。

「なんだ、じゃあ死にたいのか。 それとも本当に罪を犯したのか?」

「……死にたくなんかありません! それに私は神に誓っていじめなんて卑劣な行為はしておりませんわ!」

 すると少年は口元に微笑みを浮かべ、窓からふわりと飛び降りた。それはまるで羽根がゆっくりと落下するように優雅で美しく、またも見惚れてしまう。

「神なんてなにもしてくれないぞ? そんなものに誓うくらいなら、僕に誓え――――」


 そして私は、彼が差し出した手を取り牢獄の窓から外へと飛び降りたのだった。











 その後、悪役令嬢を断罪するためにやって来た王子は牢獄の中にあるものを見て青ざめた。

 そこには自分がおとしいれた元婚約者と同じ格好をした干からびたミイラがいたからだ。石の壁には無実を訴えた言葉が血文字で書かれており、真実を明かしてくれなければ王子と男爵令嬢を呪ってやると記されていた。

 後日、悪夢に毎夜うなされると言っていた男爵令嬢がとうとう自分が嘘をついて騙したのだと告白する。ついでに王子もこっそりやっていた横領などの悪行がバレてしまい、芋づる式に周りの令息たちもやらかしていた事が露見したとか。

 悪役令嬢の家族におとがめはなく、王家から謝罪と賠償金をもらったが王族を見限り田舎でひっそりと暮らすことにしたらしい。










***






 ここはどこにもないけれどどこかにある不思議な場所。そこで私は彼の隣に座っていた。

「あなたは魔法使い様でしたのね。 どうして私を助けてくれましたの?」

 あの日、私は彼の手を取った。すると彼は私の長い金色の髪をバッサリと切り落とし、その髪になにか魔法をかけ、その髪の塊が私の姿へと変化したのだ。
 そしてミイラのような容貌になった私の髪を横たえ、指をパチンと鳴らせば、壁には血文字が現れた。

「別に、ただの気まぐれだ」

 彼と手を繋ぎ、体がふわりと軽くなると窓までも軽々と上がることが出来た。そのまま外へと飛び出し、私は自由になったのだ。

「そうですか……」

 彼は命の恩人だ。私は死んだことになり、家族も守られた。王子はどうやら王位継承権を失ったようだし、あの男爵令嬢もどこかへ姿を消したらしい。

 私は短くなった髪を指先ですくう。元々金色だった髪だが、彼に魔法をかけられた後遺症なのか真っ白になってしまった。自分では見えないけれど瞳の色も変わってしまい、緑色だったはずが灰色になってしまったらしい。
 彼いわく、今まで見ているだけで初めて気まぐれを起こしたから、なんでそうなったのかわからない。とのことだ。

「私は、これからどうしたらいいのでしょうか?」

「……好きにすればいい。 もう誰もお前を断罪したり出来ないさ」

 私は彼の肩に頭をのせる。

「それなら、私はここにいますわ。 私の髪をこんなにしてしまったんですから、あなたにも責任がありましてよ?」

「命を救ってやったろ?」

「あら、髪は女の命と言いますでしょう?」

 彼は「なんだよ、それ」と呆れた顔をしたが、優しく私の髪を撫でた。

「お前の望みはなんだ?」

 彼の紅い瞳に私の笑顔が映った。

「あなたの名前が知りたいですわ。 それに、私のことはティファナ……いいえ、やっぱり侯爵令嬢の名前は捨てます。 どうか、ティナと呼んで下さい」


「僕の名はシリウス。 この名前を知ってしまったら、もう僕から逃げられないぞ? ……ティナ」



 彼は世界の狭間で生きる不思議な魔法使い。 彼が起こす気まぐれは、人々にさまざまな結果をもたらすだろう。
 それは神や天使の悪戯か、悪魔の罠か……。

 彼が起こした気まぐれが、私の運命を大きく変えたのだけは確かだった。




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