【完結】ヒロインはラスボスがお好き

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筋金入りのストーカーがぁっ!

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ドゴンッ!!

 寮の部屋の壁が少しへこみ、パラパラと欠片が落ちた。

「……あの男、ムカつく……!!」

 皆さんこんにちは。先ほどルーちゃんの悪役令嬢断罪事件でショックで混乱しているところを見知らぬ痴漢男にうっかり襲われかけたアイリです。

 なんたる不覚……!セバスチャンが助けてくれなければまだやり直ししてもらってないファーストキスがまたもやピンチに陥るところだった。
 あのあと我に返り、しばらくしてから怒りがこみ上げてきた。

「メリケンサックで殴るのなら壁ではなくさっきの痴漢を殴ってください」

「だって、思い出すとムカムカするんだもん!なんか名前知られてたし、勝手に愛称つけられたし、あんなことされたし!」

 セバスチャンは軽くため息をつくと、いつの間にかお茶の準備をしている。

「本当に知らない男なんですね?」

「知らないわよ、あんな人。今まで学園でも見かけたことないわ。あんなミルク色の髪なんて目立つし、会ったことあればさすがに覚えていると思うもん」

 セバスチャンが「ならばやはりストーカーですね」とお茶を置いてくれた。私は椅子に座りお茶をひとくち飲むと、ふーっと息を吐く。

「ルーちゃん……」

 あんな痴漢男なんてかまってる場合ではない。なんとしてもルーちゃんを助けないといけないのに。でもゲームの進行状況が私の知ってるものと全然違うからどうしたらいいのかがわからないのだ。

「ねぇーえ」

 金魚鉢からピチャンと青い熱帯魚が顔を出し、鼻(があるのか知らないが)をヒクヒクと動かした。

「また妖精の臭いと、変な臭いがするわよぉ」

「変な臭い?」

「ん~、なんかちょっと獣臭いわぁ。コウモリとは違う臭いよぉ。それに妖精の臭いがぷんぷんするぅ」

 ヒレで器用に口の先をつまみ、顔をしかめた。

「……獣?それにこの間から妖精の臭いってずっと言ってるけどあの時の妖精王の臭いがまだついてるってこと?」

 最後に妖精王に絡まれてからだいぶたってるのに、妖精の臭いとはどれだけしつこいんだろうか。

「妖精の臭いについては心当たりがございます」

 セバスチャンが熱帯魚を指先で金魚鉢に押し戻しながら言った。「ぎゃっ!ぶくぶくぶく……」と熱帯魚が溺れている。なんでも吸血鬼に触られるのは嫌いらしい。

「実は先ほど妖精に呼び出されておりました」

「えぇ?!」

 そういえばさっきのルーちゃん事件の時はセバスチャンはいなかったなと思い出す。

「妖精って、あのぼいんちゃん?」

 私はあの時の野生のばいんばいん美女を思い出して思わず眉間にシワがよる。吸血鬼様に言い寄ってきてセクハラ(胸を触らせるなど)してきた女の妖精だ。

「違います、子供の妖精でした。おつかいを頼まれたと言っていましたね。
 なんでも妖精王の魂が逃げ出して行方不明になったんでそっちで悪さしてるかも。だそうですよ」

 セバスチャンがサラッととんでもないことを言ってきた。それってかなりヤバい状況なのではないだろうか?

「あの時妖精王のエネルギーは全部吸いとったので完全に清らかな魂に戻ったと思っていたのですが、やっぱりしつこいですね」

 なんだかものすごく、嫌な予感がする。

「もしかして……」

 セバスチャンが冷めてしまったお茶を新しく入れ直して私の前にそっと置いた。

「アイリ様が人魚の海に落ちたことも、今回のルチア様のことも、あの妖精王が絡んでいると思われます」

 ふと、お母様が「黄緑色の光を見た」と言っていたことを思い出す。そういえば、妖精王の瞳は黄緑色だった。

「……妖精王って、そんなこと出来るの?」

「そうですね。正常な判断力があればやりませんが、魂の状態に憎悪などの感情だけが残っていたとすれば正常な判断力があるとは思えませんから出来るでしょうね」

 あの黄緑色の瞳を思い出し、ゾクリと背筋に寒気が走る。

「だから、妖精の臭いがするっていったでしょぉ」

 熱帯魚がまた、ピチャンと跳ねたのだった。




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