我慢できない王弟殿下の悦楽授業。

玉菜

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 ***

「リゼ、今日はちょっと用事があって出てくる。夜には戻るよ」
「わかったわ。ひとりで過ごすから大丈夫よ」

 と、言ったものの。

「ここ何日も、ずっとレオが構ってくれてたから……寂しいのは寂しいのよね」

 一人で過ごすための趣味のものも持ち込んではいたが、なんとなくそんな気分にもなれなくて。

「お庭でも散歩してこようかしら」

 そう言うと、侍女さんが支度を手伝ってくれた。公爵別邸の庭はとてもいい庭師がいるようで、以前は頻繁にガーデンパーティーなどもしていたとのこと。アデリーゼがのんびりと季節の花を愛でていた、その頃。

 レオナルドは王宮で家族に時間を取ってもらっていた。つまり、国王陛下とその御一家に。

 ***

「珍しいな、お前から私たちに会いたいとは」
「国王陛下と王妃陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「そういうのはいいから、楽に頼む」
「は。では失礼して。」

 レオナルドはふう、と息をついて姿勢を少し崩した。

「すみません、エルンスト兄上、マルガレータ姉上。急なお願いを申しまして」
「いや、お前のことだ、大事な要件だろう。しかしランドルフも一緒にとは、さらに珍しいな?」
「はい。叔父上、お久しぶりです。」
「ラルフも元気そうで何よりだ……が、どちらかというと、今日はラルフにお願いがあって来たんだよ」
「私にお願い、ですか?」

 レオナルド以外の全員が「?」という顔をする。

「ランドルフ殿。私にアデリーゼ・バルドウィン嬢を譲ってもらいたいのです」

「……は?」
「え?」
「レオナルド様……?」

 甥に婚約者候補を譲れ、と言い出す叔父。率直に言って、意味がわからない。

「え、叔父上、あの……アデリーゼとは、あのアデリーゼですか?」

 首肯して、キッパリと答える。

「お前の婚約者候補の、アデリーゼ嬢だ」
「レオナルド、彼女はラルフの妃にほぼ決定しているんだぞ?」
「わかっております。なので、こうしてお願いに参りました」

 男性陣が唖然としてしまう中、王妃が口を開く。

「そういえば、アデリーゼ嬢は遠戚なのもあって、昔からレオナルド様と親しかったわね……でも、なぜ今なのかしら?」
「はい、その理由をご説明申し上げます。」

 閨教育でアデリーゼを預かってみると、魔力無しの体質のためか、レオナルドからの魔力干渉を一切受けないことがわかった。これは魔力暴走をいつ起こすかわからないレオナルドにとって、逸材の発見と言ってもいい。そもそも、レオナルドはその体質が故に結婚も見送ってきたのだ。

 魔力暴走中、いわゆる『発情期』の彼と少しでも魔力のある者が触れ合えば、それは相手に苦痛しか与えない行為となる。頭痛、吐き気、倦怠感の連続で、身体をつなげようとすればそこで失神してしまう者もいた。

 そしてその反動なのか、通常時の彼は驚くほど肉欲が無くなってしまうのだ。正に『発情期』である。

 このような定期的に訪れる発情期を抱えた状態では、伴侶を得る事は到底無理な話だ。このせいで王に継ぐ王家の資質を持つにも関わらず、後継を望むことはほぼ絶望視されていたのだ。

 しかし『授業』を続けるうち、アデリーゼはレオナルドの魔力を体内に取り込み、自分の力として使うことができるようにまでなったのだという。どうやら魔力の『器』が、彼女の中に異様なサイズで存在する可能性があるようだった。

「そんなことが……あるんですか?」
「私も長いこと魔導士団にいるが、初めて聞く……というか、私も体験して驚いたんだ。」
「なるほど、彼女のその体質が……お前の支えになるということだな?」
「……そうですね、それも大きな要因です。また、そのような体質である事が知れれば、政治的に難しい立場になる可能性もありえます。私はそういうものから、彼女を守りたい。」

 含みを持たせて、一呼吸置く。

「何より最大の要因は、私が彼女をずっと愛していたのだと、気づいてしまったことです」
「お前、まさかあれ……本気だったのか?!」
「自分もこんなに長く引きずっていたとは……」

 国王とのやりとりに、ランドルフが口を挟む。

「あの……彼女と過去に、何かあったのですか?」
「こいつはな、18の時にアデリーゼを嫁にすると言っていたんだ」
「18?!え?アデリーゼ、当時7歳……ですよね?」
「うむ。なので、誰も本気にしていなかったのだが……」
「思い返せばあの事がきっかけで、遠戚とはいえ彼女を気にかけていた部分が大きかったのです……。自分でも驚きました」
「お前が言うか。……ああ、しかし参ったな……そこまでの想いがあるなら、閨教育を任せなかったかもしれん。身分的にも相性も釣り合う、と思っていたのだが……」

 国王が額に手を当て、ため息をつく。

「アデリーゼは家格も人柄も、王太子妃教育の成果も全て、将来の王太子妃に相応しい。このままランドルフの妃にと、来月には発表まで進める予定だったんだ」
「申し訳ありません。しかし、彼女は私にとっておそらく、唯一の相手なのです。そしてランドルフ、お前にもすまないが……どうか考えてみてはもらえないか。」

 国防も担う魔導師団団長の、溢れる魔力を整えることができるかもしれない、しかもその人に愛される資格を持つ、唯一の存在。アデリーゼ・バルドウィンは、ランドルフの幼馴染であり、友人であり、長らく婚約者候補であった。

「……正直なところ、私とアディは対等な友人のような関係だと、思っています」

 ランドルフが訥々と話し出した。

「これまでもそうでしたが、もし結婚したとしても、そういう感じで続くのだろうな、とも。それが夫婦という形であっても、国政を担う上では悪い事ではない事もわかっています。それが政略結婚ですから」
「うん」

 レオナルドを正面から見据えて、告げる。

「でも、多分……叔父上にとってのアディの存在ほど、私にとっての唯一ではありません。」
「……ラルフ。」

 国王に向き直り、ランドルフは視線を合わせた。

「父上。婚約者候補達は、幸いまだ全ての過程を終えていません。アディをそこから、解放してもらえませんか」
「お前は……それでいいのか?」
「何より、それがアディの幸せとなるなら何の問題もありません。私は彼女の友人ですから。」
「しかし、何故それが彼女のためとなるとわかる?お前が彼女を友人と思っていても、彼女がお前に想いを寄せている、という事はないと言い切れるのか?」

 ランドルフは『それは言い切れます』と思いながら、ふっと息をついて肩をすくめた。

「父上、叔父上。先程の話で、私も思い出した事があります。彼女は自分でもわかっていないかもしれませんが、きっと今も、幼い頃から叔父上に憧れていた、そのままの気持ちを持っていますよ」

 くくく、と楽しそうに笑う。

「どういう事だ?」
「僕もあの時のことを、今思い出したのです」

 こうして、話は10年前に遡る。

***
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