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未踏の地
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狂山は大きく息を吸い込んだ。跳ね上がった鼓動を沈めるように、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。不気味な視線は、今もなお続いており「声喰い」の神がここに居るのだと嫌でも痛感させられる。
仲間の様子を見遣れば、臨戦態勢の構えを未だに解いていない。山本は足場になる箇所を冷静に分析し、くれてつはどこから拾ったのか鉄パイプをたずさえ…カメリアンにいたってはミイラを担ぎつつ逃走の姿勢を。ライトもつけてくれているため、闇に迷う事は無いだろう。
さて、いま自分にできることは…。目を閉じ、五感を研ぎ澄ませるように深呼吸を繰り返す。その内に己の心臓の音だけがうるさく鳴り響く。それ以外は何もない。
…森の音が、止まった…?
虫も、風も、木々も、…呼吸をやめたかのように。周りにいるはずの仲間の声すらも、何も聞こえない。
同時に、地面から“ドクン”と言う鼓動のような震えを感じる。それは、己らの身体ではなく…森全体が一斉に感じている振動だった。
地面に片膝をついた狂山は、拳を静かに地面へと置く。その指先が掘り起こすのは、“記憶”そのものであった。一方で、石版を手にしているカメリアンは石の摩耗を指先で撫でて封印構造の痕跡を目で読み解いていた。
「皆、警戒姿勢は解かぬままでいいわ。…でも、そのまま…話を聞いてくれるかしら?」
彼女の声に、皆が頷く。
「この神を封じる為には、とある手順が必要な様なの。…今からそれを、貴方達に伝えるわね。」
カメリアンは次のように語ってみせた。まず、声喰いの神を再び封じる為には神の目に視られた者を、再び見返させる必要があると。つまりは、猿のミイラに巻き付いていたあのエメラルド…“エメラルドの目”を適切な場所に再配置する必要があること。
続いて、音を遮断する必要がある。音響の封印と彼女は呼ぶが、それについてはこの様に述べていた。神殿の中にある石室に、何かしらの供物を捧げること。それは大それたものではない。くれてつの持っていた缶ジュースや、携帯食料の様な飯でも良いようだ。何かしらを捧げれば、音響封印が成立するとのこと。
そして最後に…最も大切なこと。それは…誰も振り返ってはならないこと。声喰いの神と視線が交差した時点で、神は入れ替えの儀を起動させる。これは非常に危険な行為である。
「つまりは、こういう事かな?」
山本は警戒姿勢を解き、地面に落ちている木の棒を手に取った。(次のページに要約を載せる。)
字を見たカメリアンは、肯定するように頷いてみせた。
「今ある物資で、封印は可能よ。まずは…私の持っているミイラ。これで光を当てて遮る演出はできるはず。後は供物。くれてつのもっている缶ジュース、私の持っているワインボトル、山本の持っている携帯食料…供物は幸いな事に潤沢ね。視線の遮断は、誰か代表してやってもらう形になるけれど…代表者以外が全員背を向けて、封印設置者のみが正面を向くならば安全だと思うわ。あとは、この封印をいつ実行するかによるわね。」
「神殿に向かうのをいつにするかと言う事か?」
狂山が問いかけると、彼女は頷く。神殿は恐らく、この案内標識の先だろう。彼女の背中で震えているメオを見れば一目瞭然だ。
「それもあるけれど、このまま神殿に向かう事は危険過ぎるわ。地下で今何かしらが起きている。そしてそれは、神の覚醒を意味していると思っているの。封印を施し、神殿を安全な状態にしてから向かうべきよ。そして、その封印の場は…」
ちらりとメオを見遣った。彼は震えた声で答えてみせる。
「この、奥の…供儀の祠。そこで…封印、すればいい。供儀の祠は…ここ、まっすぐ行けばいい。でも…此処から先は、振り返ることができない。なにがきこえても、なにがみえても…日比野せんせいの声が、きこえても。」
彼は泣きだしてしまった。相当怯えているのだろう。どれほどまで怖い目に遭えば、こうなってしまうのだろうか。
「わかったわ。では…早く向かいましょう。異変は早々に潰すべきよ。」
カメリアンは覚悟を決めたようにたちあがると、地面に亀裂が入ったと言われる供儀の祠に向かってあるきだした。彼女に続くように、くれてつらも歩き出す。
一歩、また一歩と進むたびにジャングルを覆う闇は深くなっていく。未だ森からは何も聞こえない。己の足音すらも、闇に吸い込まれてしまいそうな…。
軈て…ジャングルの中には不釣り合いな簡素な祠を見つけた。何時もであれば神秘的な雰囲気だったのだろうと思しき祠は、その一体だけがより一層不気味な空気で満たされている。
「封印は…私が行くわ。くれてつ、お願いできる?」
「わ、分かった…。背中は俺が導くよ。俺に任せてくれ。」
くれてつはリュックからロープを取り出すと、カメリアンの腰に巻き付けた。彼女もまた、背負っていた木箱を床に置いて視線を祠の祭壇へと向けている。
カメリアンは静かに猿のミイラが入った木箱を地の裂け目へと配置した。そして、丁寧な手付きで蓋を開けてミイラの眼窩を空へと向ける。
くれてつが背を向けたまま、缶ジュースと携帯食料…つまり、供物をカメリアンに手渡した。彼女は地面を均して左右対称に置いていく。
その瞬間…空気が、静かに吸い込まれるような音を立てた。
森の底で、音が一つずつ遠ざかる。ミイラの瞳が、夕闇に染まった空を暫し見つめ…軈て、すうっと閉じたような感覚が、一行の背を撫でた。
それきり、振動も、声も、止んだ。
「…よし、神の目は眠りについたみたいだ。今のところは、だが。地下からの視線は切断されたと考えていい。供物を捧げたからな、すぐに目覚めるということはないだろう。」
狂山が安堵したように息を吐くと、ニッと笑ってみせた。そういえば、彼の笑った顔は初めて見たような気がする。
「ずっと目覚めることがないようにするには…神殿に行かなければならないという事、だよね?」
山本が問い掛けると、彼は肯定を示すように頷く。
続いて、メオが「本当にできたの…!?」と驚いたような顔を浮かべた。安堵したような、泣いてしまいそうな、複雑な顔だ。
「“め”が閉じた…!これで、ひとまずは…だいじょうぶ。」
「ナビゲーターの彼がそう言うのだから、間違いないね。」
山本の手が彼の小さな頭を撫でる。メオは恥ずかしそうに微笑んでみせた。
続いて、メオはすっと指を指す。その先には、密林の奥にある…霧の中に佇む、石造りの門。文明がわすれた、神の棲家だ。
仲間の様子を見遣れば、臨戦態勢の構えを未だに解いていない。山本は足場になる箇所を冷静に分析し、くれてつはどこから拾ったのか鉄パイプをたずさえ…カメリアンにいたってはミイラを担ぎつつ逃走の姿勢を。ライトもつけてくれているため、闇に迷う事は無いだろう。
さて、いま自分にできることは…。目を閉じ、五感を研ぎ澄ませるように深呼吸を繰り返す。その内に己の心臓の音だけがうるさく鳴り響く。それ以外は何もない。
…森の音が、止まった…?
虫も、風も、木々も、…呼吸をやめたかのように。周りにいるはずの仲間の声すらも、何も聞こえない。
同時に、地面から“ドクン”と言う鼓動のような震えを感じる。それは、己らの身体ではなく…森全体が一斉に感じている振動だった。
地面に片膝をついた狂山は、拳を静かに地面へと置く。その指先が掘り起こすのは、“記憶”そのものであった。一方で、石版を手にしているカメリアンは石の摩耗を指先で撫でて封印構造の痕跡を目で読み解いていた。
「皆、警戒姿勢は解かぬままでいいわ。…でも、そのまま…話を聞いてくれるかしら?」
彼女の声に、皆が頷く。
「この神を封じる為には、とある手順が必要な様なの。…今からそれを、貴方達に伝えるわね。」
カメリアンは次のように語ってみせた。まず、声喰いの神を再び封じる為には神の目に視られた者を、再び見返させる必要があると。つまりは、猿のミイラに巻き付いていたあのエメラルド…“エメラルドの目”を適切な場所に再配置する必要があること。
続いて、音を遮断する必要がある。音響の封印と彼女は呼ぶが、それについてはこの様に述べていた。神殿の中にある石室に、何かしらの供物を捧げること。それは大それたものではない。くれてつの持っていた缶ジュースや、携帯食料の様な飯でも良いようだ。何かしらを捧げれば、音響封印が成立するとのこと。
そして最後に…最も大切なこと。それは…誰も振り返ってはならないこと。声喰いの神と視線が交差した時点で、神は入れ替えの儀を起動させる。これは非常に危険な行為である。
「つまりは、こういう事かな?」
山本は警戒姿勢を解き、地面に落ちている木の棒を手に取った。(次のページに要約を載せる。)
字を見たカメリアンは、肯定するように頷いてみせた。
「今ある物資で、封印は可能よ。まずは…私の持っているミイラ。これで光を当てて遮る演出はできるはず。後は供物。くれてつのもっている缶ジュース、私の持っているワインボトル、山本の持っている携帯食料…供物は幸いな事に潤沢ね。視線の遮断は、誰か代表してやってもらう形になるけれど…代表者以外が全員背を向けて、封印設置者のみが正面を向くならば安全だと思うわ。あとは、この封印をいつ実行するかによるわね。」
「神殿に向かうのをいつにするかと言う事か?」
狂山が問いかけると、彼女は頷く。神殿は恐らく、この案内標識の先だろう。彼女の背中で震えているメオを見れば一目瞭然だ。
「それもあるけれど、このまま神殿に向かう事は危険過ぎるわ。地下で今何かしらが起きている。そしてそれは、神の覚醒を意味していると思っているの。封印を施し、神殿を安全な状態にしてから向かうべきよ。そして、その封印の場は…」
ちらりとメオを見遣った。彼は震えた声で答えてみせる。
「この、奥の…供儀の祠。そこで…封印、すればいい。供儀の祠は…ここ、まっすぐ行けばいい。でも…此処から先は、振り返ることができない。なにがきこえても、なにがみえても…日比野せんせいの声が、きこえても。」
彼は泣きだしてしまった。相当怯えているのだろう。どれほどまで怖い目に遭えば、こうなってしまうのだろうか。
「わかったわ。では…早く向かいましょう。異変は早々に潰すべきよ。」
カメリアンは覚悟を決めたようにたちあがると、地面に亀裂が入ったと言われる供儀の祠に向かってあるきだした。彼女に続くように、くれてつらも歩き出す。
一歩、また一歩と進むたびにジャングルを覆う闇は深くなっていく。未だ森からは何も聞こえない。己の足音すらも、闇に吸い込まれてしまいそうな…。
軈て…ジャングルの中には不釣り合いな簡素な祠を見つけた。何時もであれば神秘的な雰囲気だったのだろうと思しき祠は、その一体だけがより一層不気味な空気で満たされている。
「封印は…私が行くわ。くれてつ、お願いできる?」
「わ、分かった…。背中は俺が導くよ。俺に任せてくれ。」
くれてつはリュックからロープを取り出すと、カメリアンの腰に巻き付けた。彼女もまた、背負っていた木箱を床に置いて視線を祠の祭壇へと向けている。
カメリアンは静かに猿のミイラが入った木箱を地の裂け目へと配置した。そして、丁寧な手付きで蓋を開けてミイラの眼窩を空へと向ける。
くれてつが背を向けたまま、缶ジュースと携帯食料…つまり、供物をカメリアンに手渡した。彼女は地面を均して左右対称に置いていく。
その瞬間…空気が、静かに吸い込まれるような音を立てた。
森の底で、音が一つずつ遠ざかる。ミイラの瞳が、夕闇に染まった空を暫し見つめ…軈て、すうっと閉じたような感覚が、一行の背を撫でた。
それきり、振動も、声も、止んだ。
「…よし、神の目は眠りについたみたいだ。今のところは、だが。地下からの視線は切断されたと考えていい。供物を捧げたからな、すぐに目覚めるということはないだろう。」
狂山が安堵したように息を吐くと、ニッと笑ってみせた。そういえば、彼の笑った顔は初めて見たような気がする。
「ずっと目覚めることがないようにするには…神殿に行かなければならないという事、だよね?」
山本が問い掛けると、彼は肯定を示すように頷く。
続いて、メオが「本当にできたの…!?」と驚いたような顔を浮かべた。安堵したような、泣いてしまいそうな、複雑な顔だ。
「“め”が閉じた…!これで、ひとまずは…だいじょうぶ。」
「ナビゲーターの彼がそう言うのだから、間違いないね。」
山本の手が彼の小さな頭を撫でる。メオは恥ずかしそうに微笑んでみせた。
続いて、メオはすっと指を指す。その先には、密林の奥にある…霧の中に佇む、石造りの門。文明がわすれた、神の棲家だ。
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