エメラルドの瞳を持つ神

路地裏れい

文字の大きさ
7 / 7
未踏の地

探索

しおりを挟む
 狂山は大きく息を吸い込んだ。跳ね上がった鼓動を沈めるように、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。不気味な視線は、今もなお続いており「声喰い」の神がここに居るのだと嫌でも痛感させられる。

 仲間の様子を見遣れば、臨戦態勢の構えを未だに解いていない。山本は足場になる箇所を冷静に分析し、くれてつはどこから拾ったのか鉄パイプをたずさえ…カメリアンにいたってはミイラを担ぎつつ逃走の姿勢を。ライトもつけてくれているため、闇に迷う事は無いだろう。

 さて、いま自分にできることは…。目を閉じ、五感を研ぎ澄ませるように深呼吸を繰り返す。その内に己の心臓の音だけがうるさく鳴り響く。それ以外は何もない。

 …森の音が、止まった…?

 虫も、風も、木々も、…呼吸をやめたかのように。周りにいるはずの仲間の声すらも、何も聞こえない。

 同時に、地面から“ドクン”と言う鼓動のような震えを感じる。それは、己らの身体ではなく…振動だった。

 地面に片膝をついた狂山は、拳を静かに地面へと置く。その指先が掘り起こすのは、“記憶”そのものであった。一方で、石版を手にしているカメリアンは石の摩耗を指先で撫でて封印構造の痕跡を目で読み解いていた。

 「皆、警戒姿勢は解かぬままでいいわ。…でも、そのまま…話を聞いてくれるかしら?」

 彼女の声に、皆が頷く。

 「この神を封じる為には、とある手順が必要な様なの。…今からそれを、貴方達に伝えるわね。」

 カメリアンは次のように語ってみせた。まず、声喰いの神を再び封じる為にはと。つまりは、猿のミイラに巻き付いていたあのエメラルド…“エメラルドの目”を適切な場所に再配置する必要があること。

 続いて、音を遮断する必要がある。音響の封印と彼女は呼ぶが、それについてはこの様に述べていた。神殿の中にある石室に、何かしらのを捧げること。それは大それたものではない。くれてつの持っていた缶ジュースや、携帯食料の様な飯でも良いようだ。何かしらを捧げれば、音響封印が成立するとのこと。

 そして最後に…最も大切なこと。それは…。声喰いの神と視線が交差した時点で、神はを起動させる。これは非常に危険な行為である。

 「つまりは、こういう事かな?」

 山本は警戒姿勢を解き、地面に落ちている木の棒を手に取った。(次のページに要約を載せる。)


 字を見たカメリアンは、肯定するように頷いてみせた。

 「今ある物資で、封印は可能よ。まずは…私の持っているミイラ。これで光を当てて遮る演出はできるはず。後は供物。くれてつのもっている缶ジュース、私の持っているワインボトル、山本の持っている携帯食料…供物は幸いな事に潤沢ね。視線の遮断は、誰か代表してやってもらう形になるけれど…だと思うわ。あとは、この封印をいつ実行するかによるわね。」

 「神殿に向かうのをいつにするかと言う事か?」

 狂山が問いかけると、彼女は頷く。神殿は恐らく、この案内標識の先だろう。彼女の背中で震えているメオを見れば一目瞭然だ。

 「それもあるけれど、このまま神殿に向かう事は危険過ぎるわ。地下で今が起きている。そしてそれは、神の覚醒を意味していると思っているの。封印を施し、神殿を安全な状態にしてから向かうべきよ。そして、その封印の場は…」

 ちらりとメオを見遣った。彼は震えた声で答えてみせる。

 「この、奥の…供儀の祠。そこで…封印、すればいい。供儀の祠は…ここ、まっすぐ行けばいい。でも…此処から先は、。なにがきこえても、なにがみえても…日比野せんせいの声が、きこえても。」

 彼は泣きだしてしまった。相当怯えているのだろう。どれほどまで怖い目に遭えば、こうなってしまうのだろうか。

 「わかったわ。では…早く向かいましょう。異変は早々に潰すべきよ。」

 カメリアンは覚悟を決めたようにたちあがると、地面に亀裂が入ったと言われる供儀の祠に向かってあるきだした。彼女に続くように、くれてつらも歩き出す。

 一歩、また一歩と進むたびにジャングルを覆う闇は深くなっていく。未だ森からは。己の足音すらも、闇に吸い込まれてしまいそうな…。

 軈て…ジャングルの中には不釣り合いな簡素な祠を見つけた。何時もであれば神秘的な雰囲気だったのだろうと思しき祠は、その一体だけがより一層不気味な空気で満たされている。

 「封印は…私が行くわ。くれてつ、お願いできる?」

 「わ、分かった…。背中は俺が導くよ。俺に任せてくれ。」

 くれてつはリュックからロープを取り出すと、カメリアンの腰に巻き付けた。彼女もまた、背負っていた木箱を床に置いて視線を祠の祭壇へと向けている。


 カメリアンは静かに猿のミイラが入った木箱を地の裂け目へと配置した。そして、丁寧な手付きで蓋を開けてミイラの眼窩を空へと向ける。

 くれてつが背を向けたまま、缶ジュースと携帯食料…つまり、供物をカメリアンに手渡した。彼女は地面を均して左右対称に置いていく。

 その瞬間…空気が、

 森の底で、音が一つずつ遠ざかる。ミイラの瞳が、夕闇に染まった空を暫し見つめ…軈て、すうっと閉じたような感覚が、一行の背を撫でた。

 それきり、振動も、声も、

 「…よし、神の目は眠りについたみたいだ。今のところは、だが。地下からの視線は切断されたと考えていい。供物を捧げたからな、すぐに目覚めるということはないだろう。」

 狂山が安堵したように息を吐くと、ニッと笑ってみせた。そういえば、彼の笑った顔は初めて見たような気がする。

 


 「ずっと目覚めることがないようにするには…神殿に行かなければならないという事、だよね?」
 
 山本が問い掛けると、彼は肯定を示すように頷く。

 続いて、メオが「本当にできたの…!?」と驚いたような顔を浮かべた。安堵したような、泣いてしまいそうな、複雑な顔だ。

 「“め”が閉じた…!これで、ひとまずは…だいじょうぶ。」

 「ナビゲーターの彼がそう言うのだから、間違いないね。」

 山本の手が彼の小さな頭を撫でる。メオは恥ずかしそうに微笑んでみせた。

 続いて、メオはすっと指を指す。その先には、密林の奥にある…霧の中に佇む、石造りの門。文明がわすれた、神の棲家だ。

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...