全否定男は異世界でも論破する

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賭博

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 俺は手っ取り早く金を稼ぐ為に、村の外れにある賭博場の中に足を踏み入れた。
 狭い部屋の中、無造作に床に置かれた二つの蝋の灯りが、ゴザの上であぐらをかく三人の男の姿を浮かび上がらせる。
 部屋の奥側に白髭を生やした老人が一人、入り口側に老人と向き合うようにして二人の男が並ぶ。
 白髭のじじいがここの胴元だ。

「出目は6じゃ、残念じゃったのぉ。ふぉふぉ」

「くそっ! もう財布がすっからかんだ。こんなとこ二度と来るか!」「俺も降りる。これ以上やっても取り返せる気がしねえ」

 男二人は息を荒げ立ち上がると、そそくさと賭博場から立ち去って行った。

「つまらん奴等じゃのぉ」

 じじいは気の抜けた顔で首の関節をポキポキと鳴らすと、俺に人さし指を向けクイクイと下に座るように合図する。

「若いの、つっ立っとらんではよう座らんかい。場代は銀貨一枚じゃぞー」

「ここは何をやってる賭博場だ?」

 俺はまず、ここでどのような賭博が行われているかを確認する必要があった。

「ちょぼじゃよ。わしが振るサイコロの出目を当てるだけの簡単なものじゃ。当てれば掛け金の4倍払っとる」

 どうやら偶然性があるもののようだ。これなら『娯楽の神の加護』の効力が発揮できるはず。
 俺はじじいの前に座って場代の銀貨一枚を床に置き、さらに銀貨8枚、小銀貨5枚を床に放った。

「じゃあ8,500ルド、有り金全てを賭ける」

 じじいは散らばった貨幣を見て口をすぼめると、怪しい笑みを浮かべ俺を見た。
 じじいの目には、賭博場へ来て早々有り金全てを賭ける俺が大胆不敵に映ったことだろう。

「ほっほー、おぬし若いのに中々えぇ度胸しとるのぉ。男らしくて気にいったわい。わしゃちまちまと小銭で勝負する奴が大嫌いでのぉ。おぬしのような男を待っとったんじゃよ。ふっふ、それじゃあサイコロの出目を予想してみい」

「6だ」

「ほぅ? 直前の出目と同じと予想するか。ふむぅ、ホントにそれでええんか?」

「変えるつもりはない。さっさとサイコロを振ってくれ」

 恐らくこのじじいはイカサマを使ってさっきの男二人をカモにした。
 俺に付与された『娯楽の神の加護』は、有利に働くあらゆる確率を100%にするとあるが、イカサマ、いわゆる偶然性のないものに関しては効果を発揮しないはずだ。
 普通に勝負してじじいが勝つ確率は6分の5。さらに俺は先ほどと同じ出目の6を予想してやった。俺の負けが濃く見えるこの状況で、全額投入の一発勝負。じじいはイカサマを使わず、勝負を楽しみたいと考えるはずだ。

「よっしゃ分かった! それじゃあサイコロを振るぞい。ほれっ!」

 じじいはサイコロを盆の上に放った。
 カラカラとサイコロが盆の上で転がり、6の目を上にして止まった。
 俺の勝ちだ。
 やはり予想通り、じじいはイカサマを使わず普通に勝負してきた。

「ほうっ! 出目は6、おぬしの勝ちじゃぁ! なっはっは! やるのぉおぬし! ほれ、掛け金の4倍、3万4,000ルドじゃぞ、受けとれいっ」

 じじいは小金貨3枚と銀貨4枚を俺の目の前に投げた。

「のっほっほ、面白くなってきたのう。次はどうするつもりじゃ? また全額掛けるか? ぬふふ、その度胸がおぬしにあるかのぉ?」

 次の勝負はもうじじいがイカサマをしてもおかしくない。だが、

「次も全額、42,500ルドだ」

 俺は床に転がった金貨と銀貨をそのまま両手で前に突き出した。

「ほうっ。それほど自信があるか……ひっひっひ、では予想の出目を言うてみい」

「6だ」

「な、なんじゃと! また6? 三回続けて6が出ると予想するかぁ!」

「文句あるか?」

「がっはっはっは! わしゃおぬしをホントに気にいったぞい! なっはっはっはー! ええ心構えじゃ、おぬしは分かっとるのぉ。何回投げても次に6が出る確率は6分の1じゃ。じゃが、そう安々と出るものじゃないぞい。ぬっふっふ」

 よし、これでじじいの心は掴んだ。じじいはもう一度、イカサマをせず全うに勝負してくるだろう。俺の運の行く末を見届けたいはず。

「ではいくぞい――――!」

 結果、じじいはイカサマを使わず、出目は俺が予想した6だった。
 じじいから17万ルドが俺に支払われ、俺の手持ちは21万2,500ルドとなった。
 そろそろ潮時だ。
 21万ともなれば、じじいは金を取り返したくなっているはず。これ以上の勝負はイカサマを使われ、手持ちの金が減っていくだけだ。

「じゃあ俺はここら辺で……」

「んん? ……なんじゃ、やっぱりおぬしも怖気づいてしもうたかい。わしの見込み違いじゃったかのぉ……。わしゃおぬしともっと勝負したいんじゃがのぉ……」

 目標額は装備品を揃えられる額だ。今これ以上の金は必要ない。

「目標額は達成した。俺は勝負を楽しみに来たわけじゃないからな。もうここに用はないんだ、悪いなじいさん」

 俺は立ち上がり、じじいに背を向けた。

「おぬし、こいつが欲しくはないか? おん?」

 振り返ると、じじいは背中の後ろにある壷の中から何かを手に取り、俺に見えるように前に差し出した。

「鍵……?」

「そう、万能鍵じゃ。こいつはそうそう手に入る物じゃないぞい。どんな錠でも開けられんもんはない。もしおぬしがわしとの勝負にもう一度勝てたら、こいつを支払額に上乗せしてくれてやろう。しかしじゃ、そのかわりおぬしには手持ちの金全てを賭けてもらうぞい」

 万能鍵。喉から手が出ほどに有用なアイテムだ。しかしこの勝負は危険すぎる。まずはじじいを鑑定しよう。『鑑定』。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【名前】貝専かいせん
【種族】人 【性別】男 【年齢】80
【職業】賭博場(シウキウ村)胴元

【レベル】40
【HP】600/600
【MP】1100/1100
【身体能力値】60
【精神能力値】315

【スキル】
・鑑定 LV4
・一重の賽の目「極」
・二重の賽の目「極」
・三重の賽の目 LV4
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 『賽の目』。これは好きな出目を決められるスキルだ。やはりサイコロの目を操るスキルがあったか。じじいにこのスキルを使われれば俺に勝ち目はない。……いや、しかし三重の賽の目だけがまだLV4……極めてはいないな。サイコロ3つを使うものであれば勝機は見えるか。しかしそれよりも、このじじいも鑑定を持ってやがる。俺のステータスを見られる前に先に偽装しておくか。『偽装』。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【名前】陰正いんせい
【種族】人 【性別】男 【年齢】18
【職業】――

【レベル】1
【HP】2000/2000
【MP】100/100
【身体能力値】10
【精神能力値】10

【スキル】
・空間収納 LV1
・環境適応 LV1
・言語理解 LV1
・情報理解 LV1
・念話 LV1
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 これで『娯楽の神の加護』は見えなくなったはずだ。さて、サイコロ3つを使って勝負できるものといえば……。

「若造、勝負はどうすんじゃ? おん?」

「じいさん、チンチロを知ってるか?」

「チンチロ? 勿論じゃとも」

「そのチンチロでなら勝負してやるよ。ただし、即勝ちなし、即負けなし、一発勝負のルールだ」

「ほう。特殊ルールか、面白い。要はお互いがサイコロを振り、強い出目を出した方の勝ちとしたいわけじゃな?」

「そういうことだ。細かいルールを説明すると――――」

 チンチロは3つのサイコロを丼の中に投じ、その出目で勝負する。
 サイコロの数が3つ揃うか、2つ揃えば出目となる。
 3つならそれが出目となり、2つなら残りの異なる数が出目となる。(1・1・2なら2が出目)
 出目ができるまでは3回サイコロを投げるチャンスがある。
 丼からサイコロを溢した場合、それ以上サイコロを振ることはできない。
 そして特殊な出目もある。

・ピンゾロ……1のゾロ目。10倍付け
・アラシ………2~6のゾロ目。目に応じた倍数付け(2なら2倍、6なら6倍)
・シゴロ………4・5・6の目。2倍付け
・通常目………1~6の目。目の大きい方が勝ち。1倍付け
・目なし………目ができていない。1倍払い
・ションベン…投げたサイコロを丼から溢す。1倍払い
・ヒフミ………1・2・3の目。2倍払い
※下に行くほど弱い。

「――――ということだ」

「なるほどのぉ。よし、ええじゃろう。おぬしの提案に乗ってやるぞい。じゃがおぬしが手持ちの金全てを賭けるというのは外せんぞ。もし2倍以上の払いでわしに負けた場合は、わしからの借金払いじゃ。それでええな?」

「ああ」

「……ん、ちと待て。例えばわしが1・2・3ヒフミを出したとして、おぬしが1・1・1ピンゾロであった場合、それはどうするつもりじゃ?」

「乗算する。つまり2倍×10倍で20倍だ」

「ほっほっほぉ、面白いわい。わしゃ久しぶりに熱くなってきたぞい! だっはっはっは!」

 勝てば最大446万2,500ルドと万能鍵、負ければ最大借金403万7,500ルドの勝負だ。
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