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67 我が国王について(ターイズ視点)
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「もうダメだ、詰んだ。オレの人生はここで終わった。もう修了だ……!」
とあるその日の夜。それでなくても明日はとんでもなく……いや果てしなく忙しくなることが確定していると言うのに、誰よりも働いてもらわなくてはいけない男が床に膝を付き絶望の表情でなにやらブツブツと呟いていた。
その姿にもはや威厳など欠片もない。その様子を目撃した周りの使用人たちがどうしたらいいのかと慌てふためいているくらいだ。ちなみにその態度が誤解を生んでいることに本人は全く気付いていないようだった。憐れな……。
「はぁぁぁぁぁ……なにをやっているんだ、ジル」
まったく。と、これが自分が生涯仕えると決めた主君の姿なのかと思うと思わずため息が出てしまったがそれも仕方ないだろう。情けないにも程がある。
まぁ、今更ため息や落胆くらいで不敬だのなんだのと騒がれるような関係ではないし、この男の懐の広さはよく知っている。と言うか、どのみち今はそんな事を気にしている余裕などないだろうが。
これでも幼い頃からの幼馴染みだ。こいつの事はそれなりに知っているつもりだ。これまで「不吉な灰眼」、「呪われた存在だ」と、父親の血筋からしたら正統なる王子であるに関わらず不当な扱いを受けて散々周りから差別され続けてきたせいか捻くれてしまったのは否めないが。しかしふてぶてしいのが長所だったはずなのに、まさか初恋を拗らせたせいでここまで腑抜けになるとは驚きだ。
「……ロティーナが、新しいドレスを断わってたって……今、報告が……」
「今更そんな報告……何日前の事を言っているんだ?それに聖女様に確認する前にとっくに用意していたんだろう、いつもの調子で渡してくればいいじゃないか」
「でも、ロティーナがオレに会いたくないって……。しかも、邪魔者はいなくなるからとかなんとか言ってたとか……あぁもう、意味がわからない!」
「とうとう告白する前にフラれたのか。まぁ、こんなヘタレ王では愛想を尽かされてもしかたあるまい。あんな噂がそこいらに流れていては聖女様が誤解されるのも仕方がないだろうしな……」
これはレベッカ殿に教えてもらって発覚したことなのだが、なんとジルの熱愛報道が使用人たちの間で話題になっていたのだ。しかしその相手は聖女様ではなくあのがめつ……商売上手な王女だ。この間も聖女様用にと新しいドレスを山程持ってきてジルに売りつけていた。「聖女様にお似合いになると思って♡」と言われたらその姿を想像して全部買ってしまうのだからいいカモにされているのだろう。
まぁ、なんだかんだ言ってあの王女も聖女様が気に入っているようで値段は良心的だし今後の両国の関係が良好になるのならば必要経費だ。だから、それは別にいいのだが……問題はジルと王女の距離感だった。話に盛り上がって(主に聖女様の話で)意気投合するのまではよかったのだが、部屋で二人きりになり(聖女様の事を語り合うのに夢中になって)何時間も出てこないとか、ドレスのカタログを広げて(どれが聖女様に1番似合うかを)談義し合っていたりとか……傍から見たらまるで熱愛中の婚約者のようだったのだ。
以前から多少気になっていたのでそれとなくジルに忠告はしていたのに最早手遅れだったとは……。こんなことなら聖女様のドレスを選ぶ隙などないくらいもっと仕事を詰め込んでやればよかった。息抜きになれば……なんて慈悲心など出さなければよかったと後悔した。
「噂……?なんだそれ」
その噂の当人であるこの男は頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。本当にわかってないらしい。
あぁ、ルーナ様。あなたの息子はなぜこんなにも聖女様以外に興味がないのでしょうか。
レベッカ殿によると、使用人が色々と誤解したせいで聖女様の侍女であるアニー殿が嫌がらせをされていたのだとか。さらには聖女様を批判する輩まで出てきていたなんてとんだ失態である。聖女様がいなければ今の平和な国は無かったのに、聖女様より王女の方がこの国にとって有益だからとかなんとか……。その使用人共の始末はレベッカ殿が手を下してくれたが、もしジルが知っていたら命は無かっただろうなと思う。
1番悪いのはとっとと聖女様に告白しないジルなのだが。
「はぁ……本当に気づいてなかったのか?簡単にいえば────聖女様は、お前とあの王女の真実の愛を邪魔する悪役令嬢と言うものにされてしまっているようだ。たかが伯爵令嬢のくせに国王に寄生するとんでもない女だと……。ほとんどの使用人たちはその噂を信じて聖女様をこの国から追い出そうとして」
バキィ……!!!
ため息をつきながら言い掛けた言葉を遮るように音が響く。どうやらジルが拳で壁の一部を叩き割ったようだった。べコリとへこんだ壁からはパラパラと欠片が落ちている。
「────ロティーナが、どんな扱いを受けているって?」
あ、これは本気で怒ってるな。と思った。こいつは昔から本気でキレると怖いのである。この光景を見ていた使用人たちが震え上がっているようだが、この中に聖女様の悪い噂を信じていたのが何人いたのやら。
壊れた壁を見て、ちょっとだけ笑ってしまったのは内緒だ。
これでヘタレ王の称号を返上してくれるのなら安いものだし、やはり本人が動いてくれないと何も解決しないからな。と。
「そういえば、聖女様はレベッカ殿たちと最後の女子会なるものを開催しているらしいぞ。なにせ明日でお別れだ。お前がそれを許可したと……引き止めてくれなかったと、聖女様がおっしゃっていたからな」
そう言ってジルの肩をぽんと叩けば、ジルはものすごい速さで部屋から飛び出たのであった。
とあるその日の夜。それでなくても明日はとんでもなく……いや果てしなく忙しくなることが確定していると言うのに、誰よりも働いてもらわなくてはいけない男が床に膝を付き絶望の表情でなにやらブツブツと呟いていた。
その姿にもはや威厳など欠片もない。その様子を目撃した周りの使用人たちがどうしたらいいのかと慌てふためいているくらいだ。ちなみにその態度が誤解を生んでいることに本人は全く気付いていないようだった。憐れな……。
「はぁぁぁぁぁ……なにをやっているんだ、ジル」
まったく。と、これが自分が生涯仕えると決めた主君の姿なのかと思うと思わずため息が出てしまったがそれも仕方ないだろう。情けないにも程がある。
まぁ、今更ため息や落胆くらいで不敬だのなんだのと騒がれるような関係ではないし、この男の懐の広さはよく知っている。と言うか、どのみち今はそんな事を気にしている余裕などないだろうが。
これでも幼い頃からの幼馴染みだ。こいつの事はそれなりに知っているつもりだ。これまで「不吉な灰眼」、「呪われた存在だ」と、父親の血筋からしたら正統なる王子であるに関わらず不当な扱いを受けて散々周りから差別され続けてきたせいか捻くれてしまったのは否めないが。しかしふてぶてしいのが長所だったはずなのに、まさか初恋を拗らせたせいでここまで腑抜けになるとは驚きだ。
「……ロティーナが、新しいドレスを断わってたって……今、報告が……」
「今更そんな報告……何日前の事を言っているんだ?それに聖女様に確認する前にとっくに用意していたんだろう、いつもの調子で渡してくればいいじゃないか」
「でも、ロティーナがオレに会いたくないって……。しかも、邪魔者はいなくなるからとかなんとか言ってたとか……あぁもう、意味がわからない!」
「とうとう告白する前にフラれたのか。まぁ、こんなヘタレ王では愛想を尽かされてもしかたあるまい。あんな噂がそこいらに流れていては聖女様が誤解されるのも仕方がないだろうしな……」
これはレベッカ殿に教えてもらって発覚したことなのだが、なんとジルの熱愛報道が使用人たちの間で話題になっていたのだ。しかしその相手は聖女様ではなくあのがめつ……商売上手な王女だ。この間も聖女様用にと新しいドレスを山程持ってきてジルに売りつけていた。「聖女様にお似合いになると思って♡」と言われたらその姿を想像して全部買ってしまうのだからいいカモにされているのだろう。
まぁ、なんだかんだ言ってあの王女も聖女様が気に入っているようで値段は良心的だし今後の両国の関係が良好になるのならば必要経費だ。だから、それは別にいいのだが……問題はジルと王女の距離感だった。話に盛り上がって(主に聖女様の話で)意気投合するのまではよかったのだが、部屋で二人きりになり(聖女様の事を語り合うのに夢中になって)何時間も出てこないとか、ドレスのカタログを広げて(どれが聖女様に1番似合うかを)談義し合っていたりとか……傍から見たらまるで熱愛中の婚約者のようだったのだ。
以前から多少気になっていたのでそれとなくジルに忠告はしていたのに最早手遅れだったとは……。こんなことなら聖女様のドレスを選ぶ隙などないくらいもっと仕事を詰め込んでやればよかった。息抜きになれば……なんて慈悲心など出さなければよかったと後悔した。
「噂……?なんだそれ」
その噂の当人であるこの男は頭上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。本当にわかってないらしい。
あぁ、ルーナ様。あなたの息子はなぜこんなにも聖女様以外に興味がないのでしょうか。
レベッカ殿によると、使用人が色々と誤解したせいで聖女様の侍女であるアニー殿が嫌がらせをされていたのだとか。さらには聖女様を批判する輩まで出てきていたなんてとんだ失態である。聖女様がいなければ今の平和な国は無かったのに、聖女様より王女の方がこの国にとって有益だからとかなんとか……。その使用人共の始末はレベッカ殿が手を下してくれたが、もしジルが知っていたら命は無かっただろうなと思う。
1番悪いのはとっとと聖女様に告白しないジルなのだが。
「はぁ……本当に気づいてなかったのか?簡単にいえば────聖女様は、お前とあの王女の真実の愛を邪魔する悪役令嬢と言うものにされてしまっているようだ。たかが伯爵令嬢のくせに国王に寄生するとんでもない女だと……。ほとんどの使用人たちはその噂を信じて聖女様をこの国から追い出そうとして」
バキィ……!!!
ため息をつきながら言い掛けた言葉を遮るように音が響く。どうやらジルが拳で壁の一部を叩き割ったようだった。べコリとへこんだ壁からはパラパラと欠片が落ちている。
「────ロティーナが、どんな扱いを受けているって?」
あ、これは本気で怒ってるな。と思った。こいつは昔から本気でキレると怖いのである。この光景を見ていた使用人たちが震え上がっているようだが、この中に聖女様の悪い噂を信じていたのが何人いたのやら。
壊れた壁を見て、ちょっとだけ笑ってしまったのは内緒だ。
これでヘタレ王の称号を返上してくれるのなら安いものだし、やはり本人が動いてくれないと何も解決しないからな。と。
「そういえば、聖女様はレベッカ殿たちと最後の女子会なるものを開催しているらしいぞ。なにせ明日でお別れだ。お前がそれを許可したと……引き止めてくれなかったと、聖女様がおっしゃっていたからな」
そう言ってジルの肩をぽんと叩けば、ジルはものすごい速さで部屋から飛び出たのであった。
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