21 / 21
《最終話》悪役令嬢は幸せになる
しおりを挟む
「…………ど、どーゆーことぉ?!」
その日の私は、たぶん一生分驚いた気がしていた。
***
お父様に呼び出された翌日、私は約束通りルークとお出かけ(デート)をすることになった。名目はお父様のお使いでお店に頼んだものを受け取りに行くのだけれど、その合間に屋台で買った串焼きを食べ歩きしたり、噴水の素敵な公園を二人きりで(遠巻きに護衛と侍女あり)散歩したり……
ルークに告白するタイミングを逃したまま1か月が過ぎてしまい、これまで通りの生活が続いていた。相変わらずルークは神出鬼没でいつも私を抱きしめてくれて……でも、あの時の私の返事を聞こうとはしてこなかったのだ。
あの時は私の事を好きだと言ってくれたけれど、今はどうなのだろうか?もしかしたらルークからしたら、私はいつまでも返事をしないでルークを焦らしている悪女のように見えているかもしれない。
それとも……あの告白はお母様方たちに脅されたから仕方なく言ったか、実は気の迷いだったとか……。
時間が経てば経つほどに自信が無くなっていく感覚に襲われ、私はすっかり意気消沈していた。
そんなある日。
いつもの朝。いつもと同じに時間が過ぎるだろうと思っていたその時、それは突然に色濃く変わってしまったのだ。
庭の薔薇が綺麗に咲いたからとルークが園庭でお茶をしようと誘ってくれた。それだけですごく嬉しかったのは事実だが、なぜか私よりもうきうきしている侍女たちがやたらとドレスをコーディネートしてくる。へ?庭でお茶するだけなんだけど?
不思議に思いながらも準備が進み、いつの間にかぴかぴかに磨かれた私は庭に設置されたやたらとぴかぴかな椅子に座らされた。へ?我が家の庭にこんな椅子あったっけ?
そしてなぜかやたらとニコニコした使用人たちが私の周りで薔薇の花びらを撒いているのだ。
……な、なにごと?これからお祭りでもあるの??
「御主人様」
「あ、ルーク。ねぇ、みんなの様子がなんか変なのーーーー」
ひたすら首を傾げる私はいつものごとくいつの間にか側にいたルークの方に疑問を口にしながら振り向くと……なんとルークが片膝をつき、私を優しく見上げていたのだ。
「ルーク……?」
そしてルークは戸惑う私の左手をとり、その薬指に銀色に輝く指輪をはめた。少し大きい指輪がキラリと輝く。
「御主人様……。いや、エメリア。どうかオレと結婚して?これから一生……例え死んで生まれ変わってもずっとエメリアの側にいたいんだ」
「ル、ルーク……?!それって、プロポーズ……。ほ、ほんとに……!?それに、この指輪」
まさかの事態に混乱するが、大きかったはずの指輪が私の指にはまった途端にぎゅるんっ!と縮まりピッタリサイズになったのを目撃して「指輪が勝手に縮まったわ?!」とぽかんとしてしまった。
「あ、この指輪?うん、これって対になってる指輪をつけている相手と魂まで結ばれて絶対に離れられないっていう呪われた指輪なんだよ。カーウェルド公爵と取り引きして、色々仕事を手伝う代わりに秘境から取り寄せてもらったんだ!」
「まぁ、秘境から……。確かにお祖母様ならなんでも持ってそう……って!の、呪われてる指輪なの?!」
「そうだよ。ほら、これでエメリアとオレは何があっても離れられなくなる。死んでこの体が朽ちて魂が生まれ変わっても絶対に結ばれることになるんだ……。無理に二人を引き離そうとすると呪いが反発して魂ごと消滅しちゃうから気をつけてねって言われたけど、手放す気ないから大丈夫♪」
自分の左手を私に見せてにっこりと笑うルーク。その指には同じ指輪がはまっていた。
んんん?なんかちょっぴり怖いことを言われたような……あぁ、でもルークが素敵な笑顔で私を見てる!その笑顔プライスレス!
「よ、よくわからないけど……ルークとずっと一緒にいられるってことなのよね……?嬉しい!私も、ルークが好き。私に出来ることならなんでもするから、結婚して欲しいわ……!」
勢いに乗ってやっと念願の告白もできたし、まさか色々すっ飛ばして結婚することになったのには驚いたが嬉しさの方が勝っているので様々な疑問などは私の頭からすっかり消し飛んでいた。
「エメリアは、オレの側にいてオレに抱きしめられていてさえくれればそれだけでオレは幸せだよ」
「ルークったら、すぐに私を甘やかすんだから……っ!」
「「「おめでとうございます、お嬢様!ルーク様!」」」
盛大に舞い散る薔薇の花びらの中で、ルークがエメリアの額に優しく唇を落とした。真っ赤になって慌てふためくエメリアとそれを嬉しそうに抱きしめるルーク。そんなふたりの姿に使用人たちは心から喜んだそうな。
***
エメリアの父であるカーウェルド公爵は、なによりも愛娘の幸せを願っている。そして、彼女の願う幸せがささやかなものであることも知っていた。
決して聖女として崇められたり、他国の王族に奪い合われたいなどとは微塵も思っていない。たぶんエメリアがその気になれば王族たちを裏から操り国を乗っとることだって可能だろう。彼女の真の能力の目覚めとルークの暗躍があればさほど難しいこともない。
しかし、本人は元より周りの人間もそんなことは望んでいないのだ。
だから、ルークと取り引きをした。一生エメリアの身代わりに治癒師として生きること。エメリアの秘密を探ろうとする者やその平穏を脅かす者がいた場合はどんなことがあろうとも排除すること。エメリアの能力はきっと死んで生まれ変わっても付き纏うものだ。その魂がある限り来世だろうと来来世だろうとエメリアを守ること。未来永劫エメリアの為に生きてエメリアの為に死ね。その覚悟があるならばと呪われた指輪を渡した。
あの指輪は確かに呪われているし、ルークがエメリアにした説明で大方合っているが、ひとつだけ違う。あの指輪の本当の名は〈主従の指輪〉だ。もちろんエメリアのしている方が主人の指輪である。もしもエメリアが魂ごと消えてもいいからルークと別れたいと心底願えば消滅するのはルークの魂のみ。だが、そうすると自身を守ってくれる盾を失うことになるのでエメリアにもダメージはある。それくらいのリスクを背負ってでもエメリアを守る覚悟はあるのかとかなり脅したのだが、ルークは二つ返事で「エメリアから離れる気はないから」と嬉々として指輪を受け取った。
「オレはエメリアの笑顔を守るためだけに生きるって決めたんだ。でも、その隣にいるのはオレでなければ嫌だ。エメリアの気持ちひとつでオレの魂が消滅するっていうなら本望だし、呪いだろうとなんだろうと結ばれるなら願ってもないことだよ。……オレの魂が存在する限り、エメリアは誰にも渡さない」
僅かながら闇を秘めた瞳でそう語るルークにカーウェルド公爵も覚悟を決めたのだった。
あの事件から、実は獣人の国から手紙が届いていた。皇子から詳しい話を聞いた皇妃が「もしかしたら、エメリア嬢には隠された素質があるのでは?」と疑ってきていたのである。さすがに皇子との婚約をなどとは言ってこなかったが、取り込みたいのだろうことは読み取れた。その手紙をくしゃりと握り潰し、カーウェルド公爵は使用人たちに命じたのだった。
「皆のもの!エメリアとルークの結婚式の準備だぁぁぁ!!」
「「「がってん承知!!」」」
こうして、かつて婚約破棄されてキズモノとされたひとりの令嬢は自身の従者と結婚して女公爵となった。彼女のおさめる領地は穏やかで自然豊かだ。森に住まう動物たちも人間と争うようなことはなく仲良く暮らしている。
彼女とその伴侶は孤児院や治療院の設立に力を入れて他の領地からの移民も快く迎い入れていた。最初は「キズモノの女公爵なんて」と眉を顰めるよそ者もいたそうだが、伴侶が希少な治癒師で、さらにとても仲睦まじく愛し合っている姿を知るとだんだんと考えを変えていったらしい。
たまに女公爵に突っかかろうとする貴族もいたようだが、そんなことをする輩は数日後にはなぜか姿を消したり大人しくなったりするそうだ。
とある日、久しぶりにひとりで領地の偵察に行っていたエメリアがソファに身を沈めてため息をついた。今日はルークはお父様から頼まれた仕事があるからとかで出かけているのだ。
「今日は、この間私に“なんでこんなところにいるんだ”って怒ってきたなんとかってご令嬢とは会わなかったわね。私がルークと結婚してるのを知って驚いていたし……続編がどうのって呟いていたから、もしかして転生者かもしれないって警戒していたんだけど……。こっちの話を全く聞かないし怖かったからもう会いたくないなぁ……」
私としてはもしも彼女が本当に続編(というか、続編とか知らないし)のヒロインで転生者だったとしても出来れば関わりたくはない。だいたい悪役令嬢ってヒロインの幸せを邪魔する役割でしょ?私はもうルークと結婚してるし王子関連とは無関係のはず……。
「もしかして、またルークが狙われ「オレがどうかした?」ふぁっ?!ルーク、帰ってたの?!」
いつものごとくいつの間にか現れたルークはにっこりと笑うと私の手を握った。約10時間ぶりのルークのぬくもりにさっきまでのモヤモヤは消えてドキがムネムネ……いや、胸がドッキドキである。
「も、もうお父様から頼まれたお仕事は終わったの?」
「うん、遅くなってごめんね。ちょっと掃除が手間取っちゃって」
「掃除?治癒の仕事じゃなく?」
「うん、そーじ」
よくわからず首を傾げるが、別に問い詰めるつもりもない。ルークは領地の仕事をこなしながら治癒師としても活躍してるし、私のお父様からも全面的に信頼されてるようで色々なお仕事を頼まれているのだ。離れてる間は寂しいが、そんなルークを尊敬もしている。私の旦那様はとってもとってもとっても!格好良くて素敵で有能で……最高なのだ!
「ルーク、いつもお疲れ様。あのね、今夜は私が晩ごはんを作るわ。朝のうちに仕込みはしてあるの!」
「エメリアもお疲れ様。嬉しいな、メニューを聞いてもいい?」
「今夜はビーフシチューよ!ちゃんと料理長に見てもらいながら作るから今度こそ爆発しないはずよ!」
そうしてるんるんとシチューを作りに行ったエメリアが、なぜか絶望した顔の料理長と一緒に持ってきたのはエメラルドグリーンに輝くビーフシチュー(?)で、料理長は「確かに途中までは普通のビーフシチューだったはずなんですが、瞬きした瞬間になぜかこんな色に」と頭を抱えていたとか。
「こんなに美味しそうなビーフシチューは生まれて初めて見たよ!」
「よかったぁ!」
それからしばらくシチューを完食したルークからは煙がでていたそうだ。(いつものこと)
「ルーク、いつも側にいてくれてありがとう」
「オレの方こそ、エメリアがいてくれて幸せだよ。オレと出会ってくれてありがとう」
その後、エメリアは心配していた令嬢にも二度と遭遇することはなかった。そして子供にも恵まれ、忙しいながらも穏やかな時間を過ごし愛する夫と子どもたちに見守られて永眠した。エメリアが息を引き取った次の瞬間、ルークは大人となった我が子たちの頭を撫で「行ってくるよ」とだけ告げると……エメリアの手を握ったまま眠るように後を追った。
その魂は再び生を受け、惹き寄せられる。それがこの世界なのか違う世界なのか、この記憶が残っているのかどうかすらもわからない。これはふたりの為だけの未来永劫続く呪いなのである。
え?このあとふたりの魂はどうなったかって?それはーーーー
“ふたりはいつまでも幸せに暮らしました”とさ。
終わり
その日の私は、たぶん一生分驚いた気がしていた。
***
お父様に呼び出された翌日、私は約束通りルークとお出かけ(デート)をすることになった。名目はお父様のお使いでお店に頼んだものを受け取りに行くのだけれど、その合間に屋台で買った串焼きを食べ歩きしたり、噴水の素敵な公園を二人きりで(遠巻きに護衛と侍女あり)散歩したり……
ルークに告白するタイミングを逃したまま1か月が過ぎてしまい、これまで通りの生活が続いていた。相変わらずルークは神出鬼没でいつも私を抱きしめてくれて……でも、あの時の私の返事を聞こうとはしてこなかったのだ。
あの時は私の事を好きだと言ってくれたけれど、今はどうなのだろうか?もしかしたらルークからしたら、私はいつまでも返事をしないでルークを焦らしている悪女のように見えているかもしれない。
それとも……あの告白はお母様方たちに脅されたから仕方なく言ったか、実は気の迷いだったとか……。
時間が経てば経つほどに自信が無くなっていく感覚に襲われ、私はすっかり意気消沈していた。
そんなある日。
いつもの朝。いつもと同じに時間が過ぎるだろうと思っていたその時、それは突然に色濃く変わってしまったのだ。
庭の薔薇が綺麗に咲いたからとルークが園庭でお茶をしようと誘ってくれた。それだけですごく嬉しかったのは事実だが、なぜか私よりもうきうきしている侍女たちがやたらとドレスをコーディネートしてくる。へ?庭でお茶するだけなんだけど?
不思議に思いながらも準備が進み、いつの間にかぴかぴかに磨かれた私は庭に設置されたやたらとぴかぴかな椅子に座らされた。へ?我が家の庭にこんな椅子あったっけ?
そしてなぜかやたらとニコニコした使用人たちが私の周りで薔薇の花びらを撒いているのだ。
……な、なにごと?これからお祭りでもあるの??
「御主人様」
「あ、ルーク。ねぇ、みんなの様子がなんか変なのーーーー」
ひたすら首を傾げる私はいつものごとくいつの間にか側にいたルークの方に疑問を口にしながら振り向くと……なんとルークが片膝をつき、私を優しく見上げていたのだ。
「ルーク……?」
そしてルークは戸惑う私の左手をとり、その薬指に銀色に輝く指輪をはめた。少し大きい指輪がキラリと輝く。
「御主人様……。いや、エメリア。どうかオレと結婚して?これから一生……例え死んで生まれ変わってもずっとエメリアの側にいたいんだ」
「ル、ルーク……?!それって、プロポーズ……。ほ、ほんとに……!?それに、この指輪」
まさかの事態に混乱するが、大きかったはずの指輪が私の指にはまった途端にぎゅるんっ!と縮まりピッタリサイズになったのを目撃して「指輪が勝手に縮まったわ?!」とぽかんとしてしまった。
「あ、この指輪?うん、これって対になってる指輪をつけている相手と魂まで結ばれて絶対に離れられないっていう呪われた指輪なんだよ。カーウェルド公爵と取り引きして、色々仕事を手伝う代わりに秘境から取り寄せてもらったんだ!」
「まぁ、秘境から……。確かにお祖母様ならなんでも持ってそう……って!の、呪われてる指輪なの?!」
「そうだよ。ほら、これでエメリアとオレは何があっても離れられなくなる。死んでこの体が朽ちて魂が生まれ変わっても絶対に結ばれることになるんだ……。無理に二人を引き離そうとすると呪いが反発して魂ごと消滅しちゃうから気をつけてねって言われたけど、手放す気ないから大丈夫♪」
自分の左手を私に見せてにっこりと笑うルーク。その指には同じ指輪がはまっていた。
んんん?なんかちょっぴり怖いことを言われたような……あぁ、でもルークが素敵な笑顔で私を見てる!その笑顔プライスレス!
「よ、よくわからないけど……ルークとずっと一緒にいられるってことなのよね……?嬉しい!私も、ルークが好き。私に出来ることならなんでもするから、結婚して欲しいわ……!」
勢いに乗ってやっと念願の告白もできたし、まさか色々すっ飛ばして結婚することになったのには驚いたが嬉しさの方が勝っているので様々な疑問などは私の頭からすっかり消し飛んでいた。
「エメリアは、オレの側にいてオレに抱きしめられていてさえくれればそれだけでオレは幸せだよ」
「ルークったら、すぐに私を甘やかすんだから……っ!」
「「「おめでとうございます、お嬢様!ルーク様!」」」
盛大に舞い散る薔薇の花びらの中で、ルークがエメリアの額に優しく唇を落とした。真っ赤になって慌てふためくエメリアとそれを嬉しそうに抱きしめるルーク。そんなふたりの姿に使用人たちは心から喜んだそうな。
***
エメリアの父であるカーウェルド公爵は、なによりも愛娘の幸せを願っている。そして、彼女の願う幸せがささやかなものであることも知っていた。
決して聖女として崇められたり、他国の王族に奪い合われたいなどとは微塵も思っていない。たぶんエメリアがその気になれば王族たちを裏から操り国を乗っとることだって可能だろう。彼女の真の能力の目覚めとルークの暗躍があればさほど難しいこともない。
しかし、本人は元より周りの人間もそんなことは望んでいないのだ。
だから、ルークと取り引きをした。一生エメリアの身代わりに治癒師として生きること。エメリアの秘密を探ろうとする者やその平穏を脅かす者がいた場合はどんなことがあろうとも排除すること。エメリアの能力はきっと死んで生まれ変わっても付き纏うものだ。その魂がある限り来世だろうと来来世だろうとエメリアを守ること。未来永劫エメリアの為に生きてエメリアの為に死ね。その覚悟があるならばと呪われた指輪を渡した。
あの指輪は確かに呪われているし、ルークがエメリアにした説明で大方合っているが、ひとつだけ違う。あの指輪の本当の名は〈主従の指輪〉だ。もちろんエメリアのしている方が主人の指輪である。もしもエメリアが魂ごと消えてもいいからルークと別れたいと心底願えば消滅するのはルークの魂のみ。だが、そうすると自身を守ってくれる盾を失うことになるのでエメリアにもダメージはある。それくらいのリスクを背負ってでもエメリアを守る覚悟はあるのかとかなり脅したのだが、ルークは二つ返事で「エメリアから離れる気はないから」と嬉々として指輪を受け取った。
「オレはエメリアの笑顔を守るためだけに生きるって決めたんだ。でも、その隣にいるのはオレでなければ嫌だ。エメリアの気持ちひとつでオレの魂が消滅するっていうなら本望だし、呪いだろうとなんだろうと結ばれるなら願ってもないことだよ。……オレの魂が存在する限り、エメリアは誰にも渡さない」
僅かながら闇を秘めた瞳でそう語るルークにカーウェルド公爵も覚悟を決めたのだった。
あの事件から、実は獣人の国から手紙が届いていた。皇子から詳しい話を聞いた皇妃が「もしかしたら、エメリア嬢には隠された素質があるのでは?」と疑ってきていたのである。さすがに皇子との婚約をなどとは言ってこなかったが、取り込みたいのだろうことは読み取れた。その手紙をくしゃりと握り潰し、カーウェルド公爵は使用人たちに命じたのだった。
「皆のもの!エメリアとルークの結婚式の準備だぁぁぁ!!」
「「「がってん承知!!」」」
こうして、かつて婚約破棄されてキズモノとされたひとりの令嬢は自身の従者と結婚して女公爵となった。彼女のおさめる領地は穏やかで自然豊かだ。森に住まう動物たちも人間と争うようなことはなく仲良く暮らしている。
彼女とその伴侶は孤児院や治療院の設立に力を入れて他の領地からの移民も快く迎い入れていた。最初は「キズモノの女公爵なんて」と眉を顰めるよそ者もいたそうだが、伴侶が希少な治癒師で、さらにとても仲睦まじく愛し合っている姿を知るとだんだんと考えを変えていったらしい。
たまに女公爵に突っかかろうとする貴族もいたようだが、そんなことをする輩は数日後にはなぜか姿を消したり大人しくなったりするそうだ。
とある日、久しぶりにひとりで領地の偵察に行っていたエメリアがソファに身を沈めてため息をついた。今日はルークはお父様から頼まれた仕事があるからとかで出かけているのだ。
「今日は、この間私に“なんでこんなところにいるんだ”って怒ってきたなんとかってご令嬢とは会わなかったわね。私がルークと結婚してるのを知って驚いていたし……続編がどうのって呟いていたから、もしかして転生者かもしれないって警戒していたんだけど……。こっちの話を全く聞かないし怖かったからもう会いたくないなぁ……」
私としてはもしも彼女が本当に続編(というか、続編とか知らないし)のヒロインで転生者だったとしても出来れば関わりたくはない。だいたい悪役令嬢ってヒロインの幸せを邪魔する役割でしょ?私はもうルークと結婚してるし王子関連とは無関係のはず……。
「もしかして、またルークが狙われ「オレがどうかした?」ふぁっ?!ルーク、帰ってたの?!」
いつものごとくいつの間にか現れたルークはにっこりと笑うと私の手を握った。約10時間ぶりのルークのぬくもりにさっきまでのモヤモヤは消えてドキがムネムネ……いや、胸がドッキドキである。
「も、もうお父様から頼まれたお仕事は終わったの?」
「うん、遅くなってごめんね。ちょっと掃除が手間取っちゃって」
「掃除?治癒の仕事じゃなく?」
「うん、そーじ」
よくわからず首を傾げるが、別に問い詰めるつもりもない。ルークは領地の仕事をこなしながら治癒師としても活躍してるし、私のお父様からも全面的に信頼されてるようで色々なお仕事を頼まれているのだ。離れてる間は寂しいが、そんなルークを尊敬もしている。私の旦那様はとってもとってもとっても!格好良くて素敵で有能で……最高なのだ!
「ルーク、いつもお疲れ様。あのね、今夜は私が晩ごはんを作るわ。朝のうちに仕込みはしてあるの!」
「エメリアもお疲れ様。嬉しいな、メニューを聞いてもいい?」
「今夜はビーフシチューよ!ちゃんと料理長に見てもらいながら作るから今度こそ爆発しないはずよ!」
そうしてるんるんとシチューを作りに行ったエメリアが、なぜか絶望した顔の料理長と一緒に持ってきたのはエメラルドグリーンに輝くビーフシチュー(?)で、料理長は「確かに途中までは普通のビーフシチューだったはずなんですが、瞬きした瞬間になぜかこんな色に」と頭を抱えていたとか。
「こんなに美味しそうなビーフシチューは生まれて初めて見たよ!」
「よかったぁ!」
それからしばらくシチューを完食したルークからは煙がでていたそうだ。(いつものこと)
「ルーク、いつも側にいてくれてありがとう」
「オレの方こそ、エメリアがいてくれて幸せだよ。オレと出会ってくれてありがとう」
その後、エメリアは心配していた令嬢にも二度と遭遇することはなかった。そして子供にも恵まれ、忙しいながらも穏やかな時間を過ごし愛する夫と子どもたちに見守られて永眠した。エメリアが息を引き取った次の瞬間、ルークは大人となった我が子たちの頭を撫で「行ってくるよ」とだけ告げると……エメリアの手を握ったまま眠るように後を追った。
その魂は再び生を受け、惹き寄せられる。それがこの世界なのか違う世界なのか、この記憶が残っているのかどうかすらもわからない。これはふたりの為だけの未来永劫続く呪いなのである。
え?このあとふたりの魂はどうなったかって?それはーーーー
“ふたりはいつまでも幸せに暮らしました”とさ。
終わり
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(20件)
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが
侑子
恋愛
十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。
しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。
「どうして!? 一体どうしてなの~!?」
いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結お疲れ様でした&おめでとうございます。
器はあるべき場所に戻ったと言いましょうか、鈍感MAXなエメリアにはこれくらい強引で裏で動いてくれるルークでないと駄目ですよね。
そこまでの覚悟を見せた彼の心意気とヒーローらしさがちょっと黒いけど、素敵でした。
エメリアは愛に満ちた人生を送れたようですし、終わりもとても素敵で良かったです。
感想ありがとうございます!
ラストをどうしようか悩み続けましたが、やっぱり鈍感エメリアとちょっぴりヤンデレな世界に片足を突っ込んだルークの究極の愛で丸く収まりました(笑)
お互いがお互いを求めあった結果、エメリアはとにかくものすごく幸せな余生だったと思われます\(^o^)/
こちらのお母様も強かった。
女性は強しでしたね。
情けない皇帝ですが、何だか憎めないキャラにも思えますw
感想ありがとうございます!
皇帝は奥さんのお尻にひかれてます(笑)
お祖母様無双に切り替わった!
お祖母様こそ、最強でしたか。
しかし、獣人の皇帝は何とも残念な人なのでこれはこれで可愛げがあるかな🤔
王妃様もいじめがいがりそうですにゃーというところでしょうかw
感想ありがとうございます!
次々と黒歴史が暴露された皇帝のライフポイントは、王妃様の登場でマイナスになりました(笑)