ロイちゃん

泉蒼

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場面3

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「スズちゃん! あたしも、みんなと遊びたいっ」
「へ、へえぇ、ロイちゃんったら、せっかくねてたのに」
 ビイイッ!
 なんと給食の時間に、またロイちゃんがおきてしまったのだ。
「みんなといっしょに、コッペパンに、かぶりつきたいぃっ!」
「ロイちゃん、むりだよぉ……それはぁ」
 ビイイイッ!
「なんだなんだ!」
「けさのうちゅう人だあっ」
 つくえを四つにあわせた島々から、給食の手をとめたみんなが、首をのばしてスズ子にふりむいた。
「へぇ、そのぉ、わたしじゃなくってぇ」
 ビイイイイイッ!
「井上、赤ちゃんをうんだな!」
「いや、妹をつれてるかもしんないぞ」
 ぎゃははは!
「ひぃ、だよねぇ、思うよねぇ……」
 泣きぐずるロイちゃんに、みんながいろんな想ぞうをふくらませていった。
「もー、バレちゃうよぉ」
「スズちゃん、あたしも生徒よ! みんなに、ロイちゃんをしょうかいして」
「へぇ、それはぁ、ねぇ」
「スズちゃん! じゃないと、もっと泣いちゃうからっ」
「ひぃ、へえぇ、へー」
 ガタッ。
 しかたないと、スズ子はコッペパンをおいて席をたった。



 ジャジャジャーン!
「あたしは、ロイちゃん。クラスのアイドルよ」
「あっ、スマホだ!」
 ざわざわざわ。
「もー、教室がおちくまでよぉ」
 むねがバクバクしながらも、スズ子はしばらくのあいだ、みんなに見えるようにスマホをかかげた。
 ドキドキ。
 ジロジロ、ジーっ。
「ひ、ひぃ、注目は、にがてなのにぃ」
「ダメよ。もっとみんなに、ロイちゃんスマイルを見せてあげて」
「もぉー」
 それでも、ばく音のきょうふのせいで、スズ子はロイちゃんにしたがうしかなかった。
「なんか、今日の井上、キラキラしてるぜ」
 ドキドキドキ。
「スズちゃん、もぉ、いいぃ? どぉ?」
「ダメ! だってみんなも、自分をみがけば、ロイちゃんみたいにキラキラするんだもんっ!」
「すげー、スマホって、ベラベラしゃべるんだ」
「でもいいなぁ。わたしもほしいなー」
 ワイワイ、ガヤガヤ!
 けっきょく、みんなは落ちつくどころか、はんたいに教室はお祭りさわぎになってしまった。
「タラララ~ン。そよそよ~、フラフラ~」
 それから昼やすみのあいだ、ロイちゃんはアロハのテーマソングをバックに、みんなにフラダンスをひろうした。
「ロイちゃんったら、やりたいほうだいだぁ、もー、知らないよぉ」
 スズ子はふあんでふあんでたまらなかった。
 ところが、ロイちゃんの自由気ままなせいかくは、なぜかクラスのみんなをとりこにしていったのだ。
なやみをうちあける男子には、
「なにがテストで十点よ。ほら、おどって!」
 とロイちゃんがこしをふってはげました。
 教室でじっとしている生徒には、
「ほら、たって。さあ、歌って! みんな、もっと今を楽しみましょう!」
 とユラユラダンスを教えた。
 そんなロイちゃんを、
「生きているいじょうは、仲間だ、わっはっは!」
 ときん肉ムキムキの先生が、ロイちゃんをクラスのメンバーにむかえいれたのだ。
「先生、きん肉をデカくするには、アミノさんもかかせません!」
 ロイちゃんは、だれよりもすすんで授業にさんかした。
「先生っ、コウタくんが、また鼻くそを飛ばしてますっ! あなたはろうやいきよ!」
 ロイちゃんは、みんなの名前をあっというまに記おくした。
「ほら男子、ちゃんと聞いて。好きなひとをとりこにするには、アタックして、あきらめる! そうすると、女子って生きものは、こころをわしづかみにされちゃうのよ!」
 そして放課後には、もう男子の未来をおうえんしていた。
「私ねー、後藤くんのことが好きなんだけどー」
「パンケーキ、食べにいこぅ」
もう学校をでるころには、ロイちゃんはクラスのにんきものになっていたのだ。
「ほら、あしたは遠足だ。きれいなもみじにそなえ、みんなさっさと帰ってねろ! あしたになれば、井上とロイちゃんにはすぐに会えるぞ、わっはっは!」
「みんな、あした遠足で写真をとりましょう! グッバイ」
 バイバーイ!
 おかげでスズ子も、ゆかいなスマホを手にした、魔法使いのようなあつかいをうけていた。
「へ、へぇ……やだぁ、もぉ」
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