【完結】ヒロインはラスボスがお好き

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断罪イベントが起きてしまった…

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「ルチア・ノアベルトを無期限の休学処分とする」

 学園長と理事長、それにPTA代表みたいな人たちが次々と頷くと書類に判を押していく。

 あの騒ぎからほんの数日でルーちゃんは一般生徒をいじめるために王子の婚約者候補である立場と権力を使い王家の威信を汚した罪により断罪されてしまった。
 もちろん私はルーちゃんにいじめられてなんかいない。最初は周りのクラスメイトたちも真犯人のことを言えないまでもルーちゃんではないと言ってくれていた。

 でもそこに双子王子が姿を現したのだ。

「ルチアが成していた悪行の数々の証拠を持ってきた」

 そういって紙の束をバサリとルーちゃんに向かって投げつける。

「お前は俺たち王子がアイリに心奪われているから自分が今だ婚約者に確定されないとアイリを逆恨みしていたな」

「僕たちのどちらからも選ばれないのは自分の心が醜いからだとは思わなかったのか?お前の代わりなどいくらでもいることに気づきもせず、僕たち王子の名を勝手に使い悪行し放題。今回ばかりは言い訳できないぞ?
 父上たちも婚約破棄を認めてくださった」

 ルーちゃんは無表情でそれを聞いていた。その場に座り込むと投げつけられた紙を1枚づつ拾い上げ黙ってそれに目を通している。

「ちょっと!あんたたち……」

 私が思わずルーちゃんの側に駆け寄り双子王子に反論しようとすると、王子たちがニヤリといやらしい笑みを浮かべた。

「アイリ、お前がなぜルチアを庇うのかは知らないが、お前が俺たちのものになるのならばルチアを助けてやってもいいぞ」

「そうだ、僕たちのどちらかの妻になるか、または僕たち両方の愛人になると誓えばルチアは無実になる」

「なっ……?!」

 双子王子の手が私に伸びようとした瞬間、私の後ろでルーちゃんが立ち上がった。

「その必要はございませんわ」

「ルーちゃ……」

「気安くそんな風に呼ばないで頂けます?虫酸が走りますわ」

 ルーちゃんは私を押し退け一歩前に出ると、冷たい視線を私に突き刺した。

「ふん、やっと本性を現したな!お前がアイリにヤキモチを妬いて嫌がらせしたんだろう」

 王子たちの言葉にルーちゃんは唇の端をつり上げる。それはまるで悪役令嬢のように。

「わたくしは王子たちの婚約者候補として、このような方とは関わらない方が王子たちの為だと思っただけです。
 ヤキモチ?ふざけたことおっしゃらないで頂けますか?わたくしがこの女に嫉妬しているとおっしゃるの?こんな女なんてわたくしの足元にも及ばないミジンコ程度の存在のくせに!」

 それはよく知ってるセリフだった。

 ゲームの中の悪役令嬢がヒロインに嫉妬して言うセリフ。あぁ、これは悪役令嬢の断罪イベントだ。
 今私の目の前にいるのはヒロインに嫉妬し憎んでいる悪役令嬢そのものだった。

「ルーちゃん……」

「たかが領主の娘の分際でわたくしにいつまでも馴れ馴れしくなさるおつもり?わたくしはあなたが王子たちに不用意に近づかないように見張るために友達ごっこをしていただけですの。
 まさか本気で親友だと思っていたのかしら?でしたらわたくしは女優にもなれそうですわね。そう思いませんこと?

 大好きな親友。ツンデレも女王様モードも全部かわいくて、いつも側にいてくれたルーちゃんはいなくなってしまったのか。これもゲームの強制力なの?
 ルーちゃんの悪役令嬢としての破滅の道だけは絶対に潰せたと思っていたのに。

「だ、ダメだよ……」

 私は震える手でルーちゃんの腕を掴んだ。

「……ダメだよ、このままじゃ、牢屋に入れられちゃう。それか国外追放されたり、確かハッピーエンドだと死刑になったり……」

 どれだ?どのルートだ?私は必死に頭の中で情報を探した。

 どの攻略対象者のルートでもハッピーエンドなら悪役令嬢は国外追放か死刑だ。それも好感度でかわってくる。でもバッドエンドなら牢獄されるか冤罪で謹慎処分もあったはずだ。
 そもそも悪役令嬢の断罪イベントはもっと後のはずなのに早すぎる。私はどのルートも選んでないはずなのに、なぜ悪役令嬢がこんなにも早く無実の罪で断罪されるのかわからず、混乱した。

「なにをブツブツと言っていますの?気持ち悪い!」

 手を振りほどき私を突き飛ばすと、ルーちゃんは悪役令嬢の微笑みを向け冷たい声を響かせた。

「もう2度とお目にはかかりませんわ。ごきげんよう」

 悪役令嬢が退場するそれは、まるでゲームのワンシーンのようにも見えた。

 本人が認めて学園を去ったことにより、周りの人たちも「もしかして本当に……」とざわめいた。私はその場に座り込んだまま立てない。
 あの優しかった親友を一瞬で悪役令嬢にしてしまったゲームの強制力が恐ろしかった。私にはルーちゃんの運命を変えることはできなかったのだ。

「立てるか?」

 周りの人たちがばらつきいなくなった頃、人影が私の前に現れる。

「……?」

 私はまだショックから抜け出せず呆然としながら上を見ると、見知らぬ男の子がいた。

「ほら」

 手を捕まれ、ぐいっと引っ張られ立たされる。

「あ、ありがとう……」

 私より頭1個分高い位置にあるその顔を見上げるとミルク色の短い髪に金色の瞳が見えた。
 野性的な雰囲気を漂わす青年が、優しく頬笑む。

「俺、ニコラスって言うんだ。ニックって呼んでよ」

「え?あ、私は」

「知ってるよ、アイリ。俺の可愛いリリー」

 なぜ私の名前を知ってるの?と聞く前にニコラスと名乗ったその少年は私の顎をつまみ自分の顔を近づけた。

「?!」

 一瞬の流れるような動きに抵抗する間もなくふにっと唇になにかが当たる。しかしそれはニコラスの唇ではなかった。

「アイリ様から離れなさい」

 私とニコラスの唇の間にはセバスチャンの手の平が挟まっていたのだ。

「……おい、運命の出会いを邪魔しないでくんない?」

「初対面で唇を奪おうとするなどただの痴漢です」

 ニコラスは私から離れ、セバスチャンの手の甲にあたった自分の唇を腕で拭う。金色の瞳がギラリとセバスチャンを睨んだ。

「ふん、まぁいいや。多少障害があったほうが愛は盛り上がるっていうしな。今回はおとなしく退散するよ」

 そういってニコラスが立ち去り、見えなくなるまでセバスチャンはニコラスの背中をずっと見ていた。









 そんな私たちの姿を、壁の影から覗く二つの黄緑色の光があったことにその時の私は気づかなかったのだ。


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