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027_土下座させたわけじゃないぞ
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027_土下座させたわけじゃないぞ
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久しぶりに登校したが、戦々恐々とした視線を向けられるのは気分のいいものではない。
生徒だけならともかく、教師までそんな視線を投げかけて来る。
俺のような可愛らしい少年にそんな眼差しを向けるとか、こいつらは人間じゃない。
「10日後から前期末試験を行います。最初の3日で座学、その後3日で実技です」
朝のホームルームの時に担任の女性教師(名前は忘れた)から試験の日程を聞き、6日も拘束されるのかとうんざりする。
「おい、ロック。お前、勉強は大丈夫なんだろうな?」
世間では俺の従者として通っているんだから、ちゃんと合格点をとってくれよ。
「実技が上位100人に入れば、座学が多少悪くてもいいらしいですからね。実技でがんばります」
「座学も合格点とれよ……」
そんなことだと、ドルベヌスにぶっ飛ばされるぞ。
「ですから、ちょっと稽古つけてくださいよ」
「なんで俺が? ドルベヌスに頼めばいいだろ」
「オヤジに頼んだら、試験を受けられる体じゃなくなります」
ドルベヌスにぶちのめされて地べたに這いつくばるロックの姿が目に浮かぶ。たしかに試験どころではなくなりそうだ。
「それにスピナー様のほうがはるかに教えるのが上手じゃないですか」
俺は理論的に考えているだけで、教えるのが上手いとは思ってないんだがな。
「あ、あの……」
「「ん?」」
俺とロックが話していると、声をかけてきた少年が居た。
濃い緑色の髪をしたその少年は、声をかけてきたのに俺を怖がって涙目になっている。だったら声をかけるなよと思うが、俺は優しい男だから話だけは聞いてやるぞ。
「なんだ? 話があるなら、早く言え」
「は、はいっ!」
「そんなに緊張するな、同じ年だ」
「す、すみません」
「いいから、話を進めろ」
「ぼ、僕はルーデリック侯爵家の長子でジョナサンと言います」
「ルーデリック侯爵……どこかで聞いたな」
「スピナー様。侯爵家は多くないですから、忘れないでくださいよ」
ロックに窘められたが、貴族など掃いて捨てるほど居る。いちいち覚えていられない。そんなものに脳のリソースを使うくらいなら、もっと有用なことに使う。
「で、そのなんちゃら侯爵家のジョナサンが、俺になんの用かな?」
「侯爵家をなんちゃらって……」
呆れるロックは置いておいて、今はこの灰色の瞳の少年だ。
「ぼ、僕にテイマーの極意を教えてください!」
「はぁ?」
テイマーの極意ってなんだよ?
「僕もテイマーなんです。でも、僕は弱いロビーしかテイムできなくて……」
「ロビーってなんだよ?」
「あ、ロビーはスライムなんです」
「ふーん。……で?」
「僕もスピナー様のように凄いテイマーになりたいんです」
「俺が凄いテーイマー? ふっ……ふふふ。お前は何を勘違いしているんだ」
「え?」
「お前はテイムしたのがスライムだから弱い。そう考えていないか?」
「……はい。僕はテイマーでも軟体テイマーという加護で、スライムくらいしかテイムできなくて……」
「自分がテイムしている魔物を、スライムくらいと言うお前に教えることはない。消えろ」
「っ!?」
自分の加護がどういったものか、理解しようともしない。こういう奴が居るから、テイマーが差別されるんだ。
「テイマーの何が悪い。スライムのどこが弱い。それはテイマーが育てる気がないからであって、お前の怠慢が招いていることだ。お前はスライムのために何をした? 俺に何かを聞く前に、必死で試行錯誤したか?」
「っっっ!?」
「何もせずに楽をしようとする奴に、何も教えることはない。さっさと俺の前から消えろ」
ジョナサンは口をグッと結び、涙を堪えている。
俺に偉そうなことを言われて悔しいか、それとも自分が何もしなかったことを後悔しているのか。ここで何を感じて何を考えるかによって、お前の将来は変わるぞ。
ジョナサンはいきなり土下座した。
「なんのつもりだ?」
「僕の怠慢を叱ってくださり、ありがとうございますっ。その上でお願いいたします。ロビーを強くするために必要なことを、僕にお教えくださいっ」
床に額をつけ、涙声で懇願する。
貴族の子が土下座なんて初めて見た。こいつ侯爵家の長子とか言っていたが、本当だろうな。
「スピナー様」
ロックがわずかに視線を動かす。周囲の者たちの視線が俺たちに集中している。また俺の悪い噂が流れそうだが、そんなことはどうでもいい。
「お前、ジョナサンと言ったか」
「はい。ジョナサンです」
「今すぐ図書館に行き、ソドリック著の『魔物大図鑑』の1巻を読め。明日の朝までにその内容を全部覚えたら、俺が知っていることを教えてやる」
「ソドリック著の『魔物大図鑑』の1巻。分かりましたっ。今すぐにっ」
ジョナサンはガバッと顔を上げて、俺に礼をして教室を出て行った。
そこで他の生徒たちが、見世物が終わったと動き出した。
明日になったら俺の悪い噂が、学園中に流れていることだろう。貴族というのは、そういう噂話が好きなくだらない種だ。
「おい、ロック」
「なんでしょうか?」
「今の奴。長子と言っていたが、嫡子ではないのか?」
「ジョナサン様は庶子ですから、嫡子ではないと聞いていますよ」
「ふ~ん」
「しかし嫡子でないと、よく分かりましたね」
「従者が居なかったからな」
四男の俺でさえロックのような従者がつく。それなのにあいつには誰も居なかった。
庶子というのは、簡単に言うと妾の子ということだ。よく妾と側室を混同する人がいるが、側室は正式に妻と認められている。対して妾は妻ではない。
正妻や側室の子だと自動的に相続権が発生するが、妾の子はそうではない。当主が認めると相続権が発生することもあるが、それは当主次第だ。
「相続権はないのか?」
「たしか……あると思います。ただ相続権はかなり低いはずです」
相続権を認められても、妾の子や庶子という事実は消えない。家の中ではかなり冷遇されているのだろう。そうでなければ、従者の1人くらいはつけられているはずだ。
うちのパパなんか俺に従者を数人つけようとしたんだが、俺は従者なんて要らないと断った。すったもんだがあって、間をとってロック1人が従者になった。
別にロックや他の候補が嫌いというわけではなく、将来は平民になるのだから断っただけだ。
それはさておき低位の男爵や子爵の子でも従者が居る。高位貴族である侯爵家の相続権がある以上、従者が複数人居ても不思議ではない。それなのに従者が居ないということは、かなり冷遇されているのが分かる。
「しかし、ロックはよくそんなこと知っていたな」
「従者は主人の護衛だけでなく、社交界の補助をするものです。スピナー様のために、学園に通う高位貴族の子弟のことは頭に叩き込んでいます。おかげで学園の座学のほうまで頭が回りませんけどね」
「それは言いわけだな」
「そんなこと言わないでくださいよ。俺、がんばってますよ」
「がんばってないとは言わないが、言いわけに使っているところがマイナスだな」
「俺に厳しくないですか?」
「厳しくされなくなったら、お終いだと思え」
その日、あいつは授業に出てこなかった。試験日が10日後に迫っているが、授業を聞かなくて良いのか。
俺が心配することではないが、それで試験結果が悪くても文句は受け付けるつもりはない。
027_土下座させたわけじゃないぞ
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久しぶりに登校したが、戦々恐々とした視線を向けられるのは気分のいいものではない。
生徒だけならともかく、教師までそんな視線を投げかけて来る。
俺のような可愛らしい少年にそんな眼差しを向けるとか、こいつらは人間じゃない。
「10日後から前期末試験を行います。最初の3日で座学、その後3日で実技です」
朝のホームルームの時に担任の女性教師(名前は忘れた)から試験の日程を聞き、6日も拘束されるのかとうんざりする。
「おい、ロック。お前、勉強は大丈夫なんだろうな?」
世間では俺の従者として通っているんだから、ちゃんと合格点をとってくれよ。
「実技が上位100人に入れば、座学が多少悪くてもいいらしいですからね。実技でがんばります」
「座学も合格点とれよ……」
そんなことだと、ドルベヌスにぶっ飛ばされるぞ。
「ですから、ちょっと稽古つけてくださいよ」
「なんで俺が? ドルベヌスに頼めばいいだろ」
「オヤジに頼んだら、試験を受けられる体じゃなくなります」
ドルベヌスにぶちのめされて地べたに這いつくばるロックの姿が目に浮かぶ。たしかに試験どころではなくなりそうだ。
「それにスピナー様のほうがはるかに教えるのが上手じゃないですか」
俺は理論的に考えているだけで、教えるのが上手いとは思ってないんだがな。
「あ、あの……」
「「ん?」」
俺とロックが話していると、声をかけてきた少年が居た。
濃い緑色の髪をしたその少年は、声をかけてきたのに俺を怖がって涙目になっている。だったら声をかけるなよと思うが、俺は優しい男だから話だけは聞いてやるぞ。
「なんだ? 話があるなら、早く言え」
「は、はいっ!」
「そんなに緊張するな、同じ年だ」
「す、すみません」
「いいから、話を進めろ」
「ぼ、僕はルーデリック侯爵家の長子でジョナサンと言います」
「ルーデリック侯爵……どこかで聞いたな」
「スピナー様。侯爵家は多くないですから、忘れないでくださいよ」
ロックに窘められたが、貴族など掃いて捨てるほど居る。いちいち覚えていられない。そんなものに脳のリソースを使うくらいなら、もっと有用なことに使う。
「で、そのなんちゃら侯爵家のジョナサンが、俺になんの用かな?」
「侯爵家をなんちゃらって……」
呆れるロックは置いておいて、今はこの灰色の瞳の少年だ。
「ぼ、僕にテイマーの極意を教えてください!」
「はぁ?」
テイマーの極意ってなんだよ?
「僕もテイマーなんです。でも、僕は弱いロビーしかテイムできなくて……」
「ロビーってなんだよ?」
「あ、ロビーはスライムなんです」
「ふーん。……で?」
「僕もスピナー様のように凄いテイマーになりたいんです」
「俺が凄いテーイマー? ふっ……ふふふ。お前は何を勘違いしているんだ」
「え?」
「お前はテイムしたのがスライムだから弱い。そう考えていないか?」
「……はい。僕はテイマーでも軟体テイマーという加護で、スライムくらいしかテイムできなくて……」
「自分がテイムしている魔物を、スライムくらいと言うお前に教えることはない。消えろ」
「っ!?」
自分の加護がどういったものか、理解しようともしない。こういう奴が居るから、テイマーが差別されるんだ。
「テイマーの何が悪い。スライムのどこが弱い。それはテイマーが育てる気がないからであって、お前の怠慢が招いていることだ。お前はスライムのために何をした? 俺に何かを聞く前に、必死で試行錯誤したか?」
「っっっ!?」
「何もせずに楽をしようとする奴に、何も教えることはない。さっさと俺の前から消えろ」
ジョナサンは口をグッと結び、涙を堪えている。
俺に偉そうなことを言われて悔しいか、それとも自分が何もしなかったことを後悔しているのか。ここで何を感じて何を考えるかによって、お前の将来は変わるぞ。
ジョナサンはいきなり土下座した。
「なんのつもりだ?」
「僕の怠慢を叱ってくださり、ありがとうございますっ。その上でお願いいたします。ロビーを強くするために必要なことを、僕にお教えくださいっ」
床に額をつけ、涙声で懇願する。
貴族の子が土下座なんて初めて見た。こいつ侯爵家の長子とか言っていたが、本当だろうな。
「スピナー様」
ロックがわずかに視線を動かす。周囲の者たちの視線が俺たちに集中している。また俺の悪い噂が流れそうだが、そんなことはどうでもいい。
「お前、ジョナサンと言ったか」
「はい。ジョナサンです」
「今すぐ図書館に行き、ソドリック著の『魔物大図鑑』の1巻を読め。明日の朝までにその内容を全部覚えたら、俺が知っていることを教えてやる」
「ソドリック著の『魔物大図鑑』の1巻。分かりましたっ。今すぐにっ」
ジョナサンはガバッと顔を上げて、俺に礼をして教室を出て行った。
そこで他の生徒たちが、見世物が終わったと動き出した。
明日になったら俺の悪い噂が、学園中に流れていることだろう。貴族というのは、そういう噂話が好きなくだらない種だ。
「おい、ロック」
「なんでしょうか?」
「今の奴。長子と言っていたが、嫡子ではないのか?」
「ジョナサン様は庶子ですから、嫡子ではないと聞いていますよ」
「ふ~ん」
「しかし嫡子でないと、よく分かりましたね」
「従者が居なかったからな」
四男の俺でさえロックのような従者がつく。それなのにあいつには誰も居なかった。
庶子というのは、簡単に言うと妾の子ということだ。よく妾と側室を混同する人がいるが、側室は正式に妻と認められている。対して妾は妻ではない。
正妻や側室の子だと自動的に相続権が発生するが、妾の子はそうではない。当主が認めると相続権が発生することもあるが、それは当主次第だ。
「相続権はないのか?」
「たしか……あると思います。ただ相続権はかなり低いはずです」
相続権を認められても、妾の子や庶子という事実は消えない。家の中ではかなり冷遇されているのだろう。そうでなければ、従者の1人くらいはつけられているはずだ。
うちのパパなんか俺に従者を数人つけようとしたんだが、俺は従者なんて要らないと断った。すったもんだがあって、間をとってロック1人が従者になった。
別にロックや他の候補が嫌いというわけではなく、将来は平民になるのだから断っただけだ。
それはさておき低位の男爵や子爵の子でも従者が居る。高位貴族である侯爵家の相続権がある以上、従者が複数人居ても不思議ではない。それなのに従者が居ないということは、かなり冷遇されているのが分かる。
「しかし、ロックはよくそんなこと知っていたな」
「従者は主人の護衛だけでなく、社交界の補助をするものです。スピナー様のために、学園に通う高位貴族の子弟のことは頭に叩き込んでいます。おかげで学園の座学のほうまで頭が回りませんけどね」
「それは言いわけだな」
「そんなこと言わないでくださいよ。俺、がんばってますよ」
「がんばってないとは言わないが、言いわけに使っているところがマイナスだな」
「俺に厳しくないですか?」
「厳しくされなくなったら、お終いだと思え」
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