全否定男は異世界でも論破する

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シウキウの村

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 俺はオオカミとの戦いで死に、目を覚ますとシウキウの村の宿にいた。
 おそらく再生の神が俺をここに連れて来たのだろう。なにせ村から2kmも離れた場所にいたんだ。それしか考えつかない。

 そしてだ、どういうわけか俺の目の前にはたいら 朝子あさこが立っている。

「正人じゃん! 死んで転生したの? だよね? 私もなんだーあははっ。でも良かったよ~寂しかったんだよねー頼れる人いなくてさっ。あとそうそう神様と会って――――」

 こいつの話を聞いていたらキリがない。放っておいたらいつまでも延々と話し続けてしまう。朝子は学生服姿のままだ。結局トラックに巻き込まれて死んでしまったのか。俺の死が完全に無駄だったと証明されたわけだな。

「俺の名はもう正人ではく、陰正いんせいという名に変わった。で、お前の名は何になって、ここで何してんだ?」

「あっ! そうそう私、神様に新しい名前にしてもらったんだ。今はねぇ『子子ねね』って名前なんだぁ、かわいい名前でしょ? そんで気付いたらこの村にいてさー、どうすればいいか分かんないじゃん? だから村の人に聞いて歩いてたら、この宿で働かせてもらえることになったんだぁ。すごくない? 私もう働いて――――」

 スタート地点がシウキウの村だったのか。あの神、女だからって待遇に差をつけやがったな。しかし、分からないから聞いて回ったってことは、SP版にはチュートリアルがなかったってことだ。とりあえずこいつの能力を調べよう。『鑑定』。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【名前】子子ねね
【種族】人 【性別】女 【年齢】18
【職業】按摩士

【レベル】1
【HP】580/580
【MP】580/580
【身体能力値】57
【精神能力値】57

【スキル】
・空間収納「極」
・環境適応「極」
・言語理解 LV1
・転移 LV1
・護身 LV1
・按摩 LV1

【加護】
・再生の神の加護「極」 死亡時、99%の確率で蘇生することができる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 按摩あんま士……回復系か。宿の従業員にぴったりだな。そしてこいつも成人設定か。ステは均等に振られてて、目ぼしいスキルは『転移』だけだな。で、再生の神の加護……ん? おい、俺に付与されたものより随分優れてるんだが? 一回目で1%を引いてしまう可能性もあるが、ほぼ不死身じゃないかこれ。女優遇しすぎだろ。

「ねぇ陰正いんせい、マッサージしたげるよー!」

「あ? 突然すぎるだろお前。それに、よくさらっと改名後の名を呼べるな……。ん、もしかしてこれも環境適応『極』の効力なのか? 子子ねね、朝子、子子。特に違和感を感じないな。すごく細かいことだが適応されるみたいだ」

「ぼそぼそ言ってないでさー早いとこ横になってってばー!」

 子子のスキル「護身」の力なのか、俺の身体は風に吹かれた新聞紙の如く、いとも簡単にベッドの上にひっくり返された。

「うおい! 強引すぎるだろ! 俺は頼んでないし今そんな気分じゃない!」

「いいじゃん気持よくさせたげるんだからー。それに私は、早く按摩士として独り立ちできるようになりたいのっ、協力してよね! じゃあじゃあ! さっそくマーサージはっじめっるよー!」

「おい待て! うがっ――……!」

――――30分後。俺は子子から逃げるように宿を出た。
 外を見渡せば、砂地にほったて小屋が点々と並ぶ小さな村だ。大きな施設と言えば、この宿くらいしかない。
 冒険者ギルドと呼ばれる施設があるのは次の町だ。そこに行って登録申請すれば、冒険者としての身分を確立することができる。
 さて、今はそれよりも――――。

「腹減ったな。屋台に行って何か食おう」

 俺は村の屋台まで移動した。
 村のど真ん中には広場があり、そこを取り囲むようにして屋台が並んでいる。
 焼き物や揚げ物、椰子の実ジュースのような物、どれもゲームで売っていた物が並んでいる。
 辺りを漂う食欲をそそる匂いは、どこかで嗅いだことがあるような懐かしいものだ。そしてゲーム内で売られていたものが、こうして実際に調理され、食べ物として売られているのを見ると、なにか気分が高揚してくる。悪くない。

「いらっしゃい。何にする?」

「シウキウ揚げ5つ」

「あいよ、じゃあ5つで500ルドね」

 俺は銀貨1枚を屋台のおっさんに手渡し、おつりに小銀貨5枚を受け取った。
 シウキウ揚げとは、ゲーム開始初期に使うHP回復アイテムだ。
 ゲームでは回復アイテムとしか見ていなかったせいで、どんな食べ物かの詳細を見たことはなかった。
 よく見てみると、形はコロッケやハンバーグのような薄い楕円形で、穀物を潰し練りあげた餅のようなものを、油でカラッと揚げてある。ひとつでお腹が膨れそうなほどの重みだ。味は……。

「うん、香ばしくて美味いな」

 俺はシウキウ揚げをひとつ手に持って食べ、残りの4つを空間収納に入れた。
 長期保存が効くかどうかの実験だ。出来なければHP回復手段が一気に乏しくなる。
 どうしても困るようなことでなければ、なるべくインテには頼らず、分からないことは自分で調べよう。それも楽しみの一つだ。

「あれ?」

 アイテム一覧を見て、ふと気付いた。先ほどまでは所持していなかったアイテムが3つある。

【アイテム一覧】
・9,500ルド
・狼の牙×10
・狼の爪×10
・狼の毛×10
・シウキウ揚げ×4

 これは間違いなくオオカミを倒したときのアイテムだ。しかし、俺は素材を手にした覚えはない。自動で入手、収納されている。
 この自動入手は、空間収納の『極』の効果なのだろうか。多分そうだと思うが、まあそのうち分かることだろう。

「さて、次は服が欲しいが」

 俺は村のど真ん中の広場、屋台に囲まれた露天へと脚を運んだ。
 この村の住人や訪れる者、様々な人が好き勝手に開いている露天だ。
 服やアクセサリーに武器や防具、消耗品までと、初期に揃えたい物がずらっと並んでいる。
 この村に売っている有用な装備を揃えようと思ったら、恐らく5~7万ルドほど必要になる。今、手持ちは1万弱だ。
 早く学生服を脱ぎ捨て、この世界に合った服を身に纏いたいのだが、その前に軍資金を増やしておきたい。
 俺はざっと露天の品を見流すと、通り過ぎ、ある場所へと向かった。

 村の外れ、小川のほとりに、木を円錐状に立て掛けただけのテントのような形をしたボロ小屋が見えた。
 賭博場だ。
 俺には『娯楽の神の加護』が付与されていて、加護の説明には『有利に働くあらゆる確率を100%にする』とあった。
 金を稼ぐのにこれを使わない手はないのだ。

 俺はボロ布ののれんをくぐり、賭博場の中へと足を踏み入れた。
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