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レオナルドは学園を卒業すると同時に、騎士団へと入団を果たした。その魔力値からは魔導師への道が最善であったが、王弟として騎士の訓練を受け、身体作りをすることを良しとされた。現在のラルフと同様に。
その日は、当時のフェラー公爵夫妻が別邸の新築お披露目と、将来義理の息子となるレオナルドの騎士団への入団を祝うガーデンパーティーを展いていたのである。
レオナルドが騎士の正装を身につけ、薔薇のアーチからテラスに現れると、招待された一同がその美麗な姿に釘付けとなる。御令嬢たちは色めき立ち、貴婦人もうっとりと目を細めた。
現在よりもすらりとしたその体つきは、今のジークと重なる雰囲気がある。軽く波打つ金髪に、陽の光を受けて金の目が煌めく。深い紺の騎士服は金糸で縁取られており、眩いばかりの青年がそこにいた。
そしてその姿に、小さな目も見開かれていた。アデリーゼ・バルドウィン、7歳。まさに『目覚めの時』である。
「きし、さま?」
「どうしたの、アデリーゼ」
隣に居た母が声をかけると、アデリーゼは両手を胸の前に合わせて目をきらめかせて……叫んだ。
「かっ……こいい!なんて素敵なの!!」
その無邪気な声とかわいさに、息をつめていた場が湧き、さわさわとざわめき広がった。
「すみません、レオナルド様……娘が」
「構いません。嬉しいよ、アデリーゼ。ありがとう」
レオナルドは腰を落とし、アデリーゼと視線を合わせると、そう微笑んだ。アデリーゼ自身も、プラチナブロンドの髪にローズクォーツのような瞳を持つ、天使のような子供である。
その美しい光景にその場にいた全員が魅了されたが、レオナルドの視線のまっすぐ先にいたアデリーゼには毒すぎた。
「きしさま……私、きしさまと結婚したい!」
「結婚?」
「おねがいします!!きっとすてきなレディになりますわ!」
そう言ってアデリーゼはレオナルドの手をぎゅっと握る。びくっとしてレオナルドは手をひこうとしたが、意外にも7歳児の握力は強く、無理に解こうとすれば怖がらせてしまいそうだった。何より、自分に触れたアデリーゼが平気な顔をしていることに、驚いた。
「まぁ、アデリーゼ……」
その様子を大人達が微笑ましく見守る。レオナルドは、繋いだ手と相手の顔を見ながら目を瞬かせ、そして笑った。
「そうだね、きっと素敵なレディになれるよ。頑張れる?」
「うん!ぜったいにがんばるわ!!だからきしさま、待っていてね?」
ぱっちりしたその瞳は煌めき、レオナルドをまっすぐに見ていた。
「わかった、君が大きくなるまで待っているよ。」
「ほんとうに?おやくそくよ?」
「うん、約束しよう。アデリーゼ……リゼと呼んでも?」
「ええ、もちろん。やったぁ!大好きよ、きしさま!」
こうして2人は、手に手を取ってかわいらしい『婚姻の約束』を結んだ。
この時、アデリーゼとの顔合わせのために来ていたランドルフは、その様子を『レオナルド叔父さん、何してんだろ……』と思いながら眺めていたのだった。
しかしこのパーティーの後、アデリーゼは高熱を出してしまう。所謂知恵熱であったが、そのせいでこの時の「レオナルド」をすっかり忘れてしまったのである。
何かしら子供には刺激が強すぎたのでしょう、と医師の談があった。現場を目撃していた母にはわかりみが深すぎた。
ただ、心の中をものすごい抉った『騎士様』の印象のみが彼女へと刻み込まれ、後の性癖へと変化することになる……。
***
「あれは完全に、プロポーズだったな……」
「そうですよね」
自身もはっきり思い出したのか、照れながら呟く言葉に、呆れたようにランドルフが笑う。
「いや、あの時は……この子、俺の魔力が辛くないのかなとか、そればかり考えていた気はするんだ」
「もう放出が始まっていたんですね」
「ああ、だから正直、手を握られた時は驚かせはしないかと気が気じゃなかった。しかし実際、驚いたのはこちらだった」
どうやら彼女が子供の頃から、レオナルドは振り回されているようだ。
「叔父上のあの騎士服姿が、アディの今の気持ちの礎です。きっと『素敵なレディ』になるために王太子妃教育を頑張ったのも。なので、叔父上がその責任を取られるのに、何の問題もないと考えます。」
「あれが……そうか、まさか自分が原因だったとはな」
苦笑する2人に、国王夫妻は顔を見合わせる。国王は諦めたようにため息を深くついた。
「どうやら、話はまとまりそうだな」
「!では、陛下!」
「アデリーゼ嬢を、ランドルフの婚約者候補から外す。折を見て、お前との事を発表するとしよう。立派に王太子妃教育をこなした女性だ、公爵夫人としても問題ないだろう。」
「ありがとうございます……!必ずや、かの人を幸せにするとお約束いたします。」
ほっとした笑顔で、ランドルフに向き直る。
「ランドルフも、ありがとう」
「アディをよろしくお願いします、叔父上」
「うん。任せてくれ」
王妃もまた、口を開く。
「残念だわ……せっかくあの子と親子になれると思っておりましたのに。」
「王妃陛下、誠に申し訳ありません」
「仕方ないわね……でも、いいわ。親子ではなく姉妹になれるということよね?」
「……そうなるな」
王が気づいたように答えた。王弟の妻なのだから、姉妹で間違いない。
「では、私が彼女をお茶に呼ぶのは全く問題がありませんわね。今まで通り、いえ、それ以上にまた可愛がらせていただくわ」
王妃は嫣然とそう微笑んで、パチンと扇を閉じた。
***
その頃、別邸のガーデンテラスでアデリーゼは『何か』を思い出しかけていた。
「このアーチ、なんだか見覚えがあるような……ううん、何だったかしら……?」
***
レオナルドは学園を卒業すると同時に、騎士団へと入団を果たした。その魔力値からは魔導師への道が最善であったが、王弟として騎士の訓練を受け、身体作りをすることを良しとされた。現在のラルフと同様に。
その日は、当時のフェラー公爵夫妻が別邸の新築お披露目と、将来義理の息子となるレオナルドの騎士団への入団を祝うガーデンパーティーを展いていたのである。
レオナルドが騎士の正装を身につけ、薔薇のアーチからテラスに現れると、招待された一同がその美麗な姿に釘付けとなる。御令嬢たちは色めき立ち、貴婦人もうっとりと目を細めた。
現在よりもすらりとしたその体つきは、今のジークと重なる雰囲気がある。軽く波打つ金髪に、陽の光を受けて金の目が煌めく。深い紺の騎士服は金糸で縁取られており、眩いばかりの青年がそこにいた。
そしてその姿に、小さな目も見開かれていた。アデリーゼ・バルドウィン、7歳。まさに『目覚めの時』である。
「きし、さま?」
「どうしたの、アデリーゼ」
隣に居た母が声をかけると、アデリーゼは両手を胸の前に合わせて目をきらめかせて……叫んだ。
「かっ……こいい!なんて素敵なの!!」
その無邪気な声とかわいさに、息をつめていた場が湧き、さわさわとざわめき広がった。
「すみません、レオナルド様……娘が」
「構いません。嬉しいよ、アデリーゼ。ありがとう」
レオナルドは腰を落とし、アデリーゼと視線を合わせると、そう微笑んだ。アデリーゼ自身も、プラチナブロンドの髪にローズクォーツのような瞳を持つ、天使のような子供である。
その美しい光景にその場にいた全員が魅了されたが、レオナルドの視線のまっすぐ先にいたアデリーゼには毒すぎた。
「きしさま……私、きしさまと結婚したい!」
「結婚?」
「おねがいします!!きっとすてきなレディになりますわ!」
そう言ってアデリーゼはレオナルドの手をぎゅっと握る。びくっとしてレオナルドは手をひこうとしたが、意外にも7歳児の握力は強く、無理に解こうとすれば怖がらせてしまいそうだった。何より、自分に触れたアデリーゼが平気な顔をしていることに、驚いた。
「まぁ、アデリーゼ……」
その様子を大人達が微笑ましく見守る。レオナルドは、繋いだ手と相手の顔を見ながら目を瞬かせ、そして笑った。
「そうだね、きっと素敵なレディになれるよ。頑張れる?」
「うん!ぜったいにがんばるわ!!だからきしさま、待っていてね?」
ぱっちりしたその瞳は煌めき、レオナルドをまっすぐに見ていた。
「わかった、君が大きくなるまで待っているよ。」
「ほんとうに?おやくそくよ?」
「うん、約束しよう。アデリーゼ……リゼと呼んでも?」
「ええ、もちろん。やったぁ!大好きよ、きしさま!」
こうして2人は、手に手を取ってかわいらしい『婚姻の約束』を結んだ。
この時、アデリーゼとの顔合わせのために来ていたランドルフは、その様子を『レオナルド叔父さん、何してんだろ……』と思いながら眺めていたのだった。
しかしこのパーティーの後、アデリーゼは高熱を出してしまう。所謂知恵熱であったが、そのせいでこの時の「レオナルド」をすっかり忘れてしまったのである。
何かしら子供には刺激が強すぎたのでしょう、と医師の談があった。現場を目撃していた母にはわかりみが深すぎた。
ただ、心の中をものすごい抉った『騎士様』の印象のみが彼女へと刻み込まれ、後の性癖へと変化することになる……。
***
「あれは完全に、プロポーズだったな……」
「そうですよね」
自身もはっきり思い出したのか、照れながら呟く言葉に、呆れたようにランドルフが笑う。
「いや、あの時は……この子、俺の魔力が辛くないのかなとか、そればかり考えていた気はするんだ」
「もう放出が始まっていたんですね」
「ああ、だから正直、手を握られた時は驚かせはしないかと気が気じゃなかった。しかし実際、驚いたのはこちらだった」
どうやら彼女が子供の頃から、レオナルドは振り回されているようだ。
「叔父上のあの騎士服姿が、アディの今の気持ちの礎です。きっと『素敵なレディ』になるために王太子妃教育を頑張ったのも。なので、叔父上がその責任を取られるのに、何の問題もないと考えます。」
「あれが……そうか、まさか自分が原因だったとはな」
苦笑する2人に、国王夫妻は顔を見合わせる。国王は諦めたようにため息を深くついた。
「どうやら、話はまとまりそうだな」
「!では、陛下!」
「アデリーゼ嬢を、ランドルフの婚約者候補から外す。折を見て、お前との事を発表するとしよう。立派に王太子妃教育をこなした女性だ、公爵夫人としても問題ないだろう。」
「ありがとうございます……!必ずや、かの人を幸せにするとお約束いたします。」
ほっとした笑顔で、ランドルフに向き直る。
「ランドルフも、ありがとう」
「アディをよろしくお願いします、叔父上」
「うん。任せてくれ」
王妃もまた、口を開く。
「残念だわ……せっかくあの子と親子になれると思っておりましたのに。」
「王妃陛下、誠に申し訳ありません」
「仕方ないわね……でも、いいわ。親子ではなく姉妹になれるということよね?」
「……そうなるな」
王が気づいたように答えた。王弟の妻なのだから、姉妹で間違いない。
「では、私が彼女をお茶に呼ぶのは全く問題がありませんわね。今まで通り、いえ、それ以上にまた可愛がらせていただくわ」
王妃は嫣然とそう微笑んで、パチンと扇を閉じた。
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その頃、別邸のガーデンテラスでアデリーゼは『何か』を思い出しかけていた。
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