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028_ないことが正解だってあるんだぞ
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028_ないことが正解だってあるんだぞ
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「スピナー様っ」
登校して教室に入ると、大声で名前を呼ばれた。
「俺の耳は悪くないから大声を出さなくても聞こえてるぞ」
「す、すみません」
昨日土下座してきた、なんとかという奴だ。
眼の下にクマができている。どうやら徹夜したようだ。
「僕、読みました。覚えました」
ソドリック著の『魔物大図鑑』の1巻を全部読んだようだ。
読んだと覚えたは違う。さて、こいつは『魔物大図鑑』の1巻の内容を覚えたのか。
他の生徒たちの視線を集めているが、構わず『魔物大図鑑』の1巻の内容を質問する。
「ウルフ系魔物の種族名を全部挙げてみろ」
「ブラッドウルフ、レッドウルフ、アサシンウルフ、ファングウルフの4種類です」
「昆虫系の魔物の中で一番の巨体は」
「昆虫……一番巨体は……デスフライです」
「スライムの種類を全部言ってみろ」
「スライム、スライムマグマ、スライムアクア、スライムベノム、ラージスライム、スライムジャック、スライムクイーン、スライムキング、アークスライムの9種類です」
「最後だ。ドラゴンの亜種を答えろ」
「ドラゴンの亜種……亜種……」
「どうした、答えられないか」
「……はい。答えられません」
俺たちのやりとりを見ていた生徒たちが鼻で笑った。一晩で『魔物大図鑑』の1巻を覚えられるわけがないと。
『魔物大図鑑』は全部で10巻からなる魔物図鑑だ。魔物の基本を学ぶには丁度いい図鑑だが、完全ではない。その証拠に『魔物大図鑑』にはミネルバのダークネス・ガラクシャ・ナクアの記載がなかった。それでもかなり多くのことが学べるものだ。
その1巻はおよそ100項からなり、弱い魔物の説明が記載されている。その100項を一晩で全部覚えることなどできないと思っているんだろう。
「正解だ」
「「「えっ?」」」
「『魔物大図鑑』の1巻に、ドラゴンの亜種の記載はない」
誰もが記載されているものだと思っていたようだが、そんなことも知らないでこいつを笑った。お前たちのほうが、よほど笑われるべきだ。
「お前、名前は?」
「ジョナサンです」
「ジョナサンだな、覚えた。ジョナサン、武器を持ってついて来い」
「は、はいっ!」
教室から出て学園の外へ。なぜかジョナサンとロック以外に、数人の生徒もついてきている。お前ら、暇か。それとも冷やかしか。
タクシーを停めて、乗り込む。そこでついて来た生徒たちとはお別れだ。
町の外が見えたところでタクシーを降りる。タクシーを使えるのは町の中のみ。町の外は魔物が出るエリアになるから、タクシーは出ないのだ。
ここからは徒歩だ。森の前まで歩いて立ち止まる。
ちょっと歩いただけだが、ジョナサンは息を切らせている。この程度で息を切らせるなんて、頼りないし情けない。
「スライムを呼べ」
「は、はい。ロビー、おいで」
ジョナサンの前に開いた空間の穴から、ポヨンッとスライムが出て来た。
テイマーが使役している魔物を呼んでも魔法陣なんか出ない。これが通常のテイマーの召喚の光景だ。
「今までそのスライムでどんな奴を倒したんだ」
「それが……まだ……」
「スライムだから戦えないと思っていた。そういうことだな」
「はい」
「それなら、ジョナサンは何をしていた」
「え、僕ですか? 僕は……」
「スライムに戦いをさせて、それを見ていたか」
「はい……」
「スライムはジョナサンのなんだ? お前はなぜスライムと共に戦わないんだ」
「僕は……」
「スライム1匹で倒せないなら、ジョナサンも一緒に戦えばいい。それをしなかったお前は、スライムの主として失格だ」
「っ!?」
ジョナサンが項垂れた。そこで落ち込むくらいなら、前を向け。
「今から魔物を狩れ」
「え、今からですか」
「なんだ、魔物が怖いか」
「はい……」
「だったら止めるか?」
「い、いえ、行きます。連れて行ってくださいっ」
「俺は手を出さない。ジョナサンとスライムで戦ってみせろ」
「僕と……ロビーで……」
「死ぬ前に助けてやる。安心しろ」
「スピナー様。それでは安心できないですよ」
ロックがちゃちゃを入れてくる。
生きてさえいれば、なんでもできるぞ。何が問題なんだよ。
「死んでなければ、五体満足に回復してやるんだ。安心だろ」
「はあ……。スピナー様基準で考えてはいけませんよ。まったく……」
ロックがぶつぶつ言っているが、これはジョナサンのことだ。ロックがぶつぶつ言うことではない。
「僕、やりまっすっ!」
「おう、逝ってこい」
「逝ったらダメでしょ」
本人がやる気なんだから横からごちゃごちゃ言うな。
この森には大した魔物は居ない。せいぜいBランクだ。外周部であれば最低ランクのGランクくらいしか居ない。
こんな場所で死ぬほうが難しい。ロックでも無傷で無双できる場所だ。
ジョナサンが最初に遭遇した魔物は、薄灰色の体毛の噛みつきネズミ。前歯が発達した30センチ、尻尾も入れるとその倍くらいのネズミだ。もちろんGランクだから弱い。
噛みつきネズミと対峙したジョナサンは震えていた。
スライムは直径20センチくらいのジェルの塊で、目や鼻、口があるものではないから感情は分からない。
噛みつきネズミとスライムのランクは同じ。同じランクでも強さに差は出る。
Gランクの中でも噛みつきネズミは中くらいで、スライムは最底辺。まともにやり合ったらスライムに勝ち目はない。
戦いはジョナサンがメインで行わなければいけない。
「見ているだけでは、何も変わらないぞ」
「は、はい」
ジョナサンは腰の軒を抜いた。銅製の質の悪い剣だと、すぐに分かった。
侯爵家の長子だというのにこんな剣しか持てないとは、父の侯爵のバカさ加減が分かるというものだ。侯爵家の名を名乗らせているなら、それなりの装備を用意するべきだ。それが侯爵家の矜持じゃないのか。
028_ないことが正解だってあるんだぞ
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「スピナー様っ」
登校して教室に入ると、大声で名前を呼ばれた。
「俺の耳は悪くないから大声を出さなくても聞こえてるぞ」
「す、すみません」
昨日土下座してきた、なんとかという奴だ。
眼の下にクマができている。どうやら徹夜したようだ。
「僕、読みました。覚えました」
ソドリック著の『魔物大図鑑』の1巻を全部読んだようだ。
読んだと覚えたは違う。さて、こいつは『魔物大図鑑』の1巻の内容を覚えたのか。
他の生徒たちの視線を集めているが、構わず『魔物大図鑑』の1巻の内容を質問する。
「ウルフ系魔物の種族名を全部挙げてみろ」
「ブラッドウルフ、レッドウルフ、アサシンウルフ、ファングウルフの4種類です」
「昆虫系の魔物の中で一番の巨体は」
「昆虫……一番巨体は……デスフライです」
「スライムの種類を全部言ってみろ」
「スライム、スライムマグマ、スライムアクア、スライムベノム、ラージスライム、スライムジャック、スライムクイーン、スライムキング、アークスライムの9種類です」
「最後だ。ドラゴンの亜種を答えろ」
「ドラゴンの亜種……亜種……」
「どうした、答えられないか」
「……はい。答えられません」
俺たちのやりとりを見ていた生徒たちが鼻で笑った。一晩で『魔物大図鑑』の1巻を覚えられるわけがないと。
『魔物大図鑑』は全部で10巻からなる魔物図鑑だ。魔物の基本を学ぶには丁度いい図鑑だが、完全ではない。その証拠に『魔物大図鑑』にはミネルバのダークネス・ガラクシャ・ナクアの記載がなかった。それでもかなり多くのことが学べるものだ。
その1巻はおよそ100項からなり、弱い魔物の説明が記載されている。その100項を一晩で全部覚えることなどできないと思っているんだろう。
「正解だ」
「「「えっ?」」」
「『魔物大図鑑』の1巻に、ドラゴンの亜種の記載はない」
誰もが記載されているものだと思っていたようだが、そんなことも知らないでこいつを笑った。お前たちのほうが、よほど笑われるべきだ。
「お前、名前は?」
「ジョナサンです」
「ジョナサンだな、覚えた。ジョナサン、武器を持ってついて来い」
「は、はいっ!」
教室から出て学園の外へ。なぜかジョナサンとロック以外に、数人の生徒もついてきている。お前ら、暇か。それとも冷やかしか。
タクシーを停めて、乗り込む。そこでついて来た生徒たちとはお別れだ。
町の外が見えたところでタクシーを降りる。タクシーを使えるのは町の中のみ。町の外は魔物が出るエリアになるから、タクシーは出ないのだ。
ここからは徒歩だ。森の前まで歩いて立ち止まる。
ちょっと歩いただけだが、ジョナサンは息を切らせている。この程度で息を切らせるなんて、頼りないし情けない。
「スライムを呼べ」
「は、はい。ロビー、おいで」
ジョナサンの前に開いた空間の穴から、ポヨンッとスライムが出て来た。
テイマーが使役している魔物を呼んでも魔法陣なんか出ない。これが通常のテイマーの召喚の光景だ。
「今までそのスライムでどんな奴を倒したんだ」
「それが……まだ……」
「スライムだから戦えないと思っていた。そういうことだな」
「はい」
「それなら、ジョナサンは何をしていた」
「え、僕ですか? 僕は……」
「スライムに戦いをさせて、それを見ていたか」
「はい……」
「スライムはジョナサンのなんだ? お前はなぜスライムと共に戦わないんだ」
「僕は……」
「スライム1匹で倒せないなら、ジョナサンも一緒に戦えばいい。それをしなかったお前は、スライムの主として失格だ」
「っ!?」
ジョナサンが項垂れた。そこで落ち込むくらいなら、前を向け。
「今から魔物を狩れ」
「え、今からですか」
「なんだ、魔物が怖いか」
「はい……」
「だったら止めるか?」
「い、いえ、行きます。連れて行ってくださいっ」
「俺は手を出さない。ジョナサンとスライムで戦ってみせろ」
「僕と……ロビーで……」
「死ぬ前に助けてやる。安心しろ」
「スピナー様。それでは安心できないですよ」
ロックがちゃちゃを入れてくる。
生きてさえいれば、なんでもできるぞ。何が問題なんだよ。
「死んでなければ、五体満足に回復してやるんだ。安心だろ」
「はあ……。スピナー様基準で考えてはいけませんよ。まったく……」
ロックがぶつぶつ言っているが、これはジョナサンのことだ。ロックがぶつぶつ言うことではない。
「僕、やりまっすっ!」
「おう、逝ってこい」
「逝ったらダメでしょ」
本人がやる気なんだから横からごちゃごちゃ言うな。
この森には大した魔物は居ない。せいぜいBランクだ。外周部であれば最低ランクのGランクくらいしか居ない。
こんな場所で死ぬほうが難しい。ロックでも無傷で無双できる場所だ。
ジョナサンが最初に遭遇した魔物は、薄灰色の体毛の噛みつきネズミ。前歯が発達した30センチ、尻尾も入れるとその倍くらいのネズミだ。もちろんGランクだから弱い。
噛みつきネズミと対峙したジョナサンは震えていた。
スライムは直径20センチくらいのジェルの塊で、目や鼻、口があるものではないから感情は分からない。
噛みつきネズミとスライムのランクは同じ。同じランクでも強さに差は出る。
Gランクの中でも噛みつきネズミは中くらいで、スライムは最底辺。まともにやり合ったらスライムに勝ち目はない。
戦いはジョナサンがメインで行わなければいけない。
「見ているだけでは、何も変わらないぞ」
「は、はい」
ジョナサンは腰の軒を抜いた。銅製の質の悪い剣だと、すぐに分かった。
侯爵家の長子だというのにこんな剣しか持てないとは、父の侯爵のバカさ加減が分かるというものだ。侯爵家の名を名乗らせているなら、それなりの装備を用意するべきだ。それが侯爵家の矜持じゃないのか。
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